昇進の理由
寄り道しているうちに第六章が終わってしまいました。
でも楽しかった♪
うぅ……痛い。
厨二な中学生は普通です。
厨二な高校生は微笑ましいです。
厨二な大学生は痛々しいです。
職場にいた厨二な社会人は見て見ぬ振りをしてあげていました。
……じゃなくて、視線が痛いです。
後宮での出勤二日目にして、私は次官になってしまいました。
おかみさぁ〜ん、ジカンですよぉ〜。
♪ ぱーっぱぱ、ぱーっぱぱ、ぱーっぱぱ、ぱっぱぁ
行き場のない思考が、飛鳥時代より遥か未来なのに途轍もなくレトロな場面となって明後日の方へと現実逃避します。
きっと私の前世はブラウン管だったに違いありません。
【天の声】無生物かよっ!
現代の次官と言えば、上場企業の代表取締役ですら土下座して靴をペロペロするほどのエリート中のエリートです。
古代の次官は、名門の家系に生まれ育ったやんごとなき御方が務めるのだと思いました。
そして後宮の場合、帝の妃や夫人、嬪の方が務めるのだと、元・後宮勤めの萬田先生に教わりました。
つまり私は帝の愛妾?
百合にも程があるって!
仕方がなく、私は逃げる様にお部屋へと向かいました。
その夜、帝がお部屋に参られました。
建クン成分の補充が主な目的だった様です。
でも残念ながら建クンはおネムの時間を過ぎており、見られたのは可愛い寝顔だけです。
「建の様子はどうじゃ?」
「ようやく新しい環境に慣れてきたらしく、よく眠れる様になりました。
内侍司の千代様がお手伝いの方を寄越して頂き大変助かっております」
こうゆう時は自分の手柄としないで協力してくれた方を最大限に引き立てます。
後ろに控えている雑司女の二人にももちろん気遣いの言葉を掛けます。
「心配じゃったが、大丈夫な様じゃの」
「いえ、残念ながら食事の方で難儀しております」
「食事がどうしたのじゃ?」
「偏食の激しい建皇子には出される食事が殆ど食べられない物ばかりなのです」
「今まではどうしておったのじゃ?」
「食べられる物を根気よく選り分けて、それを食べて頂きました。
特に赤米や黒米を苦手にしておりますので、讃岐より送って貰った白米のご飯や、小麦粉を練って焼いた饅頭でお腹を満たしておりました」
「それはここでも食せないのかや?」
「大勢の食事を作る中で、建皇子様だけに特別の献立をご用意して頂くのは難しいかと思われます。
かと申しましてこれを全員に出すとなりますと、(高価過ぎて)材料が到底足りません」
「白い米だけでもどうにかならぬのか?」
「少々込み入ったお話しになりますが、白いお米ばかりを食しますと病気になるのです。
玄米に有って精米した白米には無い滋養(ビタミンB1)が摂れないために発症する病気です。
それを防ぐために別の食物を用いたり料理の仕方を変えるなどして、足りない滋養を補う訳ですが、その知識は複雑で理解が難しいのです。
偏食の激しい建皇子様にはお米だけでなく、菜っ葉(ビタミンC)や肉(タンパク質)の代替となる食事も必要となります」
「なんと……施術所の時から普通の食事では無いとは思っていたが、其方の出す食事はそこまで考え抜かれておったのか」
「考え抜くと言うほどでは御座いませんが、食す方のためを思ってお出ししておりました。
建皇子様は同じ原料であっても料理の仕方によって食べられたり、食べられなかったりしますので、出来るだけ食べ易い形にしてお出ししております。
もちろん苦手の克服をやって頂いておりますが、無理強いは絶対にせず、一日一品が限度です。
大体は食べることが出来ず、口から出してしまわれます」
「ふむ……、この先ずっととなると難しい問題じゃのお。
何か案はあるのか?」
「もし後宮の中でどうにかせねばならぬのならば、厨房の一角を借りて私がなんとかします。
もし外部の協力が得られるのであれば、忌部氏にご協力頂いて、これまで食してきた献立を再現して中へと持ち込めれば、と思っております。
原料も手間も掛かりますので、讃岐におります父と母に援助のお願いをします」
「其方は両親を頼りにしておるのかや?」
「はい、心より頼りにしております」
「ふふふ、そうか。
ならば其方の両親にも手伝って貰おうかな。
それなりの冠位を与えたのだしのお。
膳司にはワシから口添えしておこう。
後で相談するといい」
「はいっ、ありがとうございます」
「礼を言うのはワシの方なのじゃがな」
「いえ、本当に助かります」
「ところで其方も大変じゃろうが、頑張ってくれよ」
「え? はい、正直申しまして困惑しております。
後宮に来てまだ三日なのに次官だなんて」
「何を言うとるか。
其方は女嬬となって一年になろう。
その間、遊んでおった訳ではあるまい」
「それはそうなのですが、あまり働いたという実感は御座いません。
むしろ好き勝手にやってしまって、反省しか思い浮かばないのです」
「何を言うとるのか?
