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【幕間】お転婆皇女の冒険・・・(1)

突然の幕間、申し訳ございません。

思い入れがある登場人物(キャラ)が出ると幕間に逃げる癖が付いてしまっております。

考えていた設定が爆発してしまうのですね。


それにしましても、皇女様の一人称は少々難しいです。

どうしても主人公(かぐや)の語りと同じになってしまいます。

無理くり直しても違和感が……。


 ……とある皇女様の冒険譚です。



 妾は皇女と言われておる。

 しかし帝の血筋を宿した父上とは殆ど会った事がない。

 母上は居らぬ。

 妾が五つの時に亡くなったそうじゃ。

 同じ母を持つ姉がいるらしいが、会った事がない。

 いや、会っているかも知れぬが会った記憶がないのじゃ。

 不思議なことに母が亡くなった後に生まれた弟もいるらしい。


 そんな妾は讚良(さらら)の馬飼殿に預けられ、讚良(さらら)の地を故郷とし、馬飼夫妻を父母と呼び育った。

 馬というものは高貴な方しか持つ事はできぬ。

 それなりの広さと餌となる飼葉、そして盗まれないための護衛が必要であろう。

 凡夫には到底届かぬものなのじゃ。

 なので父である馬飼は高貴な方との付き合いが多い。

 実父とも馬が縁で知り合ったのじゃろう。


 当然、妾に皇女らしさなどない。

 馬と戯れ、馬と共に駆ける暮らしをしているのだから当然じゃ。

 ただ言葉使いだけは皇女である事を求められたため、お嬢様言葉を話すお転婆になってしまいお転婆ぶりが強調されてしまうのは困りものだ。


 妾がもうすぐ十一となるある日、実父に会う事になった。

 これまで実父は(みやこ)である難波には滅多に居らず、飛鳥にしか居らぬ印象があった。

 よほど難波が嫌いなのか、よほど飛鳥が好きなのか、それとも難波にいる誰かがよほど嫌いなのか?

 その実父から飛鳥京へと参れとの便りがきた。

 何でも帝の即位の儀があるからというのがその理由らしい。

 実父が即位するならともかく、即位するのが祖母というのなら妾に縁遠い気がするが断る事は出来ん。


 歩きで丸一日かかる距離じゃが、馬ならば空が明るいうちに着く。

 そして明るい空の下、妾が見たものは焼け落ちていた飛鳥の宮であった。

 唖然……。

 実父のいる川原の宮は火事の影響で大騒ぎらしい。

 とりあえず飛鳥に到着した事と自分の飛鳥での居場所を書いた木簡を取り次ぎに渡した。

 実の父に会うにしては余所余所しいが、物心ついて数度しか会った事のない実父に親しみなぞ感じられるはずもない。

 おそらく即位の儀は中止であろう。

 じゃから実父と会ったらすぐに帰るつもりでいた。


 翌々日、滞在先に今すぐに川原宮へ来てくれとの伝言を携え、実父の使いの者が来た。

 突然来いとは……一体?


 忙しい最中私のためにわざわざ予定を工面してくれたのか?

 合間が出来たから思い立って呼んだのか?

 そもそも周りの都合なぞ考えない方なのか?

 まあ会ってみれば分かるじゃろう。

 待たせて気分を悪くされるくらいなら身支度なぞしない方が良い。

 そのままの格好で蜻蛉帰りする使いの者に付いていった。


 川原の宮に通されて実父の待つ間へ行くと、実父らしき男性と横には壮年の男性。

 そして向かいには私より年上らしき女の子が居た。


「よく来たな。

 姉妹が顔を合わせるのは何年振りか?」


 実父が自分が誰であるかを名乗らず、いきなり話を始めた。

 姉妹……つまり横に居るのは私の姉か?


