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建皇子(たけるのみこ)

登場人物がまた増えました。

 本日もかぐやコスメティック研究所は元気に営業しております。

 ケー・シー・エル!

 イェイ!


 私は怪我をしていない左腕に包帯を巻いて接客中です。

 幸いにして怪我を見せろと言う人は居ませんので、何も違和感なくやっております。

 しかしアレですね。

 今、私は数えで十六歳、満年齢で十四歳。

 そして腕には包帯。

 これで眼帯をしていたら……。

 シンクロ率が爆上がりしてリフトオフしてしまいそう。

 人類がオカンになってしまったらどうしよう?


 ◇◇◇◇◇


 本日も皇祖母尊(すめみおやのみこと)様がお越しになりました。

 ただ今日はもう一人、小さな男の子を連れて来ました。


 誰でしょう?


「ようこそお越し頂きました。

 御ゆるりとお寛ぎ下さいませ」


「今日も世話になるのう」


「こんにちは」


 男の子に挨拶してみましたが、皇太后様の影に隠れてしまいました。


「この子は建皇子(たけるのみこ)、可愛い孫じゃ。

 婆ぁが居らぬと寂しがるのでな、今日は連れてきた。

 構わぬじゃろ?」


「ここは母と子供のためと思い建てた屋敷に御座います。

 子供にとって居易い場所ですので、いつお越しになられても構いません。

 歓迎致します」


(たけ)や、だそうじゃ。

 今日はここで一緒に過ごそうかえ」


 ゴッドマザーの皇祖母尊(すめみおやのみこと)様も孫に対してはメロメロメロンな様です。

 現代知識中で建皇子の名前に見覚えがありますが、誰の子だったのか思い出せません。

 根掘り葉掘り聞くのは失礼なので、聞かずにいます。


 皇祖母尊(すめみおやのみこと)様に施術している間、建皇子は何も喋らずジーッと興味深げに見入っていました。


「ふふふふ、この子はのう……三つになるのじゃが、一度も言葉を話した事が無いのじゃ。

 (おし)というヤツじゃな。

 それ故に父親からは遠ざけられておるので婆ぁが面倒を見てやっているのじゃ」


「父親……ですか?」


「そうじゃ、建は葛城の息子じゃ」


 葛城というと、中大兄(オレ様)皇子?

 思い出した!

 中大兄(オレ様)皇子には『唖不能語』と言われた皇子がいたんだ。

 という事は十市皇女様の許嫁にさせようとしている大友皇子の兄弟という事かな?

 でも、聾唖(ろうあ)とか言語障害とは少し違っている様に見えます。

 どちらかと言えば、精神(こころ)に起因した病……子供なのに表情が抜け落ちた様な感じがします。

 あまり詳しくは無いのですが、自閉症スペクトラム(ASD)というものではないでしょうか?


「建皇子様。

 私はかぐやと申します。

 良かったらここにたくさん来て下さいませ。

 ね。」


 私はしゃがんで、建皇子様と目線を合わせて、丁寧に話しかけてみました。

 目を合わせてくれませんが、特に嫌がっている様子はありません。


「かぐやよ。

 其方(そち)は建が疎ましくないのかえ?

 臆病な者は、建には物の怪が憑いていると言うて近寄ろうともせぬわ」


「私は赤子の出産に数多立ち会いましたが、皆違っておりました。

 十人いれば十色、百人いれば百色に御座います。

 他の誰かと同じである必要は御座いませんし、違って当たり前に御座います。

 でも三つ子の時はさすがに似ておりましたけど」


「ほっほっほっほ。

 其方(そち)はホンに面白き娘よの。

 おべんちゃらを並べる(やから)はおったが、建を普通の子として遇したのはそちが初めてじゃ」


「おべんちゃらがどのようなものかは存じませぬが、子供には得手不得手が御座います。

 建皇子様が出来ないことを嘆くよりも、何か得意なものを見つけることが、成長への張り合いへと繋がると思います」


「ほう……得意かえ。

 其方(そち)はどのようなものが思い付くのか」


「例えば……絵を描いてみるとか、楽器のような音がする事に挑戦するなど、でしょうか?

 必ず得意が見つかると思います。

 それも人並外れた得意が、です」


「ふ……む。

 其方(そち)の意見はホンに面白いのう。

 今日ほど嬉しい話を聞けた事はないわ」


「恐れ入ります」


 私はそう言いながら建皇子の手をそっと手に取りました。

 汗ばんだ手を握り、精神鎮静の光の玉(不可視バージョン)を手渡しするように当てました。


 チューン! チューン! チューン!


 心なしか建皇子の目に光が宿った気がしました。

 その後、皇祖母尊(すめみおやのみこと)様と建皇子はお食事を召し上がって、お帰りになりました。

 建皇子は饅頭パンが気に入ったらしく、御代わりをしました。


 そして翌日。

 皇祖母尊(すめみおやのみこと)様と建皇子がいらっしゃいました。

 連日来るのは始めてではないでしょうか?


