与志古様、ご来店
だいぶ回復しました。
(^^)v
難波へと戻り、表向きはいつも通り営業中です。
従業員の皆んなにはまだかぐやコスメティック研究所難波本店(?)の閉鎖を知らせていませんので少し心が痛みます。
部下に転勤命令を出す上司の気持ちってこんな感じだったのでしょうか?
せめて一ヶ月前には開示してあげたいけど、政治が絡むので源蔵さんすらにも言ってありません。
聞く方も、言う方も「ここだげの話だけど……」は絶対に”ここだけ”ではなくなりますから。
そんな悶々とした日々を送っていると、与志古様から連絡がありました。
時節の挨拶から始まり、天気や近況、時勢、などを婉曲に言いつつ、末尾に本題が添えられております。
要約しますと……
『かぐやさんのところへ参りたいけど、空いている時間はある?
あなかしこ』
という内容でした。
私には真似の出来ない言い回しなので、要点と比較的空いている時間帯などの一覧をずらずらと書いて、最後にお好きな時にいらしても歓迎しますと結び、返信の木管を伝令の方に持たせました。
どちらかと言うと、社内メールの書式ですね。
『……部……課長様
お疲れ様です。
総務課のかぐやです。
事務室の電気工事の日程につきまして、以下の通り行います。
ご確認の程、宜しくお願いします。
記
〜〜〜〜
以上』
多分、平安時代辺りになると紙も普及して、高貴な方が競って解り難い言い回しや、面倒な方違えとかするのでしょう。
ですが飛鳥時代では陰陽五行の出番は引越しや新築くらいで、どちらかと言えば亀卜が尊ばれています。
ちなみに陰陽道の第一人者に近いのが私のお友達の衣通姫です。
忌部氏に皆さんは衣通姫に星周りについてお伺いする事が多いのだそうです。
元祖・宜保◯子さんみたいですね。
【天の声】宜保◯子さんは霊能者!
◇◇◇◇◇
「かぐやさん、ここが貴女の言っていた美容のための施設なのね。
楽しみにして来たわ」
「ようこそ、与志古様。
ごゆるりとお寛ぎなさって下さい。
私達の総力をあげて歓待いたします」
「ふふふふ、お願いね」
蒸し風呂から始まって、垢すり、オイルパック、リンパマッサージ。
そして仕上げはこれです。
チューン(左)! チューン(右)!
経産婦さんには大好評のエステです。
多分、これだけは現代でも通用するはず。
中臣様、喜んでくれるかな?
与志古様はお食事を召し上がって大満足している様子です。
希望があれば食事の後、お化粧もします。
「はぁぁ〜。
こんなに凄いなんて思っていませんでした。
貴女の事をよく知っているつもりでいましたが、まだまだ奥が深いのね。
難波の女性が夢中になるのもよく分かりました」
「ご満足頂けました様で、私達も張り切った甲斐がありました」
「ええ、大満足よ。
仏教には極楽浄土という来世があると聞きましたが、ここが極楽だとしても驚かないわ」
「勿体無い事です」
「ところでかぐやさん。
少しお話したい事があるのだけれど、何処か静かな場所は無いかしら?」
なんでしょう?
真人クンの事かな?
だとしたら壁にミミちゃん障子にメアリーです。
「このお屋敷は人の出入りも多いですので、内密なお話をするのには向いていないかも知れません。
私の個室は御座いますが、いつ人が入るやも知れません。
もう一つお屋敷がありますので、そちらに参られますか?」
「ええ、お願いするわ」
私は刀自さんの出産に使った屋敷へ、与志古様を案内しました。
少し離れているので、護衛さんとお付きの方も一緒です。
「このお屋敷は?」
「あちらの施設が完成するまでの半年間、私が住んでいたお屋敷です。
今は主にこの地域の方の産場として利用されています」
「これが産場なの?」
「額田様の出産に際しましては、万全を期すためにここで試行錯誤をしておりました。
あちらのお屋敷では額田様が万全の体制を整えて、ご懐妊から妊娠中のご支援、出産、産後の看護までを全て取り揃えました。
その結果、あの様になってしまいました……」
「なるほどね……。
貴女の本気というのは底が知れないのね。
この屋敷で前準備をしていたと言うのが貴女らしいわ。
失敗の危険を回避するために万全の体制を整えるという発想は鎌足様が得意とするところですが、貴女が同じ能力を持っているという証左なのでしょう」
与志古様こそ飛鳥時代にリスクマネジメントの考え方をしれっと仰るのが凄いです。
「そんな。単純に臆病なだけです」
「臆病なだけであの様な屋敷を半年で建てないわ。
決断力もある証拠よ」
「それこそ追い詰められていましたし、実家の支援の賜物です」
「讃岐の……?
