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忌部首子麻呂の葬儀(1)

久しぶりに中臣様がちょっとだけ登場。

後の幕間になると思った方、正解です。

 この時代で生活して感じる事は子供が多い、という事。

 おそらく、飛鳥時代に限らずどの時代の過去に居ても同様に感じると思います。

 きっと現代日本が歴史上に見ても異常事態なのでしょう。

 女性はその生涯を掛けて子供を産み、生まれてくる子供は過酷な環境の中を生き抜き、大人になっても子供を育てるため懸命に働き、そして現代ではまだ若いと言われる年齢で息絶えます。

 いわゆる富士山型の人口ピラミッド構造というものです。

 大人といえども現代なら簡単に治療できる怪我や病気でもこの時代の人にとっては命に関わる致命傷となりうるわけです。

 私もこの時代に来て十年、たくさんの人を見送ってきました。

 そしてまた一人……。


 つい先ほど、忌部氏の氏上(うじのかみ)である、忌部首(いんべのおびく)子麻呂様がお亡くなりになったと連絡がありました。

 孫はいらっしゃいますが全然お爺ちゃんぽくなく、まだ五十代前半のはずです。

 氏上様との最初の出会いは酷い物でしたが、その後私の味方となってくれてからは色々と助けて頂きました。

 この時代に私が今までやって来れたのは氏上様の助力無しにはあり得ない事です。

 今までの数々の思い出が浮かんでは消え、また浮かび……、自分にとって氏上様の存在が大きな物であった事を改めて感じます。


 今いる宮は忌部氏の宮ですので、当然大騒ぎです。

 子麻呂様が亡くなられた事と、佐賀斯様が氏上になられる事、そして今後の事について色々と言葉が交わされているみたいです。

 子麻呂様の葬儀は天太玉命神社にて執り行われるとの事で、佐賀斯様夫妻は早々に出立しました。


 これまでお世話になった事を考えれば葬儀に参加する事は当然だと思います。

 しかし今は建クンの世話が年中無休24時間営業状態です。

 大体2時間、私の足なら1時間半で到着します。

 建クンを連れたとしても決して行けない距離ではありません。

 迷いましたが帝の御許可を受け、日帰りを条件に建クンと共に葬儀に出席したい旨を頼りにして申し出ました。

 するとすぐに返事が来て、

『朝廷からも人を出すのでそれに随行して行くといい。

 建を宜しく頼む』と返事が返って来ました。


 出発は明日早朝です。

 建クンと初めての旅行(おでかけ)が決まりました。


 ◇◇◇◇◇


 宮の前で待っていると、前を通り過ぎる一団がやって来ました。


「其方がかぐやか?」


「はい、左様に御座います」


「ではついて来るがいい。

 幼い子がいるからと言って遅くは出来ぬ故、人をつける。

 その者に背負わせるなどして、遅れぬ様ついて来なさい」


「はい、ご配慮の程、感謝します」


 こうして私と建クン、そして数人のお付きの人たちは遣いの一団と共に天太玉命神社へと出発しました。

 一介の女孺めのわらわにしては過ぎた配慮ですが、皇太子様の皇子様にしては扱いが軽い気がしないわけでもありません。


 私は準備していたおんぶ紐で建クンを私の身体の前側に括り付けて歩き始めました。

 紐というより布みたいな物で、三歳児の重い体でも荷重が分散する様に工夫した物です。

 まだ外は寒いので、建クンも冷えずに済みます。

 私もこの時代の平均的な女性の身長を超え、今や(胸以外)大人の女性と大差ありません。


【天の声】括弧書きにしなくてもいいぞ。


 他の付きの人からは「代わりにやります」と言われましたが、建クンが嫌がるかも知れないので最初から私が抱える事にしました。

 建クンに他の人が嫌かどうか聞いても答えないですし、嫌だとしても我慢してしまうだろうから。

 何より私には光の玉(チート)の力で足の疲れを取り除けますから、このくらいの距離は全然平気です。

 建クンコアラを抱えて出発です。


 建クンを抱えてノシノシと歩いていますと、不意に後ろから声が掛かりました。


「かぐやよ、久しぶりだな」


 振り返ってみるとそこには馬上の中臣様がいらっしゃいました。

 先程まで馬なんていなかったはずですが?


