伝言ゲーム(4)
さて、ぼちぼちと話を収束させたいですね。
【天の声によるあらすじ】
国の制度変更に伴い、かぐやの父、讃岐国造は降格が決定。
専任担当者によるセクハラ拒否したかぐやへの腹いせというショボい理由なのだが、そんな事をつゆ知らず鎌足はこれを承認してしまった。
国造の娘であるかぐやは采女の資格を失い、後宮を後にしなければならなかった。
だがしかし、当の本人は気楽でいいやとそれを受け入れるつもりでいた。
だがしかし、周りが放っておくはずもなく、いつの間にか飛鳥の宗教関係者の中で偶像と化していた主人公。
かぐやを心配するあまりかぐやの薄い本を暴露する親友の衣通。
かぐやは身に降りかかった誤解を解く事が出来るだろうか?
多分、無理だろうが……。
◇◇◇◇◇
⑭川原宮、帝の御前にて
「ここに集まって貰うたのは他でも無い。
かぐやの処遇についてじゃ」
「母上様、かぐやは私が専属として養おう。
それで解決じゃ」
「いや、姉君。
かぐやは元々私の舎人だったのだ。
私が引き取るのが筋です」
「何を言うとる。
かぐやは建の世話係として今後もワシの側に仕えさすのじゃ」
「忙しい最中呼び出されたと思えばその様な些細なことか。
どうでも良かろう」
「葛城よ。
そもそも此度の件は其方らが計ったのではないのか?」
「何の事だ?
初めて聞こことばかりで困惑しているのに、それが私のせいだと言われるのは心外にも程があるぞ」
「かぐやを解雇する様に仕向けたのは鎌子であろう。
其方の意を組んでの事では無いのか?」
「そんな事は知らぬ。
鎌子が勝手にやったのだろう。
宮の中にいるのだから聞けばいい。
おい、鎌子を呼べ」
………
「お呼びと伺いました。
何用に御座いましょうか?」
「鎌子よ。
かぐやが解雇になったのが私の仕業だと言われておる。
どうゆう事か説明せい」
「かぐやが……?
申し訳御座いませぬ。
詳細は分かりませぬが、末端で混乱が生じておるのかと愚行します。
差し障りがなければ何が御座いましたのかお教え下さい。
私の方で調査致します」
「私から説明しよう。
かぐやの父、讃岐国造が降格になったそうだ。
かぐやを気に入られている帝からすれば、理不尽に取り上げられた様に思える。
何故この様なことになったのか、誰の意思によるものなのかを教えてくれ」
「承りました。
すぐに調べましょう。
白湯を啜るほどの刻も必要ありますまい」
「頼むぞ」
◇◇◇◇◇
「お待たせ致しました。
概略が判りまして御座います。
これは帝のご意思に沿ったものであります」
「ワシがかぐやを追い出したのだと言うのか!?」
「そうは申しておりません。
帝がお示しになられた、各地に国司を配置し国造らを評造として管理下におくとの命に我々臣下が従ったまでの事です」
「だからと言ってかぐやの実家を放逐するのか?」
「かぐやは優秀です。
それは私も認めるところに御座います。
しかし担当の者は父親が凡庸であると判断した模様です。
私も余程の事がない限り、その判断に意を唱えるつもりは御座いません」
「ならばワシが異を唱えれば修正するのか?」
「無論に御座います。
しかし覚悟を以ってご下命下さい」
「何の覚悟じゃ」
「帝の領分は大方針を詔として勅命を下す事に御座います。
我々臣下はそれを実現するための政策を作ります。
我々の部下はその政策を実現するため日夜働いております。
このようにして成り立っている政の仕組みを、帝は私情のために崩そうとなされるのです。
何かやむを得ぬ事情なり、不手際があれば正しましょう。
しかし過失もなき部下の仕事を否定する事は、私には出来ません」
「小難しい事を申しておるが、要はワシの領分でない事に口を出すなと言うことか?」
「そこまでは申しておりませんが、私の意思は伝わったかと存じます」
「もうよい。下がれ!」
「ははっ!」
…………
「鎌子は石頭じゃのう。
兄様よ、鎌子はいつもああなのかえ?」
「石頭ではないが譲れぬ事に関しては絶対に譲らぬな。
新しい国の在り方を創り直すという鎌子の意思は本物だ。
それに比べればかぐやの事なぞ些末な事に過ぎぬの事だろう」
「それにしましてもかぐやを高く評価しているはずの鎌足殿があそこまで譲らぬのは何かあるのでしょうか?」
「鎌子にとってその程度なのであろう。
もういいか?
