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讃岐国造の娘はタヒんだ。

甕形(かめがた)土器が大活躍?

 現代の刑法では、主犯と実行犯とでは主犯の方が罪が重いとされています。

 しかしまだ律令制が整う前の飛鳥時代では偉い方の気分次第で量刑はコロコロ変わります。

 国家転覆を目論む様な大犯罪を犯しても帝の温情で遠流で済まされたり、何もしていないのに言い掛かりだけで死罪になったり。


 亀姫の処罰についてはおいおい考えるとして、問題は主犯の鶴姫です。

 彼女が改心するイメージが湧かず、多少懲らしめても反省したそぶりだけを見せて次の機会を窺いそうな気がします。

 それにツルカメコンビを一緒に置くのも良くないでしょう。

 考えの足りない亀姫は簡単に篭絡されそうです。

 それにもう一つ。

 今回の犯行が鶴姫の単独犯とも限りません。

 もし鶴姫の父親が目論んだのだとしたら、讃岐にいるお爺さんお婆さんが危険です。

 よく考えて行動しましょう。


 それにしましても、やはり鶴姫の姿が見えません。

 先ほど姿をくらまして、今回もまたです。

 きっとアリバイ工作をしているのでしょう。

 ……という事は、犯行が上手くいったと知った鶴姫がどの様な行動を起こすか?


 ポクポクポク、チーン!


「亀さん」


「は、はいっ!」


 すっかりびびってしまった亀姫。

 今はこちらの方が扱い易いので、そのままにしておきましょう。


「私は寝室に篭ります。

 鶴姫が戻ってきましたら『讃岐国造の娘は死んだ』と伝えなさい」


「え、だってさっき……」


「鶴姫を騙し返すのです。

 貴女が突然、『かぐや様』って言い出したら疑われるでしょ?」


「わ、分かりました」


「もう一度言うからしっかり覚えなさい。

『讃岐国造の娘は死んだ』と伝えるのよ」


はいっ!(イエスマム)


 何だろう?

 別の言葉に聞こえた気が……。


 私は寝室へと引っ込み、亀姫は居間に残りました。

 暫くすると鶴姫が戻ってきた様です。


「どうだったの?」(ツル)

「讃岐国造の娘は死んだ」(カメ)

「間違いないのね」(ツル)

「……うん」(カメ)

「そう、よくやったわ。

 それじゃあ………、

 キャーーーーーーーーーーー !!!!」


 鶴姫は突然大声をあげて部屋を飛び出して行きました。

 私は声が遠ざかったのを確認したところで、居間へと戻りました。


「かぐや様。

 鶴姫が大声をあげて出て行きましたが、どうするの?」


「おそらく貴女が私を殺したと言って、人を呼ぶのではないでしょうか?

 もし貴女が私を殺すのに成功していたら、一人で罪を被せられてましたね」


 亀姫の顔からさっと血の気が引きました。


「しばらく待ちましょう。

 それと人が来ましたら、貴女は私の問いに『はい』とだけ答えなさい。

 貴女は口下手なので、変に答えようとしたらボロが出ます。

 分かりましたね」


「え、そんな…………はい」


「分かったのならそれでいいわ。

 じきにお客様がいらっしゃるから麦茶の準備をしましょう。

 この際だから入れ方を覚えて頂戴」


「はいっ」


 暖を取るための火鉢の上に、先ほど亀姫が持っていた甕に綺麗な水を入れて、炭火に掛けました。

 小ぶりな煮炊き用の丸底の瓶の水がお湯になったところで、炒った大麦の入った小袋を入れます。

 薫りと色が出て来た頃、ようやく鶴姫と兵司(つわもののつかさ)の方と内侍司(ないしのつかさ)の千代様が、鶴姫を連れ立ってやって参りました。


「かぐやさん!

 かぐやさんが殺されたとこの者が大騒ぎしていましたが、ご無事なんですか?」


 内侍司の紅音(あかね)様が血相を変えて聞いてきました。


「お騒がせして申し訳御座いません。

 危ないところではありましたが、何とか無事です。

 ご心配お掛けしました」


「一体何があったのだ?

