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間人皇女

フラグの香りが、ホンワカパッパ♪とします。

 あの日以来、間人皇女(はしひとのひめみこ)様は三日に一度のペースでKCLに通われる様になりました。

 間人(はしひと)様は根っからの皇女様(ロイヤルファミリー)なので、庶民の出の私では理解できない感性のお持ちの面もあります。

 そして、お化粧しながらお話しされる内容から察するに、お兄ちゃん子(ブラコン)の気がホンワカパッパと香ります。

 薄い本の題材ならば萌えるシチュエーションですが……。


 ◇◇◇◇◇


 ここ(KCL)では一日三食が標準仕様(スタンダート)です。

 妊婦である額田様の栄養補給には一日二食では足りません。

 私が夕飯まで保たないからというのが本音ではありますが……。

 本日は間人皇女様も昼食を召し上がって頂いております。


「かぐやよ。

 其方の乳液をするようになってから妾の頬はつるりとしてプルプルじゃ。

 これが肌が健康になったという事か?」


「はい、その通りに御座います。

 もう一つ付け加えるのならば、肌荒れの原因は胃腸の不調であることが御座います。

 この屋敷にてお出ししております食事は、胃に優しく不足しがちな滋養を含んだものなので、それもお肌の改善に寄与しております。

 身体の中から美しくなることを目指しておりますので」


「それはすごい。

 でも額田殿と献立が違うのは何故かえ?」


「額田様は妊娠中ですので、お腹の中の子供に必要な滋養を多く含む食事をお出ししております」


「え? そうでしたの!?

 すっかり私は美味しいものをご用意しているだけだと思ってました」


 一緒にお食事をしている額田様が驚いています。


「額田様に毎食お出ししている豆腐は子供の成長に必要な滋養を多く含んでいるのです。

 肌の原料となる食べ物と、骨の原料となるなる食べ物は違います。

 同様にお腹の子の身体を造る食事は多種多様ですので、同じ食事だけをお出しする事が無き様、工夫を凝らしております」


「そうだったの。

 皆美味しいから気にしたことが無かったわ」


「別に気にされずとも、美味しいと仰って頂けるだけで食事を用意する者は励みになります。

 美味しいとは身体が欲しがっているという証拠ですから。

 喉が渇いた時に水が何よりの御馳走なのと同じで御座います」


「額田は本当に良い侍女を雇ったな」


「いえ、かぐやさんは皇子様の舎人なのですよ」


「そうなのかえ?

 では大海人に頼めば後宮へ寄越してくれるのか?」


 おっと、これはヤバい流れです。


「どうでしょう?

 でも子供を出産するまではかぐやさんに居て貰わないと困りますわ」


 額田様は中立のお立場です。


「皇后様。

 もし私が後宮に入内(じゅだい)したならば、このお屋敷を使うことが出来なくなってしまいます。

 恐らくは後宮で今と同じ事は出来ませんし、させて頂けないかと思われます」


「それは困るな。

 なれば後宮は無しじゃ

 ずっとここに居るが良い」


「私は中臣様の推挙にて皇子様の舎人となりました故、いつ何時次の役目を申しつけられるのか分かりません。

 ここにいる限りは皇后様、額田様、その他ご紹介頂きました方々にご奉仕を致します。

 しかしながらずっと居られるのかは、私の一存では叶いません」


「鎌子殿の紹介か?

 そなたは鎌子と面識があるのかえ?」


「は、はい。

 内大臣(うつのおみ)になられる前、或る宴にて舞をご披露した機会が御座いまして、それ以来目を掛けて頂いております」


「ということは兄様(あにさま)を存じておるのか?」


 間人皇女様のお兄ちゃんという事は、中大兄皇子かな。


「二度程、ご拝謁させて頂く機会に恵まれました。

 その時に皇后様がお召し上がりになっております饅頭(パン)をお気にいり頂けました」


「おぉ~、これは兄様が気に入られた物なのか。

 是非お代わりを所望する」


「承りました」


 今回は間人皇女様向けに麦芽パンを新しく作ってみました。

 ビタミン、ミネラルが豊富で食物繊維が多く含むので便秘の解消に役立ちます。

 お肌の健康にビタミンEは欠かせません。

 讃岐の養蜂で採れたハチミツを付けますので、塩分控えめでも美味しく食べられます。

 間人皇女様は塩気の多い食事を好まれるので、密かに減塩メニューを試しているのです。

 この時代の塩は藻塩なので、それだけでご飯を美味しく食べられてしまうのです。


「そうなのか。

 これは兄様も気に入られたのか……。

 のう、かぐやよ。

 其方は兄様をどの様に思う?」


 突然の質問?!

