伝言ゲーム(5)
やっと収束しました。
予想外に盛り上がりました。
⑰ 川原宮、再び帝の御前にて
「恐れ多くも帝にお尋ね申しあげます。
讃岐の造麻呂に大紫の冠位を授与するとは誠なのですか?」
「どうしたのじゃ? 鎌子よ。
何か不都合がある様な物言いに聞こえるが」
「不遜を承知の上で申し上げます。
冠位を与える事に反対は致しません。
ですが大紫とは行き過ぎです。
そもそも今与えられている小青、今の冠位で小山上ですら異例の抜擢とも言えるので御座います」
「其方も大紫の冠位を孝徳から承っておるよな。
同格が増えるのを邪魔したいのか?」
「私は帝への貢献を認められたが故の叙勲だと思っております。
しかし造麻呂にはその様なものは御座いません。
私は兎も角、他の者が黙っておりません。
命すら狙われますぞ」
「それは物騒な話じゃな。
怖い怖い。
ならば全力で守らねばな。
心配するな。
兵を百名ほど置いてきた。
おおそうじゃ。
ちょうど空きの離宮があったから借りたぞ。
あれは其方の離宮か?」
「な……、何て事を!
二百五十戸程度の領に百名の兵など養えません。
潰れてしまいますぞ」
「じゃが、食料は豊富じゃし、備蓄もしっかりしておった。
街道は整備されているから調達も易かろう」
「食料が豊富なのは私と亡き倉梯殿が舎人を派遣して農業試験場として運営していたからです。
街道が整備されているのは我々のために造麻呂が整備しただけです」
「治水もしっかりやっておったが、それも其方らによるものか?」
「いえ、それは彼等が行いました」
「はて? 妙な事じゃのう。
国造を降格になる程の凡庸な者がどうしてここまで出来るのじゃ?
屋敷がデカい以外、生活は質素じゃった。
私腹を肥やしてとは思えぬ。
領地経営の手段はなかなかのモノと言えようぞ」
「それはかぐやが居たからで御座います」
「しかし国造は造麻呂じゃ。
娘の意見を取り入れたからと言って何の不都合がある?」
「いえ……御座いませぬ」
「其方は言うたな。
『何やむを得ぬ事情なり、不手際があれば正しましょう』と」
「相違ございません」
「冠位を与えるのはワシの領分じゃ。
不手際を正すか正さぬかは其方の領分じゃ。
言いたい事は分かるよな?」
「…………御意」
⑱ 川原宮、再び×2内臣執務室にて
(※お白洲ではありません)
「犬養五十君よ。
『馬見、巣山、讃岐の国造を統合し、新たに馬見評を設け、馬見国造を馬見評造任命す』
其方の提出したこの木簡に疑義が生じておる。
尋ねられた事に正直に答えよ」
「何でありましょうか?」
「まずは馬見、巣山、讃岐の国造を統合するとした理由を述べよ」
「これはいずれも領民の数に乏しく、三つを統合しても五百戸、即ちようやく十里に御座います。
一つの評に統合し、一名の評造、一名の助評を置き、十名の里長が五十戸を取り纏めるのが適切と判断致しました」
「では、馬見国造を新たな評造とした理由を申せ」
「その人物に御座います。
五百戸を取り纏めるのに相応しい器であると、私が判断しました」
「直接会ったのか?」
「いえ、そこまでは致しておりません。
伝聞によるものです」
「馬見、巣山、讃岐を合わせて五百戸であると言ったな?
ではそれぞれは幾つだ?」
「も、申し訳ございません。
そこまでは覚えておりません」
「馬見が百戸、巣山が百五十戸、そして讃岐が二百五十八戸だ。
馬見も巣山も妙にキリのいい数字だが、讃岐だけはキチンと調べておる様だな」
「そうかも知れません」
「普通に考えれば一番大きいところから代表を出すべきかと思うのだが、何故一番小さなところから代表者を選んだのだ?」
「ひ、人の能力は領民の数だけでは計れぬもの故に御座います」
「能力とは何だ?」
「そ……それは中央への貢献に御座います」
「馬見国造は何を貢献したのだ?」
「ため池を作り治水に取り組んでおります」
「それをしたのは讃岐国造だが?」
「え? あ、では作物の収穫を増やす技術の普及に努めました」
「それをやったのも讃岐国造だ。
私も協力したからよく覚えておる」
「ひっ、も、もしかしたら報告に誤りがあるのかも知れません。
急いで調べ直して参ります」
「それには及ばぬ。
おい、あの者を呼べ」
「はっ!」
「名を申せ」
「忍海大国と申します」
「報告があるそうだな? 申せ!」
「はっ!
我々は大部屋にて仕事をしております。
そこへ妙齢の見目麗しい女性が参れば誰もが目が行き、耳を欹てたくなると言うもの。
また香りすらも麗しく、男ムサイ職場にまるで……」
「前置きはいい。とっとと話せ!」
「はっ!
その女性は後宮の女嬬で、名をかぐやと申しておりました。
そこの国造の統合について尋ねに参った様子。
その女嬬に対して犬養は父親の地位のために心付けを強要し、事もあろうか何処かへと連れ出そうとしたのです。
それを拒否した女嬬に対して犬養は『其方の父親は降格だ。今、ワシが決めた』と言い放ちました」
(ピキッ!)
