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国造(くにのみやっこ)

歴史の授業では、大化の改新以前に各地(国)を治めていたのは国造でしたが、改新によってそれぞれの国へ中央から国司が派遣されたと習ったと思います。

国造だった地方豪族は郡司になったそうですが、しかし実際にはそう簡単では無かったみたいです。

 秋田様から知らされた衝撃の事実。

 竹取の翁こと、お爺さんが讃岐国造(さぬきのくにみやっこ)をクビになると。

竹取物語(げんさく)』でも国造と明記されていたお爺さんが国造で無くなったら……

 単なる成金になるの?

 財産を没収されて放逐されるとか?

 讃岐(きょうわこく)他領(ていこく)に占領されて反乱者(リベルズ)になるとか?

 そもそも原作(ストーリー)が崩壊したら私はどうなるの?


「秋田様、詳しく教えて下さい」


「正直な所、私も造麻呂(みやっこまろ)殿も分からないのですよ。

 分かっている事は国造を廃止すると言う事。

 そしてそれに代わる新たな役職が設けられる事。

 それくらいです」


「それなら父様はその新しい役職に就かれるのではないのですか?」


「そこが問題でして、造麻呂殿が新しい役職に就くのには讃岐が小さ過ぎるのですよ」


「小さくても国造ですよね?」


「そもそもの話になるのですが、国造という役職が曖昧なのです。

 誰が何時から始めたのかすら分からないのです。

 少なくとも百年以上昔であるのは分かるのですが、正確な記録はありません。

 お陰で大小様々な国造がおります。

 筑紫国造や出雲国造などは巨大な力を有しております。

 一方で讃岐国造の様なじゃ……長閑(のどか)な所もあります」


 今、弱小って言おうとした?


「しかし父様は冠位を与えられて、朝廷からも功を認められているはずです。

 それなりに取り成して頂けそうだと思いますが」


「逆にですね、小領地の国造如きが朝廷に貢献できるほどの蓄財がある事について疑う者もおります。

 分かり易く言えば、一部の者からはかなり妬まれております」


 つまり成金は嫌われるって事?


「このままでは足を引っ張られた挙句、庶民へと落とされ、新たに赴任してくる役人にいい様に利用される可能性もあるという事ですね。

 帝の覚えも良い今ならそうなる事を防げるかも知れません。

 先ずは行動してみます」


「では、帝に直談判するのですか?」


「それは最終手段に取っておきます。

 帝がこの様な些事まで手を廻す程、お暇な方ではありません。

 自分でできる事は自分で致します」


「では中臣様とか?」


「あの方に弱みを見せたら最後です。

 骨の髄までしゃぶり尽くされ出汁も出なくなります」


「では高官に?」


「はい、そのつもりです。

 遷都の際に大伴様を介して関わりがあります方々がおりますから。

 しかしそれは二番目に行う事です」


「では最初に何を?」


「闇雲に動いても事態は進展しません。

『敵を知り己を知れば百戦危うからず』です。

 教えてくれそうな人に心当たりがありますので、まずは情報を集めます。

 少なくとも知っている方を紹介してくれるでしょう」


「誰ですか?」


阿部倉梯(あべのくらはし)御主人(みうし)様です。

 御父上の内麻呂様が改革の中枢におられたのですから、どなたが引き継いでいるのかをご存知かと思います」


「なるほど。

 では私も倉梯殿の屋敷へ一緒に行きましょう。

 衣通姫に近況をお伝えに参りますのでそのついでと言う事で。

 場所もご存知ではないでしょう?」


「はい、宜しくお願い致します。

 助かります」


 原作の筋書き(ストーリー)を守るためにも御主人クンに頼み込みます。


【天の声】既にだいぶ原作からかけ離れている様な気がするが……。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌々日、私と秋田様は倉梯氏のお屋敷へと参りました。

 立派なお屋敷です。

 御主人クンは確かまだ下級官人だよね?

