即位の儀にて
今回の話は設定が難しかったです。⤵︎
おそらく飛鳥時代の即位の礼は平安以降に比べてシンプルだったみたいですが、もう少し変化があったのでは無いかと思います。
即位の儀までの9日間。
私も一緒に舞う巫女さん達も大変でした。
稽古場には鬼コーチではなく、鬼そのものが居ました。
果てのない稽古の繰り返し、疲れて膝を付こうものなら容赦のない叱責が飛びます。
♪だって涙が出ちゃう 女の子だもん ♪
それに引き換え、横に居る秋田様の視線。
巫女さん達は思わず胸に手がいってしまいそうになります。
まさかとは思いますが私のお胸も標的?
秋田様、貴方は私の名付け親なのよ! 親!
名付けの子供に何て視線を送るのですか!
一回視線を感じる毎に1ミリ生え際が後退する光の玉をお見舞いして差し上げましょうか!
【天の声】そんなことしたら一日でつるっパゲになるぞ。
秋田様も私の考えが読めたらしく、二日目からは稽古場に姿を見せなくなりました。
チッ、勘のいい奴め!
そんな厳しい稽古が最終日まで続き、入場から退場まで、指先にまで神経を行き渡らせ、隙の無い立ち振る舞いと、息ピッタリの舞を習得しました。
萬田先生によるとギリギリ及第点だそうですが……。
◇◇◇◇◇
迎えて即位の儀当日。
焼け野原となった板葺宮跡に人々が参集します。
天気は晴天、しかし寒いです。
救いは昼過ぎからの開始なので少しは寒さが和らぐ事です。
瓦礫は撤去され広々とした広場の真ん中に仮の舞台が挿げられました。
正面には一際高い壇が備えられております。
あそこに皇祖母様が登壇したら卑弥呼みたいに見えるかも知れません。
広場に向かって左右両側には数多くの旙が掲げられ、旙の前には強そうな人達が鉦とか鼓とか武器を持って床几に座っております。
祭祀に参加される佐賀斯様によると、儀の後の宴の最後に私の奉納舞を舞うとの事です。
つまりトリです。コケコッコー!
式次第についても教えて頂きました。
まずは天照大神に拝礼し、皇祖母様が御告文を読み上げ、引き続いてに帝の祖先と八百万神にご報告されます。(※賢所大前の儀)
これは内内で執り行うので前日までに済ませていると思います。
そして即位の礼では、最初に神器を受け取ります。
その後、皇祖母様が檀に登り神へ祝詞を奏上します。
そして皆で拍手を打ち、即位が成立するそうのだそうです。
思いの外質素ですね。
いえ、私が知っている令和の即位の礼が、後の文化の発展と共に煌びやかになったのかも知れません。
その後、饗宴の宴に入るのですが食事は無しです。
こんなに開放的な寒空の下では食事の味も分かりません。
なので焚き木の暖に当たりながら、帝に仕える最高水準の楽団の演奏を楽しみ、国一番の歌姫による歌に心を震わせ、そしてお抱えの舞師による舞を堪能する訳です。
そして最後の最後に私?
これって見せしめとか、晒し者とか、公開処刑とか言いませんか?
あまりの事に眩暈がしそうです。
私には羞恥プレイで快感を得る様な性癖はないのです。
今更ですが逃げ出したい……。
そんな事を考えておりますと、会場にゾロゾロと人が集まってきました。
私は会場の片隅でいつもの巫女さんスタイルでスタンバイです。
いつぞやの宴の時は、宮の中で遭難しそうな寒さの中で震えておりましたが、今回は焚き木が近くにあります。
皇祖母様直々に指名された舞子として丁重に扱われている感じがします。
しばらくすると鉦が鳴り、儀が始まったみたいです。
まず儀の進行係らしい方が開始の宣誓をしました。
……長い。
そして皇祖母様が舞台に上がり、そして下座から……
あ、物部宇麻乃様だ。
佐賀斯様もいます。
そしてもう一人は何度か見た事のあるオジサン。
宇麻乃様が剣を授けました。
剣というとあれが草薙剣?
そして佐賀斯様が箱を授け、オジサンが鏡を授けました。
箱の中は大きさ的に勾玉かな?
