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【幕間】真人の決意(1)

ふてほどが終わってしまいました。

続編を強く希望します。


葬送のフリーレンは続編決定……まだ?

 (※唐へと旅立つ事になった真人クン視点の幕間です)


 僕の覚えている中で一番古い記憶は、綺麗なお姉さんがピカピカ光る光の玉をその掌から出している姿だ。

 でも何故か誰も驚かない。

 きっと皆んな知っているからなんだ。

 光り輝くお姉さんを見ていると、僕は気分が悪いのも治るし、嫌な気持ちも何処かへ飛んでいってしまうんだ。


 とっても大好きなお姉さん。

 かぐや様だ。


 次の僕の記憶は、麻呂と御主人(みうし)様と衣通(そとおし)様、そしてかぐや様が一緒に居る光景だ。

 それを思い出すだけで心が暖かくなる。

 僕はこの記憶だけは決して忘れない。

 忘れたくない。


 ずっと五人一緒だったかも知れないし、その時だけだったのか分からない。

 その記憶には続きがある。

 僕は麻呂君と一緒に遊んでいて、かぐや様は御主人(みうし)様と衣通(そとおし)様と一緒に居る。

 御主人(みうし)様とかぐや様仲良くしていると何故か面白くない気持ちになるから、かぐや様に構ってほしくて話し掛けると、優しく答えてくれるんだ。

 どんな事でも僕のいう事を褒めてくれるんだ。

 そしてもっと頑張れって応援してくれる。

 僕は優しくて綺麗なかぐや様が大好きだった。


 そんな日がずっと続くと思っていたけど、いつの間にか御主人(みうし)様が旅立ってしまった。

 そして、かぐや様と仲良しの衣通様が居ない事が増えた。

 そして、かぐや様が出掛けたまま戻って来なくなったんだ。


 母上様に聞いたら、御主人(みうし)様と衣通様が夫婦(めおと)となって、倉橋に居を構えたそうだ。

 そしてかぐや様は難波へと出掛けて皇子様から大切なお仕事を仰せつかったみたいだった。

 かぐや様はとても物知りで、どんな事でも出来てしまうすごい人だ。

 皇子様から大切な仕事を任されるのは当たり前なんだ。

 それに引き換えて僕は何も出来ないし、何も仰せつかる事なんてない。

 子供だから?

 でも、初めて会ったかぐや様は今の僕くらいの年だったはずなのに、既に領内の仕事をしていたと聞いている。

 たくさん書を読んでいたし、舞を舞う姿は誰よりも綺麗だった。

 僕が子供のままで、かぐや様がどんどん大人になってしまったら、僕なんか相手にして貰えないかも知れない。

 そんなの嫌だ!

 だからたくさん書を読んだ。

 たくさん勉強した。

 それしか大人に近づく方法を知らないから。


 父上様は滅多に会えない方だけど、僕の事や母上様を気に掛けてくれる。

 将来、自分が何になりたいか決めておきなさいと言われたから、僕は考えたんだ。

 そして国博士になりたいと思ったんだ。

 国博士って国で一番、頭の良い方だって聞いたから。

 でも今の僕は国博士どころか、麻呂君にすら敵わない。

 御主人(みうし)様には到底敵わない。

 多治比様や秋田様の足元にも及ばない。

 かぐや様にはどうやったら敵うのかすら分からないよ。

 僕は何て駄目な子なんだ。

 せめて麻呂君だけには勝ちたい。

 だからたくさん書を読んだ。

 麻呂君が剣の稽古をしている時も、蹴布(シューフ)で遊んできる時も、ずっと書を読んだんだ。


 頑張ったおかげで、一回だけだけど父上様に

「そんな事をよく知っていたな」と褒められたんだ。

 お父上様もたくさん書を読む方で、そのお父上様に誉められたということは、ひょっとして僕はすごく頭が良くなったのではないか?

