ツルカメコンビ
本当は目下にの者に「〜下さい」と言うのはNGなんですが……。
新たに雑司女の二人はお隣の国造娘さん達。
お名前は鶴姫と亀姫、ツルカメコンビです。
赤の他人のはずなのに、とっても息の合った嫌味な連携技を繰り出す強敵です。
名前といい、性格といい、……。
「取り敢えず中に入るという事で宜しいでしょうか?
繰り返し申しますが、この門を潜りましたら、外へ出るのは容易な事では御座いません」
「何度も言わなくても分かっているわよ。本当に讃岐国造娘はもの覚えが悪いのね」(ツル)
「本当、もの覚えが悪いのね。それともしつこいのかしら?」(カメ)
「何度も言わせて頂きますが、私が貴女方の雇用主である事も承知しているのですよね?」
「他に誰がいると言うの? 当たり前の事を聞かないで欲しいわ」(ツル)
「雇用主ならしっかりと雇用しなさいよ。讃岐国造の娘こそ分かっているのかしら?」(カメ)
本当に帰るつもりがなさそう。
「分かりました。
ではお部屋へと参ります。
ついて来て下さい」
「本当にモタモタしているのだから」(ツル)
「わざとなのかしら」(カメ)
マトモな会話が成り立つのか心配なレベルです。
先が思いやられます。
◇◇◇◇◇
二人を部屋に通すと、これまでお世話になった雑司女さん達がおりました。
「お二人とも今までありがとうございました。
少し掛かりましたが国許より私専属の雑司女を派遣して貰いました。
慣れない二人なので色々ご迷惑を掛けるかも知れませんが、大目に見て頂けますとありがたく思います」
「いえ、そんな。
かぐや様にお仕えするのはとても光栄でした。
私共の様な下々の者までお気を使い下さり感謝申し上げます」
名残惜しげに去る二人。
いつもながらとても丁寧な言葉使いは庶民とは思えず、そこそこの家柄の娘さん達なのでしょう。
さて次は、問題の二人です。
「それでは詳しい話は明日しますが、気をつけて頂きたい事を予め言っておきます。
これは貴女方の為でもありますのでよく聞いて下さい」
「何よ、勿体ぶって。疲れているから早く終わらせて下さらない?」(ツル)
「本当、先が思いやられますわ」(カメ)
本当に思いやられそう。
「このお部屋は帝のお孫さんに当たります建皇子様のお部屋です。
部屋の物を傷付けたりしない様お気をつけて下さい」
「「分かったわよ」」(ツルカメ)
「そして私は書司の典書です。
二人には私のお仕事で伝言係を頼む事になります。
出来るだけ早く、職場の場所と人を覚えて下さい」
「讃岐国造の娘は横着者なのね」(ツル)
「自分で動く気がないのかしら?」(カメ)
……くっ!
「最後に。
建皇子万が一の事がありましたら、私達三人は命が無いものと考えて下さい。
帝は建皇子様をそれ程までに可愛がっております。
くれぐれも建皇子様に危害を加えない様、心に留めて下さい」
「大袈裟ではないの?」(ツル)
「脅かそうとしても無駄よ」(カメ)
「以前、建皇子様の描いた絵を破いた童が危うく首を刎ねられるところでした。
それを唆した母親は、自宅で監禁生活を送っています」
「じょ、冗談では無いですわよね?」(ツル)
「お、脅かそうとしても無駄よ」(カメ)
「もし建皇子様に何かあれば、私も黙っていられません。
讃岐で盗賊を退治した私が自ら処罰を加えます」
「ひ、分かったわよ」(ツル)
「怒る事ないでしょ? 確認しただけじゃ無い」(カメ)
少しは脅しが効いたっぽい感じです。
改めて思いますが、この二人とは十年以上昔から知っているのに、マトモに話をするのは今回が初めてです。
もっと友好を深めておくべきだったのでしょうか?
