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鶴姫の父親

キャラの使い回しではありません。

ええ、決して……。


 讃岐へ便りを出して二日後、お爺さんとの面談が叶いました。

 実はお爺さん、便りを受け取って翌朝には讃岐を発っていたみたいです。

 娘が命を狙われたのだから当然と言えば当然なのかもしれませんが、少しだけ嬉しく思います。


 外出の許可を得て、建クンを連れて忌部氏の宮へと向かいました。

 亀姫は留守番です。

 正しくは未だに嫌疑が十分に晴れたとは言い難いので、例え私が同行したとしても外出は禁止されているのです。


 ◇◇◇◇◇


 宮へと着くと、佐賀斯(さかし)様とお爺さんの他に、秋田様夫妻と二人の子供、そして見覚えのあるオジサンがおりました。

 確か私が勝手に『酔っぱらいのオジサン』と言っていた地元の国造だった方です。

 (※第23話『チート舞をご披露(1)』をご参照)

 鶴姫を連れ立っていた覚えがありますので、このオジサンが鶴姫のお父様なのでしょう。


「おぉ、かぐやよ。無事じゃったか?」


「ええ、この通り何ともありません」

 意訳:ええ、頭を鉢で思いっきりぶん殴られて、傷は治したけど血が結構出ていたし、頭の中も内出血していたかも知れないし、首にもキテいましたが、治癒(ヒール)の力のお陰でこの通り無事です。


「かぐや殿! 娘は無事か?」


 鶴姫の父親が挨拶をすっ飛ばして鶴姫の心配です。

 無理もありません。

 でもこの人が主犯の可能性もありますので過度の同情は禁物です。


「それをこれから話し合いたいと思い、皆様にはここまでお越し頂きました。

 でもその前に皇子様の前で大人のみっともない話を聞かせたく御座いませんので、暫しお待ち下さいませ」


 私はそう言って建クンをいつものお部屋へと連れていき、お絵描きセットを準備しました。

 忌部には私と共に建クンの面倒をみてくれたお付きの人が居るので安心して任せられます。


「お待たせしました。

 後宮での出来事を説明したいのですが、その前に。

 巣山様……で宜しいのですよね?

 巣山様は何かご存知か、お伺いしたいのですが」


「何故ワシが何か知っているというのだ。

 一昨日、鶴が牢に入れられたと聞いたばかりじゃ」


「鶴姫は私を亡き者にしようとした理由を、(とう)様が評造(こおりのみやっこ)になるためと言っておりました。

 あの鶴姫が思いついたとは思えません。

 何方か、鶴姫に入れ知恵した人はおりませんか?」


「え? ……いや、例えばの話としてだな。

 落ち込んでいた鶴にこんな期待があるんだぞ、ともしもの話として酒の勢いで言ったかも知れん」


「そうですか。

 それを鶴姫は間に受けてしまい、実行したのですね」


「まさか本気で考えるとは思わぬだろう。

 思ったとしても人を殺そうとは思わん」


「そうですね。

 巣山様はその様にお考えだったかも知れません。

 しかし鶴姫は私を亡き者にする事に躊躇いが無かったみたいです」


「それは……」


「何れにせよ、巣山様がどの様にご決断するかに掛かっております」


「け、決断とはなんだ?」


「鶴姫の命を諦めるか、それとも鶴姫の命に釣り合う何かを差し出すのか」


「そんなバカな事があるか!

 何よりかぐや殿は無事ではないか。

 人を殺めたのならともかく、誰も死んではおらぬではないか」


「姫様、済みませんが……。

 私共には木簡一枚だけしか手元に情報がありません。

 分からない事が多過ぎるので、まずはそのご説明をお願いできませんでしょうか?」


 秋田様がアツくなりそうな議論を冷ますため、提案をしてくれました。

 ナイスフォロー!


「ええ、そうですね。

 秋田様の仰る通りご説明致します。

 そのために皆様にお越し頂いたのですから当然です。

 巣山様も落ち着いてお聞きなさって」


「うぅ……」


「三日前の事です。

 いつもの様に皇子様を寝かしつけたところ、背後から鉢を手にした亀姫が近づいて来ました。

 しかし亀姫は私を傷つける事ができず、どうしてこの様な事をしたのか質問(じんもん)したところ、要領を得ない説明ではありましたが何とか答えてくれました」


 嘘は言っていないよね?


「要点は三つです。

 鶴姫が亀姫に私を殺せと言った事。

 そして私が居なくなれば、鶴姫の父親が次の評造(こおりのみやっこ)に、亀姫の父親が助評(こおりのすけ)になる事。

 そして私を亡き者にした後、自分がどうにかするって言ってた鶴姫本人は姿をくらませている事」


「嘘だ!

 亀姫が嘘をついているに違いない!」


「黙りなさい!

