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新しい雑司女達

第七章始まりました。

宜しくお願いします。

【天の声による第六章のあらすじ】

 中大兄皇子、中臣鎌足らの策略によって額田王と共に中大兄皇子の物となるところであったが、大海人皇子と斉明帝の機転により、後宮の采女となり斉明帝の元で書司(ふみのつかさ)女嬬(めのわらわ)として仕えることになった主人公・かぐや。

 年が明け、さあ宮勤めだ! となる入社日、そこには焼け野原となった板蓋宮(いたぶきのみや)があった。

 紆余曲折の末(いろいろあって)、かぐやは忌部氏の宮で在宅勤務、斉明帝が溺愛する孫の(たけるの)皇子の世話係として、新たな宮の完成まで過ごすことになった。

 即位の儀で光の玉(チート)を使った舞を披露し一躍時の人となったかぐやは、いく先々の神社仏閣で信望者を増やして行き、かの役小角(えんのおずぬ)ですらかぐやの力の前に光る(こうべ)を垂れ、膝を屈したのだった。

 そして落成した後飛鳥岡本宮の落成では、大規模なドローンショーを飛鳥時代に出現させ多くの人の度肝を抜いてしまう。

 その影響力がどれ程なのかを知らない本人を他所に、周りはかぐやを巡り動く。

 ある者は配下に収めるべく画策し。

 ある者はその知名度を利用して典書(ふみのすけ)へと取り立て。

 ある者はかぐやの知らぬ場で一心不乱に崇め、敬い、(おど)るのであった。

 ♪ K O G U Y A! K O G U Y A! K O G U Y A!

(※一部誇張アリ)


 ◇◇◇◇◇


 さて、書司の典書(ふみのすけ)となって十日。

 もっと厳しい視線が自分に向けられるのでは無いかと思っていたのですが、例外はありますがその様な視線を向けることをなく、

「慣れないでしょうけど頑張ってくださいな」とか、

「何かお手伝いできる事があれば何でもご相談して下さい」とか、

「もし私達のお仕事で気になる事がありましたらご指摘下さいな」とか、

 どちらかと言えば皆さん総じて好意的なのです。

 何これ?

 もしかして飛鳥時代の事務環境って、令和の事務所(オフィス)よりも、やさやさやさやさしいウーマン?


【天の声】

 そんな訳はない!

 理由は主に二つ。

 一つは難波宮から飛鳥宮への移動をサポートする際、かぐやは後宮の者達にその実力を認められているから。

 そしてもう一つは、神降ろし巫女の噂は後宮内にも拡がっており、強力な呪力(ちから)を持つかぐやを敵に回したくないからである。


「慣れないでしょうけど頑張ってくださいな」

 意訳:分からないからって怒らないで下さい。お願いします。


「何かお手伝いできる事があれば何でもご相談して下さい」

 意訳:何でもお手伝いしますので私の事を贔屓にして下さい。


「もし私達のお仕事で気になる事がありましたらご指摘下さいな」

 意訳:私達の事で気に触る事が御座いましたら直します。どうかお許し下さい。


 周りも必死なのである。

【天の声おわり】


 書司へは皆さんがお揃いになる頃に行って、書き溜めた写経を渡し、新たな原本を受け取ります。

 連絡事項があれば尚書(ふみのかみ)の千代様から話を聞き、書司で唯一と言っていい厳しい目を向ける私と同じ典書(ふみのすけ)の玉様とお仕事の打ち合わせです。

 とは言え、あなたは関係ないけど私達はこうゆう事をやっています、的な報告です。

 事実、建クンの世話係を兼務している私は、幼い建クンを貴重な書が並んでいる職場へ連れて来れないため、常駐が出来ません。

 現場が玉様頼りなのは間違いないので、決して事を荒立てる事をしない様、姿勢を低く、頭を低く、尻尾を低くして従います。

 キャワン!


 私は空気を読む事に長けた令和の事務員でした。

 なので変に逆らってこの場の空気を悪くしません。

 何せ仲間との協調を強いられて育ったゆとり世代ですから。

 授業では必ず机を向かい合わせてみんなで意見を出し合う議論(ディスカッション)を重視します。

 あれってすごく時間の無駄でした。

 ところで円周率が約3って何処の都市伝説?

