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チート舞をご披露・・・(1)

歌も出来不出来につきましては、作者の力量不足のためお見逃し下さいますと幸いで。

 本日は大正月、一月元旦。

 あけましておめでとうございます。

 本日、私は数えで八才(暫定)になりました。


 お爺さんは国造くにのみやっこなので夜明けから来客が絶えません。

 領民の方々へは新年を祝って炊き出しを行っており、家人の皆さんは夜明け前から大忙しです。

 新しい台所キッチンは照明があって、広々としているので作業が楽だと好評でした。


 領民の皆さんは器を持って屋敷の前に並んでます。

 私は配膳係に立候補したのですが、落選しました。幼女にアツアツの粥を任せられないのと、警備上からの理由です。

 火傷したら自分で治せるから構わないのですが、警護の人たちの手を煩わせるのは申し訳ないので自粛しました。

 ならば自室でおコタに入ってゴロゴログダグダしたかったのですが、新年の行事なので席を外すことができず、お釜の後ろの方で床几しょうぎに座ってじっとしていました。


 寒空の下、半纏とパンツは手放せません。

 あ……、縫部ぬいべさんにお願いしたパンツが出来たのでした。

 残念ながら羊さんがいませんので、この時代に毛糸はありませんでした。

 綿コットンも見つかりませんでしたので、絹と真綿で出来たズロースみたいなものを作ってもらいました。

 つまりシルクの下着です。

 現代の自分では考えられない贅沢ですね。

 うかつにオネショも出来ません。(しませんってばっ!)

 おかげで腰回りが温かくなりました。

 お婆さんにプレゼントしたら、とても大喜びをして履いてくれています。

 たぶん、私とお婆さんは今、お揃いのズロースを履いているじゃないかな?

 お爺さん?

 お爺さんは何を履いているのか全然知りません。

 私の下着と別々に洗濯してもらう様、家人のお姉さんにお願いする日も近いかも?


