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【幕間】鎌足の焦燥・・・(7)

やはり禁断症状が抑えきれず、幕間と相成りました。

主人公が額田様の妊活を支援している間、時代は進んでいました。

第125話『再び難波長柄豊碕宮へ』の鎌足様サイドのお話です。

かなり苛立ちが募っている鎌足様です。

 ※中臣鎌足様サイドストーリー、 第112話『トネリニナレ」からのリスタートです。


 かぐやを大海人皇子の舎人として仕えさせる事には成功した。

 今の所、葛城皇子(※中大兄皇子のいみな、つまり本名)と大海人皇子との仲は悪くないとはいえ、いつ対立するかも分からぬ。

 なのに小娘を会ったことがあるというだけで引き受けるとは、大海人皇子の懐の深さは侮れん。

 だがかぐやの事だ。

 そのうち皇子が驚く様な事をしでかしてくれる事であろう。


 ◇◇◇◇◇


 讃岐に居る舎人の報告によると、かぐやはこれまで通り讃岐で稲の改良に取り組むそうだ。

 そして監視役として多治比氏の者がやってきたと言う。

 私の知る多治比氏は二つあるが、おそらく多治比古王殿が興した新しい方の多治比であろう。

 古王殿は銅や鉄の加工を生業をする品部を囲っており、すなわち武器の生産能力を有しているという事だ。

 その関係者を味方として引き入れていると言うのは皇子の先見性と人望によるものであろう。


 しかしその様な事がどうでも良くなる様な知らせが、年末入ってきた。

 年号を改元する……だと?

 葛城と帝と大臣とで権力が分散しているため、帝が単独で出来る事は少ない。

 その少ない中の一つが元号の取り決めに関する権限だ。

 元号は即ち帝の即位と(セット)になっている。


 帝の権限を取り組もうとしていた蘇我を滅ぼし、帝を中心とした新たな秩序を打ち立てる。

 その理想を掲げ、改革の意を込め、四年前、唐に(なら)って元号を決めたのだ。

 『大化』と。

 それを放棄するというのか!

 あまりの軽(※孝徳帝皇子時代の名)の短慮に(はらわた)が煮えたぎりそうになった。


 年が明けて如月十五日(にがつじゅうごにち)

 まさかと思いつつ、軽は本当に改元した。


 『白雉』だと?

 六日前に長門国造から白い(キジ)が献上されたからめでたい。

 だから改元する?

 ふざけるのもいい加減にしろ!

 そもそも年末から改元の情報は入っておったのだ。

 理由にしても後付けが過ぎる!

