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讃岐で過ごす年末年始(1)

久々に緊張感のないお話です。

「これまで大変お世話になりました。

 皆さんお元気に過ごされます様ご祈願致します(ぺこり)」


 大海人皇子の舎人をクビになった私は一旦讃岐へと帰り、年明けに後宮へと入内(しゅうしょく)する事になりました。

 たくさんの方がお見送りしてくれました。

 皇祖母様からスカウトされたのを皆さん知っていますので、頑張れよ〜的な雰囲気でお見送りしてくれました。


 私に同行するのは源蔵さん一家とサイトウ夫妻、そして護衛さん夫妻です。

 讃岐を出発した時のメンバーですね。

 八十女さんの子供達も元気です。

 シンちゃんもお兄さんっぽくなりました。

 ちなみにサイトウの奥さん、憂髪(うきがみ)さんは身重です。

 もうすぐサイトウはお父さんです。

 サイトウのくせに。


 讃岐で年末年始を過ごすのは超久しぶりですね。

 今年は紅組と白組、どちらが勝つのでしょう?

 絶対に笑わないに出てくるスペシャルゲストは一体誰でしょうか?

 曙 vs ボブサップの勝負の行方は!?


【天の声】曙は先日、若くして亡くなったぞ。というか、いつの話題だ?


 昔は飛鳥京から讃岐までの道のりは遠く感じましたが、今ではご近所感覚です。

 難波みたいに山越えの上、歩きで一日二日掛かる事を思えば、楽勝です。

 目を瞑ったって行けます。

 ……片目だけだけど。


 ◇◇◇◇◇


 讃岐へはあっという間に讃岐へ着きました。

 予め連絡してありましたので領民の皆さんがお出迎えです。


「姫様ぁ〜、お帰り〜」

「あんなに綺麗になられて……」

「姫様〜、こっち向いて〜」

「きゃー、サイトウさん〜〜!」

「おぉぉぉ寿命が延びる思いじゃ。ナンマイダナンマイダナンマイダ……」


 ドサクサに紛れてサイトウに声援無かった?

 それに飛鳥時代に南無阿弥陀仏の宗派は無いよ。


「おぉぉぉ、かぐやよ。よく戻ったのぉ」

「かぐや、お帰りなさい」


「父様、母様、ただいま戻りました。

 お元気そうで……」


 何故か涙が出て言葉が続きません。

 これまでも何度も帰ってきたのに、何故涙が……?


「かぐや、たくさん頑張ったんだね。

 ここは貴女の家なの。

 大変だった事は全て忘れてゆっくりなさい」


 お婆さんの言葉で涙腺が崩壊してしまいました。

 私は私が思っていた以上に気を張っていたみたいです。

 緊張の糸がプツンと音を立てて切れてしまったみたいです。


「母様〜!」


 私はお婆さんに駆け寄って号泣してしまいました。

 それを見てお付きの皆んなももらい泣きしています。

 サイトウのくせに。


 その夜はゆっくり食事して、たくさん話をして、たくさん寝ました。

 そして翌日、挨拶回りです。

 と言っても、中臣氏の離宮も阿部氏の離宮も閉鎖されて、忌部氏の宮だけです。

 秋田様と萬田先生が留守を守っています。


「ご無沙汰してます。

 秋田様も萬田様もお元気そうで何よりです」


「姫様、お疲れでした。

 難波で姫様は大層な活躍をしたという噂で持ちきりでした。

 忌部氏一同、我が事の様に喜んでおります」


「活躍というよりも、私の持っている美容の知識が皆さんに好評を頂いただけなんです。

 何故か高貴な方が通われる様になってしまい、その方々の騒動に巻き込まれてしまった。

 ……と言うのが正しい表現かと思います」


「如何にも姫様らしいですね。

 自重って言葉をご存知ですか?」


「もちろん知ってますわよ!

 ただ実践する方法に疎いだけです」


「それを『知らない』と言うのですけど……。

 結果としましては、現在の政の中枢に居られる方々への覚えもよく、中大兄皇子様と大海人皇子と皇祖母尊様の御三方から乞われて此度後宮に入内となった訳ですね」


「それも少し違います。

 どちらかと言いますと、大海人皇子と皇祖母尊様の利害が一致した結果、中大兄皇子に私が取られるのを阻止したという形です」


「何ですか、それは?

