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【幕間】ツルカメの本音

問題なのは性格だけではありませんでした……。

【巣山国造の娘・鶴姫の場合】

 以前、(とお)様は

「讃岐は貧乏だ。ああはなりたく無いものだ」と言っていた。


「貧乏って何?」

 私がそう聞くと父様は愉快そうな顔をしてこう答えた。


国造(くにのみやっこ)っていうのは地域の支配者なんだ。

 領民は田畑で採れた米や稗や粟を収めなきゃならん。

 逆らう者には罰を与える。

 何故なら此処はワシらの土地だからだな。

 その代わりワシらが武器を持って盗賊や山賊から守ってやる。

 だから領民はワシらに感謝しているんだ。

 なのに讃岐の国造は満足な武器もなくて、領民は皆貧しく、田畑が狭くて米が満足に採れぬから納める米どころか自分の食べる米すら不自由しとる。

 あそこの国造は自らが竹藪へ入って竹を取って竹細工を作って暮らさねばならぬほど困窮しているのだ。

 今では山賊ですら見向きもしないほど荒れ果てている。

 10年もすれば讃岐は消えて無くなるだろうな。

 はっはっはっは」


 ふーん、讃岐って食べるものに困る程、貧乏なんだ。

 あーやだやだ。

 私はそんな風にはなりたく無いわ。

 当時、私はそう思っていた。


 だけど讃岐で宴があった時、出された食べ物は沢山あって、全部美味しかった。

 きっとこの宴のために無理をしたに違いないわ。

 讃岐の国造はきっと見栄っ張りなのね。

 娘のかぐやとかいうイケ好かない娘もそうに違いない。


 ところであんな()、いつの間に居たっけ?

 何処かで拾った子だって聞いたからきっと卑しい身分なんでしょう。

 だけど讃岐国造の娘は舞が上手な事をいい事に偉い人に取り入るのが上手い。

 つまり卑しくて狡くて卑怯な娘なのね。

 だけど讃岐はいずれ消えてしまう。

 その時になったら嘲笑ってあげる。

 その時が楽しみだわ。


 そして十年後。

 讃岐は消えなかった。

 代わりに私の巣山が消えたのだった。

 父様は国造でなくなり、讃岐評(さぬきこおり)助評(こおりのすけ)に格下げになった。

 讃岐国造が巣山を乗っ取ったのよ。

 憎い!

 讃岐が憎い!

 讃岐国造が憎い!

 かぐやという讃岐国造の娘が憎い!


 助評(こおりのすけ)は庶民ではないけれど、今まで通り領民から収められる米は私達の物にはならない。

 全て讃岐国造に取られるの。

 狡い!

 讃岐国造は狡い!


 もう二度と元には戻れないの?

 父様に聞いてみた。

 そしたらこう答えた。


「讃岐国造にはかぐやという娘しか居ない。

 かぐやが婿をとれば、その婿が次の評造になる。

 だが、もしかぐやに何かあれば跡取りは誰一人居ない。

 そうすれば助評のワシが評造に繰上げだ」


 そうなんだ。

 かぐやというあのイケ好かない娘が居なくなれば、私達は元に戻れるの。

 讃岐国造娘さえ居なくなれば……。


 後宮でかぐやの下で働くと聞いた時、この機会を逃したらずっと貧乏のままだと思った。

 貧乏から抜け出す。

 そのためには卑しくて狡くて卑怯で憎いかぐやが居なくなればいいのだ。

 じゃあどうするか?

