飛鳥支店オープン
風邪をひいているので、文体が少々ハイになっているかも知れません。
誤字脱字、おかしな言い回し等につきましては回復後に修正します。
……頭がガンガンします。
(4.11.23:42修正)
新装開店本日開所のかぐやコスメティック研究所・飛鳥支店(KCLーA)で御座います。
超有名人から届いたお花が所狭しと並び、チラシを持って待ち侘びた人達が列を成して開店の瞬間を今か今かと待っております。
……というのが現代のセレモニーですが、飛鳥時代にその様なものを期待出来るはずも御座いません。
とりあえず従業員に挨拶です。
「皆さん、急な移転で戸惑ったと思いますが、よく来てくれました。
ありがとう。
それでは本日よりケーシーエルの営業を開始します。
本日はもしかしたら御二方お見えになるかも知れませんので、浴槽に湯を張るのと蒸し風呂に使う焼け石の準備をして下さい。
近隣には皇子様の離宮としてこの屋敷を建てた事になっております。
他人の目に触れる場所での行動には十分気をつけて下さい。
お手隙の間に難波から持ち運んだ物資、機材の確認をして、不足がありましたら私に教えて下さい。
向こうに戻り次第、配送します。
明日の朝、私は難波に戻りますので受け入れ体制を万全にする様、宜しくお願いします」
「「「「はいっ!」」」」
そして次は護衛さん達に挨拶です。
飛鳥支店の警備担当は讃岐にいる時からお世話になっている隊長さんと難波からの異動組四人、そして臨時でサイトウが警備に加わりました。
当面は難波と二分するため警備の数が足らない事と、奥さんの憂髪さんがこちらに来るので二人一緒に転勤させておきたかったからです。
「皆さん、急な移転で戸惑ったと思いますが、よく来てくれました。
それでは本日よりケーシーエルの営業を開始します。
本日は御二方お見えになるかも知れませんので、お通し下さい。
近隣には皇子様の離宮としてこの屋敷を建てた事になっておりますので、ご挨拶に参られても主人の不在を理由にお引き取り願って下さい。
サイトウはそれらの来客の名を控えて下さい。
こちらで対処します。
来月から本格的に稼働する前に警備上する上での不足などがありましたら私に教えて下さい。
明日の朝、私は難波に戻りますので受け入れ体制を万全にする様、宜しくお願いします」
ほぼコピペの挨拶ですね。
心が篭っていない?
違います。
心を込めた結果、同じ言葉に行き着いたのです。
【天の声】誰が誰に言い訳しているのだ?
◇◇◇◇◇
日が高くなり、もうすぐお昼時となる頃、お客様が参りました。
ご婦人お二人とお子様一人、そしてお付きの方々です。
外はだいぶ冷え込んできましたので急いでお迎えに上がり、中へと入って頂きました。
「ようこそお越し下さいました。
この屋敷を取り仕切っております皇子様の舎人・かぐやと申します」
真新しい畳の間で深々とお辞儀します。
クンクン、イグサの良い匂い。
「貴女がかぐやさんね。
馬来田様より、皇子様に就いた有能な女丈夫が居ると聞きました。
いつも馬来田様がお世話になっております。
またご迷惑をお掛けしてしまった事をお詫び致します」
「いえ、そんな。
馬来田様にはとても良くして頂いております。
迷惑を掛けられた事など御座いません」
多分、年始の刃傷沙汰の件を仰っているのですが、もう傷跡も残っておりません。
もし詫びる事があるとしたら、私と多治比様をくっ付けようとするセクハラ発言くらいなものです。
アレだけは勘弁して欲しいです。
「本当に貴女は女子の身でありながら凄いのね。
剣を向けられて何一つ怨みがましい事を言わないと、馬来田様が感心しておりました」
「いえ、むしろ馬来田様のお陰で大した事が無かったのですから、私こそお礼を言わせて下さい。
お世話になり誠に感謝申し上げます」
「本当に慎み深い娘なのね。
息子の嫁に来て貰おうかしら?」
隣にいた女性が初めて言葉を発しました。
吹負様の奥様かな?