私は忙しい」
「ワシは動くぞえ」
「何をなされるのですか?」
「ちと出掛けてくる。
兵を呼べ」
「「「はあっ!?」」」
⑮再び×2、忌部の宮にて
「ただいま戻りました。
兄様、かぐや様は戻られましたでしょうか?」
「衣通、かぐや殿はどこへも行っておらぬぞ。
歩きに出掛けただけだ。
早とちりも程々にしなさい」
「そうだったのですね。
かぐや様がご無事で安心しました」
「しかし状況は変わらぬ。
かぐや殿は父親の失脚を受け入れるつもりの様だ」
「お労しい……」
「かぐや殿の高名は飛鳥中に届いており、飛鳥中の祭司らがかぐや殿の身を案じている。
かぐや殿に何かがあれば皆黙ってはいまい」
「皆様は何か行動なされるのですか?」
「いや、今はかぐや殿が心を病まれる事がなき様、皆大人しく見守るつもりだ。
ただひたすらに想い、敬い、祈るのだ」
「それはとても尊き事ですね」
「ああ、だが私としては後ろ盾の無いかぐや殿はやはり心配だ」
「どうされるのですか」
「私では角が立つし、養女に招けば横やりが入りそうだ。
そこで小首の妃として迎えたいと思っているが……。
小首はまだ七つ、幼すぎるだろうか?」
「その様な事は御座いません。
小首くんは性格良し、頭良し、顔良しの三拍子が揃った自慢の甥っ子です。
かぐや様がお好みになる正に太当たりに違いありません。
きっとかぐや様の御心に会心の一撃しますわ!」
「衣通がそう言うのなら心強いが、今のかぐや殿は建皇子様に夢中な様に思える。
それに中臣真人様とも仲睦まじいと聞く。
小首の入り込む隙間はあるのだろうか?」
「かぐや様は御心の広い方なので……、はっ!!
これはもしかして逆覇!?」
「何だ、ぎゃくはとは?」
「いえ、何でも御座いません。
きっとかぐや様は小首くんを受け入れてくれます。
かぐや様の夢はどこまでも果てしがありませんから。
きっと何個でも受け入れてくれます。
2個でも4個でも10個でも」
「衣通がそう言うのなら安心したいのだが、何故か不安になってきた……」
⑯ 再び讃岐にて
「おぉーーーい、大軍がやって来るぞぉ〜〜」
「何じゃ!
この様な田舎を攻めて来る輩なんてここ三十年一度も無かったぞ!
護衛は武器を持ち配置に付け〜。
かぐやが言っていた通り動くんじゃ。
やぐら係、敵はどれくらいじゃ!?」
「敵は約百!
全員が馬に乗っております!
練度の高い事が伺えます!
ほぼ真ん中の位置に輿が控えております。
真っ直ぐこちらへ向かっております!」
「輿じゃと?
婆さんや。
輿に乗った山賊っておるのか?」
「そんな山賊、聞いた事がありません。
もしかしたら兵じゃなくて護衛じゃないかい?」
「そうじゃな。では……
相手はたぶん客人じゃ!
弓を向けるな!
どっちにせよ勝てぬ。
じゃが警戒は続けるんじゃ!」
「脇目も振らずこっちに来るねぇ。
輿には余程偉い方が乗っているんじゃないかい?」
「かぐやへの求婚か?」
「こんな物騒な求婚は私はヤですよぉ」
「近くで見るとますます立派な輿じゃ。
ぶら下がっている球だけでもくれんかのう」
「たくさん金を持っているのにみみっちい事を言わないのっ!」
「おっ、輿が降ろされたのじゃ……女?」
「邪魔をする。
ここが讃岐国造の屋敷で相違ないな?」
「は、はい。
わ……わったくしは国造の造麻呂ですじゃ」
「此度、その方が国造に相応しくないのか、新たな領主として力不足なのかこの目で見に来た」
「た…… 寶皇女様?」
「……?
もしかして、吉備郎女かっ?
まさか?!」
「お久しぶりです。
ご健勝そうで何よりです」
「吉備よ……苦労してきたのじゃな」
「いいえ、私は幸せですよ。
良い娘に恵まれましたから」
「そうか……そうじゃな。
幸せそうで何よりじゃ」
(つづきます)
申し訳ありません。
思わせぶりな展開ですが、お婆さんの秘密が明らかになるのはもう少し先になります。
次回こそ収束して欲しい。




