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伝言ゲーム(1)

主人公不在で話が進みます。

【天の声】

 時は少し遡ります。

 実は主人公(かぐや)の知らないところで大騒ぎになっていたのです。


 ◇◇◇◇◇


 ①川原宮、内臣(うちつおみ)執務室にて


 何だ、これは?

『馬見、巣山、讃岐の国造を統合し、新たに馬見評(うまみこおり)を設け、馬見国造を馬見評造任命す』


 気になる木簡が私の元に届いた。

 内臣となれば毎日処理すべき事案が多く、個々に気を留める事などはしない。

 だがこれは………?

 この決定通りだとすると、讃岐国造と巣山国造は降格となる。

 つまり讃岐国造の娘であるかぐやは庶民となるのか?

 そんな決定を誰が許したのだ?

 一瞬、この木簡の主を問い正そうと考えた。


 いや待て。

 これは好機かも知れぬ。

 あと少しの所でかぐやを帝に横取りされたが、庶民となれば後宮には居られぬ。

 追い出されたかぐやを掻っ攫ういい機会だ。

 庶民となった讃岐国造にかぐやを養女として差し出させる事も容易になる。

 かぐやが素直に味方となるかは分からぬが、敵に回させないのならそれに越した事はない。

 正直に言えば、かぐやを一番高く評価しているのは私・中臣鎌足だ。


 よし、この木簡は盲判(めくらばん)し、通してしまえ。



 ②川原宮、後宮(仮)にて


紅音(あかね)様、少し宜しいでしょうか?」


「何でしょう? 千代様」


「忌部氏の宮におりますかぐや殿について気になります報告が御座いましたので、紅音様にご相談頂きたいのですが」


「一体何事でしょう?」


「かぐや殿のお父上が降格になり、かぐや殿が庶民なるかも知れないと言われました」


「そんな事が……」


「庶民となれば後宮に席を置けないので女嬬(みのわらわ)ではいられない、と。

 しかし、建皇子様のお世話は降りたくないので雑司女(ぞうしめ)として建皇子のお世話を続ける事は可能かどうか聞いて欲しいと頼まれまして御座います」


「普通ならば考えられぬ事ですが、建皇子がかぐや殿にしか心を許していない現状では降ろす訳にも参りません。

 帝に相談致しましょう」


「ちと良いか?」


「はっ、大后(おおきさき)様!?

 何に御座いましょうか?」


「今、其方らは『かぐや』と申しておらなかったか?」


「はっ、かぐやの処遇について話をしておりました」


「かぐやとは久しく会っていないのぉ。

 して処遇とは、何かあったのかや?」


「お父上が降格となるらしく、後宮を後にしなければならないか相談を受けております」


「ほう、つまりかぐやは職を失うやも知れぬという事じゃな?」


「はっ、なので帝にご相談したいと話をしていた所です」


「ならば()がかぐやを引き取ろう。

 やはりかぐやの化粧に適うものはおらぬのじゃ。

 ()の専属に取り立てようぞ」


「…………」

「…………」



 ③ 美容療法施術所(エステティックサロン)にて


「額田よ、聞いてくれるか?

 ()はここへ通うのを止める事になったのじゃ」


「間人様、急にどうされたのですか?

 何か不手際があったのでしょうか?」


「いいや、不手際はないがやはりかぐやには及ばぬのじゃ」


「かぐやさんは後宮へと入ってしまいましたから、こればかりは致し方が御座いません」


「それなのじゃが、かぐやは後宮を出るのだそうじゃ。

 だから()が召し抱える事にしたのじゃ」


「一体かぐやさんに何かあったのですか?!」


「よくは知らぬが、父親が降格になったそうじゃ。

 庶民になったかぐやは後宮から追い出されるのじゃ」


「なんて事に……」



 ④皇子宮にて


「皇子様、額田様より文が届いております」


「急にどうしたのか?

 …………!?」


「馬来田よ、かぐやが後宮をクビになったそうだ」


「!!! 一体何故?」


「かぐやの父親が何か仕出かしたらしい。

 父親が庶民に降格したため、かぐやも追い出されたそうだ」


「詳しく調べて参ります。

 かぐやがこんな形で飛鳥を後にするとは……」



 ⑤ 政庁(※)にて

(※ (みやこ)にある政務を司る宮です)


「済まぬが教えて欲しい事がある。

 讃岐国造が何を仕出かしたのか教えてくれ」


「藪から棒に一体どうしたのだ?

