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無理無理無理無理無理〜!

遣唐使の出発が7月、その一ヶ月後です。


 かぐやコスメティック研究所では間人皇女様や皇祖母(すめみおや)様だけでなく、お付きの方々にも施術しますが、最近東国出身の方が増えてきた様な気がします。

 言葉イントネーションが明らかに違い、ご本人達も苦労している様子です。

 ただ同じ東国でも江戸っ子の言葉ではなくて、与志古さまと同郷っぽい感じですね。

 後宮にも変化があったのでしょうか?


 与志古様からの待ちなので集団移転への準備はまだですが、猪名部さんには木材の手配をお願いしておきました。

 ……家10軒分くらいと。

 寡黙な猪名部さんの悲鳴が聞こえてきそうです。

 公には動けないので、他人(ひと)を頼れないのは痛手です。

 猪名部さん以外となると、かぐやコスメティック研究所のお屋敷を建てる時にお世話になった難波の部民さん達でしょうか?

 与志古様から連絡があったら、お願いするとしましょう。


 ◇◇◇◇◇


 きました。

 連絡がきました。

 与志古様の使いの方が、ビッシリと書かれた木簡を持ってきました。


 えーっと……、

 高級官人(くにん)様、2軒。

 中級官人(くにん)さん、15軒。

 下級官人(くにん) 、35軒。

 その他、付き人、家臣、護衛、その家族などの細かい情報がきめ細かに書かれていました。

 与志古様、真面目すぎ。


 期日が……霜月(11がつ)末。

 今が葉月(8がつ)ですので、残り三ヶ月弱。


 無理っ!

 無理無理無理無理無理無理無理無理無理〜!

 誰よ、どうにかするって言ったの。

 私? 三日前の私か?!

