伝言ゲーム(3)
こち亀的と言いますか、うる星的と言いますか、ベタな展開が描いていて楽しくてたまりません。
きっと後になって読み返したら黒歴史になると思います。
【天の声】
主人公の知らないところで拡がっていく噂話、個々人の欲望、知られたくない秘密の暴露、各々の思惑が絡み合い収集が付くのか付かないのか?
(作者を含め)誰もが予想ができないありきたりな様相を呈している。
……明日はどっちだ?
◇◇◇◇◇
⑫とある会合にて
「神降ろしの巫女が蔑ろにされているという話を皆聴いただろう。
信じられぬが本当の話だ。
これまで神降ろしの巫女が帝の庇護下にあるのは、ひとえに国家安寧の為だ。
思い我々はそう思い、帝が神降ろしの巫女を独占するのを何も言わずにいた。
しかし事もあろうに、帝は神降ろしの巫女を父親諸共を陥れ、蔑み、ボロ布の如くうち捨てようとしている。
これが許されて良いのだろうか?」
「それが事実であれば許されざる愚行だ。
しかし本当に確認したのか?
根も葉もない噂話という事はないのか?
私には俄かには信じられぬ。
神降ろしの巫女だぞ。
祟りが怖くないのか?」
「真実だ。私が保証しよう」
「忌部殿か……」
「今年の初め、板葺宮が焼失した際に神降ろしの巫女、かぐや殿が真っ先に頼ったのが忌部だ。
それは我々忌部がかぐや殿と友誼を結んでいるからに他ならない。
そもそも赫夜と名付けたのも我々忌部の者なのだ。
その私が、かぐや殿に直接聴いた。
何の失策の無いかぐや殿の父親が失脚させられたとな。
程なくして宮を追い出されるであろう。
しかし心優しいかぐや殿は何一つ恨み言を口にしていない。
それを見越しての蛮行であると私は考えている」
「なるほどな。
して蛮行の主は誰なのだ?」
「専任の者に言われた、としか聞いていない。
おそらくその者を気遣っているのだろう」
「良いかな?
私は在野の僧、加茂役君小角と申す。
かぐや殿とは因縁浅からぬ仲の者だ」
「其方が……あの役小角殿か。
彼が山から降りてくるとは余程の事なのか」
「宮の尊き御方から聞いた話によると、国造であるかぐや殿の父親を罷免する職責を持つのは内臣、即ち中臣殿だそうだ。
此度の件、裏があると思った方がいい」
「裏とは?」
「分からぬ。
あの隆盛を誇った蘇我氏ですら完膚なき程まで叩きのめしたあの中臣氏だ。
中臣氏が政の中枢に立って以来、葬り去られた氏族は数知れない。
目的のためなら手段を選ばぬ、いや、手段のためなら目的を選ばぬという専らの噂だ」
「物部殿よ。
其方は共に中央で祭祀に関わる者として中臣殿とは親しいと聞いたが?」
「いやぁ〜、中臣様の勘気に触れてしまってここ一年ほどはお目通が叶わないのですよ。
なので彼の方のお考えは私にも分からないのですよ。
ただね、今回の件は慎重な中臣様らしからぬところがありますね。
なり振り構わない事情があるのかも知れません」
「何を企んでいるのだ、中臣は!」
「確かに解せませんな」
「忌部殿は何か思い当たる節があるのか?」
「そもそも、かぐや殿が京へ来たのは中臣殿を介して大海人皇子の舎人として招かれたからだ。
それが切っ掛けとなり皇族に認められ、帝に請われ後宮へと入ったのだ。
つまり中臣殿はがくやをよく知った上でこの様な仕打ちをしたという事だ」
「つまりは神降ろしの巫女を帝に紹介したはいいが、勿体なくなったから自分が囲おうとしているという事か?」
「そこまでは言っておらぬが、そう考えれば辻褄は合う」
「何て罰当たりな!!」
帝にも神降ろしの巫女にも不敬だ!」
「いやしかし、中臣殿は浅い考えはせぬ方だ。
今一つ深く考えるべきであろう」
「見当もつかぬ。
何かあるのか?」
「中臣殿の後ろに誰が居るかだ」
「そんなもの決まっておろう。
中……」
「待て待て待て待て!
皆まで言うな。
粛清されるぞ。
名前を口にする事すら躊躇われるあのお方は、この十年で多くの者を亡き者にした。
政敵となる皇子はもちろん、大臣、果ては帝までもだ」
「あ……、ああ、そうだな。
実の弟の妃を横取りしたり、叔父の后である実の妹と情を交わすという、傍若無人ぶりはもはや人とは思えぬ」
「『鉗着け吾が飼ふ駒は引き出せず 吾が飼ふ駒を人見つらむか 』
と先帝が詠ったあれですな」
(※詳細は第211話『寂しくなっていく後宮』をご参照ください)
「そのようなお方なら神降ろしの巫女を寄越せと言ったとしても不思議ではありませんな」
「なんて事だ……」
「我々に出来る事は無いのか?」
「国を呪うのか?」
「そんな事をして神降ろしの巫女は喜ばれるのか?」
「いや、かぐや殿は喜ばないであろう」
「忌部殿、何故そう言い切れるのだ?」
「かぐや殿は自分を害そうとした仇ですら許してしまう慈悲深い方なのだ。
何故なら私達忌部は同じ事を十年前にしようとしたのだ。
かぐや殿の逆鱗に触れた我々は滅亡の一歩手前まで追い詰められた。
だがかぐや殿は我々を許し、友誼まで結んでくれたのだ。
本来ならば私はこの場には居ないはずなのだ」
「そんな事が……」
「ではせめて神降ろしの巫女のため、神降ろしの巫女を敬い、神降ろし巫女が喜ぶ方法は無いのか?」
「う……む。
!!!
