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褒章と感謝、時々邪念

主人公がこの世界にやってきて8回目の正月です。

 明けましておめでとうございます。

 本日は白雉3年の元旦です。


 皇子宮(しょくば)での新年の宴も3回目となるとお馴染み感が出てきますね。

 私は数えで15になりました。

 しかし中身は永遠のアラサーです。


【天の声】そう言っているうちに実年齢が追い抜くぞ。


 宴の始まる前、皇子様から高らかな宣言がなされました。


「新年の目出度き席にて、もうひとつ目出度い事を報告する。

 此度、目出度くも我が妃、額田が懐妊した」


「「「「「うぉぉ~~」」」」」


 大きな拍手が鳴り響きます。

 皆さんも大喜びです。


「5年もの長きに渡って子を成せぬ事を気に病み、陰で涙していた日々も過去の事となった。

 今年の8月に生まれる子のため、額田は公務から今年いっぱい身を引く。

 その旨、周知せよ。

 さて、額田の懐妊にあたり特に功績のあった者に報償を与える。

 かぐやよ、前へ出でよ」


 え? 私?

 聞いてないよぉ~。


「はい」


 私は予め知っていたかの様に厳かに返事をして御前へと進みます。


「かぐやよ。

 其方はちょうど一年前の余の言を真摯に受け止め、よくやってくれた。

 額田妃の懐妊に至るまでの手厚い支援、卓越した知識、歳に似合わぬ経験、誰もが真似できぬ程の手際の良さ、大胆な決断、全てに於いて余の予想を上回るものであった。

 此度の功績に対してあしぎぬ100(ひき)を授ける」

 (※絁は交換手段として用いられた絹織物の一種で、「悪しき絹」つまり質の低い絹のこと。1(ひき)は2反、25メートル×2)


 あまりの多さにどよめきが起こります。


「勿体無きお言葉と過分のご評価を頂き、大変恐縮に御座います。

 めでたき事なれば、謹んでお受け致します」


「まだまだ油断はできぬ故、今後も頼むぞ」


「はい、心して職務に励みます」


 こうして私は他の方々(せんぱい)を差し置いて、ご褒美を頂いてしまいました。

 もちろん皇子様が贔屓でその様なことをする方でない事は皆さんご存じです。

 私が一体何をしたのか気になる様子です。


 まず最初にいらしたのは大伴馬来田(おおとものまくた)様です。

 珍しくお酒が入っておりません。


「かぐや殿よ。

 よくぞ役目を果たされましたな」


「ありがとうございます。

 ですが、私一人では何も出来ませんでした。

 額田様が私を信じて下さった事、お付きの方々がご協力頂いた事、皇子様がご理解頂けた事、多治比様がご支援下さった事、若輩者の私にとりまして有難い事ばかりが積み重なった結果です」


「はっはっはっは、謙遜だな。

 だがなかぐや殿よ。

 無理はしてはならぬぞ。

 一度倒れたと聞いておる。

 かなり無理をしていたのであろう。

 此度の為だけに屋敷一つを建ててしまったそうじゃ無いか」


「ええ、考えに考え抜いた結果、額田様にとって必要なものをご用意するには屋敷ごと必要だと判断しましたので」


「皇子様も申されてたが、子供とは思えぬ大胆な決断だな。

 大人でもその様なことは出来まい。

 それだけ自分の行う事に自信があったのだろう」


「自信だなんて、そんな。

 毎日が手探りでした」


「まあ、そういう事にしておこうか。

 だがな。

 人は呆気なく死んでしまうものだ。

 人が生まれるのにこれほど苦労するというのに、逝く時には本当に呆気なく逝ってしまうのだ。

 無理はいかんぞ」


「馬来田様の兄様の事は私も聞き及んでおります。

 お見舞い申し上げます」


 馬来田様のお兄様の大伴長徳様が、昨年の中頃お亡くなりになったと聞きました。

 謀反の疑いで誅せられた蘇我倉山田麻呂様の後任として大伴長徳様が右大臣になったのですが、在任期間2年も経たずに亡くなったそうです。

 しかも後になって蘇我倉山田麻呂様を無実の罪に陥れた実弟が処罰を受けたという噂を耳にしました。

 大化の改新が始まって7年が経ちます。

 教科書では蘇我入鹿を討った後トントン拍子に改革が進んだかの様な記述がされていますが、実際のところは遅々として進んでおらず、政権内部はゴタゴタが続いている感じです。