其方が行った先から感謝の言が絶えぬのじゃぞ。
少なくともこの近辺でワシに苦情を申し立てる祭司は一人もおらぬ。
ワシが即位する前は祟りじゃ何だと言っておった連中がじゃ」
「何か感謝される様な事が御座いましたでしょうか?」
「本当に其方は……。
昨日もあれだけの事をしでかす様な強力な呪力を持った神降ろしの巫女が、ワシの紹介状を持ってやって来るのじゃ。
普通は宮に託って外へは出そうとせぬのだぞ」
「え、そうなんですか?
ちょっと光っただけですよ?」
「何故か分からぬが、ワシの方が間違うとる気がするくらい、其方は自分への評価が低いのお」
「良く分かりませんが、申し訳ございません」
「まあ良い。
じゃからワシも其方の名声を利用させて貰うぞ。
建と共に其方もワシのいく先について来て貰うのじゃ。
じゃが女嬬ではそう易々と外へは出せぬ。
故に次官にしたのじゃ。
書司には判官の役職は無いし、長官は流石にやりすぎじゃ」
「それであの様な昇進となった訳なのですか?」
「そうじゃ、出雲にも伊勢にも筑紫にも共に来て貰うぞ。
無論、書司じゃから仕事はして貰う。
調べたい事があれば思う存分に調べるがええ」
「はい、承りました」
「ついでに其方の好きな『薄い書』とやらも集めるとええじゃろ。
ほっほっほっほ」
「え……、えぇ?
えぇぇぇぇぇぇ!!
ど、ど、ど、どうしてそれをご存知なのですか〜?!」
「ふふふ、婆ぁは物知りなのじゃよ。
それでは邪魔したの。
ほっほっほっほ」
そう言い残して帝は部屋を出ていきました。
一体何処の誰がっ!?
帝に個人的な話ができて、私と帝との共通の知人、尚且つ私の秘めた趣味を知る立場と言えば………誰?
薄い書の供給元の秋田様?
……接点が見つかりません。
元・後宮勤めの萬田先生?
……帝が皇極天皇だった時に後宮勤めしていたハズですが、帝とはそこまでの間柄だとは聞いていません。
大穴で衣通ちゃん経由の御主人くん?
……あの堅物がそんな趣味全開な話をする姿が思い浮かびません。
とりあえず秋田様には次に会った時に問答無用で生え際後退の光の玉を差し上げましょう。
でも薄い書が帝の公認事業となるのなら悪くは無いかもという気にもなってきました。
公私混同は私の得意技ですから。
ああ、それにしましても今日はとっても疲れました。
もう寝ましょう。
おやすみ、建クン。
明日の事は明日考えましょう。
明日になればきっと何とかなる……すう。
(第六章おわり)
とりあえずこれにて第六章を〆ます。
次話から(作者が楽しみにしている)幕間に入ります。
お付き合いのほど、宜しくお願いします。