「犬養よ。
……何か申し開きはあるか?」
「いえ、その様な事実は御座いません。
きっと聞き違いではないでしょうか?」
「私の他に聞いたとしても同じ答えが返ってくるかと思います」
「だ、そうだ。
采女は帝のものだ。
例え今の帝が女帝であってもそれは変わらぬ。
其の方はその帝のものに手を付けようとしたわけだな」
「あ、いえ、……その」
「唐の国には男のイチモツを切り取るという罰があるそうだ。
其方にはちょうどよかろう」
「いえ、そんな!
待って下さ……」
「人の顔に泥を塗りやがって。
覚悟しておけっ!
この愚か者をしょっ引け!」
「ひ、ひえ!
誤解です。お目溢しを!
た、助け……」
ふー
「全く……かぐやもホトホトにしてくれ。
アイツは采女の自覚があるのか?」
⑲ 後日、川原宮、帝の御前にて
「讃岐評造麻呂に大山上の冠位を与える」
急にお爺さんが京に呼び出されて、川原宮へと出仕しましたらまさかの展開。
降格を覚悟していたはずが、出世していました。
「(父様、父様、返事!)」
「あ、身に余る光栄の至りに御座います。
誠に恐悦至極に御座います。
今後は授かった冠位に恥じぬ働きを持って、御恩に報いる所存で御座います、じゃ」
つい先ほど考えたセリフを何十回と繰り返し言って、覚えました。
様式とか知りませんので、これで良かったのかは分かりません。
しかし、周りの雰囲気から察しますとあながち間違ってはいなさそうです。
ちなみに現在の冠位は十九階あって、お爺さんは上から十一番目の冠位を授かりました。
一般的な国造が貰えたとしても一番下の立身か一個上の小乙下、以前お爺さんが授かった小青ですら、行き過ぎた叙勲だった訳です。
今回はその上をいく大山上です。
飛鳥の遷都の際に屋敷の改築で出資者だった事が評価されたのでしょうか?
金で買った冠位と言われそうです。
事実、その通りですが……。
⑳後日、忌部氏の宮にて
斉明帝がお越しになりました。
目的はもちろん建クンに会うためです。
ついでに先日のお爺さんの冠位を授かった理由も聞きました。
「恐れながら、父様に過ぎた冠位を授けられましたのは何か理由があったのでしょうか?」
「飛鳥の政庁で働く者達の中に其方の父親に感謝している者は多い。
何せ屋敷を提供してくれた本人じゃからな」
「それにしましてもそこまで評価されます事でしょうか?」
「表向きはそうじゃが、実はもう一つ理由がある。
其方、政庁へ行って、父親の事を聞きに行ったであろう」
「はい、参りました」
「……ったく。
その時の其方と担当の者とのやりとりが物議を醸し出したのじゃ。
その担当の者は処罰を受け、冠位剥奪の上、宮を追放された。
その者の冠位をそっくりくれてやったというところじゃな」
あー、あれか〜〜。
「其方は誘いを断ったみたいだが、そもそもが采女が外をほっつき歩く事は稀な事なのじゃ。
男所帯の政庁へ采女一人が行くなぞ言語道断だと、鎌子から苦情を言われたぞ」
「申し訳御座いません」
「もうすぐ新しい宮も完成する。
そうしたら其方は宮の中で大人しくできるか?」
「多分……、出来ると思います」
「普通はな、何の躊躇いもなく肯定するものじゃ。
何故言い淀む?」
「これまでの自分の行動を省みまして、必ずしもそうはならないかも知れない様な気が何となくしたものですから……」
「そうか。ふふふ。
婆ぁは大人く出来ぬと思うとる。
じゃから其方には新たな仕事を授ける」
「はい、何で御座いましょう」
「ずっと婆ぁの側に居れ。
何処迄もじゃ。
年に一度は出雲と伊勢へと行く。
飛鳥にはじっとして居られないほど多忙じゃ。
其方は建と行動を共に婆ぁについてきて、行った先で婆ぁの手伝いをせい」
「はい、承りました」
こうして私は帝の随行官らしき役職に就いたのでした。
建クンコアラも一緒に随行です。
(オマケ)飛鳥の至る神社にて……
「祓え給い〜、清め給え〜、神降ろしの巫女様を守り給い、神卸しの巫女様に幸え給え〜〜〜」
「はらたまきよたまはらたまきよたまはらたまきよたまはらたまきよたま……
かぐやさまぁ〜〜!」
「オンマユラギランデイソワカオンマユラギランデイソワカオンマユラギランデイソワカオンマユラギランデイソワカオンマユラギランデイソワカ……
かぐやに幸あれ」
『オシカツ』に励む祭司達の姿があった。
(ひとまず国造騒動はおしまい)
新しい宮の落成、そして主人公の新しい後宮生活がスタートするところで章を区切りたいと思います。
ちなみに忍海大国さんも実在の人物です。
後に対馬へ国司として赴き、銀の鉱山を見つけたとして冠位を授かりました。