それが終わると皇祖母様が檀に登り宣誓をしました。
『天孫・瓊瓊杵尊より千年に亘り受け継がれてきた帝位をここに斉明が継承す。
今、我が国は大きく変わろうとしている。
ただ一つだけの頂の持つ富慈の山の如く、余は山の頂となりこの国を治む事を宣言する。
水が低きに流れるが如く、余の施す恩恵は山の裾野まで、下々の者共にまで行き渡るであろう。
その恩恵は畿内だけに止まらぬ。
東国、筑紫洲、蝦夷、……ありとあらゆる土地に帝の恩恵と神の慈悲を与えん!』
こうして皇祖母様は斉明帝になられました。
最後に出席者全員で拍手を打ち、即位の儀は終わりました。
引き続き舞台で催し物が始まりました。
私の出番が近づいてきました。
ドキドキ♡
舞台の上では賑やかな催し者がなされ、盛り上がっております。
流石はこの時代の一流と言われる方々です。
……さていよいよです。
日が傾き、薄暗さが増してきて、いよいよ最後だという雰囲気が漂ってきました。
私達三人は神楽鈴を手に持ち、舞台の方へと歩を進めます。
この所作も萬田先生に厳しく指導されました。
そして舞台袖に立ち、これから上がろうとする時、私は緊張している二人に話し掛けました。
「舞の最後に天女の術を使います。
何があっても動きを止めず、慌てない様に」
二人は驚きながらもコクリと頷きました。
すかさず私は上空に見えない光の玉を100個打ち上げました。
チューン! ×100
舞台の上に立ち、上座に向かって私がセンターのやや前。
二人が後ろの直角二等辺角形です。
♪~
音楽が始まりました。
今回、舞の最中のチートは無しです。
くるくるくる。
二人とポジションチェンジしながら、正確な動きをトレースします。
動きは優雅に。
決して気を抜かず緊張感に満ちた舞を続けます。
寸分も動きにズレが無い様、音に集中します。
舞っている最中、周りは一切目に入りません。
今までにない集中力です。
思えばこの様な気持ちで舞った事は一度も無かったかも知れません。
そしていよいよ舞の終盤に差し掛かりました。
両手を高々と上げた時、上空に打ち上げた見えない光の玉を可視化しました。
白くて淡い光ですが、夕暮れが近い程よい暗さの中ではハッキリと視認出来ます。
そしてその光の玉はフヨフヨとゆっくり下に降りてきました。
私は舞を止めていますが、二人は言いつけ通り舞を続けています。
光の玉が私の目に高さに降りてくると、光は段々と形を持ち始めました。
頭らしき部分、腕らしい二本の棒、胴体、そして二本の脚。
光の玉が人の形に変形したのです。
周りからは僅かですが、悲鳴にも近い響めきが湧き上がりました。
私は人の形をした光の玉(※面倒なので「光の人」にしちゃいます)に神楽鈴を差し出して、シャンシャンと音を鳴り響かせました。
すると「光の人」は両腕を挙げてクルクルと回り始めました。
私もそれに合わせてクルクルと舞いました。
完全に同調しています。
いつの間にか舞は三人ではなく「光の人」を合わせた四人になっています。
これが毎夜の稽古の成果です。
そして舞い終わると、私は神楽鈴をシャーン! シャーン!と鳴り響かせました。
「光の人」は音に合わせるかの様に上へ上へと登り、天へと向かっていきます。
そして私が一際大きな音で神楽鈴をシャーン! と鳴り響かせると「光の人」は弾ける様に四散し、会場中に雪の様に光の粒が降り注ぎました。
光の玉には精神鎮静、ウィルス退散、血行促進、鼻詰まり解消、食欲増進、睡眠の質向上、交感神経の回復、など様々なイメージが乗せてありました。
それらが一斉に弾けて会場中に降り注いだ訳です。
観ている人は皆んな口ぽっかーんです。
そんな中、私達三人は稽古の通りに粛々と上座に一礼し、四方に礼をし、舞台を降りて行きました。
すると何処からともなく大きな声援と拍手が湧き起こり、会場は一種の興奮状態になりました。
どうやら狙い通り、神様の御技として勘違いしてくれた様です。
……たぶん。
皇祖母……斉明帝の方へ目をやると、満足そうに微笑んでくれました。
どうにか使命を果たすことが出来たのだと確信しました。
新しいチートの誕生です。
人の形をした光の玉は前々から考えていたチートの一つで、これから更に進化する予定です。