 これは慎重に答えないと地雷を踏み抜くかも知れません。


「素晴らしいお方であるとの事に相違ないかと存じますが、皇太子様を批評するなど畏れ多い事は私には出来かねます」


「そう。

 兄様はとても素晴らしいお方じゃ。

 じゃが、帝様はそうでない様なのじゃ。

 いつも兄様を悪く言うのじゃ」


 多分……、政治的な軋轢ですね。

 一般的にはこの時代の政は中大兄皇子が取り仕切っていて、孝德帝はお飾りであるかの様に言われております。

 しかし皇子宮を放火されて讃岐へとやってきた時の中大兄皇子はかなり追い詰められていて、そんな余裕は無い様子でした。


「では……少し長くなりますが宜しいでしょうか?」


「なんじゃ?」


「私が初めて皇太子様にお会いした時のお話です」


「ぜひ聞かせてたも」


「五年も前の事です。

 私が九つになった元旦の儀の事でした。

 舞を披露するため飛鳥宮へと参りましたところ、中臣様に呼び出されて行った先に皇太子様の他、大海人皇子様、阿部内麻呂様がいらっしゃいました」

 (※第65話皇子の呼び出し(1)・・・紙飛行機』をご参照下さい)


「其方はそんな幼い時から政に関わっておったのか?」


「関わると言うほどの事では御座いません。

 面白い事を話す童がいるとの噂を聞きつけ、余興として呼び出したのだと思います。

 その時に私は、万人がお腹だけではなく心を満たす生活が出来る世を是としたい、と願い出ました。

 その問いに対しまして皇太子様は

『暫しすればそれは叶うであろう』と申されました。

 今の世は、一つ山奥に入りますれば獣と変わらない者どもが弱き者を虐げております。

 この地に秩序と安寧をもたらすため、皇太子様は一筋縄にいかない現実に苦悩されているのだと愚考します」


「どうして、皆兄様の言う通りにせぬのじゃ?」


「既得権益と申しましょうか。

 世の中が変わる事で、これまで利益を得ていた方には損に思えるのです。

 全ての人が同じ考えになる事は無いのです」


「もどかしいのう」


「悪い事をして利益を得ている者に悪い事を止めろと言ったとしても止める事はしないでしょう。

 止めさせようとするなら、その悪者以上の力を見せつけなければなりません。

 しかし大き過ぎる力は、時として第三者にとって脅威に映るものです」


「つまりかぐやは兄様が大きな力を持つのを、帝が脅威と思うとると言うのかえ?」


「申し訳御座いません。

 私如きに帝のお考えを推し量るなど出来ません。

 もしかしましたら帝は皇太子様に期待をしており、皇太子様は帝をご尊敬申し上げているとも思えます。

 少なくとも五年前、帝は皇太子様に迎合して改心の詔を発せられましたのですから。

 しかし人の心は(うつろ)うものです。

 もし帝の御心が皇太子様から離れてしまったとあれば、皇太子様はさぞ無念に御座いましょう」


「妾の兄様を想う気持ちに虚いなどせぬ。

 いつまでも兄様をお慕い続けるぞ!」


「皇后様の御心のままに」


「むう、其方の話は難し過ぎる。

 甘い物が食べたくなった。

 お代わりを持ってきてたも!」


「畏まりました」


 ふう。

 どうにか地雷原を回避できた様です。

 しかしこの件で皇后様を焚き付けた形になってしまった事を知るのは、ずっと後のことでした。


この時代の結婚観はかなり近新婚に関して寛容です。

以前に異母兄妹ならば結婚できると言いましたが、本当に多いです。


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