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生駒山の鬼の正体?

生駒山の鬼騒動は一旦おしまいです。

 無事、怨霊の皆さんには私の慈悲の力を以って天に還りました。

 残ったのは現世に残る人間(わたし)達。

 よーく話し合って、何事も無かったことにしましょう。

 そう、何事も無かったのです。


 ギカクさんはすっかり大人しくなってしまいました。

 奥さんも駆け寄ってきた子供達も震え上がっております。

 頭がピッかりになってお坊さんらしくなった小角様はギカクさんに歩み寄ります。


【天の声】ホントに脱毛(ピッカリ)の光の玉を当てたんか?


「ギカクよ、こんなに悪しき氣の濃い所でよく生きてこれたものだな」


「い、今のは爺さん達か?」


「多分違うだろう。

 強い無念の情を感じた。

 おそらくここらであった大きな戦で命を落としたものではないか?

 死んでも死に切れない程の未練を残し果てた者達だ」


「じゃあ、あれがオレ達の先祖って事か?」


「そうかも知れぬが、そこまでは分からん。

 ただ荒療治であったが皆、還るべきところに還った。

 辺り一帯は(すべから)く浄化されている」


「だからあんたらが来たというのか?」


「それが目的では無かったが、そうなるかも知れぬと考え、(みやこ)で一番の呪力を持つ姫巫女を連れてきたのだ。

 結果は見ての通りだ」


 小角様、それって口からの出まかせじゃ無いですか?


