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大海人皇子からの感謝の言葉

当初の予定では額田様の妊活のお話は15話くらいのつもりでしたが、結局20話を超えてしまいました。

ようやく一区切りですが、後日談が暫く続きます。

 夏の妊婦さんというのは大変です。(冬は冬で大変ですが……)

 暑いです。

 とっても熱いのです。

 出来るだけ涼しく過ごして頂くために、扇係を動員して、屋敷は全開です。

 しかし、戸を開け放てば言いかと言えばそうではありません。

 すぐ近くに河内湖があり湿地帯に囲まれているので、灘波京付近は半端なく蚊が多いのです。

 蚊からの感染症防止対策として、讃岐特産の蚊帳を用意して、屋敷内の蚊という蚊をレーザーポインターで打って打って打ちまくりました。

(※この手の主人公の特殊能力につきましては第138話『蚊との戦い (Kampf gegen Mücken)』をご参照下さい)

 その様な努力の甲斐あって、額田様の快適なマタニティーライフも終盤を迎える事が出来ました。


 この頃になると額田様は皇子宮へは戻らず、KCLに常駐となりました。

 現代知識を駆使して居心地の良さを追求した邸は、そんじょそこらの(古代の)建物には負けていません。

 飛鳥時代にバリアフリー化している屋敷なんて他には無いでしょう。

 トイレですら妊婦さんに優しい洋式風の専用トイレを作らせました。

 もちろん手摺り付きです。


 夏は食欲が落ちるので、井戸水で冷やした冷や奴をお出ししたり、具沢山の冷やしうどんでツルルと栄養補給しました。

 水分補給には、讃岐で栽培した大麦を使い麦茶を作って冷やさずに飲んで頂き、熱中症対策は万全を期しました。


 こうした暑さ対策のおかげで暑い夏を乗り越える事が出来ましたが、現代の猛暑日が続く現代の夏を知る私には古代の夏は(ぬる)いくらいで、現代の妊婦さんはさぞ大変だったのだろうとつくづく思いました。


 そしていよいよ。

 額田様が臨月を迎えました。

 ♪リンリンリリン リンリンリリンリン


 八月、葉月です。

 新暦で八月というと、熱中症になりそうな暑さの中、有明のイベント会場に列を成して並ぶイメージがありますが、旧暦の葉月とは『葉が落ちる月』です。

 つまり秋です。

 温暖化前ですし、ヒートアイランド現象もありませんので、夜になれば寒いくらいです。


 手作りの乳液を妊娠線の出来やすい箇所にマッサージをするように塗るのが習慣となっており、そのお陰で額田様のお腹はつるりとしています。

 今日もマッサージをしていましたら、いよいよ始まりました。


「痛っ、いたたたたたた」


 陣痛です!


 額田様の身体に合わせた分娩台をスタンバイ。

 刀自さんの出産の時に作った簡易保育器もスタンバイ。

 キレイな布、産湯、準備オッケー。

 スタッフ全員が配置につきました。


 〈中略〉


 そして半日後。


 おぎゃおぎゃおぎゃ


 元気な女の子が産まれました。

 予想したよりもずっと安産でした。

 お付きの人の一人は、急いで皇子宮へ駆けて行きました。


 涙と鼻水でぐしょぐしょになっても、輝く笑顔の額田様はお美しいままです。


「かぐやさん、ありがとう」


 額田様の言葉にこれまで一年半に及ぶ苦難が一気に報われた気分です。

 しかしいつまでも感慨に耽っているわけには参りません。

 へその緒を鉗子(クランプ)で止めて、切断します。

 会陰裂傷の治療の光の玉をこそっと当てて、赤ちゃんにもバイ菌にバイバイキンする光の玉を当てます。


 チューン! チューン!


 出産の後処理を手早く済ませて、分娩台をリクライニングして、ゴロゴロと寝室へと運びました。

 同行したお付きの人に薬呑器(くすりのみき)に似せた木の器を渡して、額田様の水分補給をお願いしました。

 その間にも新生児の処置を行います。

 程なくして、皇子様がいらっしゃいました。


「かぐやよ。赤子はどこだ?」


 息を切らせて飛び込んできました。

 本当は清潔にして頂きたいのですが、さすがに皇子様に向かって

「汚いからあっち行け」とは言えません。

 こっそり光の玉を当てて、消毒しておきました。


「額田様のお隣です。

 こちらへお越しください」


 額田様が横になっている寝室へと案内しました。

 向かう途中も皇子様は質問責めです。


「かぐやよ。

 額田は大丈夫か?

