後宮の在宅ワーク?
シン・ウルトラマンはすごく良かった。
歌も最高!
♪ 痛みを知る 唯一人であれ〜
奉納舞の後、様々な人達からアレは何だったのかと質問攻めでした。
どうやって演出しようとは考えていましたが、どうやって言い訳しようとは考えておりませんでした。
♪ 光の国からボ〜クらのために 来〜たぞ我ら〜の◯◯◯◯まーん
……なんて言って分かって貰えるかしら?
【天の声】ウケないだろうな。
誤魔化すのが無理なら、惚けるしかありません。
「え、私には別の舞子が飛び入りしたのだと思っておりました」とか。
「高揚しておりましたので舞の最中の事はあまり記憶に残っておりませんの」とか。
「そんな事ありましたっけ? それよりも最近仕事進んでいないんじゃない? 他の仕事が立て込んできる事は分かっているけど、分かっているけど効率良くやってね。頼むからさ。何か相談したい事があったら遠慮なく言ってよ。(何もしないけど)」……とか。
最後のは現代に居た時の隣の課の課長さんの口調です。
驚くほど人望がありませんでした。
何を言われようが私は無関係である事を貫いているうちに、聞く人が減っていきました。
初志貫徹、頑固一徹、何とかの一念岩をも通す、です。
そして即位の儀から三日後、皇祖母……ではなく斉明帝がお越しになられました。
「かぐやよ、ようやってくれたな。
あれ以来物言う者達がピタッと言わなくなった。
まさかあそこまでの事をしでかすとは婆ぁも予想外じゃったよ」
「私は神様に願いが届くよう一心不乱に舞っただけです。
もしあれが神様の思し召しであるのなら、それは帝が神様に祝福されたのだと思います」
「ほっほっほっ、神降ろしが出来る巫女の言葉は違うの。
神様の思し召しであると言うのならそれで良いわ」
「ご期待に添えられましたのなら、幸いに御座います」
「ブレぬのう。
大海人が其方に信頼を於くのも分かるの。
ところで建の様子はどうじや?」
斉明帝にとっては、即位の儀よりも建皇子様の方が大事みたいです。
「此処に来て半月経ちましたが、癇癪を起こす頻度はだいぶ減りました。
しかし無くなった訳ではありません。
また、癇癪が無くなったからと言って、心の傷が癒えたと判断するのは早計かと思います。
特に建皇子様はご自身の体調を言葉にするのが難しいので……。
完治と判断するのには根気が必要かと存じます」
実際にここに来た当初は不安げでちょっとした弾みで暴れる事がしょっちゅうでした。
その度に精神鎮静の光の玉をチュンチュンと与えて、落ち着かせておりました。
相当に拗らせていた様子でした。
「そうじゃな。
しかし快方に向かっているというだけでも朗報じゃ。
其方に任せたのは間違いでは無かった様じゃ」
「帝にとって大切な皇子様をお預け頂き、私も光栄に存じます」
「ところで建は今、何をやっておるのじゃ?
木くずでいっぱいの様じゃが」
「木に傷を付けて絵を描いております。
ご覧になりますか?」
「ふむ……、これが絵か?
何故木なのじゃ?
紙が勿体無いのなら幾らでも与えようぞ」
「版画と申しまして、この木の板で絵を写し取る事が出来ます。
こちらに写し取った絵が御座います。
どうぞ」
「ほう……、味のある絵じゃの」
「版画ならば同じ絵を何枚も写し取る事が出来ます。
絵だけでなく文字も出来ます。
お経も一度彫ってしまえば、写経が楽になります」
「なるほどの。
もう既に後宮の官人としての自覚があるようじゃの」
「いえ、そこまで大それた事を考えての程では御座いません。
建皇子様には新しい技法を試す事で絵の技能に幅を持たせたかったのです。
それに墨でたくさん汚して頂きたかったと言うのも御座います」
「汚して欲しいとは面妖な願いじゃな」
「単なる思いつきですが……、
宮にいらっしゃる建皇子様は、普段ご自分を抑えて暮らしてなさっております。
あれをやってはいけない、これをやってはいけないと。
ですから、ここではその様な抑圧を無くして差し上げたいのです。
墨に塗れて、大好きな絵を描ければ心にゆとりが生まれます。
甘やかしと言われればそれまでですが、建皇子は素晴らしい才能の持ち主ですのでそれを存分に引き出して差し上げたいと考えております」
「その様な事を考えて、版画とやらをやらせておったとは……。
確かに今の建は生き生きした顔をしておるのぉ。
儂はこんな建を見たかったのじゃ。
本当に……良かった」
帝となられた斉明帝の目に涙が光ります。
建皇子様の事が本当に愛おしく思っていらっしゃるのでしょう。
「それとじゃ。
かぐやよ、舞師としての仕事はお仕舞いじゃ。
今後は書司の女孺として働いて貰う。
しかし建の世話も頼みたい。
故にこの忌部宮を借り、ここで仕事をせい」
つまり在宅ワークっこと?
「承りました」
「詳しい事は尚書を寄越す。
何分宮が再建されるまでは仕事にならぬのでな。
頼むぞ、かぐやよ」
「謹んで承りました」
こうして斉明帝はお帰りになられました。
そして翌日、上司となる書司の長官、即ち尚書の方がお見えになりました。
「わざわざお越し頂き恐縮です」
「構いません。
帝直々に申された事です。
それに管理すべき書物も楽器も川原宮には御座いません。
私一人がいれば十分なくらいです」
お越しになられた尚書の方は30歳くらいの穏やかですが、キリッとした女性です。
一年前の後宮の移動の時に何度か顔を合わせた覚えがあります。
「改めて自己紹介するわ
私は千代郎女、書司の長官をしております。
長官と言っても十人満たない司の長官ですので、他の司なら次官か判官みたいな立場です。
だからあまり気を使わなくてもいいわよ」
「かぐやと申します。
何度かお目見えするのにご紹介が遅くなりまして申し訳御座いません」
「ふふふふ。
上司として会うのは初めてですが、これまで何度も顔を見ている貴女が部下だなんて不思議な気分ね。
他の者は皆、難波へと行ってしまったので、飛鳥には私と貴女しかいないの。
宜しくね」
「ええ、私も少々違和感を感じております。
もう少し初々しい感じを出せればと思いました」
「そうかも知れませんが、いつもでしたら新しく入った娘にはお仕事どころかお辞儀の仕方から教えなければならないの。
今回は楽そうで安心しています」
はい、私も現代では同じ事を指導していました。
電話の受け答えから、正しい服装の着方まで。
事務員用の制服のスカートをゴムベルトを使って短くしようとしているのには驚きました。
出社初日にギャル靴下を止める様、説得しました。
「当面、貴女には写経をお願いします。
宮と共に燃えてしまったので、また寺院より経をお借りして写しを取って頂きます。
追って元となる経を運ばせるわ。
くれぐれも取り扱いに気をつけて下さい」
「はい、承知しました」
「難波で貴女の字を見る機会がありましたが、綺麗な字ですね。
あれなら心配はないでしょう。
それでも丁寧にやって下さるようお願いします。
宮に置くのに相応しいものでなければなりませんので」
「はい」
こうして上司との顔わせは和気藹々としたものでした。
どうやら職場には恵まれたみたいです。
光の巨人と聞いてエヴァネタをぶっ込みたかったのですが、使い所が難したったです。




