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必ず帰ってくるおまじない

少し駆け足です。

 讃岐へ帰省してから私の生活は、以前と同じ様な生活に戻りました。

 灘波京(とかい)でエステ店を切り盛りする超人気(カリスマ)エステシャンから、農業に勤しむ田舎領主の娘へ、です。

 ロースちゃん久しぶり〜。


 もー♪


 今年もいつもの年の様に仕事……とはいかなくなりました。

 真人クンが居なくなると、中臣氏の離宮が讃岐にある意味がほぼ無くなります。

 なので離宮は真人クンが難波へ行くと同時に閉鎖することになりました。

 なのでこれまで共に頑張ってきた舎人さん達も讃岐を離れる事になるそうです。

 何でも川原に出来た新しい宮でそこそこの地位(ポスト)が用意されているとか。

 いわゆる栄転ですね。


 偉くなったからと言ってお礼参りに来なくていいからね。

 嫌がる舎人さん達を無理矢理水田に突き落とした思い出も今となっては懐かしい思い出です。

 お互い笑って水に流しましょう。

 水田だけに……


【天の声】水田というより、泥沼だけどな。


 何はともあれ、舎人さん達の仕事の引き継ぎをしなければなりません。

 引き継ぐのを誰にしましょう?

 土下座のキレの良さはピカ一とは言え太郎おじいさんは結構なお年なのでそろそろ引退です。

 すると長男の太郎さんに農業指導と土下座道を引き継ぐのかお願いしましょうか?

 でも、品種改良は字の読み書きが出来ないといけません。

 太郎さんに出来るかな?

 ……ジャンピング土下座。


 そう言えば与志古様はどうされるのだろう?

 中大兄(オレ様)皇子がミミちゃんを息子の許嫁にすると言っていたから、そこへ行くのかな?

 確か近江だったかな?

 確か新快速が通るところだった様な?


【天の声】大津京駅という名らしいが、”京”ではない。


 ◇◇◇◇◇


 舎人さん達の事もありますので、昨日に続いて今日も与志古様に御面会をお願いしました。


「連日、申し訳ございません。

 今まで稲の品種改良に取り組んでくれた方々がお戻りになると伺いましたので、引き継ぎなどにつきましてお伺いしたいと思いまして」


「いいのよ。

 あまりゆっくりして居られないから片付けられるものは片付けないとね」


「ところで与志古様は如何なさるのですか?

 飛鳥ですか? それとも近江でしょうか?」


「近江?

 ……ああ、それは暫く無いわ。

 私が行く先は難波京よ。

 だから時々はかぐやさんに会いに行けそうね」


「難波に中臣様の宮はありましたか?」


「私が行く先は車持の宮よ。

 暫く実家のやっかいになるつもり」


「何か……大変そうですね」


「色々と政治的な(しがらみ)とかあるのよ」


「難波では私も歓待させて頂きますので是非お越し下さい。

 額田様だけで無く、皇祖母尊(すめみおやのみこと)様がいらっしゃいます」


「かぐやさん、皇祖母尊様とも面識があるの?」


「ええ。与志古様にお化粧品を褒められましたので、額田様にどなたかご紹介したいってお願いしたのです。

 そうしましたら間人皇女様をご紹介されまして、いつしか皇祖母尊様もご一緒に……

 成り行きと申しましょうか」


「貴女の事だから向こうでも活躍するだろうと思っていましたが、そこまでとは……」


「ご本人はもう政には関わりたく無いご様子で、ゆっくりお過ごし頂いております」


「後宮に居た時に皇祖母尊様に並々ならない程お世話になりましたから、是非ご挨拶に行きたいわね。

 是非、寄らせて頂くわ」


「お待ちしております。

 ところで真人様は本日はお勉強中なのですか?」


「ええ、唐の言葉を習っているの。

 字は書けるのだけど、言葉も読み方も違うから苦労しているみたいね」


「すると、麻呂様も?」


「ええ、二人で頑張っているみたいよ」


「あの……真人様が国博士になりたいと唐に渡るというのは理解しましたが、どうして麻呂様も?」


「私達からはお願いはしていないわよ。

 麻呂君と真人と話をしているうちに、麻呂君が一緒に行きたいと言いだして、それを父親の宇麻乃(うまの)様に相談して、鎌足様に相談しているうちに話が進んでしまったみたいなの」


「男の子同士で何かあったのでしょうか?」


「どうでしょう?