 そう思った時期が僕にもあった。

 だけど……。


 かぐや様が一日だけ戻って来た時、僕はかぐや様に会いたくて会いたくて母上様と出迎えたんだ。

 そこには僕が思っていたかぐや様じゃないかぐや様が居た。

 ずっとずっと大人になって、綺麗だったかぐや様がものすごく綺麗になっていたんだ。


「真人様、久しぶり~」


 かぐや様は以前の様に話し掛けてくれるのに、僕は声が出ません。

 こんな綺麗な人がこの世に居るなんて……。


「かぐやさんもしばらく見ないうちに大人っぽくなりましたね。

 かぐやさんは今、お化粧しているのよね?」


 母上様は何事もないようにかぐや様に話し掛けました。

 僕は声の出し方も忘れてしまいそうなのに。


「はい、額田様のお化粧係の方からお化粧品と道具をご紹介頂きました。

 それを元に工夫を凝らしたお化粧を施しております。

 与志古様もお試し致しますか?」


「ええ、宜しくお願いするわ」


 こうしてかぐや様は母上様の化粧を始めました。

 すごくもどかしい化粧です。

 白い粉をぱっぱと塗ってしまえばいいのに、たくさんの筆を使って何度も何度も顔をなぞります。

 思っていたより十倍くらい時間を掛けて化粧が終わると、母上様が別人のようになっていました。


「どう、真人様、お母様は綺麗ですか?」


 見とれていると、かぐや様に急に話しかけられてつい思っていたことが口から出てしまった。


「う、うん。すごくキレイ。

 おねーちゃんも」


「あら、ありがとう。

 嬉しいわ」


 自分の言葉がとても恥ずかしい事に気がついたときにはもう遅かった。

 顔がカーって熱くなりました。

 僕の顔が赤くなっていることがバレていないか、そればかりが気になってしまって何も言葉が出なくなってしまった。

 せっかく会えたかぐや様から逃げ出したくなった。


 次の日、かぐや様は早々に難波へと戻ってしまった。

 でもまた会いたいと思うよりも、今の僕では会うのが恥ずかしかった。

 かぐや様は遥か遠くへ行ってしまった、そんな気持ちだ。

 大人と子供、もしかしたら大人と赤ん坊くらい差があるような、そんな敗北感で心が一杯だった。


 僕は以前に増して書を読んで、かぐや様と同じように稲の研究をして、かぐや様と同じように困っている人を助けて、いつもかぐや様だったらどうするのかって考えながら行動するようになった。

 麻呂君には「かぐや様って運動もすごいんだぜ」と言われたときには、絶望的な気分になった。


 そんなある日、お父上様がお帰りになった時、真剣な顔で聞いてきた。


「真人よ。そなたは唐へ行って学びたいと思うか?

 今なら唐で一番の僧について学べるかもしれぬ」


 それを言われた瞬間、これだ! と思った。

 唐へ行って学べば、かぐや様と同じくらいになれるかも知れない。


「はい! 唐へ行きたいです」


 すると母上様が驚いた声で

「真人、唐へは船に乗って一月もの間、航海しなければ辿り着けないくらい遠くなのよ。

 船って中に水が入ったら沈むのよ。

 海には逃げ場はないのよ。

 危険すぎるわ!」

 と反対しました。


 でもお父上様は母上様の言葉を聞かなかったの様に

「そうか、真人は唐へ行って学びたいのか。

 よく言った!」


 何故かものすごく褒められました。

 厳格な父上様には珍しいことでした。


「そんな、唐なんて遠すぎます。

 生きて帰ってこれるかも分からないのですよ」


「与志古、訳は後で話す。

 真人を唐へ行かせてやってくれ」


「あにうえさまー、うぇーん」


 その日の夜、父上様と母上様はずっと話し込んでいたようでした。

 そして翌朝。


「真人、本当に行きたいの?

 どうしても行きたいの?

 行かなきゃ駄目なの?」


 母上様が僕に訪ねます。


「はい、僕は唐へ行って学ばなければなりません。

 唐で学べば、誰よりも賢くなって、偉くなって、国博士になれるかもしれません」


「ふぅ……。

 鎌足様、真人の意思は固いようです。

 本当は行って欲しくないことに変わりはありませんが、真人が唐へ行く事を受け入れます」


 やった! 母上様が許可してくれた!

 渋渋だけど。


 その事を麻呂君に言ったら、羨ましがられた。

 じゃあ頼んでみるかと聞いたら、相談してみるっていうから、その事を父上様に言ったら、何故か麻呂君も一緒に行くことになってしまった。

 唐ってそんな簡単に行けるのかな?


 でも変な事を言われたんだ。

 僕は本当は十一歳なのに十歳になりなさい、とか。

 麻呂君は唐に居る間、名前を「倉津麻呂」としなさい、とか。

 よくは分からないけどそれで唐へ行けるのならいいかな?

 でも何故だろう?


 唐へ行くことが決まってから、父上様が唐の言葉を話せる方を招いてくれて、麻呂君と猛勉強を始めた。

 もうじき唐へ行く前に難波へ行くときになって、かぐや様が讃岐へ帰ってきた。

 僕は決心が鈍るのが嫌だったから、かぐや様には内緒で行くつもりでいたのに、母上様が教えてしまったらしい。



 (つづく)

前話で猫の話が出ましたが、猫が愛玩動物として飼われるようになったのは平安時代からというのが通説です。

奈良時代にはネズミを駆除する益獣として唐から輸入された猫が飼われていたみたいで、更に古くは弥生時代の遺跡から猫の骨らしき物が発掘されたそうです。


では飛鳥時代に猫が飼われていたかと言うと……、

ゲノム解析の結果、現代の猫の祖先は平安時代の九州をルーツとするという研究結果があり、飛鳥時代に猫を飼うのは一般的ポピュラーではなかった可能性が高そうです。

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