 どうすんのよぉ〜。


 これはもう、個人で抱えられる容量(キャパ)を超えております。

 信頼の出来る人をかき集めて、頼れる人を頼るしかありません。

 まずは上司への報連相です。

 すでに報告、連絡が抜けていますが。


 皇子様に面会のお願いを人を介して出しましたところ、その日のうちにお会い出来ると返事があり、早速木簡を持って面会に行きました。


「かぐやよ。

 其方から会いたいと言うのは珍しいな。

 私が恋しくなったか?」


 いきなり軽口です。

 最近、皇子様の私に対する扱いがぞんざいな気がします。

 それ以上に私の方が遠慮がなくなってきている気もしますが。


「申し訳ございません。

 私には額田様に敵うところが御座いません。

 遠くから見守るのが関の山に御座います」


「私は構わぬがな」


「大変有難き事に御座います。

 養父が聞きましたら、きっと嬉しさのあまり天に召されてしまう事でしょう。

 しかし私は養父に長生きして欲しいので、聞かなかった事に致します」


「言うなぁ。

 で、急用とは何だ?」


「先月、皇子様よりお話のありました遷都に関する事です」


「準備は順当か?」


「私は期限内に移動を完了できる見込みです。

 ただ困った事になりました」


「其方が困っていて、私に面談を申し込んだ。

 ……と言うことは、私が面倒ごとを引き受けるなんて事は無いよな?」


「流石の私もそこまで厚かましくは御座いません。

 面倒事を引き受けてくれそうな人をご紹介頂きたいだけに御座います」


「そうか。

 面倒事である事は隠さぬのだな」


「隠してどうにかなるのならそうしておりますので」


「ふふふふ、では先ずは話を聞かせてくれ」


「はい、私が飛鳥にて新しい屋敷の建設に取り掛かった事はすでにご報告の通りです。

 ただその話を知ってしまった中臣様の奥方様からご相談を受けまして、自分達の派閥の者の移転を手伝って欲しいと頼まれました」


「中臣殿の奥方? 与志古郎女か?」


「はい、私にとって幼き時よりお世話になっている方です」


「こんな事は言いたくは無いが、与志古殿は元は帝の夫人だった方だ。

 信用して良いのか?」


「与志古様は公私の区別がハッキリとした方です。

 中臣氏の為に動くと決めた以上、裏切る事はないと思います。

 あの疑り深くて、人を人とも思わないような中臣様が与志古様をご信頼して本件を任されているのがその証左かと思います」


「かぐやよ。……いいのか?」


「説得力を持たせるのにこれ以上の言葉は無いかと」


「まあ、確かにな。

 で、与志古殿は何と?」


「派閥というのは東国出身の官人(くにん)達で、飛鳥に伝手持たない方々を円滑(スムーズ)に飛鳥の新居に移動させる段取りをして欲しいとの事です」


「なるほどな……。

 段取りの良さは其方をおいて他にないな。

 ならばそれでよかろう」


「問題はその数と、残り日数です」


「与志古殿はそんな事まで其方に開示しているのか?」


「どうぞ。使いの者が持ってきた木簡です」


「どれ……、なんと!

 兄上はここまで手を回していたのか?

 初めて聞いたぞ」


 うーん、皇太子様(オレ様)は何かと秘密にしたがりそうですから。

 最大の協力者である弟君にも言っていないのですね。


「この木簡に記載されておりますのは、おそらく移転先を必要としている人数だけと考えますと、遷都の賛同者は更に多いかも知れません。

 屋敷に施術を受ける方々の中にも東言葉(あづまことば)特有の抑揚のある話し方をする方も少なくありません。

 後宮の内部にも入り込んでいると思われます」


「なるほどな……。

 流石は鎌足殿と言うべきなのであろうな」


 やはりこうゆう陰険な(はかりごと)は中臣様が一番(ナンバーワン)なのですね。

 本人の前では絶対に言いませんが……。


「もし皇子様に従い飛鳥での新居を必要とする方がいらっしゃいましたら、これに加えておきます」


「そうだな、頼む。

 で、面倒ごとは屋敷を用意すれば解決するのだな?」


「いえ、やらねばならない事があまりに多過ぎて、一度整理する必要が御座います。

 屋敷を用意するのには期日短すぎますし、建材も足りないでしょう。

 飛鳥以外から持ち運ぶか、改築(リフォーム)で済ませます。

 一軒一軒、注文住宅(オーダーメイド)にする手間も惜しいので、同じ建屋(たてうり)にするしかありません。

 同じにしても苦情が来ない様に工夫をしますが、その様な設計ができる者が必要です。

 何より人足がいくらあっても足りません。

 一軒につき10名の人足を当てがい作業に当たらせたとしても500人です。

 恐らく10名では足りないでしょうから千を超えるのは必至です。

 それだけの者達を食べさせる食糧の手配だけでも一苦労です。

 人、食糧、道具、その他を遅滞なく準備する手筈を整えなければなりません」


 頭の中でOL時代の本社社屋の建て替えの時の修羅場(デスマーチ)が蘇ります。

 手続きも段取りも本っ当にめんどくさかったのです。

 (※第60話『突然の皇子様の来訪(3)』一部参照)


「なるほどな。

 要は大仕事と言う事だ。

 そうゆう事に長けた者達を紹介しよう。

 相談しながら、協力してやってくれ」


「は、はい!

 拝命致しました」


「話は変わるがかぐやよ、いいか?」


「はい、何でございましょう?」


「此度の件は、私も追従するだけで何もしておらなかったのだ。

 故に情報に疎くなってこの様な体たらくだ。

 其方は情報をどう集め、どの様に扱えば良いと思うか?」


「ええ……、情報にもいろいろあります。

 例えば天気、天気は西から変化します。

 ですから西の天気を知り、その情報を天気が変わる前に入手できれば、それは有益な情報です。

 天気が変わった後になってしまえば何の役にも立たない情報です。

 天気の場合は西が情報の発信源ですが、実際の情報の発信源は様々です。

 至る所に目を届かせなければなりません。

 中臣様は祭祀の氏である事を活かして各地の神社に人を配置していると仰っていました

 つまり情報を入手する方法、広く細かい網の目の様な入手経路、そしてそれを素早く伝える手段、この三つが必要かと思います」


「なるほどな、網の目の様な……か。

 考えてみよう。

 手段に当てはあるか?」


「申し訳ありません。

 すぐには思い浮かびませんが、方法はあると思います。

 少し時間を頂きたく存じます」


「ああ、頼むよ」


 私は皇子様に礼をして退室しました。


明日は花見に行きたいな♪

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