山奥で修行する人、発見
少し強引な展開?
趣味と実益を兼ねて飛鳥一帯の神社仏閣巡りをする事になりました。
千代様には国の歴史を知る上で役に立つだろうと申しましたが、本当はもう一つ理由があるのです。
それは……、
どうして私がこの世界にやって来たのか?
それを知る手掛かりと元の世界へ戻る足掛かりが欲しいからです。
もう十年前の記憶になりますが、現代でごく普通のOLだった私は月詠神社に参拝した時に月詠様(仮)に拉致されて、幼女となって飛鳥時代へと放り込まれました。
まるで見た目は幼女、経験はアラサーの探偵ちゃんみたいです。
ならば、現代へと通じるルートがこちらにもあるのでは無いでしょうか? と思うのです。
それを探すため、現代で巡った神社仏閣の記憶を頼りに現代と共通の寺院を廻ってみようと考えています。
しかしこれと言って期待をしている訳ではありません。
帰るにしてもこの時代の人々と深く関わりすぎました。
それに……、現代に帰ったところで生涯を共に過ごそうと思えた人はもういません。
いや待て。
1400年未来だったら5年や10年くらいは誤差範囲だから……。
いや待て。
あの人に私を二人も抱え込む甲斐性なんてありません。
あの人にしても、私が二倍になったらドン引きすると思います。
やっぱ無しですね。
ともあれ、現代に戻るルートだけでなく、月詠様(仮)には私に何をして欲しいのかをキチンとプレゼント形式で説明して貰いたいと考えています。
ホントに本気で困っていますので。
かぐや姫らしく月に帰るのが最終目的でしたら、月へと出発する前に打ち合わせしたいですし。
もし出来れば現代と飛鳥時代を行ったり来たりする能力も新しく欲しいな。
古代の生活では紙一枚ですら貴重品です。
現代のシャンプーやトリートメントが偉大だと再認識しました。
インターネットで簡単に調べ物ができるというのは何て幸せな事でしょう。
どんなに頑張って創意工夫しても下着は現代のものに敵いません。
欲しい時にドラッグストアへ行けば何でも手に入るなんてまるで天国みたいです。
砂糖を使った甘味なんて超贅沢です。
たまにはコンビニスウィーツや大仏プリンを無性に食べたいと思う事があります。
【天の声】要求が増えているぞ。
ケホン、ケホン。
神社仏閣へ行くとしても建クンも一緒なので片道二時間以内で行ける範囲に限られます。
さすがに毎日は無理なので、帝がいらした時に許可を得た上で出掛けます。
曲がりなりにも皇子様を連れ回す訳ですから、黙って行くのは宜しくありません。
でも『婆ぁも一緒に行きたいのぉ』と羨ましそうに言われても困ります。
まず向かった先は大神神社です。
日本最古の神社とも言われ、三輪山を臨むパワースポットとしてその界隈でも有名です。
現代では私も大変お世話になりました。
天太玉命神社へ行った時の様に建クンを抱っこ紐で体に縛り付けて完全武装、護衛さんも二人同行です。
日差しが強くなって来たので、傘持ちのお付きの人もいます。
傘持ちの女性というとハ十女さんを思い出します。
忌部氏の宮で大勢が世話になる訳にいきませんので、今は子沢山のハ十女さんには讃岐へ戻って貰っています。
大神神社に到着すると、書司から頂いた紹介の木簡を見せて案内して頂きました。
その間、建クンは私の目の届くところで画板と木炭でスケッチしております。
護衛さんには常に建クンの近くにいる様にお願いしました。
宮司の三輪様から神社に伝わる言い伝えなど教えて頂き、神様にまつわるお話も詳しくして頂きました。
三輪山を御神体とするのは古来から変わりませんね。
やはり金一封を奉納すると、扱いが違います。
まさに金ですから。
お話を全部書き写すのは不可能ですので、メモ書き程度に留め、戻ってから清書します。
現代でも研修セミナーを受講した時にメモを頼りに受講内容を再構築して研修報告書を作成しましたが、それと同じ感じですね。
ちなみ私の書いた報告書なぞ社内では誰一人として読みません。
しかし唯一、税務署の人が空出張では無いという証拠としてチェックされます。
なので報告書は内容よりも実際に行って来ました的な臨場感が大事です。
面倒ですが、社費を使って勉強した税みたいなものですね。
さて建クンの絵が完成する頃、私の調査も終わりました。
では後は帰るだけ。
建クンを再び抱っこ紐で体に縛り付けて、準備完了。
宮へ向けてさあ出発しようとした時、人影がこちらへと近づいて来ました。
かなり薄汚い格好をした男性です。
貧民ならばこの時代にはたくさんいます。
しかしその男性は貧しくてそうなったのではなく、何となく仕事で汚れた感じがします。
その男性が私達一向に近づくと
「そこのお嬢さん、何か食いモンを恵んでくれぬか?」と言って来ました。
前言撤回。
やはり貧民みたいです。
私は建クンのオヤツ兼、木炭画の消しゴム代わりの酒粕饅頭を持っていたので、それを差し上げました。
「うぐっ、ゲホッゲホ。
何て柔らかく美味い物なんじゃ」
男性はあっという間に饅頭を食べてしまいました。
慌てて食べたのでむせています。
「それでは身体を大事になすって下さい」
建クンが気になっている私はそのまま去ろうとしたら、男性がまた声を掛けて来ました。
「お嬢さん、辱い。
食料を持たずに山へ入ってしまったので腹が減って死にそうだった。
こんなに美味いものを頂戴して感謝する」
すごく丁寧な乞食さんですね。
「いえ、お構いなく。
何しに山へ行ったのですか?」
話を合わせようと適当に質問しました。
「目的があって山へ入ったのでは無いのだ。
山に入る事が目的なのだ」
???
「申し訳ございません。
理由もなく山に入る理由が分からないのですが……」
「いや、すまん。
お嬢さんを困らせるつもりは無かった。
私は僧侶みたいなものだ。
ただし御仏ではなく、山を信仰しておるのだ」
……ひょっとして?
「修験道の方ですか?」
「修験道という言葉は初めて耳にするが、それに近いものかも知れぬ」
「申し訳御座いません。
私の知る修験道は葛城山(金剛山)を修行の場としている印象がございます為、三輪山でその様なお方を目にするとは思いませんでしたので」
「葛城山?
ならばそれは私かも知れぬ。
普段、私は葛城を根城として修行しておる」
でもこの時代に修験者って居たのかしら?
「もし宜しければ御名前を頂戴して宜しいでしょうか?」
「私か?
私は加茂役君のものだ。
名を小角という。
!!!
超有名人、キターッ!
(次話につづく)
役小角、生誕は西暦634年。
この頃はまだ二十歳そこそこの若者でした。




