表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

187/585

遣唐使船、発進!

♪ さらばぁ〜 日本(やまと)よ〜 旅立ぁ〜つ 船わぁ〜



 皇子様からかぐやコスメティック研究所飛鳥支店の出店の打診を受けた翌日、(みなと)の遣唐使船に変化が現れました。


 人足さん達がわらわらと乗り降りして、木箱らしき物を積み込んでいって、船が沈み込んでいます。

 しかし百人以上の乗員が横になれる広さを持つ飛鳥時代最大の大型船のはずですが、その割には小さい気がします。

 遠くから見ている所為なのかも知れませんが、現代の高速船や大型フェリーを見慣れている私にとって、琵琶湖に浮かぶ観光船と同じかそれよりも小さな船に真人クンと麻呂クンが乗って海を渡るのかと思うと、堪らなく不安になります。

 大型船(おふね)を召喚できる光の玉(チート)が心から欲しいと思っています。

 2人のためならおねーさん、24万8千光年先まで航海できる戦艦を召喚しちゃうよ!


 ♪ 宇宙戦艦 さぁ〜ぬぅ〜きぃ〜〜〜


【天の声】怒られるぞ!


 しかしこの日はそれ以外動きはありませんでした。

 そして次の日。

 たくさんの人がいます。

 もしかして出発!?


 何か旗のような物を掲げていて、皆さんその旗を見ているみたいです。

 しかし旗はピクリとも動きません。

 風待ち……なのかな?


 ずっと見ている訳にもいかずお仕事に戻って、お昼休憩の時に見たら式典みたいな事をやっていました。

 従業員(スタッフ)に断った後、(みなと)へと向かいました。

 出来るだけ近づいてみようとしてみたのですが、300メートルくらい離れたところに衛兵さんらしき人がズラリといて、睨みを利かせて近寄れません。

 帝が出席されているからその護衛なのでしょう。

 しかし、この距離では人が居るのは分かりますが、誰が誰なのかは全然わかりません。


 見える(ぜっこう)ポジションを探してウロウロしましたが高低差が無いので殆ど変わりありません。

 木に登れば見れるかな……と木に手が掛かった時、声が掛かりました。


「オイッ、そこの女子(おなご)!」


 ヤバい、怒られる!

 ……と恐る恐る声のした方を見ると、そこには知った顔がありました。

 物部宇麻乃(もののべのうまの)様です。

 笑っているので、私と知っての事ですね。


「宇麻乃様?」


「一応、仕事なんでね。

 見送りに来たんだ?」


「ええ、船が出そうな様子だったので……」


「もうすぐ乗船だ。

 風が吹いている間に沖に出なきゃならないからね。

 では、怪しい者はしょっぴかなければならないので同行願うよ」


「はぁ……」


 やっぱり見逃してくれないんだ。


「じゃあ、こっちに」


 こうして宇麻乃様に連れられて行った先が儀の真ん前。

 何、これ?

 あ、真人クンと麻呂クンだ。

 特等席じゃん!


「後ほど取り調べさして貰うので、ここで大人しくしているように、ね」


 このちょいワル親父め、カッコいい!


 (みなと)では航海の安全を祈願して祭祀 (さいし)が続いています。

 宮主(みやじ)さんは見覚えはあるような気がしますが、知っている方ではありませんね。


 麻呂クンがお父様に気が付いてこちら側を向きました。

 あ、私に気が付いたかな?

 横にいる真人クンに指を差して教えているみたいです。


 うふふふふふふ。


 それにしましても真人クンはぶっち切りの最年少ですね。

 この前、十歳になったし。


 祭祀が終わった様です。

 いよいよ乗船です。

 乗る船は決まっているみたいです。

 多分、研修期間中に振り分けたか、仲良しグループを作ったのか、くじ引きをしたのでしょう。

 難破した時『あちらの船に乗っていれば……』と後悔する可能性だってある訳ですから。


 私は小さく手を振って二人を見送ります。

 二人も手を振ってくれます。

 宇麻乃様は……静かに立っているだけですね。


 全員が乗船して、最後に責任者らしい四人が書を受け取り、二人づつそれぞれの船に乗り込んで橋桁が取り除かれました。

 いよいよ出航です。

 乗船した人達は皆、甲板に出て手を振っています。

 私も手を振って応えます。

 真人クンは………いた!

 横に麻呂クンもいます。

 私が大きく手を振ると、二人も大きく手を振ってくれます。


 船はゆっくりと離岸して、離れていきます。

 海に落ちそうなくらい乗り出している人がいますが大丈夫かな?

