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取り調べ

今回の騒動の着地点はだいたい決まっておりますが、もう少しカタルシス成分が欲しい所です。

【天の声のよるあらすじ】

 突然の襲撃を受けた主人公。

 得意の治療(ヒール)と幻痛の光の玉で敵を撃墜。

 犯人は雑司女の亀姫だった。

 犯行の理由は、かぐやを亡き者にし讃岐評(さぬきこおり)の乗っ取りを目論む鶴姫に唆されてのものだった。

 亀姫は自分が騙されていた事を知り、かぐやの圧倒的な(チート)の前に陥落。

 主人公(かぐや)が死んだと勘違いした鶴姫は、亀姫に全て罪を被せようとして失敗。

 牢屋へと運ばれた。

 残るは事後処理なのだが……。


 ◇◇◇◇◇


 翌朝、いつもの様に建クンを起こして朝の身支度。

 私は内侍司(ないしのつかさ)へと出向かわなければなりません。

 昨夜(したた)めた讃岐のお爺さんへ出す便りを手にして、亀姫に「建皇子様に何かあったら、内侍司へ呼びに来なさい」と言い残して出掛けました。


紅音(あかね)様、昨夜の件につきまして出頭しました」


「あら、早かったわね。

 でも出頭ではありませんからね」


「私の身内の揉め事でご迷惑をお掛けしている身ですので。

 本当に恥ずかしい限りです」


「あの子を身内と考えるには(いささ)か無理があるでしょう。

 あの子が来るまで貴女の世話をしていた雑司女達から聞きました。

 かなり(クセ)のある子だったみたいで雑司女の中でも評判だったみたいよ。

 悪い意味で、だけど」


「やはりそうだったのですか……」


「主人である貴女から虐められていると言いふらしていたそうです。

 周りから疎まれていたので信じる子は少なかったみたいですが、正直今回の件であの子を追い出す事が出来るので良かったと安堵しております。

 後宮は窮屈な場所ですから、周りとの調和を乱す子にはあまり居て欲しくないのよ」


「くれぐれも申し訳ございません。

 実家にはキツく申しておきます」


「では彼女の所へ行きましょう。

 少しは反省していれば良いのですが……」


「私も同感に御座います」


 ◇◇◇◇◇


 そこは牢屋というより簡易的な座敷牢という感じです。

 地下でもありませんし、比羅夫様でしたら力づくで壊して出て行けそうな作りです。

 比羅夫様の様な女性を想像すると………ですが。

 鶴姫が隅っこで小用をもよおしたらしくツンと臭いがします。


「この女が騙したのよ!

 私は何もしていないわ。

 讃岐国造の娘に嵌められたのよ!」


 開口一番、朝から元気な鶴姫です。


「かぐや様が貴女を騙したと言いますが、どう騙されたのですか?」


「私は何もしていない。

 部屋に戻ったら亀が『讃岐国造の娘が死んだ』って言ったのよ。

 だから私は人を呼びに行ったの。

 それだけよ。

 人が死んだら驚くでしょ?

 何で私が捕まるのよ!」


「あー、いいかな」


「おはよう御座います。靑夷(あおい)様」


 尚兵(つわもののかみ)(※兵司の長官)である靑夷(あおい)様が座敷牢へとやって参りました。


「昨夜、かぐや殿の言っていたその者の行動について話を聞いてきた」


「何か分かりましたか?」


「何と言うか……。

 不自然な行動を取っているだろうとかぐや殿は言ってたが、不自然と言うより奇行に近かったみたいだ。

 皆、文句ばかり言ってくるのだ。

 私は苦情係では無いぞ」


「そんなに酷かったのですか?」


「その娘は手当たり次第に話し掛けてきて、自分の名を連呼していたそうだ。

 まるで酔っ払いの様だったと。

 で、ようやく引っ込んだと思ったらまた戻ってきて、同じ事を繰り返したそうだ。

 で、やっと引っ込んだと思ったらまたまた戻ってきて、今度は人が死んだと叫ぶ始末だ。

 気が触れたと思い、誰も近づけなかったそうだ」


 何ふり構わずだったみたいですね。

 その懸命さを別の場所で発揮して欲しかった。


「恐らく、最初に亀を(けしかけ)けたのが一度目の奇行。

 その時、亀は罪の意識に耐えかねて事の次第を私に相談してきました。

 なので、鶴が戻ってきた時に『失敗した』と言わせました。

 それでも諦め切れない鶴は『何とかしなさい』と言って再び部屋を出て行きました。

 それが二度目の奇行です。

 そして戻ってきた時に『讃岐国造の娘は死んだ』と亀に言わせました。

 すると鶴はここぞとばかりに大声を立てて出て行って、三度目の奇行に走ったのだと思います」


「なるほどな。

 清々しい程にクズだな」


「嘘よ!