 中大兄皇子と大海人皇子との仲がお宜しく無いのですか?」


「ええ、今までは表立ってありませんでした。

 しかし、依に寄って中大兄皇子様が額田様を寄越せと言い出したのです。

 本当に奪い取ってしまいましたから、大海人皇子様も心中穏やかではありません」


「何と! それは初耳です」


「つい数日前の事です。

 まさかそんな場面に居合わせるとは思いませんでした」


「何故、その様な場にいられたのですか?」


「中大兄皇子様は額田様の人脈を譲れと言うのが表向きの理由でした。

 人脈というのは私が始めた美容を生業とする施術所の事です。

 当然私も含まれていたのです」


「それで大海人皇子は首を縦に振ったのですか?」


「ええ、表向きは」


「では反撃されるのですか?」


「それはしません」


「どうして?」


「逃げるにしても戦うにしても準備不足も甚だしいですから。

 中大兄皇子様にはあの中臣様が付いていらっしゃるのです。

 あの人を貶めす事に掛けては向かうところ敵なしの中臣様です。

 やるからには手加減なんてしません。

 容赦なく、無慈悲に、とことんやるに違いありません。

 まず間違いなく潰されます」


「いつに無く辛辣ですね」


「だって中大兄皇子様の暴走を横に居ながら全然止めませんでしたから」


「難しいお立場の方ですから。

 しかし大海人皇子様の家臣の中には黙っていられない人も居るでしょうに」


「前にも似た様な事がありましたので、二の(てつ)は踏みません」

(※第182話『とんだ新年の宴』ご参照下さい)


「そうなると今後は皇子様同士の争いになるのでしょうか?」


「おそらく、当面はなりません」


「それは何故ですか?」


「えーっとですね。

 ……それは天女の予言です」


「確かに以前姫様は中臣様の行動を予言しましたが、あれと同じですか?」


「そう思って頂いて構いません」


「もう少し詳しくお教え下さいませんか?」


「えーっとですね。

 ……では、これでどうでしょう?

 向こう十年、国の内外で大きな衝突があります。

 その結果、人々は疲弊し不満が噴出します。

 その不満を拾い集めた方が真の指導者となりこの国を導くでしょう」


「おぉ、それっぽく聞こえますね。

 しかし何故、中大兄皇子様はそこまで独り善がりになられたのでしょう?」


「それが謎なの。

 中大兄皇子様は何か大きな秘密をお抱えになっていて、それ故に周りを攻撃してしまうらしいのです」


「秘密ですか……。

 少し調べて観る必要がありそうですね」


「大丈夫ですか?

 中大兄皇子様は容赦の無い方です。

 危険では無いですか?」


「多少の危険はあるでしょう。

 しかし忌部はこの国の正道を担う氏です。

 蘇我氏が衰退した結果、また新たに脅威が迫るのであれば見過ごせません」


「忌部氏ってそうゆう使命があるのですか?」


「忌部氏も卜部(うらべ)氏も物部氏も、神に仕える氏は責任があります。

 卜部氏の流れを汲む中臣様も同じお考えの元、行動された訳故に御座います」


「物部って宇麻乃(うまの)様?」


「そうです。

 卜部は占い、物部は呪術に心得があります。

 そう易々と使って良い力ではありません。

 それ故に正道を踏み外す事は避けなければならないのです」


 へぇ〜、宇麻乃様って呪術が出来るんだ。

 じゃあ、秋田様は視線のセクハラを呪術で治したら?

 ……と喉まで出掛かっていましたが、それを飲み込んで質問を続けます。


「私が忌部首子麻呂様に初めて会った時に拐かされそうになったのも、正道のためだったのですか?」


「あれは正道を求めるがあまり、氏上様とご子息達が暴走されのです。

 正道とは難しいのですよ」


「中大兄皇子様もご自身が正道を歩んでいると信じて疑わないご様子でした。

 間違いを指摘してくれる人は貴重ですね」


「ええ、私もそう思います。

 中臣様がその役目を果たされていれば良かったのですが……」


「聞く耳を持っていなければ誰が居ようと関係ないですよ。

 中臣様もだいぶ顔色が優れない様子でした」


「ほらほら、二人とも。

 折角久しぶりに話をすると言うのに暗い話題は無しにしましょう」


 お胸が非正道(つめもの)の萬田先生が話を遮りました。

 少し愚痴っぽくなってましたね。


「萬田先生、来年からは皇祖母尊様の後宮に入ります。

 良かったらまた色々と教えて下さい」


「ええ、いいわよ」


 こうして私達は積もる話を延々としたのでした。


元横綱、曙関のご冥福をお祈りします。

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