 自分でやったら私も罰を受けるかも知れない。

 だから代わりにやってくれそうな人を見つければいい。

 私って頭良い。

 馬見の亀姫ならちょうど良い。

 あの子はかぐやを嫌っているし、庶民だし。


 大丈夫。

 何かあれば亀姫、……もう姫じゃないから亀だね、亀のせいにすればいい。

 あの()は何も考えないバカだから。



【馬見国造の娘、亀姫の場合】

 昔はこの辺りで一番裕福だったと父さんは言っていた。

 つい最近まで食べ物に困る事なんて無かった。

 でも洪水で全て変わってしまった。


 私が八つの時、大きな洪水が起こって田畑と領民が流されてしまった。

 領民は税を納められないと言う。

 甘えるんじゃ無いと父さんは怒ったけど、どんなに怒っても田んぼと一緒に流れていった米は戻ってこない。

 生まれて初めて空腹でお腹が鳴った。

 何で私がこんな目に遭わなきゃならないの?

 これが他も苦しいのなら分かる。

 だけど讃岐だけは違った。

 ずる賢い讃岐はお米を溜め込んでいた。

 おかげで領民は飢えなかったらしい。

 私達には少ししか食料を分けてくれなかったのに。


 馬見の領民は皆が飢えて、食料のある讃岐へと移っていった。

 父さんは怒ってはいたけど、飢えて米を納めない領民が居ても役に立たないからと放っていた。

 気がつくと馬見には百くらいしか家が居なくなっていた。

 これでは今までと同じ生活が出来ないからと、父さんは倍のお米を差し出せと領民達に命令した。

 そうすれば同じだけお米が手に入る。

 何だ簡単じゃ無いの。


 だけど同じだけお米は集められなかった。

 領民が逃げたらしい。

 しかし誰が逃げたのかなんて父さんは知らない。

 だって領民なんて放っていても勝手に住み着く鼠みたいな生き物で、鼠の区別なんてつくはずがないもの。

 毎年やっている様に家に押し掛けて米を取り上げようとしたけど、殆どの家が空っぽだったらしい。

 百くらいあった庶民(ねずみ)の半分が逃げてしまった。


 讃岐へ行ったのだろうと、残った連中は言っていた。

 だから讃岐国造に言って、逃げた領民を返せと言いに行った。

 そうしたら

「馬見にいた者が誰なのか分からんから教えてくれ。馬見に戻る様説得する」

 と言われたそうだ。

 ずる賢い讃岐らしい汚いやり口だ。

 馬見にいた庶民(ねずみ)が誰かを教えろだなんて無理に決まっている。

 逃げた庶民(ねずみ)の区別がつかない事をいい事に、讃岐国造は庶民(ねずみ)を横取りしたのだ。

 人の不幸につけ込んで鼠を掻っ攫うなんてヒトデナシのやり口だ。

 父さんはそう言って怒っていた。

 私もそう思う。


 そして今年になって父さんは馬見の里長(さとおさ)になった。

 里長は国造と違って庶民(ねずみ)の代表で、税は支払わなくていいのだけど身分は庶民(ねずみ)と同じ扱いを受けるの。

 つまり私は庶民(ねずみ)になってしまった。

 私はこの先、庶民(ねずみ)として生きていくしかないの?


 そう思っていた時、巣山の鶴姫がやってきてこう言って来た。


「讃岐国造の娘が後宮に勤めていて雑司女を募っているから、一緒に行こう」と。


 ヒトデナシの讃岐国造の娘の下で働くの?

 私は嫌だ。

 断ろうとした。

 そうしたら、鶴姫が教えてくれた。


「あのかぐやという讃岐国造の娘さえ居なければ、次の讃岐評造は私の父様なの。

 そうしたら助評には亀姫の父さんが繰り上がる。

 助評は庶民じゃないわ」と。


 そうなんだ。

 かぐやというあの女が居なくなれば皆んなが元通りなんだ。

 私達は二人で雑司女になりたいと親に頼んで、後宮へとやって来た。

 いつか隙を見て……。


 大丈夫。

 何かあれば鶴姫のせいにすればいい。

 あの()は狡いくせに間抜けだから。


うーん、設定を突き詰めたら救い様が無くなってしまいました。

本作品は出来るだけ悪人を出したくないのですが……。

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん、ギルティ(´・ω・)
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