そうね、貴女の養母様は私も存じています。
まさか讃岐にいらっしゃるとは思いませんでした」
「え? 母様をご存知だったのですか?」
「ええ、噂だけですが。
それよりあまり暇もありませんので、話を進めますね。
かぐやさんは飛鳥に新しいお屋敷を建てるのですよね?」
「?!」
「何故知っているのか不思議そうね。
鎌足様のよく知る下級官子が皇子様と額田様のための離宮を建てるため、幼い女子の舎人が探し回っていると言っていたの。
そんな事をする女子と言えばかぐやさん以外いないでしょ?」
情報が早い。
そう言えば昔、鎌足様は全国の神社に間諜を潜ませている様な事を仰ってました。
(※第40話『宴、最終日(2)・・・中臣鎌足』ご参照ください)
いつの時代も情報は重要です。
♪ よぉーく考えよ〜
「ええ、その通りです」
嘘を言っても始まりません。
「警戒しなくていいわ。
事情も分かっているから。
皇子様がどの様に考えて、貴女に離宮を作らせるのかもね」
なんかきな臭い?
「私も東国出身の宮人との橋渡しをしているの。
鎌足様は皇太子様につきっきりだし、上野国出身の私が頼まれてしまったのよ。
それでね。
その為の準備が大変で貴女がどの様に手配したのか教えて欲しいのよ」
与志古様の口ぶりでは皇子様や私がどうするつもりなのか知った上で相談しているみたいです。
「それは構いませんが、空き家でしたらたくさんありましたよ?
それを抑えておくだけで宜しくありませんか?」
「屋敷が家格に合っていればいいけど、多分無理でしょう?
やはり建て替えなければならないかしら?」
「あまり大々的やりますと、勘繰られるかも知れませんか?」
「そうね……。
だから、貴女の段取りの良さに頼りたいの。
私は宮の中を取り仕切る事には慣れていますが、建設の知識がないのでどうしようかと思い病んでいます」
「他に頼れる方が居ないから自分で計画するしかなかっただけです。
建設の担当者が頑張ってくれなかったら何も出来ませんでした」
「その担当者は借りられないの?」
「申し訳ありません。
向こう三ヶ月間、離宮の建設に掛かりっきりになります。
「何かいい方法が無いかしら?」
「そうですね。
分からないことばかりですので、まずは情報集めですね。
何件用意して、どのくらいの屋敷を用意するか調べましょう。
その上で、残り日数と、人手を当て嵌めて、出来る事を考えます。
決行日から逆算して、出来ないことはバッサリと切り落とすしか無いと思います」
「うーん。
……やはりかぐやさんは頼りになります。
私は今までやらなければならない事をどうやって片付けようと、そればかり考えていましたけど、出来ない事を切り落とすなんて思いもよりませんでした。
だけど、不満が出ない様にするには何か手はあるの?」
「考えてみます。
一月後が決行日なら、その中で出来る事を致します。
三月後が決行日なら、準備に時間が割けます。
半年後が決行日なら、聞き入れられる要求の幅が広がります。
出来る事をやるだけですし、不満が出たらその後考えます。
大事の前の小事に構っていられません」
「本当に貴女は……。
真人も大変な人を好いてしまったみたいね。
宜しくお願いするわ。
私も精一杯やるから」
「はい、宜しくお願いします」
何故か分かりませんが、遷都に伴う集団引越しの準備にも携わる事になってしまったみたいです。
評価そのものは作者本人の実力によるもので低い事は受け入れております。
ただ、⭐︎1評価というのは、評価というより悪意を向けられている気持ちになり、昨日は自分でも驚くくらいに筆が鈍りました。
切磋琢磨しますのでご支援のほど宜しくお願いします。