 一昨年の改元の儀で中臣様を見ましたが、だいぶお疲れのご様子でした。


「ああ、大臣という職は呪われているのかと思うくらい皆短命だ。

 人は無理をすれば必ずどこかが壊れる。

 其方はまだ若いから分からぬであろうが、歳を取るというのは壊れた身体を癒す事が出来ぬ様になるという事だ」


 オジサン、オバさんあるあるですね。

 心当たりがあります。


「はい、ご忠告痛み入ります。

 私が倒れた時、額田様にはかなりのご心痛を与えてしまい申し訳ない限りです」


「ああ、頼むぞ。

 あと言い忘れたが、私からもお礼を言わせてくれ。

 よくやってくれた」


 喪に服してお酒を絶っているらしい馬来田様は満足げに去って行きました。

 次にいらしたのは額田様の侍女頭さんです。


「かぐやさん、おめでとう。

 貴女の頑張りを皇子様に認めて頂いて良かったですね。

 私も嬉しく思います」


「恐れ入ります。

 皆様にご協力頂けましたお陰で、目出度きこの日をお迎えする事ができました。

 こちらこそ有難う御座いまました」


「実を言えば、私はかぐやさんに額田様の懐妊のお手伝いするのを辞めた方が宜しいと思っておりました」


 おぉーっと、いきなりの告白タイムです。


「額田様が子供を望んでいる事は傍に仕えている私達がよく知っていましたから。

 だけど子供である貴女がやってきて、額田様の心を煩わせるのに私は反対でした」


「もっともなご意見かと思います」


「なので、試験と称して私が知る中で一番懐妊に縁遠いと思われます津守様の奥方の刀自様をご紹介させて頂きました。

 もしあの刀自様をご懐妊させる程ならば……と思いつつも、おそらくは無理だろうと考えていました」


「初めて刀自様にお会いした時は、心身ともに憔悴しておりましたから」


「ええ、ところがあの刀自様を治癒してしまい、身も心も美しくされて、伴侶である津守様ですらも惚れてしまうほどに快復をさせてしまった貴女の手腕には心底驚きました。

 そしてこの様な事ができる貴女ならば任せられるのでは、と思い直したのです」


「私がした事は些細な事です。

 刀自様が良くなる事を望まなければ何も出来なかった事です」


「そうかも知れません。

 ですが改めて御礼を言わせて。

 額田様も刀自様も、望んだ幸せを得られたのは貴女の助力があったからこそなの。

 本当にありがとう」


「いえ、私こそ無我夢中でしたので至らぬことばかりでしたので」


「ふふふ、貴女は本当に欲張りなのね。

 あんなにしてもまだ足らないの?」


「いえ! そうゆう意味ではなく……」


「良いのよ。

 まだまだ先は長いから、一緒に頑張りましょう。

 期待しているわ」


「はい、宜しくお願いします」


 侍女頭さんはずっと言いたかったであろう事を話してスッキリした様子で戻って行きました。

 そして次に来ましたのは……多治比様! 石作皇子Jr.(仮)です。


「かぐやさん、良かったね。

 最初この話を伺った時は、子供の君には到底無理だと思っていたよ」


「私も上手くいく想定(ビジョン)は持てませんでした。

 多治比様が色々と手助けを頂きましたお陰で何とかなった様なものです」


「一応、宮の中では君の上司だからね。

 部下である君を支援するのは当たり前だよ」


「当たり前を当たり前と言って貰える上司ほどありがたい存在はありません」


「高い評価を頂いて嬉しいね」


「ところで歌の催しはどうなりましたか?

 お手伝い出来ず気になっておりましたが……」


「ああ、父上がね、張り切ってしまって二月に一回くらいやっているよ。

 最初は身内だけだったけど、最近は近隣から来客があったり、遠方の歌人がご参加頂けたりして、だいぶ盛況だよ」


「それでは趣味の合いそうな女性は現れましたか?」


「いや、だからね。

 探しているのは在野の歌人を見出すことで、私の想い人を見出す場でないから」


「どうせなら、額田様に見える形でやってみませんか?」


「見える形って?」


「額田様は暫くの間、遠出ができません。

 もし歌の催しをこちらで執り行えば、額田様もお喜びになります。

 それに多治比様も言い出した事を実行している事を主張(アピール)出来ます。

 更に額田様に傾倒している女性を見つけられるかも知れませんよ」


「そう言われて、『はいやりましょう』って言えると思うかい?」


「では額田様がお喜びになるためにもお願いします」


「そうだね。

 まだ荒削りだけど、もう少し上手いと思わせる歌を詠う人員を揃えられたら、やってみようかな。

 その時は助力を頼むよ」


「ええ、額田様のため、多治比様のため労を惜しみません」


「労を惜しまないのなら、たまには君も歌の催しにきて歌を披露してよね」


「そちらの労は惜しむかも知れません」


「まったくもう……」


 新年はこうして賑やかに明けました。

白雉3年は求婚者そっちのけで登場人物が増えていきます。

……どうしましょう。

収拾がつくかな?

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