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因果応報

これぞ、悪役令嬢の転落人生?


「貴女のお父様が………亡くなりました」


「………えっ?」


「貴女のお父様だけでなく、ご家族全員が亡くなったそうです」


「うそ……」


 突然の知らせに亀姫の顔色は真っ白です。


「貴女のお父様が里長へ降格となり護衛を雇えなくなったのを狙われたそうです。

 屋敷を襲われ、焼き討ちに遭ったと。

 ご家族で無事な方は一人もおりません。

 貴女を除いて……」


 私は出来るだけ淡々と事実だけを述べていきます。

 同情をしても今の彼女の考えを歪めるだけです。


「一体何故? どうして?」


「貴女のお父様が国造だった頃、税が他の倍以上あり、不作であっても力尽くで徴収した事への恨みだそうです」


「誰が家族を殺したの?

 そいつは捕まったの?」


「屋敷を襲ったのは、貴女のお父様が国造だった領民全員です。

 代表者が出頭して、今は讃岐で拘束して取り調べております。

 しかし数が多過ぎて全員を捕まえることは出来ませんでした」


「庶民がそんな事して許されるの?」


「もちろん許されることではありません。

 しかしそれは庶民だからでは無く、人として許されない事です」


「庶民は国造に従うのが当たり前でしょ?

 何故恨まれなきゃならないの?」


「領民は大切な仲間です。

 私達はたまたま国造の家の者になっただけで、領民と何も変わりはないわ。

 領民の仕事は家族が豊かに生活するために頑張る事。

 そして国造の仕事は領民全員が豊かな生活を送れる様頑張るのを支援してあげる事。

 領民の生活が苦しかったら国造の仕事は成り立たないのよ」


「父さんはそんな事言っていない。

 庶民は私達の言う通りにすればいいって言ってた」


「その結果、領民はお父様への恨みを募らせたのよ。

 領民は心を持っていて、嬉しかったり、悲しかったり、恨む事もあります。

 領民は考える事が出来て、苦しいのを我慢して、どうにかしようと足掻いて、反抗する事だってあります。

 貴女は鶴姫に酷い事をされたでしょ?

 同じ様に貴女のお父様が領民に酷い事をしていたと考えてみて」


「そんな……、私は庶民だって言うの?

 私は鼠みたいな生き物だと言いたいの?」


 以前のツルカメコンビだった口調が戻りつつあります。


「貴女は鼠じゃないわ。

 領民も鼠じゃありません。

 皆、私達と同じ人です」


「……」


「突然の話で混乱しているでしょう。

 今日明日は何もしなくていいから、ゆっくりと考えなさい。

 明日の夜、これから貴女がどうしたいのか聞かせて。

 その時に貴女の希望があれば、出来るだけそれに沿うよう取り計います。

 里に帰って普通の領民として暮らすのか、ここに残りたいのか。

 多分、里長に戻る事は叶わないでしょうけど、希望があれば聞いておくわ」


「かぐや様は何も指示しないの?」


「相談には乗るわ。

 だけど自分の将来に関わる決断は自分でしなさい。

 他人任せでは駄目。

 だって自分の人生でしょう?

 一生懸命に考えなさい」


「……分かったわ」


 亀姫はそう言い残して雑司女の控えの間へと戻りました。

 その夜、何度も亀姫の啜り泣く声が聞こえてきました。

 もしこれが親友の衣通姫だったら共に手を取って、慰めてあげるでしょう。

 だけど私と亀姫との間には信頼関係はなく、ただの主人と雑司女の上下関係でしかありません。

 私自身、亀姫のために心の底から何でもしてあげようと思える自信が無いのです。


 それに(人生経験の豊富な)私が意見をすれば、私の考えに染めれると思います。

 簡単に。

 でもそれでは亀姫のためにならないでしょう。

 今後、辛い運命が待っているかも知れない亀姫には、これまでの鶴姫の腰巾着で我儘娘だった自分と決別して自立しなければならないと考えています。

 この時代、亀姫は自立して当たり前の年齢でもあるのです。


 ◇◇◇◇◇


 翌朝、亀姫を残して建クンと共に忌部氏の宮へと出掛けました。

 連日の訪問で、まるで忌部氏の宮が自宅のような立ち位置になっています。

 おそらく周りからも私が忌部氏の身内の者としてみなされていると思います。

 この時代の結婚感というのは通い婚が基本なので、帝の妃が実家の宮に住まうのは珍しくありません。

 そういう意味では皇子様の寵愛を受ける私がほぼ実家の忌部氏の宮へちょくちょく出掛けることは別段おかしな事では無いのです。

 もっとも、私が皇子様の寵愛を受けているというより、皇子様が私の寵愛を受けているのが実情ですが……。


【天の声】やっぱ、正太(ショタ)か!?


