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【幕間】鎌足の苦悩・・・(3)

第224話『孝徳帝御崩御の後』の鎌足様サイドのお話です。


720.大幅加筆。

 (※悩める中年管理職・鎌足様視点による時代の移り変わりをご覧頂いております)


 宇麻乃(うまの)と袂を分ち、彼奴を石上(いそのかみ)神宮へ閉じ込めた。

 その結果私の仕事は激増し、寝る間も無い程忙しくなった。

 側から見れば、今の私は亡くなる直前の阿部倉梯内麻呂殿みたく見えている事だろう。

 いつも顔色の優れぬ内麻呂殿は、激務の末に倒れられたのだ。

 同じ事がいつ私にも降りかかるのか分からん状態だ。

 こんな時に頼りになる片腕がいればな……。


 ふとかぐやの顔が浮かんだ。

 今は飛鳥京の一角で美容療法施術所(エステティックサロン)とやらで(みやこ)の女子共に美容の施術を施しているらしい。

 一年前、孝徳帝を出し抜く際には、与志古を通じて施術所を情報交換の場として利用させて貰った。


 色々と不思議なところがある娘だが、そんな事よりも私にはかぐやの手際の良さの方が気に入っている。

 かぐやの仕事とは、物事を進める際にまるで最短経路を知っているかの様に立ち回り、自らが動き、人も動かす事だ。

 これは毎日同じ仕事の繰り返しばかりの高官共では到底及びもつかない柔軟な発想と実行する力に他ならない。

 もしかぐやが側近にいたなら、私に降りかかる雑務を全面的に任せて私は自分のすべき事に邁進できたであろう。

 かぐやがそこに居る、それだけで安心感が違うのだ。

 常に傍にいてすぐに仕事を割り振らせても良い。

 是非とも欲しい人材とはあの様な者を言うのだろう。

 宇麻乃を失い、改めて人材という者が如何に貴重であるのかを思い知らされる。

 そして何故か、かぐやと共に仕事にあたる空想が楽しく思えてくるのだった。


 ◇◇◇◇◇


「鎌子よ。少し相談したいが良いか?」


「はっ、何なりと」


「大した事ではない。

 叔父上が亡くなり、母上が重祚すれば、その次は私が帝になる。

 帝となった自分自身というものを考えてみたのだが……。

 私自身が帝の器であるという自負はある。

 しかし皇后の立場が今一つの様な気がするのは私の考えすぎか?」


「その様な事は御座いません。

 倭姫王(やまとひめのおおき)様は歌に親しみ、慎み深い性格は正に皇后の器に相応しいかと。

 血統は皇后に相応しく、余人を以て替え難き女性と思いますが」


「そうは言うがな、そこはかとなく距離を置かれているのだ。

 私と、倭の父親である古人(ふるひと)との因縁を引きずっている様に思う。

 蘇我の血筋であるにも関わらず命を助けたのだから、感謝されても良いはずなのだがな」


 父親を殺されて感謝するとはあり得ないと思うのだが、葛城皇子の中では助けた事になっているのか。


「皇子から寄り添えば、決して否は無いかと」


「しかし一向に子を成す兆しもない。

 皇后が子を成さぬのは外聞が悪かろう。

 故に、頼りになる妃を倭の他に求めるべきかとも思っている」


「妃は他にもいらしたと思いますが?」


「私が考える妃とは額田のような華のある女子でなくてはならぬと考えているのだ。

 歌という点で額田に勝る者はおらぬ。

 器量も言う事がない。

 母上や間人(はしひと)とも仲良くやっている。

 帝の妃とは正にこの様な女子を言うのではないか?」


「額田殿の素養につきましては私も賛同します。

 しかし実の弟の妃です。

 如何ともし難いと思われます」


「私はな、自分自身に誇りを持っている。

 そして(きさき)にも同じ事を求めるのだ。

 実の弟だからこそ遅れをとるわけにかいかぬと思うのだ。

 皇弟の妃の方が人望があると思われるのだぞ」


 一体何を言い出しているのだ?

 流石に大海人皇子を敵に回すのは得策ではない。

 何としてでも防がなくては。


「まさかと思いますが、大海人皇子に額田殿をご自分の妃として寄越せ、と言うのですか?」


「流石にそこまで言うつもりはない。

 しかし額田は欲しい。

 だから相談しておるのだ」


 本気だったのか!?

 私は頭を抱えたくなった。

 孝徳帝が崩御され、タガが緩んだとしか思えない。


「鎌子だから言うが、大海人はいずれ私の障害になると思っている。

 今は従順な弟の仮面を被っているが、いずれ私へ牙を向く日が来るだろう。

 その為にも今のうちに力を削いでおきたいのだ」


 だからと言って無闇に敵を作るのは後々の悔恨となろう。

 私としては力を削ぐのは賛成するが、やり方が稚拙過ぎる。

 ならば少しでもこちらに有利となる様、誘導するしかない。


「ではこの様に致しましては如何でしょう?

 額田殿の政治力とは施術所と呼んでおります女子の集会所(サロン)です。

 それを葛城皇子へ譲る様、迫ってみては?」


「その様な物に私は興味がない」


「いえ、一年前の遷都の際、施術所は情報交換の中心でした。

 あれがなければ計画は頓挫していたのかも知れない程、重要な役割を担っておりました」


「そうだったのか?」


「私も与志古に聞くまで知りませんでした。

 しかし女子の世界で一番の影響力を持っているのは額田殿で間違いありません。

 その影響力の源である施術所、更には額田殿を傘下に収めるという訳です」


 そう言いながらも、私もかぐやを傘下に収める好機に思えた。

 やるからには徹底してやるしかない。


「なるほどな。

 妃を寄越せとは言っておらぬが、実質そう言っているのに等しい訳だ」


「しかし大海人皇子からすれば妃を差し出せと言うのは屈辱でしょう。

 家臣の中には跳ねっ返りがいるやも知れません。

 そのような者が出た場合、徹底して叩きのめす算段も必要かと存じます」


「流石は鎌子だな」


 いや、敵を作らないのが一番なのだ。

 怒らせて決起したところを一網打尽にするしか他に手が浮かばぬのだ。

 大海人皇子には悪いが、最悪、二度と浮かび上がれぬよう叩かせて貰おう。


 だが挑発に乗らなかった場合は……その時は私の負けという事だ。

 強大な敵を自らの手で作り出したという最悪の結末なのだからな。

 もっとも大伴馬来田や吹負は血の気が多い故、大人しくするはずがない。

 失敗するとは思えぬ。


 私は兵をかき集めて、連中の挙兵を待ち構える作戦に出た。

 十分な数の兵の準備。

 そして葛城皇子の理論武装。

 これらを完全に仕上げて、大海人皇子との会談に臨んだのだった。



(幕間つづきます)

すみません。

熱が38℃越えでクラクラしています。

気候にやられたっぽい。

ボロが出る前に今日は短く〆ます。


7/20.修正しました。

強大な敵を自ら作り出してしまった悪の組織……といえばショッ◯ー?

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