小角様と山登り
完成間近の文章がごっそり消えました。
スゴイショックです。(泣)
成り行きで、役小角様にデートに誘われて、阿部比羅夫様の護衛付きで鬼退治に行くことになりました。
万が一、怨霊が出たらかぐや太郎は「祓え給い潔め給え〜」と唱えながら光の玉を連打しましょう。
効果は分かりませんが、気分的には効きそうな気がします。
気分的には……。
【天の声】駄女神……(ボソ)
◇◇◇◇◇
道中、比羅夫様と積もるお話です。
「それにしましても何故、比羅夫様がお越しになられたのでしょう?
お料理に包丁を借りようとしたら名剣を貸し与えられた様な気分です」
「嬉しい例えだが、こんな事はしょっちゅうある。
私が来る時は大体は古来からの生活を捨てきれず、外界から隔てられた生活をしている者等を我々の支配下に置くためだ。
必然として蝦夷地への派兵が多くなるが、この様な近場なのは珍しいな」
「比羅夫様は勇猛な武将様でいらっしゃるのに、戦さを望まない稀有な方ですから帝も頼み易いのでしょう」
「まあ、戦うのも何かと入り用になるし、怪我もする。
下手をしたら命すら失う。
はっきり言って割に合わんからな。
だが、帝はああ見えて女傑だぞ。
昔であったら自ら鎧を着けて来ただろう」
「そうなんですか?
私は優しいおばあさまの印象しかないので意外です」
「帝もお年を召して、だいぶ丸くなられたからな。
かく言うかぐや殿も鬼とやらの討伐に繰り出してくるとは勇ましい限りだな。
はっはっはっはっは」
「それは誤解です。
か弱い乙女には無理だと言うのに、小角様がか弱く無いからと言って無理やり連れ出したのです。
私は何故ここに居るのかすら分からないのですよ」
「ワシはかぐや殿の実力の程を是非見てみたいがな」
「お見せ出来るのは逃げ足だけです」
「かぐや殿。
別に私はかぐや殿はか弱いとは思っておらぬが、かと言ってかぐや殿を巻き込んで荒事にはならんと思っているぞ」
「小角様、何か根拠のような物が御座いますのでしょうか?」
「噂では鬼は人に害を及ぼしてはおらぬ様だ。
時々それらしき影が見える程度で、熊の方が余程危ないと言う話だ」
「では何故私が?」
「単に山に隠れ住む者ならば下山する様説得しよう。
だが物の怪の類いであるなら、それなりの備えをしたい。
私も前に出て対処するが、かぐや殿にも協力して欲しいのだ」
「私に何が出来ましょうか」
「かぐや殿なら何とか出来るだろう」
「今のお言葉、何の根拠もなく言っておられますよね」
「無いと言えば無いし、あると言えばある。
まあ頼むぞ、かぐや殿」
「私の逃げ足の速さに期待して下さいまし」
そもそも、通力なら小角様、怪力なら比羅夫様に敵う者なんておりません。
私は女子力で勝負します。
【天の声】そんなものあったか?
そんな和気藹々(わきあいあい)な会話のおかげで、麓にある伊古麻都比古神社にあっという間に着いた感じです。
まだ日が高く、時間的に余裕がありましたので、山へ下調べに行く事にしました。
生駒山はなだらかな山で、山頂まで登るとしてもそれほど苦労せず登れそうな感じです。
しかし山の中で人(鬼?)探しをするには十分過ぎるほど広く感じます。
普通は鬼が隠れている人を探すのですよね?