 いつもの様に建クンを忌部のお付きの方にお願いして、私はお爺さん達との話し合いに臨みます。

 今日中に結論が出るといいのですが……。


「お待たせしました」


 部屋に入ると昨日の面子が勢揃いしておりました。

 ただし巣山様が真ん中の一番前に座っていて、何かを主張したいご様子です。


「昨夜のお話し合いの結果、結論は纏まりましたでしょうか?」


 恐る恐る聞いてみます。


「かぐや殿!」


「はいっ!?」


 いきなり巣山様が大声を張り上げます。


「この度は大変申し訳御座いませんでしたっ!」


 土下座です。

 太郎おじいさんを彷彿させる見事な土下座です。


「私から説明しましょう」


 混乱している私のために、秋田様が助け舟をどんぶらこと差し出して下さいました。


「お願いします」


「実は巣山殿には馬見殿の件を教えてなかったのです。

 話し難い内容でありますし、まだ詳細が分かっておりません。

 馬見殿とご家族の悲劇をみて、巣山殿はご自身を振り返り、どうなるか考えました」


「領民に恨まれる覚えがあるか……と言う事ですか?


「はい。

 巣山殿自身は領民の治安に力を尽くしてこられましたので、然程恨みを買う様な事は無いとの事です。

 税も讃岐と大差はありませんし、水害の時には税を免除したりもしておりました」


「それならば安心では無いのですか?」


「ところが鶴姫は別でした。

 鶴姫は国造の娘である事を鼻にかけて、領民に対して随分と無態を働いてきたみたいなのです。

 作物を荒らしたり、気に食わない相手を護衛を使って痛めつけたり、面白半分に家に火をかけたりして、領民らに恐れられていた模様です」


 あちゃー、殆どチンピラじゃないですか。


「今回、鶴姫の助命が成ったとしても、護衛のいない鶴姫が地元に戻り無事とは思えません。

 もしかしたら家族全員が馬見殿の二の舞となるやも知れません」


「それではどうしますか?

 鶴姫の命を諦めるという選択しか残されていない気がしますが……」


「かぐや殿!

 ワシは助評(こおりのすけ)を辞して、家族を連れ里を去る。

 それで許しを乞う事は出来ぬだろうか?」


 突然の重大発表!?


「本当にそれで宜しいのですか?」


「ワシの娘への育て方は間違っていた。

 だが鶴はワシの娘だ。

 だから……これで許して欲しい」


 巣山様の眼からは涙が滴り落ちます。


「そこまで決意されていらっしゃるのなら私は止めは致しません。

 この先、巣山様が評造になる事は叶わず、謀計なき証にもなります。

 ただ、とても険しい選択になりますよ」


「苦労は元よりだ。

 これも全てワシの過ちが原因なのだ。

 何れにせよこのままでは遠からず破滅する。

 新しい土地で再出発せねばならんのだ」


「巣山様のご決意、しかと承りました。

 鶴姫の処遇につきましてはその方向で助命を願い出ます」


 ふう、とりあえず一山越えました。

 後は亀姫ですね。


「姫様、この後少し宜しいでしょうか?」


 突然、萬田先生から何かのお誘いです。

 何なんでしょう?


「ええ、構いません」


 巣山様の決意が早かったおかげで時間に余裕があります。

 奥の間へ行くと秋田様夫妻とお子さん、そしてお爺さんが一緒でした。


「姫様、此度は秋田に雑司女のご相談をされたのにも関わらず、この様な体たらくで誠に申し訳御座いませんでした」


 いきなり萬田先生の謝罪です。


「いえ、私はこの通り無事でしたし、まさかあんな事になるなんて誰も予想出来ませんでしたから気になさらないで」


「そうじゃ。

 悪いのはワシじゃ。

 長年の友人からの頼みじゃからと安請け合いしたワシが悪いのじゃ」


「いいえ。

 便りの木簡には秋田と相談して下さいと託されていたのですよ。

 それに姫様の仰る無事と言うのは『怪我を自分で治したから無事』と言う意味に違いありません」


 図星っ⭐︎


「じゃが、巣山の娘があの様な阿婆擦れとは分かるまいて」


「いいえ、巣山様の娘と馬見様の娘は、忌部の中で有名なんです。

 それを調べもしなかった秋田の落ち度です」

 (※第31話『【幕間】(フェス)の前日のとある会話』ご参照)


「……」


「と言う事で、これはお詫びの品です。

 どうかお納め下さい」


「これは?」


「以前取り上げられたのにも関わらず、懲りもしないで秋田が集めたそちら方面の書です」


「えっ!!

 ちょっ……、いつの間に!」


「はは上ぇ〜、ちち様びっくりしてる」


「姫様がお喜びになっているからよ」


「そうなんだ。ちち様すごーい」


「あ、いや、その、何だ」


「そうなんですね。

 それは有り難く受け取らなければなりません。

 何せ私は書司(ふみのつかさ)の次官です。

 庶民文化(サブカルチャー)こそ、文化の真髄があるというのが私の持論です。

 秋田様、心よりお礼申します」


「ちち様、えらーい」


「うぅ……、有り難きお言葉を頂戴し……(がくし)」


「秋田様、お礼として古より伝わる賢人の言葉を差し上げましょう。

 『結婚は人生の陵墓(はかば)

 多くの男性がこの言葉に共感するのだそうです」


「そうか……今、私は前方後円墳(はか)に居るんだ」


 項垂(うなだ)れる秋田様。

 してやったりの萬田先生。

 無邪気に喜ぶお子さん。

 現代と変わらぬ人生の縮図がそこには有りました。



(もうちょっと+あとちょっと+ほんの少しつづきます)


長々とすみません。

お話が収束するのにあと二話くらいかな?

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