 話を最後まで聞きなさい!」


 敢えて私は命令口調で鶴姫の父親に厳しく言いました。


「話を続けます。

 鶴姫が姿をくらませていると言う事は亀姫に全て罪を被せようとしていると考えました。

 そこで私は亀姫にこう指示をしました。

『見つかりそうになって失敗した。一人じゃ出来なから手伝って』と言いなさいと。

 そしてそれでも亀姫一人にやらせようとするなら、貴女は騙されてますよと諭しました。

 結果は、亀姫一人に犯罪を押し付け、鶴姫は再び部屋を出て自分が犯行とは無関係ですよと言わんがばかりに後宮内で辺り構わず人に話しかけ自分の名を連呼していたそうです」


「何と……そこまでとは」


 秋田様も呆れ果てています。


「騙された事を知った亀姫にもう一つ指示をしました。

 次に鶴姫が戻ってきたら『讃岐国造の娘は死んだ』と言いなさいと。

 そしてその言葉を聞いた鶴姫はキャーーと大声を張り上げながら、私が死んだ、亀姫が殺したと叫んで、後宮の尚内侍(ないしのすけ)様や尚兵(つわもののすけ)様を呼び、亀姫の犯行だと主張して周りました。

 結果として鶴姫の悪事が後宮内全体に露見することになったのです」


「つまり鶴を騙したのか?」


「これを騙したと仰るのならその通りです。

 それとも素直に殺されろとお思いなのですか?」


「い……いや、そうは言っておらん。

 だが鶴は何もしておらぬでは無いか。

 実際に手を下そうとしたのは亀姫だ。

 罪に問われるのは亀姫ではないのか?」


 みっともないくらい鶴姫の罪を認めたがらない父親です。


「巣山様と鶴姫はやはりよく似た親娘なのですね。

 牢に入れられた鶴姫も同じ様な事を言ってました。

 ですが咎められるべきは鶴姫です。

 鶴姫は亀姫を道具として使って私を殺そうとしたのです。

 例えば剣で人を斬ったら、咎められるのは剣ですか?

 それとも剣を持った人ですか?」


「そ、それは……」


「亀姫も何らかの罪に問われると思います。

 ですが鶴姫の罪は庇い様が無いくらい重いのです。

 これが讃岐で起こった事件ならば評造の父様の裁量で如何とも出来るでしょう。

 しかし鶴姫は寄りによって後宮の中、帝のお膝元で事件を引き起こしてしまい、それを自らで広めてしまったのです。

 後宮の中で知らない人は居ないくらいです」


「ならばワシは一体どうしたら……」


「先ほど、巣山様は『手を下そうとしたのは亀姫だ。罪に問われるのは亀姫ではないのか?』と仰いましたが、それを目論んだのは巣山様である事も考えられるのですよ。

 二人を雑司女に推挙したのは巣山様でしょう?」


「それこそ言い掛かりだ!

 娘にそんな事をやらせる訳が無いだろ!」


「残念ながら巣山様が本当の事を仰っているのか、嘘をつかれているのかは私共には分かりません。

 同様に巣山様が仰っている事が本当なのか嘘なのかをご自身で証明する事も出来ません。

 そうですよね?」


「な……それならどうすればいいと言うのだ?!」


「一番最初に申しました通りです。

 鶴姫の命を諦めるか、それとも鶴姫の命に釣り合う何かを差し出すのか、です。

 何の取引材料も無しに助命嘆願は出来ません。

 寄りによって……この言葉を何度も言いますが。

 寄りによって鶴姫は後宮の長官の前で『次は絶対上手くやる!』なんて言ってしまっているのですよ。

 娘がかわいいのは分かりますが、もうそろそろ目をお覚まし下さい」


 皆頭を抱えてしまっております。


「姫様、巣山殿からのご返答はいつまでに必要か分かりますか?」


「ただいま帝は飛鳥を不在にしております。

 明後日、お戻りになるご予定ですので、内侍司からご報告が上がるのはその後になると思います。

 その後、私も鶴姫の監督不行き届を咎められると思いますが、その時に何らかの助命に値する約束事を取り付けなければ……」


「分かりました。

 今すぐに返答を用意するのは難しいと思われます。

 我々で一晩話し合い、結論をご用意致します」


「分かりました。

 私も今日一日で結論が出るとは思っておりません。

 明日もここへ参れます様取り計らって頂いております。

 ところで、亀姫のお父上はいらっしゃらないのですか?

 亀姫の取り扱いについても話をしたかったのですが……」


「それなのじゃが、かぐや。

 実は………」



「………えっ?」


 ◇◇◇◇◇


 私は忌部氏の宮を後にして後宮へと戻りました。

 亀姫は大人しく待っていた様です。


「お帰りなさい」


「ご苦労様、亀。

 話があるの。聞いて」


「はい、何でしょう?」


「貴女のお父様が………亡くなりました」



「………えっ?」



(もうちょっと+あとちょっとつづきます)

話が少し冗長になってしまっております。

申し訳ございません。

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