そうだ、一つだけ心当たりがある」
「何だ、早く教えよ!」
「忌部殿、教えてくれ!」
「巫女様が喜ぶのなら何でもいい!」
「『オシカツ』だ」
「おしかつ?
何だそりゃあ?」
「私の妹はかぐや殿自らが親友と言う程の深き仲なのだ。
その妹がかぐや殿から聞いた事があるそうだ。
『オシカツ』とは相手を想い、相手のために行動し、だけれども相手からの見返りを一切求めない究極の片想い。
それが『オシカツ』だそうだ。
妹がかぐや殿に人を崇める方法を聞いた時、そのような形態があると話した事があるそうだ」
「深い……、正に我々が忘れかけていた神への信仰そのものでは無いか」
「おぉぉぉ、神降ろしの巫女を想うだけで涙が出てきた。これが『オシカツ』なのか」
「『オシカツ』……忍かに禊ぐ、正に『忍禊』だ!」
「では我々は神降ろしの巫女の動向を見つつ、今は『オシカツ』に励む。
進展があればまた話し合おう」
「「「「「おうっ!」」」」」
「……オレもなのか?(小角)」
⑬再び川原宮、内臣執務室にて
机の上に積み重なった木簡を片付けていると、人の気配がした。
「……鎌足様」
「どうした、宇麻乃?
其方とは袂を分かったはずだ。
何の用だ。
私を殺しにきたのか?」
「鎌足様を討つのなら正々堂々と軍隊を率いて、裏口から押し掛けますよ。
少しお耳に入れておきたい事があったんで」
「何だ? 勿体ぶらずとっとと言え」
「かぐやのお嬢ちゃんに関して、無茶をしましたね。
飛鳥一帯の祭司どもが鎌足様に敵対する腹積りです」
「一体何を言っているのだ?」
「お嬢ちゃんを放逐させておいてそれは無いでしょう。
神降ろしの巫女を皇太子に献上したと専らの噂です」
「かぐやを放逐?
……あ、あれがどうしてそうなるのだ?!」
「声が大きいですよ。
どうしてもこうしても、鎌足様がそうしたんじゃ無いですか?」
「私が?
いや……私は何もしておらぬ。
承認しただけだ」
「その結果がどうなるか予想出来ない鎌足様じゃ無いでしょう」
「何故そんなに大騒ぎになっているのかが分からんのだ」
「何故ってそりゃあ……、もしかして鎌足様。
お嬢ちゃんが今飛鳥で大人気なのを知らないのですか?」
「後宮の女嬬が人気になるはずが無かろう」
「女嬬と言っても今は外を自由に歩き回れるって事で、お嬢ちゃんはあちこちの寺社仏閣へ言って話を聞いて回っているのだそうです。
あの神降ろしの巫女が後宮、つまり帝の紹介状持ってわざわざやってくるのです。
物腰は丁寧で、どんな相手であろうと敬意を示して、話を真剣に聞いてくれる神降ろしの巫女に傾倒しない方が難しいってものです。
お嬢ちゃんは目鼻立ちが整っているし、眼には知性の光が宿っていて、なのに初対面の相手であってもスッと懐に入ってしまう親しみ易さがある」
「……そうだったのか」
「祭祀から離れているからって、疎すぎはしませんか?
で結局。
承認したって事は鎌足様がお嬢ちゃんを宮から追い出した張本人って訳です。
追い出したお嬢ちゃんの取り扱い次第では、相当な数の離叛者が出ますよ。
じゃあ、そうゆことで」
そう言って宇麻乃は去って行った。
………どうしてこうなったのだぁ〜〜〜!
拙い!
程なくこの話は葛木皇子の耳に入る。
そうしたら「申し訳ない、間違いでした」では済まぬ。
そもそもちょっとした意趣返しのつもりで軽く考えていたのだ。
ようやくかぐやを配下に収める事が出来たと思った矢先に帝に横取りされたのだ。
この程度の報復は許されるだろう。
かぐやもかぐやだ。
女嬬の癖に外をほっつき歩くのでは無い!
少しは危機意識を持て!
おかげで私はあの女傑だけでなく、飛鳥中の祭司を敵に回すだと?
自分の支持基盤を危うくしてどうするのだ?
鎌子よ、考えろ!
この騒動を丸く収める方法を考えるのだ!
それにしても……宇麻乃の奴。
妙にかぐやに入れ込んでいないか?
(つづきます)
頭の中でYOASOBIの歌が繰り返し流れています。




