讃岐で過ごす年末年始(2)
第220話『鎌足の焦燥・・・(13)』から第221話の『孝徳帝の独白・・・(1)』の間で約一年、時が進んで飛んでいるいますので、主人公は次の正月で十八歳になります。
数えで十八なので満年齢は十六歳、JK。古代基準で結婚適齢期です。
主人公がこの世界に来て十年が過ぎました。
本日は大晦日。
なので本日は年明けの準備です。
これも久しぶりです。
領民の暮らしは私が初めてここを訪れた時に比べれば格段に良くなっています。
竪穴式住居に住んでいる人がめっきり減りました。
今ある竪穴式住居は物置きか農作業の休憩所代わりに使っているくらいです。
あるいは子供のひみつきち(※ひらがな)とか。
あるいは奥さんに家を追い出された旦那さんが夜を明かすとか。
あるいは家では家族の目があるから、若いカップルがこっそりとイタすためとか。
つまり何が言いたいかと言いますと、生活の質が向上しているのですよ。
昔は水っぽい粥でも『ありがとうごぜぇますだ〜』と感謝されましたが、今同じモノを出したら大顰蹙です。
量は勿論、質も求められます。
となりますと、腹持ちの良い炭水化物と肉ですね。
炭水化物は里芋と白玉。
肉は鶏を十羽潰します。
殆ど芋煮会みたくなってきました。
味は醤ベース。
出汁は鶏ガラから摂ります。
酒粕も加えました。
芋煮なら蒟蒻と牛肉があれば良いのだけど、私は蒟蒻芋がどの様なものか知りません。
牛はいますが貴重な労働力ですし、ロースちゃんが死んだら私は泣いてしまいます。
ロースちゃん、長生きしてね。
もー
人口は250人を超えて初めて姫検知をやった時からほぼ倍増です。
ねずみ算式に増えたみたいです。
鶏肉が25人で一羽は少ないかも。
豆腐も入れちゃえ。
採れる里芋の量にも限りがありますので白玉でボリュームアップです。
コロコロコロコロコロコロコロコロ……。
うどんにすれば良かったかな?
でもこの時代の人は麺料理に馴染みがありません。
きっと食べ難いでしょう。
ともあれ、大鍋の準備は3時間ほどで出来ました。
次は宴の準備です。
まさかあんなに大変になるとは……。
◇◇◇◇◇
明けて正月。
領民の皆さんは器を手にして並んでいます。
須く鍋は好評で、並んだ人全員に行き渡りました。
私は今年も配膳係に落選しました。
私が配膳をすると、私の配膳する列だけが長くなる事が予想されたからです。
いつになったら終わるのか分かりません。
仕方がなく釜の後ろで床几に座って、作り笑顔を振りまきました。
皆さん手を合わせて拝んでいきます。
お地蔵さんの気持ちが分かる気がしました。
太郎おじいさんの土下座を見て、讃岐に帰ってきたのを実感しました。
さて正月に近隣の有力者を集めて宴会をするのは毎度お馴染みの光景ですが、その近隣の中でもお爺さんは国造にはあり得ない異例の出世をしていますので、どうしても振る舞う側になってしまいます。
それにしても来客が多いのは気のせいかしら?
昔は大人子供合わせても二十人弱だったのが、百人近くの来客が来ました。
中には飛鳥京からいらっしゃる方も居るみたいです。
以前は中臣氏や阿部倉梯の離宮があったため、少しでも偉い方に擦り寄りたい人が集まりましたが、今はもう居ません。
ウチに来たってタダ飯が食べられる以外に何かある訳でないのに何故?
お婆さんに聞いたら今年に限って来客が増えたのだそうで、来客の目的はおそらく私にあるみたいです。……私に?
どうやら私が後宮に行く事が知れ渡っているらしく、後宮勤めの采女は一種の憧れの対象らしいのです。
一応、采女になるには容姿も判定基準に入っていますから。
その憧れの采女を一目見たいとたくさん人が集まったらしく、ちょっとしたアイドルイベントの様相を呈しています。
「本日は遠いところをよくお越しになられました。
新しき年が良き年となりますよう、お祝い致します」
留守録のメッセージみたいに同じ言葉を繰り返しているだけなのに、気持ちが悪いくらいに皆さんの反応が好評です。
「おお、かぐや殿。暫く見ない内に美しくなられましたな〜」
「何て美しい姫なんだ。是非ウチに嫁に来てくれ」
「飯を食いに来た。ついでに尻触らせろ」
「にーちゃぁーん、腹減った〜(太い声)」
「ふん、讃岐国造の娘は相変わらずの様ね」
「そうね、昔と変わり映えしないはずなのに化粧が上手いだけなのね」
なんて言うか、君たち全然成長していないのね。
ある意味、この数年間、格式の高い方々に囲まれてきたせいか、お猿さんと同レベルである近隣の豪族の子弟の無作法さが地元に戻ってきた感覚があります。
こちらの世界に来て十年になりますが、これぞ原点って感じです。
大宴会場では百人もの人達にお屠蘇を注いで、ご飯のおかわりを持ってきて、旅館の若女将みたいな事をしました。
少しでも隙を見せればお尻を触ろうとする助平親父がダース単位でいます。
一緒にお酒を注ぐ八十女さんは尻も胸も触られ放題です。
お酒を注ぐたびに手を握ろうとするオヤジもいたりして、ここはそうゆう接客をする場ではないっつーの!
古代の人々は性に開放的なので令和のコンプライアンス基準では信じられないことばかりです。
あ、私の舞を言いふらした酔っ払いオジサンだ。
「かぐやちゃんや、あの小さかったかぐやちゃんが後宮へ入内するなんて。
是非ウチの息子に会ってくれぬかの」
「申し訳御座いません。
年明け早々に後宮へ向かいますので、暇は無いと思われます」
あ、嫌味な娘さん達だ。
「讃岐国造の娘がしているその化粧はお土産で配るの?」
「これは私の肌色に合わせた物なのでお配りが出来ないのです」
「京で流行っているんでしょ? ケチケチしないで配んなさいよ」
「あーヤダヤダ。友達甲斐の無い娘ね」
……友達だったんだ。
あ、私をかぎやと言い飯女扱いする奴だ。
「おい、飯のおかわりだ。早く持って来い」
「はい、お待たせして申し訳ありません」
「申し訳ないと思うなら身体で払えよ」
「嫌です」 (ちゅーん!)
「あだだだだだ、腹が。厠はどこだ!?」
「屋敷をでて川原でして下さい」
こうして混乱の宴会は一晩中行われました。
本当に疲れました。
◇◇◇◇◇
翌々日、私は采女として後宮へ向かうべく飛鳥へ出発です。
皆さん総出でお見送りです。
昼前に飛鳥京へと着いたのですが……何か様子が変です。
臭いも……?
中に入ろうとしたら、門の衛兵さんに止められました。
「先日、板葺宮が火事になり今は中への立ち入りは出来ん!」
……え?
本日は少し短くて申し訳ありません。