 亀は『一緒にお願い』って言ったのよ!

 改心なんてしていない」


「鶴、それは違うの。

 貴女が亀に罪を全て押し付けるつもりなら『一人でどうにかしろ』って言うはず。

 だからそう言いなさいと私が亀に言わせたの。

 案の定、亀一人を嗾けて貴女は部屋を出て行ったでしょう?

 それで亀も自分が利用されているだけだ、とはっきりと分かったの」


「じゃあ、私達二人でアンタを襲えば良かったと言うの?!」


「そうね。

 そうしたら亀も幼い時からの親友である貴女を信じて、行動を共にしたかも知れないわね。

 でも盗賊の十人や二十人くらいなら一人でやっつけられるくらい私は強いのよ。

 貴方達では相手にならないわ」


「覚えてなさい!

 次は絶対上手くやるから!」


「はいはい、次があるなら頑張んなさい」


「かぐや殿、この娘はバカなのか?」


「お利口ではありませんね。

 有り体に申しまして狡いくせに間抜けな子です。

 十に満たない子供と大差ないと思し召し下さい」


「何よ!

 昔からアンタはそう!

 利口なのをひけらかせて、偉い人に取り入るのが上手いだけの気に入らない奴なのよ!」


「私と貴女が相容れないのは仕方がありません。

 でも父親を評造(こおりのみやっこ)にさせたいからと、私を殺すと言うのは短絡が過ぎました。

 私はいずれ讃岐を離れるのですよ。

 私が居なくなっても変わらないのです」


「何でよ!」


「私はずっと讃岐に居たくてもそれは叶わないの」


「じゃあ私がやった事は無駄だって言いたいの?!」


「ええ、その通り。

 全く無駄な事です。

 いずれ私は讃岐を去ります。

 だけど、大切な領民を任せられる人に後を(ゆだ)ねたいと思っています。

 少なくとも貴女とは関わりのない人です」


「嘘よ!

 絶対に(とう)様が評造になってやるんだから」


「残念ですが、今回貴女がしでかした事について貴女の父親にも嫌疑が掛かっております」


「けんぎって何よ!」


「私を殺そうと計画した張本人が、貴女ではなく貴女の父親かも知れないって事。

 貴女を雑司女として送り込んだのは貴女の父親でしょ?」


「父様は何も知らないわ!

 私が雑司女なりたいってお願いしたんだから。

 アンタは私だけでなく父様も陥れるつもり?!」


「貴女の言葉を信じるには、あまりに嘘が多過ぎます。

 本当の所は貴女と貴女の父親にしか分からないでしょう。

 だけど貴女の父親が関与したものと考えて、対策を打たせて貰うわ。

 また命を狙われるのは沢山ですから」


「アンタはそうやって私から全て奪うつもり!?

 国造の地位を奪って、巣山の領地を奪って、私の生活は滅茶苦茶よ!」


「評造の件については私の意思とは関係ないわ。

 だけど少なくとも私の父様(ちちさま)は領民の生活が少しでも良くなるよう、納められた税を領民のために使って、街道を整備して、稲の収穫を増やして、治水をやって、そうした取り組みが認められたから評造として推挙されたのよ。

 貴女のところではこの十年間、何か取り組んできた事はあるの?」


「領民、領民ってね、支配者は国造なの。

 領民ってのは国造に従う生き物なのよ。

 どう扱おうと勝手でしょ?!」


「ええ、よく分かったわ。

 大切な讃岐の領民のためにも貴女の父親を評造にする事は絶対にしません」


「どこまでもどこまでもどこまでも気に食わない奴ね!

 今度会ったら覚えてらっしゃい!」


「ええ、次があれば、ね」


「かぐやさん、ご苦労様でした。

 知りたい事は大体聞けました。

 おかげで楽に済みました」


「見事だな、かぐや殿は」


「恐れ入ります。

 ですが情けない気持ちでいっぱいです」


 私達は座敷牢を後にし、日常の業務へと戻りました。

 讃岐への便りを出すついでに、忌部氏の宮で今後の事を話し合う機会を持ちたいので佐賀斯(さかし)様宛にお願いのお便りも使いの方に渡しました。


 そして讃岐宛ての便りの中には、会談の席で助評(こおりのすけ)の鶴姫のお父様と、里長(さとおさ)の亀姫のお父様にもご同行をお願いしました。

『今度会ったら覚えておけ』なんて言う鶴姫の助命嘆願をするためにも身内で説得なり防止策を講じるなりして欲しいのですが、親子共々恨まれそうで億劫です。



(もう少しつづきます)

兵司(つわもののつかさ)靑夷(あおい)様の言葉使いはあまり後宮内には相応しくありませんが、武人系である事を強調したいので言葉を作っています。

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