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忌部首子麻呂の葬儀(2)

♪ 反省を知らない 主人公なのさ〜 ♪


 忌部首子麻呂様のご葬儀に参加するため、建クンと一緒にやって来ました。

 他人の悪意に敏感な建クンは、最初から友好的な御主人クン夫妻にハニカミながらも嫌そうな様子は一切ありません。

 親戚の叔母さん夫婦に会ったみたいな気安さのおかげで、建クンの気持ちにゆとりが出てきました。

 ありがとう、衣通オバチャン。


【天の声】思いっきり自爆しているぞ。


 三人+建クンで亡き子麻呂様の思い出を語り合っていますと、伝令の方がお見えになりました。


「かぐや様。

 佐賀斯様がお越し頂きたいとの言伝を受けましたが、宜しいでしょうか?」


 佐賀斯様は現代の風習で言えば喪主に当たります。

 飛鳥時代に喪主があるかは分かりませんが、喪主にご挨拶するのに否応はありません。


「承りました。すぐに参ります」


 伝達の人に案内を頼み、私は建クンと共に行こうとしました。

 すると……、


「かぐや様、宜しかったら建皇子様をお預かり致しますがどうされますか?」


 衣通姫が疲れているであろう建皇子を気遣って提案してくれます。

 少し悩みましたが、見知らぬ場所で私から離れる建クンの姿を想像して、やはり止める事にしました。


「ご厚意感謝します。

 ですが、建皇子はとても恥ずかしがり屋さんなので、私が一緒についていないと不安に思われるでしょう。

 建皇子様も佐賀斯様とはよく知った間柄なのでむしろ安心できると思います」


「そうですか。それでは……」

「いや、衣通よ。

 衣通が着いて行ってあげなさい。

 もし建皇子様が疲れてしまったら衣通が手伝ってあげるといい」


 御主人クンの男前な提案で衣通姫も同行してくれる事になりました。


「ご配慮頂きありがとうございます。

 衣通様、宜しくお願いします」


 こうして三人で新たに氏上となられる佐賀斯様の元へと参りました。


「皇子様、かぐや殿、遠路はるばる、父上のために参られて感謝します」


「こちらこそ、大変な中押し掛ける形になり恐縮に御座います」


「実は折行って頼みがあるのですが……」


「はい、何に御座いましょう?」


「父上は事の他かぐや殿の舞を気に入っておられた。

 もしお願い出来るのなら、父のために舞を一差し舞って貰えないだろうか?」


 そうゆう事ですね。

 断る理由がありません。


「ええ、分かりました。

 お見舞いに来れなかったお詫びも御座います。

 私で宜しければ進んで舞を献上致します」


「有難い。感謝します」


「いえ、私こそ子麻呂様に最後の舞を披露する機会を頂き感謝します。

 誠意一杯舞わさせて頂きます」


 こうして私は葬送の舞を舞う事になりました。

 建クンを衣通姫にお願いして、早速準備に取り掛かります。

 演目は何にするか迷いましたが、私が讃岐で初めて舞を披露した時の演目にしました。

 あの時、子麻呂様は涙を流して生涯忘れないと仰ってくれた舞です。

 (※第34話『宴、初日(3)・・・チート舞(VerUp版)』参照)


 あれから十年。

 天に在します氏上様に成長した姿をお見せしたいと思います。


 ◇◇◇◇◇


 私の準備が完了し、程なくして葬儀が始まりました。

 儀は喪主である佐賀斯様が取り仕切り、斎場ではしょうの音が鳴り響いております。

 祭詞を呼び上げ、参列者は玉串を奉納するのは現代の神式葬儀とあまり変わりません。

 そして私達と一緒にきた一団の方が帝からのお言葉を読み上げ、死後の冠位を授けました。

 そう言えば中臣様は何処におられるのでしょう?

 姿が見えません。


 そしていよいよ私の出番です。

 楽隊の方々には既に演目を伝えております。

 何人かは十年前に讃岐に来て演奏してくれた方がいて、

「任せてくれ」と心強く応えてくれました。


 舞台に上がります。

 朱色の裳ではなく、上下とも白の古代らしい巫女姿です。

 両手には榊を持ち、葬儀の形式に外れない出立で皆さんの前に立ちました。

 まだ陽が高いので光の玉を出しても演出効果はありません。


 ♪ 〜

 音楽が始まりました。


 レパートリーが少なかった時から舞っていた演目です。

 自然と身体が動きます。


 何故か十年前のあの時の舞台と光景が被りました。

 十年前は手足の短い幼女だった私ですが、今はスラリとした手足で舞を形造ります。

 体力もついて身体のキレも段違いです。


 氏上様、ありがとう。

 この世界にやってきたばかりの時、頼れるのはお爺さんとお婆さん、そして秋田様だけでした。

 その後、たくさんの方々とお知り合いになる機会がありましたが、それは氏上様の橋渡しがあったからこそでした。

 私のプレゼントする扇子をとても喜んでくれて、お茶目な方でもありました。

 居なくなってこんなにも寂しい気持ちになるのならもっとたくさん会って、もっとたくさんお話をして、もっと喜ばせてあげればよかった。


 後悔は尽きませんが、今は誠意一杯の舞を送ります。


 チューン! チューン! チューン!