 平社員が立派な日本庭園のあるお屋敷暮らししていたら、固定資産税だけで給料が吹っ飛びそうです。


 たのもー


「かぐや様、お待ちしておりました。

 もうすぐ御主人(みうし)様がお帰りになられると思うますのでどうぞ中でお待ち下さい」


 すっかり倉梯氏の人となった衣通ちゃんが出迎えてくれました。

 この時代の高貴な方々は通い婚が一般的ですので、この様に家に入るのは名家では珍しかったりします。

 真面目な御主人クンの事だからお仕事が終われば真っ直ぐ衣通ちゃんの所に帰るのでしょう。

 あっついね。


「お邪魔します。

 遷都があった上に板葺宮が焼けてしまって、何かと大変だったのではないのですか?」


「御主人様は屋敷ではお仕事の話はされないのでよく分からないのです。

 でもご様子を伺う限り、ここ最近忙しさが増しているご様子です。

 昇進したのもあるかと思います」


「それはおめでとうございます。

 いずれは国の中枢を担う方ですから順当ではないのですか?」


「御主人様はあまり出世したいと思っていないみたいです。

 覚える事が多くて、まだまだ亡きお父様には及ばないと溢しております」


「本当に内麻呂様の事を尊敬なさっているのですね」


「ええ、それはもう」


「遅くなった。

 秋田殿、子麻呂様の葬儀以来ですね。

 お変わりない様で何よりです」


 御主人クンがお帰りになりました。


「倉梯殿はすっかり立派になられて何時でも阿部宗家を継いでも良いのではないのですか?」


「私はその様な器ではありません。

 今は面倒ごとを全て比羅夫殿に任せっきりにして、私は新米の官人(くにん)として日々精進の毎日です」


 何と言うか……もし御主人クンが最初からこれほどの好青年だったら、一目惚れしてしまっていたのではないかと思うくらい、出来杉クンです。

 衣通(しずか)ちゃんとお似合いです。


「下積みの仕事に決して手を抜かない御主人殿を、亡き内麻呂様はきっとお喜びになられている事でしょう」


「いや、まだまだです。

 ところでかぐや殿がこの屋敷に来るのは初めてではないかな?」


「ええ、秋田様に案内して頂きました。

 後宮に入る前にここへ来れて良かったと思っております」


「新しい宮が完成すれば後宮へ入り、帝の信任も厚き女嬬として司で活躍するであろうな。

 今から楽しみにしている」


「いえ、毎日写経するだけですから、表には一切出ないと思います。

 私は後宮で大人しくひっそりと過ごし、帝のために仕事に励む所存です」


「ま、まあ、かぐや殿の望みが叶う事を私としても願っているよ。

 おそらくここにいる者全員がそう思っている、と思うよ」


 御主人クンの言葉に秋田様も衣通ちゃんも大きく頷きます。

 しかし口元がヒクついているのは何故?


「ところで本日突然参りましたのは教えて頂きたい事があり、お伺い致しました。

 御主人様ならばご存知ではないかと思い、ご迷惑かとは思いましたがこの様に押し掛けてしまいました。

 大変申し訳御座いません」


「いや、謝る事はない。

 かぐや殿とは衣通と同じくらい長い付き合いだ。

 今まで私を頼ってくれた事は初めてだと思う。

 是非力にならさせてくれ」


「恐縮に御座います。

 実は国造が廃止となると伺いまして、私の父様がどの様になるのか知りたいのです」


「ああ、そうゆう事か。

 実は国造の廃止は随分と前から行われていたのだよ。

 まずは大きな力を持つ大国造を評家こおりのみやけとし、評造(こおりのみやっこ)に任命した。

 残すは小国造だけとなり、じきに長らく続いた国造という制度も終わるはずだ」


「では父様は評造となるのでしょうか?」


「その辺は担当でないので分からぬが、戸籍の作成を命じられているはずだ。

 その戸籍を元に決定するのだと思う」


「つまり領民の数によって扱いが決まると?」


「そうだな。

 おおよその目安は、五十戸を一里として、四〇里を大評(おおこおり)、三〇以下四里以上を中評、三里を小里として扱う。

 讃岐は何戸あるのか知っているか?」


「十年前から調べておりますのでよく存じております。

 以前は百三十戸でしたが、最新では二百五十戸です」


「ならば五里、中評だな。

 一つの(さと)里長(さとおさ)を置き、その上に評造を置くはずだ。

 順当にいけば讃岐国造殿は評造となるだろう。

 しかし、近隣の国造の規模が脆弱な場合、統廃合するやも知れない。

 その時、新たな評造に讃岐国造殿はが任命されるのか私には分からない」


「つまり父様が国造の座から引き下ろされる事もあり得ると言う事ですか?」


「評造だけでなく評督や助督などの地位も用意されているから、いきなり庶民に格下げとなる事は無いだろうと思うが、一概には言えない。

 気になる様であればその担当の者を紹介するが、如何するかな?」


「是非、お願いします」


「遷都の際にかぐや殿とは関わりのあった方だから邪険にはせぬだろう」


「これまで父様は朝廷に分不相応な程貢献してきたと思います。

 出来ましたらその事をご評価頂き、取り成していただく様お願いするつもりです」


「分かった。

 私からも口添えしておくよ」


 御主人クンの言葉に私はホッと安堵するのでした。

 しかし……。


 (つづきます)

本文では最もらしい事をつらつらと書き記しておりますが、実際にはよく分からないのが実情です。

唯一の記録と言っていい日本書紀の記述に潤色の疑いがあり、後に発見された木簡により日本書記の記述が間違いである事が証明されております。(いわゆる『評郡論争』)

ここでは645年の大化の改新で(こおり)制が設けられ、大宝律令が施行された701年に(こおり)となり国造は郡司として地方を収め、中央から派遣される国司が郡司らを支配するという中央集権が完成したと仮定しております。

孝徳天皇、斉明天皇の時代はその過渡期という事なので記録も過程も定かではなく、ウィキですらアテになりません。

念入りに調べた上で、ほとんど作者の空想で描いております、という事をお断りしておきます。

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