今すぐバッサリと切り捨てた方がいい様な気がしますが、OL時代にも似た様な事は散々経験して来ましたので、気長に彼女らの成長を待つ事にします。
「では、後宮で雑司女が羽織る衣を受け取りに行きます。
場所が分からないでしょうから案内します」
「先ほどの人達と同じ衣は嫌ですわ」(ツル)
「色の無い衣なんて庶民と同じ扱いじゃないの」(カメ)
今の貴方達の服を着る方が余程勇気がいるのだけど……。
「これは決まりです。
決まりを守らない方には罰が与えられます。
それに今……、止めておきましょう。
着替えを取りに行きます。
いいですね?」
「「分かったわよ」」
危うく「今貴女方が来ている衣より後宮の作業着の方が良い生地を使っていますよ」と言いそうになりました。
彼女達のプライドを尊重してあげないと、泥沼に嵌まりかねません。
彼女達の言い方はアレですが、私も感情的にならず気を付けないと。
彼女達は現代日本なら高校生。
そして私は元・社会人。
大人として接してあげないとね。
【天の声】社会人にも新人から熟練まで様々だけどな。
二人を連れて内侍司へと行きました。
千代様は不在でしたが、先ほどの二人がいたので声を掛けて作業着をお願いしました。
彼女は快く持って来てくれました。
「ありがとう。
助かりました」
「いえ、当然の事です。
お二方もこれから宜しく下さいませ」
「ええ、宜しくするわ」(ツル)
「ええ、世話になるわ」(カメ)
ちょっと待って!
「あのね、鶴さん、亀さん。
キチンと御礼を言えないと後で苦労するのは貴女達なのですよ」
「「……アリガト」」
こんな高飛車な態度では居場所が無くなってしまいます。
この子達の親は何も教育しなかったの?
以前から心配な性格と思っていましたが、前途が多難過ぎます。
◇◇◇◇◇
お部屋に戻ると建クンがお昼寝から起きていました。
「おはよう、建クン。よく眠れた?」
「………」
「そう、それは良かった。
じゃあ紹介するね。
この二人は今までのお姉さん達に代わって新しく建クンのお世話を手伝ってくれる鶴さんと亀さんです」
建クンはオズオズと二人を見ます。
「何も言わないのね。気に入らないの?」(ツル)
「気に入らなそうね。何も話したがらないし」(カメ)
「建皇子様は滅多に話さないの。
だからそのつもりで接して下さい」
「何も話さないじゃ分からないわ」(ツル)
「何も聞けないんじゃ分からないわ」(カメ)
「それを分かってあげるのが私達のお仕事なの」
「無茶もいいところね」(ツル)
「無理言わないで」(カメ)
「それが出来ないのなら此処には居られません」
「「どうすればいいのよ?」」(ツルカメ)
「暫くは私の言う通りにして下さい。
分かりましたか?」
「「……分かったわ」」(ツルカメ)
本当に分かってよ。
お願いだから。
◇◇◇◇◇
二日目。
ツルカメコンビは昨日はお客様モードでした。
食事は私が運び、片付けも私がやって、いわゆる上げ膳据え膳です。
雑司女としての仕事は一個もしませんでした。
今後も続く様でしたら解雇を考えないといけませんね。
「二人とも、起きなさい!
もう皆さん支度が出来ています」
「まだ暗いのに」(ツル)
「まだ眠いのに」(カメ)
「朝餉を食いっぱぐれますよ」
ガバッ!(ツル)
がばっ!(カメ)
「早く言いなさいよ!」(ツル)
「何モタモタしているの!」(カメ)
「今から膳司を案内します。
私達の朝餉持って来て頂きます。
建皇子様は別の場所で調理した別献立なので気を付けて下さい」
「「面倒なのね」」(ツルカメ)
「これが貴女達の仕事なの。
文句を言わない!」
「「はぁぁい」」
この二人をどうやって教育するか?
OL時代を含めても一番の難敵です。
……頭痛い。
当然ですが、この先ツルカメの二人には痛い目を見て貰います。
それまでご辛抱の程、宜しくお願いします。