 麻呂君については本人か父親の宇麻乃(うまの)殿に聞いてみないと分からないわ。

 あの子煩悩の宇麻乃(うまの)殿がそうさせたという事は何かあるかも知れないわ」


「可愛い子には旅をさせよとは言いますが、厳しすぎやしませんか?」


「そうね。私も危険だから考え直して欲しいと何度か言ったけど、鎌足様は聞き入れてくれないし、本人がどうしても行きたいと言うし、私もこれ以上反対できなかったの」

 真人達が唐へ出立したら、どうしてこうなったのかは話すわ。

 それまでは今まで通り、お願いね」


 何か深い理由がありそうです。

 気にはなりますが、人のプライバシーに踏み込見たく無いので今は自粛です。

 とりあえず今日は、宮を後にしました。


 唐へ行くのを止められないのなら、せめて気分良く出立出来る様、何か贈り物を考えてみましょう。


 待ち人といえば幸せの黄色いハンカチーフを軒下にぶら下げておくとか……?

 ……なんか違いますね。


 流れ星に願いを……と言っても流れ星を見つけるの大変だし。

 あっという間に消えてしまう流れ星が消えるまでに願い事ができた人なんて居るのかな?

 そうだ! 光の玉(チート)を流れ星みたいに飛ばして願い事するとか?

 ……ご利益無さそう。


 私が知る必ず帰ってくるおまじない、というか歌があったはず。

 えーっと……何だっけかな?


 ◇◇◇◇◇


 早いものでいよいよ出発の日です。

 まずは難波宮へ行って、手続きや向こうへ行くための準備などをするそうです。

 結局、真人クンから直接話を聞く機会はありませんでした。

 何となく避けられていたみたいです。

 でも今日は逃がさないからね!


「真人クン、いよいよ出発だね」


「うん……」


「無事に帰ってくるって約束を忘れないでね」


「うん……」


「麻呂クン、病気しないでね」


「うん」


「はい、これ。二人に」


 そう言って用意した扇子を二人に一つずつ手渡しました。


「これは?」


「必ず帰ってくるというおまじないを書いた扇子よ」


「ありがとう」


「この歌を書いた紙を持っていると逃げ出した猫も帰ってくるそうよ」


「何だよ、それ!」


 麻呂クンが笑いながら文句を言います。


「おねーちゃん」


「なに、真人クン」


「必ず帰ってくるから」


「うん、待ってる」


「扇子のお礼は何がいい?」


「そうね……花がいいな」


「帰ってくる前に萎れちゃうよ」


「花を本に挟んでおくと、花の水分が紙に吸い取られて花の色が長持ちするの。

 押し花っていうの」


「そうなんだ。

 おねーちゃんはやっぱり物知りだね。

 珍しい花を持って帰るからね」


「う……ん」


「オレもお礼を持って帰るよ。

 かぐや様、何がいい?」


「うーん、そうね。

 じゃあ珍しくて綺麗な貝殻をお願い」


「分かった。

 絶対持ってくる。

 真人殿もオレが守るから安心してくれ」


「うん、分かった。

 でも心配が倍になりそうよ」


「ひどいっ!」


「あはははは」


 無理やり笑っているのが見え見えです。

 私も今に見にも泣いてしまいそう。

 でもこの『竹取物語』の世界に原作補正というものがあるのなら、偽物でもいいから必ず持って来てくれるよね?

 大切にするから、必ず持って帰って来てね。


「では行って来ます」

「じゃあ、行くぜ」


「じゃあ、元気で」


 二人は手に手を取って、出発したのでした。



 たち別れ 因幡(去なば)の山の峰に生ふる 松(待つ)とし聞かば今帰り来む



大津京駅は大津市の要望により駅名を変えたのですが、大津には(みやこ)はなく、宮しか無かったそうです。

なので大津京駅というのは歴史的、学術的には誤りではないかとの指摘があります。

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