 出産で疲れはてておらぬか?

 赤子は何処か悪いところはないか?

 目は見えておるのか?

 耳は聞こえているか?

 赤子が死んでしまう様なことは無いよな?」


「母子ともに健康で御座います。

 額田様は疲労困憊ですが、出産の喜びが今は勝っております。

 一月掛けて身体の調子を元に戻す予定です。

 赤ん坊につきましては万が一の事がなき様、ここにいる者全員で全力を尽くしております。

 まずは額田様を労って差し上げて下さいませ」


「分かった!」


「おぉぉぉぉ、これが私と額田の子か?

 可愛いではない!

 そうだろ? かぐやよ。

 おぉぉぉ!

 見よ、私を見て笑ったぞ!

 私が父上だ!

 この子には私が分かっておるのか?!

 すごいぞ」


 生後一時間で親バカ全開の皇子様です。

 いつものクールな皇子様は何処へ行ったのやら。

 ちなみに新生児が笑うのは、天使の微笑みと言って、条件反射的なモノだそうです。

 一説には可愛らしさをアピールすることで庇護欲を掻き立てて、自らの生存率を高めるための本能だとか。

 ま、知らぬが花ですね。


 額田様に労いの言葉を掛けて共に無事の出産を喜んだ後、額田様がウトウトとしたところで皇子様は席を外し、赤ん坊も保育器へと移しました。

 皇子様はしばらく留まり、私にお話ししたい事があるとの事です。

 場面(シチュエーション)的にお小言では無いと思いますが……。


「かぐやよ。

 昨年の正月に其方に言った事をよくぞ果たしてくれた。

 礼を言う」


「勿体無きお言葉、畏れ多い事に御座います」


「いや、正直言えば、額田は其方の事を気に入っているので、側に置いておく口実でもあったのだ。

 額田が子を成せない事を気にしているのは知っていたが、私は多分無理だろうと半分諦めていたのだ」


「そうだったのですか?」


「ああ。

 しかし其方の卓越した知識は無理だと諦めていた私達に光を与えてくれた。

 眩いばかりの赤子だ」


「私が致しました事は些細な事です。

 皇子様、額田様が私の言葉に耳を傾け、ご理解頂けなければ何も出来ませんでした」


「前にもそう言っていたな。

 しかし、其方と同じ事ができる者は他にはおるまい。

 出産したばかりの額田が安らかに寝ているのを見て私は驚いている。

 普通、出産直後の母親というのは生死の境を彷徨っているものだ。

 それにも関わらず祈祷だの何だので、母親を邪気として粗雑(ぞんざい)に扱うのだ。

 今の額田がその様な扱いを受けたのなら、私をその者を斬りつけてしまうであろう。

 如何に安全に子を産むために万策を尽くしたのか。

 それを考えると私は其方に頭が上がらない気持ちなのだ」


「そんな、畏れ多過ぎます」


「まあ、そのくらいに感謝しているという事は分かってくれ。

 ただな、何もしないと煩く言う者も出てくるから、後ほど祈祷を行う者を遣す。

 祈祷は忌部の者に頼んだ。

 其方と忌部の間柄ならば悪い事にはならんだろう」


「ご配慮、感謝します」


 そう言い残して皇子様は公務(おしごと)へと戻られました。

 入れ替わる様にやって来ましたのは、忌部氏の氏上様、子麻呂様でした。


「久しいな、かぐや殿よ」


「氏上様、ご無沙汰しております。

 まさか氏上様がお見えになるとは思いませんでした」


「ほっほっほっほ。

 本来ならば息子が執り行うところを儂が横取りしたのじゃ」


 氏上様ぁ〜。


「さて、積もる話もあるがまずは祈祷を執り行おうか。

 かぐや殿が居るこの場に邪気などあるはずもない。

 生まれてきた赤子に幸多き事を願って祈祷をしよう。

 額田様も赤子も眠っておろうから、静かにじゃな」


「はい、宜しくお願い致します」


 こうして三日間、外では賑やかに、中では静かに祈祷が続きました。

 祈祷の合間にお出しするおやつは氏子さん達に好評で、氏上様は何個もお代わりをしたのでした。



ご覧の通り、今回の出産は<中略>でした。

ネタ切れというより差別化が難しいので、どの様に表現したら良いのか悩んだ結果です。


機会があれば幕間で執筆するかも?

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