 チューン! チューン! チューン!

 チューン! チューン! 


 私は8体の光の人を出して、共に舞ました。

 真昼の明るい中、見える人はいないと思います。

 でも氏上様には見えているでしょうか?


 讃岐で催した宴の最終日の舞の様に、八人の巫女さん達と共に一生懸命に舞った舞です。

 一人で見送るのは寂しいので大勢で見送りますね。


 氏上様、ありがとう御座いました。


 〜♪


 舞い終わった私は静かに舞台を降りました。

 葬送の舞なので拍手はありませんが、皆さん静かに観てくれていたと思います?


 ……あれ?

 なんか様子が変です。

 でも大きな失敗はしていなかったはずなので気にせず、建クンのいる席へと戻りました。

 建くんは私が戻ると、ヒッシとしがみ付きました。

 一人で寂しい思いをさせてしまったかな?

 でも目がキラキラしている気がします。


「かぐや様の舞はだいぶご成長なされたのですね」


 横に居た衣通姫は少し目を見開きながら、私の舞を評してくれました。


「ありがとうございます。

 お世話になった氏上様と初めてお会いした頃を思い出しながら舞いました。

 子麻呂様に届いていればこの上ない僥倖です」


「え、ええ。間違いなく届いたと思います。

 きっと父上様はお喜びになられていると思います」


 衣通姫が言うのなら間違い無いでしょう。

 こうして恙無(つつがな)く葬儀は終わり、今朝一緒でした使節の一団の方々と共に飛鳥へと戻る事になりました。

 お腹には建クンコアラを装着済みです。


「衣通様、あと暫くは忌部の宮におりますので、ぜひお話しましょうね」


「ええ、建皇子様もお元気でね」


 御主人クン夫妻はまだこちらに残るのでここでお別れです。

 一団の方へと合流しました。


「帰りも宜しくお願いします」


「あ、いえ。

 こちらこそご同行頂き光栄で御座います。

 もしお疲れになりましたらご遠慮なく申し上げて下さい。

 我々も出来るだけゆっくり歩きますので」


 あら?

 建クンが皇子様である事に今更気付いたのかしら?

 随分とご配慮していただける様になりました。


「ご配慮ありがとうございます」


 さて出発です。

 何故か位置(ポジション)が最後尾から真ん中に変更になりました。

 やはり皇子様としての扱いはこうでなくてはいけませんね。


 帰りは2時間かけて帰りつきました。

 外はだいぶ薄暗くなっております。


「本日は誠にありがとう御座いました。

 皇子様がおネムになってしまいましたので、このまま失礼します」


「「「「はっ! お疲れ様で御座いました」」」」


 使節の皆さん一同が声を掛けてくれます。

 私と建クン、そしてお付きの人は宮へと戻りました。

 やっぱり我が家が一番ですね。


【天の声】いつの間に我が家になったのだ?


 ◇◇◇◇◇


 翌日。

 いつもの様に建クンは絵に夢中です。

 今日描いた絵は昨日の私の舞……なのかな?


 私と光の人の八人が舞っている姿を見事に写し取っていました。

 お付きの人達に恐る恐る聞いてみましたら、私が帝の即位の儀でやった噂の神降ろしを見ることが出来、昨夜は眠る事が出来ないほど興奮したと、興奮気味に教えてくれました。


 どうやら他の人に見えないと思っていた光の人が、舞台の下からだとしっかりと見えていたみたいです。

 衣通姫の様子や、使節の人達の豹変が何故だったのか。

 その理由が分かってしまった様な気がしました。


 建クン、この絵をおねーさんに頂戴。

 そして、帝には内緒にしてね。



古代の葬式がどの様なものであったのかが全然わからなかったので、現代の神式葬儀をベースに執り行いました。

この後、棺は石室に安置し、綾に納めるのではないかと思います。

大化の改新で大規模な前方後円墳の造成を禁止するという「大化の薄葬令」が施行されました。

これ以降、古墳時代は終わりを告げたのでした。

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