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シマちゃん

ようやく後宮らしいお話が始まる……かも?


 ここは闈門(いもん)

 ここから先は後宮です。

 一人の幼気(いたいけ)な女の子が立っています。


十嶌(トシマ)と言います。

 この度はおっとうが姫様にご無礼を働き、私が身代わ……ご奉仕してお詫びします」


「えーっとね、貴女にはお詫びで来て貰ったのでは無いの」


「ええ、どんな事でもします。

 姫様が望まれるまま、どんな事でも言ってください」


 十嶌ちゃん、良い子ぽいけどセリフが危ない。

 私は露離(つゆのはなれ)でも百合(ももあわせ)でもないのだから。

 単に薄い書が好きなだけの普通の女の子ですから。


【天の声】普通言うな! 女の子言うな!


「シマちゃんと呼ばせて貰って良いかしら?」


 理由は分かりませんが、私の奥底に眠る本能の様なものが『トシマ』という言葉に拒否反応を示すのです。

 不思議な事があるものですね。


「はい、全然構いません。

 と言うか、そう呼んで貰って嬉しいです」


「シマちゃんには向こう三年間、雑司女として私のお手伝いをお願いします。

 この門から先は関係者のみが中に入れて、普通は外へ出る事は儘ままなりません。

 だけど私のお供としてなら多少は融通がききます。

 お父様にどうしてもお会いしたい時は遠慮なく言ってね」


「あ、それは大丈夫です。

 おっとう、暑っ苦しいのでここに来れて少しだけホッとしています」


 シマちゃんの事を唯一の生き甲斐だと言っていたリーダーさん、撃沈!


「でもたまには顔を見せてあげないと、お父様はかわいそうだからね」


「姫様って綺麗なだけじゃなくて優しい御方なんですね。

 おっとうの話とは全然違います」


 うん、リーダーさん。

 ピッカリの刑、一年延長だね。


「ありがとう。

 でも小さい子には皆優しくするのは当たり前よ。

 とりあえずお部屋へ行きましょう。

 これからどんなお仕事をするのか説明します」


「はいっ」


 ◇◇◇◇◇


「うわぁ〜、こんな綺麗で豪華なお部屋は初めて見ます」


 古代の寒村しか知らないシマちゃんにとって、皇子様のお部屋は豪華絢爛に見えるみたいです。


「このお部屋は帝のお孫さんに当たります(たけるの)皇子様のお部屋です。

 このお部屋がこれからの職場で、私達が住む場所になります。

 他の雑司女さんからすれば、かなり恵まれているかも知れません」


「何で皇子様のお部屋が私達の住む場所なの?」


「まずはご紹介しましょう。

 建皇子様、よろしいかしら?」


 自室に居た建クンに声を掛けました。

 暫くして足音が聞こえてきました。

 建クンがぬッと顔を出した所で……


「こちらは新しく雑司女として働く事になりましたシマちゃん。

 仲良くして下さいね」


 シマちゃんを紹介しました。

 建クン、初めて見る女の子を前にじっと動かないまま固まって(フリーズ)してしまいました。


「姫様。私、何かしちゃったでしょうか?」


 何も話さず、じっとしたままの建クン見てシマちゃんが不安そうです。


「大丈夫よ。

 皇子様は何も気を悪くされていないわ。

 初めて見るシマちゃんを見て、戸惑っているだけです。

 ね、建クン」


 話を振ると建クンは引っ込んでしまいました。


「本当に怒っていないですよね?」


「大丈夫よ」


「これから私が皇子様のお相手をするんですか?」


「いいえ、それは私が帝より承ったお仕事です。

 私が建皇子様のお世話をするため、この部屋に住んでいるの。

 雑司女の亀さんとシマちゃんは私のお手伝いのためここに居て貰うの。

 お食事を運んだり、私が留守の時は建皇子様の様子を伺ったり……」


「ひょっとして大変な事じゃないですか?」


「慣れないうちは大変かも知れないけど、慣れてしまえばそうでもありません。

 だけど責任重大ですので、今の気持ちを忘れずに仕事をして下さい」


「難しいけどやってみます」


「皇子様のお世話については追々教えます。

 そしてもう一つ。

 私は書司(ふみのつかさ)女嬬(めのわらわ)です。

 この後宮で大切な書物や楽器などを管理するお仕事をしています」


「姫様はとても難しそうな仕事をしているのですね」


「小さな時から字を習っていましたから、大変だとは思っていないわ。

 むしろ面白いと思う事の方が多いかも知れません」


「仕事なのに何で面白いの?」


「書の中にはたくさんの知識が詰まっているの。

 知らなかった事を書は教えてくれるの」


「私には出来そうもない事です。

 それにおっとうは字なんか覚えなくたっていいって言ってました」


「お父様は字を読めるの?」


「一から十までなら読めます」


「それは読めるとは言えないわ。

 字を読めない人が、字を読める便利さを知っていると思う?」


「えーっとね。多分おっとうは知らないで言っていると思う」


「字が書ければ遠くの人に知らせたい事を教えてあげられる様になるわ。

 木の札に書いて、その木の札を誰かに渡して貰えば、どんな遠くに居たって伝わります」


「でも……、字を覚えるのって大変そうです」


「そんな事は無いわ。

 少しづつ覚えていけば、いつの間にか書を読める様になります。

 全部覚える必要も無いから。

 もしシマちゃんが字を覚えたいと思うならお手伝いするわ。

 将来きっと役に立つから」


「はい、やってみます」


「最後にもう一つ。

 帝は建皇子様をとても可愛がっておられます。

 昨夜もこの部屋に参られました。

 ここに居れば、帝の目に触れる事もしょっちゅうです。

 今は仕方がありませんが、礼儀作法を覚えましょうね。

 気になる所があったらその都度注意するけど、決して怒っている訳ではないから心配しないで」


「字を覚えるより大変そう」


「大丈夫よ。大人しくしていればそれでいいから」


「はい」


「では、後宮で雑司女が羽織る衣を受け取って。

 亀さん、案内してあげて」


「はい、かぐや様。

 あの……私も字を習っていいですか?」


「ええ、一人も二人も同じだから全然構いませんよ」


「ありがとうございます。

 私も将来役に立つのなら覚えたいので……」


 亀姫も心境の変化が著しく、自分の将来を見据える様になったみたいです。

 いい傾向ですね。

 この後も、おのぼりさん状態のシマちゃんは些細な事で驚きの連続でした。


「こんなキレイな衣を着れるなんて嘘みたい」

「うわぁ〜、お米なんて久しぶり。本当にこれ食べていいの?美味しい〜」

「え、地べたに寝なくていいの? 床でも十分なんですけど」

「身体を拭いたら、寒くて風邪引いちゃう」


 馬見での生活はかなり厳しいものだったみたいです。

 新しい生活環境に慣れるのにはまだまだ時間が掛かりそう……。



亀姫と十嶌……、亀とトシマ……、カメと(ウラ)シマ?

作者の壊滅的ネーミングセンスにつきましてはお許しの程を。

m(_ _)m

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