 私がゆとり世代と知って、そうゆう質問をするバブル世代のオジサンが沢山いました。

 そんな訳ないでしょうに。


 午後は建クンのお世話と運動とお勉強です。

 最近、建クンの将来を考えた時、どうあるべきか考える事が増えました。

 建クンが皇子様としての立場に安泰なのは斉明帝がご在位の間だけです。

 既にご高齢の斉明帝に何かがあれば建クンは父親である皇太子様(オレ様)が頼りになればいいのですが、あまり期待出来ません。

 むしろ遠ざけているくらいです。


 現代日本でしたら充分とは言えませんがそれなりの支援制度がありますが、古代にはそんなものはなく帝の財力が頼みです。

 自立出来ればそれが一番ですが、せめて帝と私が居なくなっても生きていく術を身につけて欲しいと思うのです。

 絵を描いて生きていけるならそれが一番ですが、古代に芸術的価値が食料と交換できるのか微妙です。

 ではどうするか?

 ……分からないので、まずは簡単なお勉強をする事にしました。

 算数と音楽、そして書道です。

 建クン自身あまり乗り気ではなく、始めましょうと言ってから取り掛かるまで30分以上掛かることもザラですが、焦らず地道にやっていきます。

 取り組みやすい形式(スタイル)があるかも知れません。

 建クンの音楽に合わせて光る人を踊らせるとか、工夫してやってみましょう。


 そんな中、非常に助かっているのは内侍司の千代様が派遣して下さった雑司女の二人です。

 とても優しいお姉さんなので建クンも心を許し始めております。

 しかしお二人はあくまで期間限定の派遣社員さんです。

 こちらで雑司女(せいしゃいん)を用意せねばなりません。

 そしていよいよ。

 その雑司女が来る事になったみたいなのです。



「かぐや様、かぐや様に仕える雑司女という方がお見えです。

 闈門までお越し下さい」


「はい、すぐに参ります。

 お知らせ下さりありがとうございます」


 私は後宮と外界を隔てる闈門へと出向きました。

 讃岐にいるお爺さんと相談役の秋田様には、

『建皇子の世話係を拝命している関係で帝の御目通りが頻繁にあります。

 最低限の礼儀作法は必要かと思います』

 と雑司女としての条件を記しておきました。

 きっと最初の挨拶でもキチンと挨拶を返して下さるでしょう。


 ワクワク。


 門が開かれ、先ずは向こうから何か挨拶があるでしょう。

 一応、私が雇用主ですから。


 ガコンッ!

 ぎぃぃぃぃ。


「………」


 じっと見つめ合う若い二人と私。

 それにしても赤い衣がすごいです。

 緑色の裳と合わせているので、まるで色盲検査をされている様な気分です。

 でなければ、熱帯雨林地区に潜む毒カエルのコスプレ?


「讃岐国造の娘はいつまで私達を待たせるの?」

「そーよ、いつまで待たせれば気が済むの?」


「すみません。チェンジで」


 雇用主に向かって第一声がこれでした。

 この言い方で思い出しました。

 地元国造の娘さん達で、正月の宴の度に私に嫌味を言う二人組です。

 でも一体なぜ?


「先ずはあなた方が私お付きの雑司女となる書状なりお持ちでしょうか?

 この門は関係者以外出入りが出来ません。

 厳密に申しますと、関係者のみが中に入れて、出る事は(まま)なりません」


「わ、分かっているわよ。

 これを見て頂戴!」


 手渡された木簡を見ますと、お爺さんの字が。


『この二人は元・巣山国造の娘と元・馬見国造の娘じゃ。

 此度、ワシが讃岐評(さぬきのこおり)(みやっこ)となり、巣山殿は助評(こおりのすけ)、馬見殿は里長(さとおさ)へと降格になったのじゃ。

 この二人からせめて娘らを後宮で過ごさせたいと頼まれたのじゃ。

 領内でこの二人以上に礼儀作法ができる娘はおらぬ故、二人を雑司女として送る。

 後は任せたのじゃ』


 これが手紙だったら破り捨ててますね。

 とんでもない爆弾を送りつけて来ました。

 誰か止める人は居なかったの?

 それともこの二人、私以外には礼儀ができる子なの?


 先行きが思いやられる二人は、私の苦悩も知らず文句を垂れているのでした。



以前からメインストーリーへの参入を考えていました二人が満を持して登場です。

名前はまだ決まっておりません。

今夜考えます。

……名付けセンスが欲しい。

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