 百済や新羅の連中を巻き込んで改元の儀を執り行うと連絡が来たのが三日前。

 だが準備は万端なのが腹立たしい。

 儀に併せるかの様に難波宮の正門となる朱雀門が完成したばかりだ。


 恐らく今の私は軽が飯を食っただけで文句を言わずにいられぬくらい、軽の全てが気に食わないのであろう。

 それは葛城皇子も同じだ。

 儀を欠席する事もあり得るだろうが、今は大人しくいう事を聞いておかねば後々軽に言い掛かりをつける口実を与える事になるであろう。

 自重する様、皇子には言い聞かせた。

 おかげで昨夜は二人してヤケ酒で殆ど寝ておらぬ。


 儀は宮の朝堂院で行われた。

 要は帝の庭場だ。

 当たり前の事であるが、軽が取り仕切っていると思うとそれだけで腹立たしい。

 朝堂院へと繋がる紫門の前に我ら大臣と宮人(くにん)百人以上が居並び、私の目の前には輿がある。

 輿の中には白い雉が入っている。

 白雉なぞ嘘くさい話だと思っていたが、これだけは本物を持ってきた様だ。

 真っ白な羽根に、雉特有の真っ赤な顔を覆う鶏冠。

 こいつが居なくても改元はされたと思うと、苛立ちを鳥ぶつけるのも大人気ない。

 しかし、頭の中では矢を射って食ってやろうなどとどうしようもない妄想が頭を過ぎる。


 私の後ろには百済の王子、扶余豊璋(ふよほうしょう)がいる。

 この国に来て長いが、挨拶程度しかした事が無い。

 儀のついでに話をしておくか。

 葛城皇子が帝となった暁には、百済との関係は生命線なのだ。


「王子、此度は我が国の儀に参列頂き感謝致します」


「中臣殿、久しぶり、だ。

 我が国は倭国との関係を最重要と位置付けている。

 余がここに、居るのがその、証左だ」


「内大臣の私としましても、王子がこの地に(おわ)すことを心強く思います」


 すると横から声がした。


「鎌子よ、私にもご紹介して貰えるか?」


 私が馬飼と呼んでいる従兄弟の大伴長徳(おおとものながとこ)、右大臣だ。


「馬飼か。

 こちらは百済の王子、扶余豊璋様だ。

 王子、こちらは昨年右大臣に任命された大伴長徳に御座います」


 こうして和気藹々(わきあいあい)と儀の待ち時間は過ぎていく。

 だが、雰囲気をぶち壊すものもいる。


「中臣殿よ、久しぶりだな。

 皇太子様に付きっきりばかりでなく、たまには宮へ顔を出してくれぬか?」


 嫌味から始まる此奴は左大臣の巨勢徳太(こせのとこだ)だ。

 今の所、葛城皇子には従順な態度を示している。

 だが帝が兵を起こせば、此奴が先頭に立っていると思うと油断は出来ぬ。


 さて、大太鼓が鳴り響いた。

 儀が始まった様だ。

 輿を持ち上げ、開かれた門を通る。


 真正面の御簾は孝徳帝と先帝の皇祖母尊(すめみおやのみこと)だろうか。

 皇后の間人皇子、そして皇太子である葛城皇子と大海人皇子が座っている。

 こうして改めて見ると、五人は皇祖母尊(すめみおやのみこと)の実弟と三人の皇子皇女であり、本来ならばそこまでギスギスする必要もないはずだ。

 皇祖母尊(すめみおやのみこと)が退位せず、葛城皇子が適齢となるまで帝の地位にいれば今の混乱も無かったと思うが、今更ではあるな。

 そもそも帝になるつもりも無かったのであろう。


 輿が帝の御簾の前に置かれると、孝徳帝が御簾から出て階段を降りてきた。

 そして葛城皇子を呼び寄せ、輿の方へ誘い、共に雉を見学した。


 やってくれた!


 この儀の目的は、自分が帝であり、皇太子が格下である事を内外に示すための軽が仕組んだ売名行為(パフォーマンス)だったのだ!

 百人を超える高官の他、百済の王子、新羅と高句麗の役人が居る中でそれをやったのだ。

 だが葛城皇子は感情を噯気(おくび)にも出さずに雉を見て、孝徳帝を見送った後、自席へと戻った。

 よく我慢したものだ。

 その後も巨勢の宣誓やら、帝の詔だのがあり改元の儀は終了した。

 ハッキリ言って茶番だ。

 だが、今日の茶番は決して忘れない。

 私と葛城皇子を怒らせた報いは必ず受けてもらうからな!


 儀は終わったが、宴が続く様だ。

 憤懣やるせない気持ちを落ち着かせる事もできずにいると聞き慣れた名前が聞こえた。


「大海人皇子皇子が舎人、舞師・なよ竹の赫夜郎女(かぐやのいらつめ)による舞の献上を執り行う!」


 かぐや?

 そう言えば何かある様な事を聞いていた様な気がするが、聞く気なぞまるで無かった。

 舞台の上に今となっては見慣れた朱色の()は間違いない。

 口上を聞いて大海人皇子の目的を察した。

 この娘は皇子の舎人であるのだと周知したのだ。

 これで後宮がかぐやを呼び寄せ、入内(じゅだい)させようとする事は無くなった。

 意味のない儀での唯一の成果であろう。


 先程までの腹立たしい事を忘れ、かぐやの舞を久しぶりにじっくりと拝ませて貰った。

 するとかぐやの舞を見ているうちに、自分の疲弊した身体が回復していくのを感じた。

 そしてそれとは逆に精神(こころ)が安らかになっていくのが分かる。

 これが葛城皇子が気に入っていたという舞の効用か?

 ここまで効果が現れるのなら確かに舞を要請(リクエスト)するのも分かる気がする。

 かぐやの舞は見事としか言い様のない出来で締めくくられた。


 すると朝堂院全体に響き渡る大きな雉の鳴き声が響いた。


 ケーーーーン!


 雉のその声に驚いた雉の世話役が雉の紐を手放した様だ。

 雉がバサバサと飛び立った。

 その瞬間、心の中で『このまま逃げてしまえ!』と叫んだ。

 だが、雉は塀の外ではなく、かぐやの方へと突進していく。

 不味い!

 かぐやが雉に襲われる!?


 普通の女子(おなご)ならば恐怖でしゃがみ込んでしまうのであろうに、かぐやは一歩も後に引かず立ち向かうかの様に待ち構えている様に見えた。

 流石と感心はするが、出来れば逃げて欲しいと心の中で思う。

 たかだか改元の口実に使われただけの雉だ。

 何処へでも逃してしまえばいい!


 ところが雉はかぐやの肩を止まり木代わりにして留まったではないか。

 お前は雉の飼い主か?

 あまりの展開に理解が追いつかないでいると、雉はぶるぶると小刻みに震えた後、ボトっと糞をした。


 …………ぷっ!


 私は大笑いしたい衝動を抑えるのに必死に耐えた。

 堪らん!

 かぐやよ、其方はやはり最高だ!


 かぐやは糞など気にしないかの様に雉の世話役の方へと歩み寄り、雉を渡し、そして退席した。


 恐らくはかぐやはやせ我慢をしているのではないか?

 そう思うだけでまた笑いがこみ上げてきた。

 その時には朝から溜まった鬱憤は晴れており、爽快な気分へと変わっていた。



 (つづく)


何度も申し上げますが、本作はあくまで異世界(フィクション)であり、架空のお話である事を重ね重ね念押ししておきます。

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