 じっと座っているのも退屈なのですが、ムスッとしているのはフレンドリーな姫様、略して「フレ姫」失格なので、笑顔で手を振ります。

 普段、表情筋を使っていないので笑顔が引き攣ります。

 目の前にいる領民さん達にとって私は天女扱いとなっているらしく、私が手を振るたび皆さん手を合わせ拝んでいきます。

 拝んでもご利益は無いのに……。


 ……あ、太郎さんだ。

 私が太郎さんに手を振ると、太郎さんは慌てて土下座を始めました。


「立って。太郎さん、ちち様元気?」


「は、はいぃ。元気であります!」


「病気になったら源蔵さんに言って。治すから」


「ははぁ~」


 また土下座を始めてしまいました。

 そんな様子で、私と領民の皆さんとの交流は続きました。

 でも皆さん、手を合わせるのは挨拶の範疇として、土下座は止めて。

 どんなに土下座されても、おニューのパンツもぺったんこの胸も見せないから。


 ◇◇◇◇◇◇


 午後は地方の有力者さんがいらっしゃいますので、家人の人たち総出でお出迎えして、お座敷へと案内します。

 お座敷では温かいお食事が振舞われ、お爺さん、お婆さん、そして私の3人で新年のご挨拶をします。

 そしてお土産を手渡して、遠くからの来訪を慰労します。


 多分、午前に家を出てこの時間にここへ着いたのなら、数km圏内だと思います。

 現代ならバスか電車、自家用車で10分も掛からない気軽な移動ですが、この時代の移動は荷物運びや護衛の方も同行するちょっとした外出です。

 それ故、受け入れ側も、それなりの歓待をしなければなりません。

 たぶん別のお部屋ではお供の方々にも食事が振舞われていると思います。


「本日は遠いところをよくお越しになられました。

 新しき年が良き年となりますよう、お祝い致します」


 私は心を込めてぺこりとお辞儀します。

 心を込めなくても同じお辞儀になるかもしれませんが、そこは幼女の特権、『小さいのに良く出来ました』補正が全てチャラにしてくれます。


 来客の方は、壮年の方が二名、大人が六名、若い人が四名、幼子が六名の総勢十八名。

 以前の我が家の財政状況でしたら、これだけの人達に十分な歓待をする事はムリでした。

 しかし今年は屋敷も広くて新しくなったし、財政的にも充分余裕があります。

 私が好きなも遠慮なく出せます。


 大人の来客の相手をお爺さんとお婆さんが、子供達の相手を私がします。

 よくよく考えてみますと、今の私と同じ年代の子供と会話するのはこの世界に来てから初めてです。

 普段、領民の子供達は私に近づく事はしません。

 身分差もありますが、天女だと誤解されているので粗相うっかりが無いよう大人達が近づけさせないのです。

 大人の人達となら家人の人とか、萬田先生、縫部さん、猪名部さんとも話をして、この時代の人達のことが少しは分かるようになりました。

 秋田様とは“とある趣味”を通じて師匠と弟子の関係です。


【天の声】相手はそう思っていないぞ。


 しかしながら、この時代の子供ってどんな風なのか全く予想がつきません。

 飛鳥時代の流行りの遊びもゲームもマンガも知りません。

 共通の話題に心当たりが全く無いのです。

 もし興味が合えば、書物しゅみのほんの交換とかして交流を深めたいのですが……。


「これ旨めー。もっとよこせ!」

「これはオレのだ!横取りするな。コ◯すぞ!」

「……(ガツガツガツガツ)」」

「にーちゃぁーん、オレにもくれぇー」

「ふん、貧相な食事です事。もっと奮発しなさいよ!」

「まったくですね。(もぐもぐもぐもぐもぐ)」


 ……うん、躾のなっていないお猿さん達の群れですね。これは。


「はい、どうぞ。お召し上がりになって…」


「遅いぞ。何だ少ないぞ。ケチケチすんじゃねぇ」


 (ピキッ!)


 あぶない、あぶない、子供相手にピッカリの光の玉を出しそうになりました。

 見かけは幼女でも、中身は大人。

 育児経験は無くても、子供達ガキンチョのお父さんお母さんより年上なんだから、自重しなくちゃ。

 それにしても、玄米ご飯は辛うじてお箸を使っていますが、おさいは手掴みです。

 まさか貴族社会みんながそうだとは思いませんが、先行きが不安な子供達です。


「おおー、そこの娘よ。酒をもて」


 先行きが不安な大人が私に声を掛けてきました。

 だいぶお酒が入っているみたいです。

 私達はお客様を持て成す立場なので、大人しくお酒を持ってきて酌をします。


「うんうん、将来が楽しみなめんこい子じゃな。

 どうだ?オジサンのところに来ないか?」


 (ピキッ!)

 (ピキッ!)


 お爺さんとお婆さんから一瞬眉間に皺がよる音がしたような気がしました。


「『幼子に色濃し布は角が立ち、あしきをとなふ酒の席かな』

 ……でございます。」


「この子は何を言っておるのじゃ?」


「幼い子に濃い色の着物、つまり身の丈に合わない身分を酒の席でお与えにあるのは宜しくない誤解を招きますわ、……という意味の詩ございます」


「そ……そうか。もう幼子ながら歌も詠めるのだな」


「まだまだ未熟者です。人によりましては

『幼女に色恋よくじょうを抱く悪しき大人がいる酒の席』

 ……とも意味の取れる歌になってしまいますから」


「む……くっ」


 オジサン、顔が真っ赤なのはお酒のせいかしら?

 お爺さんお婆さん、拍手しないで。少し空気ふんいきが悪いので流れを変えましょう。


「それではつたない舞で御座いますが、遥々いらした皆様にご披露致します」


「おお、娘よ。それは良い考えじゃ。ぜひ見せておくれ」


 お爺さんが前のめりに賛同します。

 私は新年の宴という事で晴れ着を着ており、着替えるのも面倒ですし、扇子だけ準備して来客の皆さんの前に立ちました。


「まあ、讃岐造麻呂さぬきのみやっこまろ様の娘は目立ちたがりのようですわね」

「ホント、そうですわね」


 先程までご馳走をガツガツと食べていた女子二人が聞こえよがしに会話しています。

 いつの時代も女子というものは変わらないものだと思います。

 ……つくづく。


 さて、邪念を振り払って萬田先生に教わった舞を舞います。

 奏者がいませんので演奏はありません。


 …………(クルクル)…………

 …………(クルクル)…………

 …………(クルクル)…………


 舞が終わって最後のお辞儀をしました。


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ……


 全員、凄い拍手喝采スタンディングオベーションです。


「何て素晴らしい!心が洗われるようじゃ」

「斬新な舞なのに、厳かで心に染み入りましたわ」

「素晴らしき舞にきっと神様もお喜びになるじゃろう」

「ワシも寿命が延びた気分じゃ」

「すっげー」

「ふ……ふん、まあやるじゃない」


 踊った私すら驚く高評価です。


 でもですね、これにはしかけがあるのです。

 ふふふふ



(つづきます)

次回は謎解き回です。

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