「あら、挨拶が遅れてしまいましたね。
こちらは馬来田殿の兄上様、長徳の奥方の櫛名様です」
「初めてお目に掛かります。
櫛名と言います。
長徳が亡くなった後、親子で馬来田様の所に身を寄せております」
大伴長徳様と言えば、先の右大臣様?
長徳様が亡くなった時の事は馬来田様がかなり気落ちしていたからよく覚えております。
(※第166話『褒章と感謝、時々邪念』ご参照)
「お初にお目に掛かります。
かぐやと申します。
長徳様の訃報に際しましてお見舞い申し上げます」
「ふふふふ、いいのですよ。
気を使わなくて。
もうだいぶ経ちましたから。
何でもここは女子を綺麗にする場所と聞き及んでおります。
難波での噂を耳にしておりましたので、是非とお願いして参りましたの。
宜しいでしょう?」
「勿論に御座います。
元々、難波の施設は皇子様のお妃の額田様に寛いで頂き、心安らかに子を成し、出産して頂くために建てられたものです。
皇子様は女子を虜にするこの施設をとても重要とお考えになり、いち早くこの地にご準備なさいました。
腹心の馬来田様のご紹介で否応は御座いません。
是非ご堪能下さいまし」
「楽しみね。
ではどうすれば宜しいの?」
「先ずは湯着に着替えて頂き、身体を清めます。
その後様々なご奉仕をお受け頂き、美容に良い軽食も召し上がって頂こうかと思います。
お付きの方々もご一緒に如何でしょう?」
「ではそれでお願いするわ。
でも本当に良いの?」
「お付きの方々も櫛名様から目を離されるのは不安だと思います。
万が一、私どもに不手際があるやも知れません。
ずっと付きっきりならば、ご一緒に施術を受けられては如何かと」
「その間、この子はどうしましょう?
付きの者が私と一緒だと、この子が一人になってしまうけど」
そういって、横に居る男の子に目をやります。
小学生の低学年って感じの子で、昔の麻呂クンを思い出させます。
「私がお世話致しますが、それで宜しいでしょうか?」
「それは有難いわ。
それでいい? 御幸」
「はい、母上。
分かりました」
男の子は元気に返事しました。
「それではどうぞあちらの方へ」
憂髪さんに二人と付き人さん達を案内させて、私と男の子が部屋に残りました。
「かぐやと申します。
よろしくね。
少し退屈かも知れませんが、何かやりたい事はご御座いますか?」
…………。
どうしましょう?
少し不機嫌? っぽい。
「俺は御幸だ。
大紫(※脚注)・大伴長徳の長子なのだ。
御幸様と呼べ!」
うわぁ〜、典型的なボンボンだわ。
それに『みゆき』なんて昔の少年誌のマンガのタイトルじゃないの?
私、保育士資格持っていないんですけど、こんなガキンチョばかりの職場で一生懸命働いている同級生をホント尊敬するよ。
私は人一倍優しい雰囲気を持った保母として働く同級生を頭に思い浮かべて、彼女の様に振る舞ってみました。
「大伴御幸様。
知らぬ事とは言え大変失礼致しました。
伏してお詫び致します。
本日は如何お過ごしになら……れ?」
ちょっと待って!
今、『大伴御幸』て言った?
え?!
……ひょっとして玉が10個揃っちゃった?!
出よ神龍ってか!?
※脚注
聖徳太子で有名な冠位十二階の制度は西暦603年の制定以来、長らく用いられてきましたが、大化3年(647年)に冠位十三階、大化5年(649年)に冠位十九階へと改められました。
大紫は上から五番目の冠位で、大臣経験者が死去すると与えられる冠位の様です。
上から五番目の冠位ですが、四番目の小繡と二番目の小織を授かった例はなく、三番目の大繡を唯一例外的に巨勢徳多が授かった様です。
要は大紫とは事実上、最高位の冠位なのです。
ただ一人、最高位の大織冠を授かったのが後の藤原鎌足、つまり中臣鎌足様です。大織は他国の王に授ける冠位なので(諸説あり)本来はあり得ない事ですが、授けたのが中大兄皇子ですから然もありなんなのでしょう。
玉10個がどの様な意味なのか知りたい方は、第78話『混乱するチート幼女』をご参照下さい。