「かぐやや。

 何も言わないが、婆ぁの衣を何度も何度も引っ張って、建がせがむのじゃ。

 余程ここへ来たかったと見える。

 来る途中、落ち着かず大変じゃった。

 ほっほっほっほ」


 大変と言いながら楽しそうに笑う皇祖母尊(すめみおやのみこと)様はとても嬉しそうです。


「ようこそお越し頂きまして、有り難き事に御座います。

 建皇子様、今日も饅頭パンをお出ししますね」


 その日は建皇子に紙を用意して、お絵描きに興じてました。

 現代での学校教育の図画工作で習った知識や、BL好きな友人が描くイラストのウンチクを教えてあげました。

 少しだけ画風が飛鳥時代っぽくないイラストになった気がしますが、子供の絵なので気にしない、気にしない♪

 とんちんかんちん、一級さん


 ◇◇◇◇◇


 KCLのお仕事の毎日を過ごしているうちに謹慎期間が明け、一月ぶりに皇子宮へ呼び出されました。

 今まで呼び出しなんて年に一回くらいでしたのに一体何でしょう?


「かぐやよ、本日を以て謹慎を解く。

 今後も業務に励むように」


「は、此度の失策を糧とし、今後二度と同じ過ちを犯さぬよう肝に銘じます


 大海人皇子に慇懃(いんぎん)な物言いに、慇懃に応えます。


「はははは、そう言うな。

 かぐやよ。

 形だけだ」


「恐れ入ります」


「何でも嶋は頭を丸めて反省していると聞いた。

 他の者も反省している事であろう」


「そうであれば宜しいですが……」


「何だ? 気になることがあるのか?」


「気にし過ぎかもしれませんが……。

 私に斬り掛かった者が口にしていた言葉が気になっておりました」


「其奴は何と言っていた?」


「『お前は中臣の間者だろう』と申しておりました。

 間者云々はともかくとして、宮の者の中には中臣様、ひいては皇太子様と敵対すると考えておらぬかと気になりました」


「そうか……。

 私もそれは感じ取っていた。

 だからこそ十市の件は言いたくなかったのだ。

 その者らを刺激するだろうからな」


「はい、私もそう思いました。

 だからこそ答えるべきではないと判断しました」


「そこまで考えての事とは流石と言うべきだな。

 無論私は兄上と敵対するつもりはない。

 それでなくともこの十数年の有力氏族を巻き込んでの皇子同士の争いの結果、継承権を持つ皇子が少ない。

 これ以上争っている場合ではないのだ。

 私は兄上の理想のため全力で支援したいし、兄上の長子が帝になるとしてもそれで構わない。

 しかし孝徳帝にも皇子はいる。

 あまりに()いた行動は再び争いの元となるだろう。

 私は聞かなかった事にしておく。

 其女も分かっておるな」


「御意に御座います」


「私は今後も兄上に恭順の姿勢を変えぬつもりだ。

 回りにも徹底しておこう。

 ところで兄上の皇子と言えば、建皇子がしょっちゅう其女の屋敷へ通っていると聞いたが?」


「はい、皇祖母尊(すめみおやのみこと)様とご一緒されることが増えました」


「この前、母上に会った時、すごく上機嫌でな。

 建皇子がご自分の絵を描いてくれたと大喜びをしていたのだ」


 ああ、それを薦めたのは私です。


「皇子様は絵を描くのが事の外お好きなご様子なので、屋敷にて紙と筆をご用意して、お持て成しさせて頂いております」


「建皇子は私にとっても甥だ。

 私からも感謝する。

 是非礼を言いたくてな、今日は来てもらった。

 どう扱ってよいのか誰も分からず、母上以外近寄ろうとしなかったのだ。

 其女には世話になりっぱなしだな」


皇祖母尊(すめみおやのみこと)様にも申しあげましたが、あの屋敷は母親と子供のために建てた屋敷ですので、皇子様がおくつろぎになるのは一向に構いません」


「私も久しぶりに蒸し風呂に行きたいのだがな」


「申し訳御座いません。

 最近はほぼ毎日、皇祖母尊(すめみおやのみこと)様がご利用なさっておりますので」


「この歳になって母親と一緒の風呂は勘弁だな。

 これからも頼むぞ」


「はい。心得ました」


 何だかんだと建皇子は周りから可愛がられているみたいで安心しました。

建皇子については、中大兄皇子と実の妹にあたる間人皇女との間に出来た子で、近親相○を隠すために倉山田の娘の遠智娘おちのいらつめとの子としたという説があります。

個人的にそれはガセだと思っており、本作品では伝承の通り遠智娘おちのいらつめの子としております。

皇祖母尊(すめみおやのみこと)が建皇子を溺愛したというのは間違いなさそうです。

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