「何年ぶりかは分かりませんが、亡き母が妹を産んだ日の事を今でもハッキリと覚えております」


 姉は分からないという回答を避け、上手に実父の問いを往なした。

 私は……


「申し訳ございません。

 物心ついた時には讚良(さらら)の地に居りましたので、姉との思い出は御座いません。

 今日念願が叶い、姉との再会を果たしたところです」


 分からないという言葉を別の言い方で答えた。

 この人が姉である事をつい先ほど知ったばかりなのに……じゃ。


「そうか。

 ならば父の事もあまり覚えておらぬであろう。

 だが、姉は妙齢と言って良い年頃だ。

 帝の孫娘として、何より皇太子である私の娘として、恥ずかしくない教養を身に付けなさい」


「はい」


「妹の方も分からぬ事があれば姉に相談すると良い。

 きっと頼りになる筈だ」


「はい」


「では帝の即位の儀でまた会おう」


「「はい」」


 生まれて初めてに等しい実父との目通しはあっさりと終わった。

 しかし実父の目は久しぶりに娘達に会う父親の目ではなく、里親の馬飼のところへ馬を品定めする客の目と同じじゃった。

 実父の目には娘というより政略結婚させるための大事な(しょうひん)に写っていたのじゃろう。

 改めて実父とは反りが合わないと感じた。


 それにしても一体何処で即位の儀を執り行うのじゃろ?

 言いたい事を言って、肝心の話を全くせぬ。

 仕方がなく退出した先の控えの間で、姉と思しき女子に聴く事にした。

 早速困った事が出来たのじゃ。

 頼らせて貰おう。


「私は大田皇女おおたのひめみこ

 同じお母様から生まれた姉妹よ。

 私の事を覚えてる?」


 部屋に着くなり、姉は親しげに話しかけてきた。


「姉上どころか父上の顔すら覚えておりませんでした」


「そんなにも?

 でも(とう)様とは今後も会う機会はそんなにないと思うわ。

 次に会う時は私達が父様の命で嫁ぐ時でしょう」


「まだ十じゃというのに、押し付けられる方も気の毒じゃ」


「ははははは、そうかも知れないわね。

 だけど父様にはあまり心を赦さない様、気を付けなさい」


「突然、物騒な話?」


「物騒なのは父様のご性格だから仕方がないでしょ?」


 随分と明け透けに話す姉じゃ。


「どれだけ物騒なのじゃ?」


「私達の(かあ)様、遠智娘(おちのいらつめ)の事は知っている?」


「生きている父上ですら知らぬのに、亡くなった母上は全く記憶にあるはずもないのじゃ。

 養父からは病弱な方だったと聞いておる」


「無理もないわ。

 だけど母様は病弱で亡くなったんじゃないの。

 父様に殺されたの」


 本当に物騒な話じゃった。


「父上が母上を刺したの?」


「違うわ。

 私達のお祖父様、蘇我倉山田石川麻呂(そがのくらやまだいしかわまろ)様の事は知っている?」


「反乱の疑いを掛けられ討たれたけど、後に間違いじゃったと分かり、名誉は回復されたと聞いておるが?」


「世間ではそう言われているけど実際は全然違うの。

 父様がお祖父様を計って、追い詰めて、殺したの。

 そして物部二田塩もののべのふつたのしおという者がその首を切り落として、事もあろうに父様はその首を母様に見せつけたの。

 実の父親の首をよ。

 その狂乱振りは普通では無かった。

 それ以来、母様は気が触れてしまって、食事も喉を通らずに衰弱して、そして亡くなったの」


 妾の身内が関わるにしてはあまりに酷い話じゃ。


「だから父様にはくれぐれも気を付けなさい」


 何とも因果な家系に妾は生まれてしまった様だ。



 (つづきます)

とある皇女様。

とてもドラマティックな人生を歩まれました。

後世においてその実績を評価する声は大きく、女性の枠を超えた偉人とも言われます。

同時にその陰の部分もドラマティックでした。


あ……小角様との邂逅は次話にて。

予告詐欺、申し訳ございませんでした。

m(_ _)m

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