 馬来田殿よ」


「讃岐国造が降格になり、皇子様の舎人だったかぐや殿が郷に帰ったと聞いたのだ。

 其方も知っておろう。

 其方らの屋敷を用立ててくれた郎女だ」


「……?

 そんなはずはないぞ。

 かぐや殿は私のところに相談に来たのだ。

 つい十日前だ」


「だが宮ではかぐやが後宮から追い出されたと大騒ぎになっているぞ。

 父親の不始末が原因だと聞いたが?」


「いや、かぐや殿は国造が廃止となった後の父親の身上を聞きに来たのだ。

 まだ決まっていないはずだが?」


「どうも要領を得ないな」


「かぐや殿には専任の者を紹介した。

 その者にその時の事を確認させよう」

 そこの者、犬養五十君(いぬかいのいきみ)を呼んでくれ」


 ………


「何用に御座いますか?」


「犬養よ、讃岐国造が何かしたのか問い合わせが来ておるが、何か知っておるか?」


「申し訳ありません。

 何の事なのかさっぱり分かりませぬ」


「降格になる様な事はしておらぬと?」


「何も存じておりません」


「この前、其方の元に讃岐国造の娘のかぐや殿を遣ったが、何かあったのか?」


「心当たりは全く御座いません。

 私は通り一遍の対応をしただけです。

 取り立てて申し上げる事は全く御座いません」


「一体どうゆう事なのか……?」



 ⑥政庁にて(パートII)


「倉梯殿、少しいいかな?」


「は、何に御座いましょうか?」


「倉梯殿が紹介してくれたかぐや殿なのだが、父親が失脚したため後宮を去ったのだそうだ。

 何か聞いておるか?」


「いえ、全く。

 何故、讃岐国造殿が失脚したのですか?」


「それを知りたいのだ」


「もしかして国造の廃止で讃岐国造殿が降格になったのでは?」


「まさか、そんなはずはない。

 かぐや殿は我々にとって恩人でもあるのだ。

 かぐや殿の父親もかなりの援助をしたと聞いている。

 そのような事になったら、我々はひとでなしの(そし)りを受けかねない。

 何よりも妻に怒られる。

 施術所の責任者だったかぐや殿は飛鳥の婦女子にとって憧れの的なのだ。

 この前、かぐや殿の話をしたら大層喜ばれたのだよ」


「私の妻がかぐや殿の後見を自負しております忌部氏の者なので、妻に確認させてみます」


「宜しく頼む」



 ⑦忌部氏の宮にて


「兄様、急のご訪問、申し訳ございません。

 かぐや様はおいでになりますか?」


「かぐや殿は出払っていると聞いておるが?」


「まさか追い出したのですか?!」


「一体何を言っているのだ?

 かぐや殿には好きなだけここに居るといいと言ってある。

 父上より預かりし氏上(うじのかみ)の座に誓っても良い。

 追い出すなぞ、あり得ん!」


「ではもしかしてお一人で出て行ったのですか?」


「いや、建皇子と共に出払っているだけだ。

 そう聞いている」


「まさかと思いますが、かぐや様は讃岐へ帰られてしまったかも知れません。

 お父上様が失脚なされて、かぐや様は後宮を追い出されたと聞いております」


「そんな馬鹿な!

 その様な話は初めて耳にしたぞ」


「やっぱり……。

 御主人(みうし)様のお話によりますと、国造を廃した後のお父様の処遇をお伺いするために、かぐや様は政庁へと参られたそうです。

 何か聞いておりますか?」


「いや、初めて聞く話だ。

 その様な素振りすら見せていない」


「という事はずっとお一人で悩まれ、黙っていたのかも知れません」


「まさか、そんな……」


「ああ、お(いたわ)しいかぐや様。

 今から私は讃岐へと向かいます。

 かぐや様のお爺さんとお婆さんに話を聞きに行きます!

 もしかしたらかぐや様もいらっしゃるかも知れません」


「分かった! 頼んだぞ」



【天の声】

 主人公(かぐや)の知らない所で大きくなっていく噂話。

 どこまで膨れ上がるのか?



(つづきます)

1話でまとまりませんでした。

次話でまとまるか?


ちなみに先帝の皇后だった間人(はしひとの)皇女(ひめみこ)は帝が崩御されて大后(おおきさき)となり、間人大后と呼ばれる様になりました。

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