 ゆっくりゆっくり船は進み、かなり沖の方へ出たところで、陸にいる皆さんはバラバラと戻って行きました。

 私は去り行く船を目に焼き付けたい気持ちでずっと見送ります。

 宇麻乃様もずっと立って見送ったままです。


 すると向こうから声がしました。


「かぐやか。

 見送りに来ていたのだな」


 中臣様でした。


「差し出がましいと思いましたが、船が出る様子を見ていても立ってもいられなくなり、来てしまいました」


「いや、有難い。

 真人に代わって礼を言う。

 ところで宇麻乃よ。

 周辺の警備にあたっていたのではなかったのか?」


「はい。

 警備しておりましたところ、木の上から祭場に物を投げ入れそうな不審者を見つけましたのでひっ捕えました。

 これから取り調べをします」


「そうか……、程々にな」


 何? 程々って?


「我が屋敷を使うと良い」


「はっ!」


 え? マジに取り調べされるの?

 温情じゃなかったの?

 こうして私は宇麻乃様にドナドナされていったのでした。


 ◇◇◇◇◇


 中臣様の屋敷に通されて、中に入ると宇麻乃様はいつもの調子に戻って話し掛けてきました。


「お嬢ちゃん、申し訳ないね。

 ああゆう場では建前は大切なのでね」


「いえ、木に登ろうとしたのは事実ですから。

 申し訳御座いませんでした」


 深々と謝ります。


「そうだね。

 お嬢ちゃんを見つけて連れて行こうと見ていたけど、まさか木に登ろうとした時は焦ったよ」


 大事な息子が旅立った直後だからなのか、声にハリがありません。


「だいぶお疲れに見えますが、宇麻乃様こそ大丈夫ですか?」


「あ、ああ、そうだね。

 お嬢ちゃんから見てもそう見えるのは重症だ」


「麻呂様が唐に行ってしまうなんて予想もしていませんでした」


「いや……、そうでは無いんだ」


「え? 何か違うのですか?」


「中臣真人殿に同行したのは『倉津麻呂』という名の学生なんだ。

 物部麻呂では無いんだ」


「え……、それは与志古様からも伺いました。

 改名されたのですよね?」


「それも違うんだ。

 これは内密にして欲しいのだけど、いいかい?」


 何だか深刻な話になりそうです。


「私が聞いて宜しいのですか?」


「うん、そう言って確認出来るお嬢ちゃんだから話しておきたいんだよ」


 かなり内密な話みたいです。


「私の息子、物部麻呂はこの先ずっと石上神宮に引き篭もっている事になっているんだ。

 船に乗って唐へ渡ったのは別人なんだよ」


 ???


「申し訳御座いません。

 理解が追い付きませんでした」


「そうだろうね。

 全部(すべて)は言えないものだから仕方がない。

 分かって欲しいのは、唐へ渡ったのは物部麻呂では無いという事なんだ。

 あそこには私の息子は居なかったんだ。

 だから私の息子が、物部麻呂が唐へ渡ったとは口外しないで欲しいんだ。

 理由は言えないけど、理解して欲しい」


「分かりました。

 私が口を紡ぐ事で済むのであれば容易い事です」


 聞きたいことは山ほどありますが、宇麻乃様が理由もなしにこんな事を頼むはずもありません。


「恩にきるよ。

 本音を言えば、父親として送り出してあげたかったんだ。

 お嬢ちゃんがいたおかげで、見送った気分になれたよ。

 ありがとう」


 何か深い事情があるのでしょう。

 何も聞かない事が礼儀ですね。


「いえ、私は怪しい女子としてしょっ引かれて、一時預かりされただけですから。

 申し訳ない事をいたのは私です」


「ははははは、いいね。

 お嬢ちゃんは。

 この先大変だけど、無理しない様に」


「え? はい。

 気をつけます。

 宇麻乃様も無理なさらず」


「そうだね。

 出来ればそうしたいよね」


 何か会話が噛み合っていない気がしますが、宇麻乃様のおかげで見送りも出来たのでこれ以上深く考えるのは止しましょう。


 遣唐使船が出航したし、飛鳥支店の準備に取り掛からなきゃ。


遣唐使船の大きさは全長30メートル、幅8メートルくらいで150トンくらいの積載量があったみたいです。

琵琶湖汽船『ビアンカ』が全長66メートル、幅12メートル、旅客定員604名ですので、不安になるのも致し方がないと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