「それじゃオレ達はこれからどうすればいいんだ?」


「先程も言っただろう。

 私の弟子となり、この墓を守っていけば良い。

 墓があれば、年に一度はここに帰ってくるはずだ。

 爺さんとやらを出迎えてやれ」


「あ……、ありがとう。

 オレはあんたの弟子になります。

 いや、弟子にして下せぇ」


「分かった。

 では其方の名を改めるとしよう。

 五徳、仁義礼智信の義に目覚めし者として義覚(ぎかく)の名を与え、私の弟子とする」


「ははぁ!」


 なんかカッコいい事言っております。


「これからここに来る者たちが居たら私の名を出すと良い。

 役小角(えんのおずぬ)の弟子であるとな」


「オレだけでなく(ちがい)も子供らにも頼みます」


「分かった。

 だが、今日は遅い。

 我々は一旦麓に降りねばならぬ。

 人を待たせているからな。

 明日、また来よう。

 それまでに家族でよく話をするといい」


 その台詞(セリフ)は怨霊さん達が出てくる前に言って欲しかったです。

 私達はギカク改め、義覚さんに別れを告げて下山しました。

 建クンが待っているので急いで戻らなきゃ。

 登りの時とは打って変わって、小角様を急かす様に駆け下りました。

 比羅夫様、ごめんなさい。


 伊古麻都比古(いこまつひこ)神社に着いた時には辺りは真っ暗でした。

 建クンは不機嫌な顔をしながらも起きていました。

 ずっと私の帰りを待っていてくれたみたいです。

 思わずぎゅーっと抱きしめました。

 ただいま、建クン。


 抱きしめた途端に建クンはオチてしまったのは仕方がありません。

 それもこれも全て小角様が悪いの。


 ◇◇◇◇◇


 その夜、私と比羅夫様と小角様とで反省会です。

 小角様にはしっかりと反省して頂きましょう。


「それにしても小角殿よ。

 頭が僧侶らしくなってしまったな」


「ああ、ここまで綺麗さっぱりに髪が無くなってしまうとはな。

 かぐや殿よ、これは何故だか分かるか?」


「さあ、怨霊達の呪いでは無いのですか?」


「私は何もしておらんぞ」


「私には小角様がお墓の下で眠っている怨霊を叩き起こした様に見えましたが?」


「僧が墓標に経を唱えるのは当然の事ではないか。

 勝手に起きただけだ」


「それで不動明王の経を読んだのですか?」


「分かっていたのか?」


「写経を小角様にお見せしたのは私です。

 あれは稽首(けいしゅ)聖無動尊(しょうむどうそん)祕密陀羅尼経(ひみつだらにきょう)ですよね?」


「分かっていたのか?(二度目)」


「何もなければ知らないふりをするつもりでした」


「いや、まあ、結果として怨霊は輪廻の輪に還ったのだから良かったではないか」


「ならば小角様には一生その頭でいて頂きましょう。

 結果は良かったのですから」


「いや、いや、いや、暫し待たれよ。

 それとこれとは別の話ではないか?」


「私は正直なお方が好ましいと思っております」


「う……、分かった。

 正直に言おう。

 私はかぐや殿を試したのだ」


「やっぱり」


「その結果、予想通りと言うか予想を遥かに超える結果だった訳だが……」


「はあぁっ?!」


「いや、済まぬ。

 この通りだ、許されよ。

 何でも言うことを聞こうじゃないか」


「何もありません」


「何も無いわけでは無かろう」


「違います!

 何も無かったのです。

 山では何もありませんでした。

 そうですよねっ?!」


「あ、ああ。

 そうだな……。

 何も無かった」


「そうです。

 生駒の山には親子が住み着いていました。

 彼らは小角様と比羅夫様の説得により、彼らは人と交わりを持ち、山へ人を受け入れる事を了承しました。

 そして彼らは小角様の庇護下に入りました。

 それが全てです」


「ああ、かぐや殿の言う通りだ」


「比羅夫様もお分かり頂けましたでしょうか?」


「ワシもか?!」


「ご希望でしたらその立派なお髭を永久脱毛して差し上げますよ」


「いや、ちょ、ちょっと待ってくれ。

 髪は構わぬが髭は勘弁してくれ。

 かぐや殿の言う通りだ。

 部下にも言い聞かせる」


 比羅夫様、そんなにお髭が大事なの?


「それでは……」


 私は小角様に髪の毛再生の光の玉を当てました。


 チューン!


 ニョキニョキニョキニョキ


 体内の栄養が足りていないのか長髪には戻らず、スキンヘッドから坊主頭になりました。

 あの頭を撫でるとジョリジョリが気持ちいいのですよね。


「髪の毛の滋養が足りないのであとは海藻を食べて補って下さい」


「まさか本当に……」


「小角様、何か仰いました?」


「あ、いや。

 それで明日はどうするのだ?

 もう問題は解決した。

 義覚の所へは私一人が行けば良いが」


「それなのですが。

 明日も山へ行って、義覚様にお話を聞きたいと思うのですが宜しいでしょうか?」


「何故、話を聞きたいのだ?」


「義覚様が言っていた、昔の出来事を出来るだけ詳しくお話を聞きたいのです。

 義覚様のご先祖様は戦に敗れて山へと追いやられたのですよね?

 つまり勝ったのは帝のご先祖様です。

 帝の記録に残っているのは勝った側に都合の良い話ばかりに変質していると思います。

 そうでなければ風化して何も無かった事になっているかのどちらかです。

 しかし負けた側の話を聞かなければ真実は明らかにならないことが多いのです。

 義覚様には是非、生駒で起こった昔の出来事を伝えて欲しいのです」


「なるほどな。

 共に山に入るのは吝かではない。

 義覚らにも口止めしておかねばな」


「口止め?」


「い、いや。確認だ。

 そう、確認」


「そうですね。

 じっくり念入りにお願いします」


 こうして私達は何事も無かったかの様に……、いえ何事も無く生駒山の調査を終えたのでした。

 もちろん、帝にもキチンと報告しました。

 言い忘れていたことがあった様な気がしないわけでもありませんが、大した事では無いので気にしたら負けです。

 それに……

 もしかしたら帝は最初から全てご存じの上で、私が生駒へ行く事を了承して、比羅夫様を同行させた様な気がします。



 後日、小角様が生駒山の(おんぬ)を弟子にしたという噂が流れてきました。

 こうして伝説というものが出来上がるのですね。



(「生駒山の鬼騒動」おしまい)

生駒山には神武天皇と戦った現地人の伝説が残っていて、日本書紀中でも生駒の先住民を『愛瀰詩えみし』と呼び、敵ながら尊敬し敬っていたそうです。


そして生駒には鬼に関する言い伝えも残っていて、生駒市鬼取町という地名として残っております。

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