「お久しゅうございます。

 この様な格好のため、礼が出来ず申し訳ありません」


「その子が葛城皇子の子か?」


「はい、(たけるの)皇子様です。

 本日は帝の御許可を頂き、子麻呂様の葬儀に同行する事を許されました」


「初めて見た時の其方はまだ幼かったが、もう子供を抱えても違和感がないな。

 子供の成長とは早いものだ」


 オジサン&オバサンあるあるですね。

 親戚の子に久しぶりに会ったら大きくなってびっくりするって。


「ご自身では気がついてなさらないかも知れませんが、その分、中臣様もお年を召しているという事なのですよ」


「ははは、そうか。

 そうだな。

 あの時の自分はまだ若かったな」


 心なしか中臣様はここ最近お目見えした中で一番リラックスしているみたいに見えます。

 オフモード?


「では、私は先に行く。

 久しぶりに話ができて嬉しかったぞ」


 そう言い残し、馬を跳ばして一団を抜き去り先へと行ってしまわれました。

 私に会って嬉しいだなんでどうゆう風の吹き回しなのでしょう?

 額田様の件があったので、以前の様な打ち解けた気持ちにはなれませんが、中臣様には中臣様で思うところがある様子です。


 程なくして、私達は天太玉命神社へと到着しました。

 何処となくひっそりとした感じです。

 私達は一団にお礼を言い、別行動となりました。

 帰りにはまた合流して飛鳥京へと戻ります。

 残念ながら建クンとご一緒でのお泊まりは無しです。


 忌部氏のお付きの人と共に通された先には阿部御主人(あべのみうし)様と衣通(そとおし)姫のご夫妻が居ました。

 久しぶりに見る二人は相変わらず仲良さげ(ラブラブ)でが、少しお疲れの様子です。


「ご無沙汰しております。

 衣通様、この度はお悔やみ申し上げます。

 子麻呂様には生前たくさんお世話になったのにお見舞いに来れず申し訳ございませんでした」


「いえ、そんな事はありません。

 こちらこそかぐや様が忌部宮に滞在なさって居ると聞いて、ご挨拶にも行ってなくて申し訳ありませんでした」


「私がお世話になりはじめた頃には子麻呂様は体調を崩されていたと聞いております。

 どの様な具合だったのですか?」


「私も聞いただけですが……、

 最初お腹が痛いと申されてしばらくしたら痛みが無くなって安心したのですがそれも束の間、更に痛みが増して熱も出て大層苦しんでいたとの事です」


「お辛い最期だったのですね」


「ええ、最後に会った時には酷く憔悴しておりました。

 最後にかぐや様に会いたいとも言っておりました」


「そうなんですか。

 申し訳ない事をしてしまいました」


「すまないが、かぐや殿。

 その子は?」


 御主人(みうし)クンが気になっていたらしく質問しました。


「この子は(たける)クン。

 私の子です」


「え……えぇぇぇ〜!?」


 御主人(みうし)クン、ビックリです。


「かぐや様、揶揄(からか)っては可哀想ですよ」


 コロコロと笑っている衣通姫は事情をご存知の様子です。


「いえ、つい……」


「何だ、違うのか?」


「改めてご紹介しますね。

 こちらは皇太子様のお子様で建皇子です。

 故あって、帝よりお世話を承りました。

 私は今、建皇子様と共に忌部氏の宮にお世話になっております」


「そうなんだ。

 驚かせないでくれよ。

 本当にビックリしたのだから」


「ほほほほ、申し訳ございませんでした。

 次にお会いする時には衣通様に子供が出来て私を驚かせて頂く事を期待してますわ」


 すると衣通姫はボンッ、と顔を赤く染めてしまいました。


「そうだな。

 それくらいの仕返しはしないといけないな。

 建皇子様、初めまして。

 阿部倉梯御主人といいます。

 かぐや殿とは幼い時からの付き合いになります」


 真面目な御主人クンは幼少の建クンにも礼節を持って挨拶します。

 しかも子供はいつでも成せるぞと自信ありげです。

 ちくせう。


「初めまして、建皇子様。

 かぐや様とは昔からの友人なの。

 こんな可愛い子が私も欲しいわ」


 何だかんだとやる気満々な衣通姫です。

 羨ましけしからん二人だ!


 (次話につづく)

忌部首子麻呂について、記録上では生誕、死没共に不明です。

この時期の葬儀になったのは、孫の子首(おびと)の活動時期を考えて逆算した作者予想に基づくモノです。

死因は虫垂炎としました。

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