神社仏閣巡り
今日は短くて申し訳ありません。
……スランプかな?
正式に佐賀斯様が忌部氏の氏上様に就任されました。
当面、天太玉命神社には次男の石麿様が滞在して、中央の宮中行事は佐賀斯様が執り行うとの事です。
石麿様も佐賀斯様と同様、十年前に私が光の玉でつるっぱげにした方です。
(※第27話『チート幼女の滅びの舞』ご参照)
あの時はごめんね。
すぐに元に戻したのだから無かった事でお願いします。
私も幼かったし。
【天の声】中身は幼く無かったがな。
世代が変わったという事は、次の世代にとっても安穏としていられなくなるという事です。
一つは小首クン。
万が一、佐賀斯様に不幸があったとしても、まだ幼い小首クンが忌部氏を率いるのには無理があります。
しかし後五年も経てば、小首クンも元服して跡取りとなる資格があるのです。
それまでに古来より引き継がれる忌部氏の仕来りをマスターしなければなりません。
子麻呂様がご在命だった時には大人になってからとのんびりモードでしたのが、そんなものは消し飛んでしまいました。
早速、子首クンは佐賀斯様について祭祀を学ぶ様になりました。
そしてもう一つ、小首クンに万が一のことがあったら更に大変です。
従って小首クンに続く跡継ぎの誕生が望まれています。
もちろん私は小首クンが長寿である事を知っています。
しかしそんな事を知らない氏子さん達は大慌てです。
忌部氏は神代から続く由緒正しい氏族なのです。
家を中心にした日本的な社会にとって後継者不在というのは非常事態なのです。
佐賀斯様も石麻呂様も頑張って!
◇◇◇◇◇
忌部の宮の中の喧騒とは打って変わって私と建クンは平穏そのものです。
いつにも増して写経が捗り、いつにも増して散歩や打撃練習に熱が入ります。
そんなある日、尚書の千代郎女様がお越しになりました。
今日が特別という訳ではなく、時々写経する原本を持って来たり、私が書いた写経を持って行ったりして、上司を小間使い代わりにしております。
大変、申し訳御座いません。
「忌部氏の氏上様は残念でしたが、落ち着かれた様子ですね」
「はい、幼き時よりお世話になった子麻呂様のご葬儀に参列する機会を頂きありがとう御座いました。
おかげで葬送の舞を奉納する事が出来、心残りなくお見送りする事が出来ました」
「それは良かったわ。
幼い皇子様をお連れしての外出は何かと大変でしたでしょうけど、どうでしたか?」
「皇子様はとても聞き分けが宜しいですので、特に苦労は御座いません。
まだ身体も軽いので抱えて歩くのも然程苦ではありませんですし、力には自信がありますので」
「それなら良いのだけど、今は普通でしたらあり得ない状況です。
今のうちにやりたい事や出来る事はやっておいた方が良いわよ」
「あり得ない状況……ですか?」
「ええ、後宮に入った女孺が外を出歩くなんて、あり得ないでしょう?
斉明帝が女性であるので後宮はお世継ぎを産み育てる場では無くなっておりますし、火災によって後宮そのものが無くなって本来の仕事が出来ないなんて初めての事だと思われます」
「確かにそうですね」
「かぐやさんには皇子様のお世話という大役があるので遠出は出来ないでしょうが、行きたい所があれば言って下さいな。
紹介する事ができますから」
ひょっとして現代で趣味にしていた神社仏閣巡り(飛鳥時代バージョン)が出来るかも?
「ええ、その時は是非宜しくお願いします。
ところで千代様は何処かへ行かれたのですか?」
「私は宮と役所を往復する毎日よ。
今日も図書寮(※)に立ち寄ってから、ここへ来ました」
(※ 教書や経典、紙・筆・墨を管理する役所。宮の外にあり男性の官司が働く)
「なんか……申し訳ない気持ちです」
「私は後宮が長いから、好きに出かけて良いと言われても逆に困ってしまいます。
精々国許に帰るくらいですから」
「そうですね……。
私としましては辺りのお社について調べて回りたいですね。
皇子様が外を歩かれる事は良い事ですし、今年中に出来る事ならばあまり大掛かりな事は出来ませんので」
「どうしてお社を?」
「以前から気になっている事が御座いまして……、
神様の御名前を冠したお社が多数御座います。
忌部氏の天太玉命神社もそうですね。
しかしその神様が神代に於いてどの様な役割を担われたのか?
神様にも親子、親戚関係にあるのか?
どの様な逸話が残されているのか?
きっとそれらを調べる事で全体像が見えてくるのでは無いかと思うのです」
「それは面白そうですね。
でも、それを知りたがる人は居るの?」
「誰もがこの国の成り立ちを知りたいと、一度は思うはずです。
その疑問に答える手掛かりになるのではないかと思います」
「その辺は貴女に任せましょう。
でも写経は引き続きお願いするわね。
図書寮でも貴女の写した写経は評判が良くて私も誇らしいから」
「何故図書寮の方が?」
「図書寮に保管されている原本を借り受けているからよ。
返却する時、貴女の写経を見て女子でもここまで出来るのかと感心していたの」
「女子が写経するのは珍しいのですか?」
「そうね。読み書きが出来る女子は少ないと思います。
後宮は帝の世話をする事を目的としていますから、宮の外の役所とは違います。
それに大体が口伝で後宮は運営されていますので、読み書きが出来なくても仕事に支障はありませんから。
なのでかぐやさんが書司に来て下さると聞いた時は本当に嬉しかったわ」
「そう仰って下さいますと、素直に嬉しいです」
「行き先が決まりましたら言って下さい。
木簡を用意します」
「はい、宜しくお願いします」
「それじゃ、また来ますね」
そう言って、千代様は宮へと帰って行きました。
飛鳥宮の再建も進んできて、形が見える様になってきました。
半年もすれば宮は完成し、私も忌部氏宮から後宮へと移らなければならないでしょう。
それまでの貴重な時間、現代での学生時代を思い出して調査してみようと思います。
少し話が横道に逸れておりますが、どうしても登場させたいこの時代の人物がいますので、暫しお付き合い下さい。