「ひとまず頂上へ向かってみよう。
道は知っている。
明るいうちに帰って来れるはずだ」
小角様の提案で私達は頂上を目指す事にしました。
当たり前ですが、比羅夫様は単騎で駆けつけたのではなく、五人ほど兵をお連れになって来ましたのでその方々も一緒です。
建クンはお付きの女性と共にお絵かきをしながらお留守番です。
待っててね ♪
◇◇◇◇◇
ガチャ、ガチャ、ガチャ、……
山道に矢尻のぶつかる音が響きます。
「小角様、何処か心当たりのある場所は掴めていらっしゃいますでしょうか?」
「心当たりと言う程では無いが、生き物であるのなら水場が必要であろう。
とはいえ、水場に近過ぎれば熊や狼に襲われかねん。
その周辺で食料が取れそうな木や野草のある場所だろう。
何ヶ所か目星は付けているが、山頂から確認してから行ってみようと思う」
「わ……分かりました(ぜいぜい)」
「どうした、かぐや殿よ。
もう疲れたのか?」
「私だけでは御座いません。(ぜいぜい)
小角様以外、皆息があがっております。(ぜいぜい)
も、もう少し歩調を私達に合わせて下さいませんか?(ぜいぜい)」
私はまだマシな方で、武器を持った兵士さん達や体重の重い比羅夫様は顔色が怪しくなっています。
「それは済まなかった。
一人で山に入った時のつもりで駆けてしまったようだ」
居るんですよね。
山に入ると性格がガラリと変わる人。
……いえ、素が出てしまう人と言うべきでしょうか。
「私達は山中での足の運び方すら知らない初心者です。
その辺をご教授しながらでないと着いていけません」
「それもそうだな。
折角の機会だ。
兵士達の訓練もしてさしあげようか」
こうして二時間程で生駒山を制覇しました。
いい景色です。
やっほー♪
山頂では小角様が注意深く辺りを見回しております。
比羅夫様は大の字になって倒れています。
「小角様、どうでしょうか?」
「ふむ、南側の山岳が少し気になる。
然程遠くないから行ってみよう」
「え、ええ。
でも休憩をして十分に息を整えてからにしましょう。
いざという時に兵士の皆さんが動けないのでは何のために来たのかわからなくなります」
「それもそうだな」
「それに山の頂は空気が薄いので、身体が慣れていない人には疲れ易いのです」
「そうなのか?
それは知らなかった」
「小角様が初めて山に入った時もそうではなかったのですか?」
「あの頃は自分がまだ若かったと思っていたからな」
「人の身体とは住む場所や環境に合わせようとするものなのです」
結局、10分ほど休憩してから目的地へと移動しました。
すぐ目に前だと思っていましたが、山道は倍くらいの距離に感じます。
開けた場所に出ると、小角様は腰を屈めて細心の注意を払い辺りを調べ始めました。
「ふむ、土を被せて隠してあるが、人がいた形跡が残っているな。
……!!!
比羅夫殿、人が居る!
警戒なされよ!」
「心得た!
かぐや殿は私共の陰に隠れよ!」
兵士さん達が私の周りを取り囲んで辺りを警戒します。
ヒュン!
……プス
や、や、矢が飛んできた〜!
もう嫌、来るんじゃなかった〜!
小角様は両手を上げて矢の飛んできた方へ歩み寄ります。
「私はこの辺りの山に分け入り修行をしている小角と言う者だ。
話をしたい。
出てきてくれぬか」
ヒュン!
……ガチャン!
小角様へ飛んできた矢を比羅夫様が剣で叩き落としました。
スゴイ!
「もう一度言う。
話をしたい。
出来てくれぬか」
小角様の呼びかけに木の影から矢を構えた男性が姿を現しました。
「用はない。
出ていけ!
山を降りよ」
男性ははっきりとした言葉で返答しました。
鬼イコール外国人かとも思っていましたが、そうでは無さそうです。
(※拙作『異世界・桃太郎』を宜しくお願いします)
「私達は其方を害するつもりは無い。
其方も我々を害さないつもりなら話し合いに応じてくれ。
争いは好まない」
「お前らの言うことなぞ信じられるか!
出ていけ!」
男性は頑なに話に応じようとしません。
他にも伏兵が居るかもしれませんからこちらも迂闊な事は出来ません。
辺りに緊迫した空気が流れます。
それにしても……どうしてこんな場に私は居るの?
(つづきます)
奈良県と大阪府にまたがる生駒山は標高642mの初心者に優しい山です。
ロープウェイがあり、山頂には遊園地もあります。
作中では奈良県側から登りましたが、大阪府側から登ると麓に石切劔箭神社があり、知る人ぞ知るパワースポットでもあります。