 この者の言う事が要領を得なくて良く分からないのだ」


 武器を持った兵司の尚兵(つわもののかみ)である靑夷(あおい)様が怪訝そうな顔をして質問をします。


「ええ、今からご説明致します。

 お茶の用意がありますのでどうぞお召し上がり下さい。

 どうぞこちらへ。

 亀、皆さんにお茶をお出しして」


「はい」


 私は皆さんを中へ案内し、座って頂きました。

 鶴姫はというと、自分がどうすれば良いのか分からず突っ立ったままです。


「ご紹介致します。

 そこにおりますのが今回お騒がせしました助評(こおりのすけ)の娘、鶴です。

 そして今お茶を配っているのが、里長(さとおさ)の娘、亀です。

 どちらも同郷の者達です」


「これは施術所で出される飲み物だな。

 香ばしくて美味しい」


「恐れいります。

 亀が淹れました。

 まだ不慣れな点が多いのでお目溢し頂けますと幸いです」


「ところで、何があったのかをそろそろ教えて下さいませんか?」


「はい、お茶を配っております亀についてです。

 亀はそこにおります鶴に私の命を奪う様、(そそのか)されました」


「「「「 !!!!! 」」」」


「しかし亀は、一度は頷いたものの怖くなって私に相談してきたのです。

 相談を受けた私は亀に策を授けました。

『讃岐国造の娘は死んだ』と鶴に言いなさいと。

 それを聞いた鶴は私の生死を確認する事なく皆様を呼びに行った、という次第です。

 そうよね? 亀」


「はい」


「嘘よ!

 私は何もしていない。

 全部亀がやったのよ!」


「鶴、黙りなさい。

 私達の話に口を挟むのではありません!」


「一体何が目的なのだ?

 恨みでもあるのか?」


「私には兄弟姉妹も親類も子供もおりません。

 私が亡き者となれば助評が次の評造(こおりのみやっこ)になる、と鶴は言っていたそうです。

 そうですね? 亀」


「はい」


「私をハメたのね。

 讃岐国造の娘はやはり汚いわ!」


「皆様、ご覧の通りです。

 亀のおかげで事なきを得ましたが、この様な者を皇子様のお側に仕えさせる訳には参りません」


「何ともはや……」


「では靑夷(あおい)様、この者を牢へ連れて行って下さい。

 明日、詳しく調べましょう」


「分かった。

 鶴、大人しくついて来い!」


「嫌よ!

 私は讃岐国造の娘に嵌められたのよ。

 私は何もしていない!」


「あ、そうそう。

 鶴は犯行と無関係を装うため、亀を私に(けしか)けている間、不自然な行動を取っているはずです。

 周りの者にお尋ね下さい」


「分かった」


「いやーーーー!

 私は何もしていない〜〜〜!」


 暴れる鶴を靑夷(あおい)様ともう一人の兵司の方が手慣れた様子で取り押さえて連行して行きました。


「かぐやさん、災難でしたけどどうしてあの様な人が雑司女としてやってきたの?」


「私も困り果てておりました。

 とりあえず明日、父様に便りを出します。

 もしかしたら主犯は鶴の父親である事も否定出来ませんので」


「そうね。

 申し訳ないけど、この件は帝にもお耳に入れておかなければならないの。

 いいですね?」


「はい、重々承知しております。

 私の監督不行き届きですので、如何なる罰も甘んじてお受けします」


「それじゃあ明日、内侍司まで来てね」


「はい承りました。

 今宵は遅くまで大変申し訳御座いませんでした」


 一先ず、これで当面の危機は去りました。

 でも事後処理が面倒くさい事になりそうです。


 それにしても、これだけ周りが大騒ぎしているのに建クンはずっと寝たままです。

 ある意味図太いですね。

 たくさん寝て、スクスク育ってね♪



 (つづきます)

兵司(つわもののつかさ)は普段、後宮にある武器を管理する司です。

何の武器を管理していたかも不明で、他の業務を担当した記録は残っておりません。

本作品内では雑司女を併せて千人を有する女の園の中で男性が武器を持って治安維持にあたっているとは思い難く、兵司が後宮内の治安維持の役割を請け負っていたと仮定しました。

平安時代になると内侍司の力が強くなってきたので、その役割を内侍司が仕切っていたのではないかと想像しています。

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