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三度(みたび)倒れたかぐや

これで主人公が光の玉を使って倒れたのは3度目です。

過去2回が分からない方は読み返してみましょう♪

『かぐやよ。

 物質(もの)を創る事無かれ。

 生命(いのち)を創る事無かれ。

 歴史(とき)を創る事無かれ。


 繰り返し申す。

 物質(もの)を創る事無かれ。

 生命(いのち)を創る事無かれ。

 歴史(とき)を創る事無かれ。


 努々(ゆめゆめ)忘るべからず也』


「……誰?」


 ◇◇◇◇◇


 人の声が聞こえた様な気がして私は目を開けると、見覚えのある天井が目に映りました。

 天井が見えるということは私は横になっているの?

 そう思いながら横に目を遣ると、額田様が心配そうに私の顔を覗き込んでいました。


 ……えっ?

 私はガバッと起き上がり、太郎おじいさん直伝のジャンピング土下座をしました。


「ぬぬぬぬ、額田様。

 勤務中に居眠りしてしまって申し訳ございません」


「かぐやさん、起き上がっては駄目。

 ゆっくり寝てなさい。

 きんむって何?

 居眠りではありません。

 貴女は按摩(あんま)の最中に倒れてしまったのよ。

 覚えている?」


「あ……、そうだった様な?」


「本当に驚きました。

 前触れもなくいきなりでした」


「申し訳御座いませんでした」


 私は再び深々と土下座をします。


「謝らないで。

 むしろお詫びをしなければならないのは私なのだから。

 貴女はこんなになるまで私に子を成すために一生懸命にやってくれていたのね。

 子供の貴女に無理難題を押し付けてしまったというのに、貴女は私達の予想を遥かに超えて頑張ってくれたのよ。

 何も責任は感じて欲しくないの」


「あ、いえ、そんな事は御座いません。

 その……アレです。あれ。

 お腹が空き過ぎただけです。

 額田様は何もお詫びすることなど何一つ御座いません」


「ふふふ、そうなの?

 ではお食事にしましょう。

 急に起き上がったけど大丈夫?」


「は、はい!

 お粥を五杯食べられそうなくらい、元気です」


「それでは参りましょうか」


「はい」


 こうして食事の間へと一緒に行きました。


「姫様! 大丈夫ですか?」


 開口一番、八十女(やおめ)さんが駆け寄ってきました。


「八十女さん、額田様がおいでになるのよ。

 私は大丈夫だから」


「あっ……、大変申し訳ございません」


 社員教育がまだまだ行き渡りませんね。

 額田様が寛容なので問題にもされませんが、相手によっては懲罰もあるので気をつける様徹底しませんと。


 額田様にはいつもの高タンパクの食事(メニュー)です。

 私は……重湯?


「八十女さん、これは?」


「ええ、かぐや様がお倒れになったのは過労ではないかと思い、消化の良い重湯をお出ししました」


「かぐやさん、その重湯というのは?」


「簡単に申しますと、お粥を十倍のお湯で薄めたものとお思い下さい。

 出産直後はこれが出されます」


「そうなの?」


「ええ、この辺りの領民の出産を請け負っておりますが、出産のあとは精も魂も尽き果てておりますので、このくらいでしか滋養を補うことが出来ません。

 ただし白い米を徹底的に精米しますので、ほんのりと甘い味がします。

 それだけは物足りないので塩や鶏(の骨)から煮出した煮汁などを加えております」


「へぇー、何故か美味しそうですね。

 私にも少し下さる?」


「はい。

 八十女さん、額田様に重湯を一杯お願いします。

 あと私もおかわりをお願いします」


「ふふふ、本当に五杯食べてしまいそうね」


 こうして私が倒れた事も有耶無耶になっていったのでした。

 ……たぶん。


 ◇◇◇◇◇


 師走(12月)に入りました。

 もうそろそろ額田様の月のモノがくる頃ですが、今月は遅れているみたいです。

 ご本人も私が倒れて以来、過剰な期待をしない様に振る舞ってくれています。

 本当に有難い上司に恵まれたと思います。


 新暦なら一月です。

 奈良ほどではありませんが大阪(なんば)もやはり寒いです。

 いよいよアレの出番です。

 畳を一枚外して、掘りごたつを設置しました。

 ちなみにこたつ布団は(シルク)と真綿の最高級品です。


「暖かい〜。

 これは良いですね。

 歌の創作活動も進みそうです。

 でもそれ以上に眠たくなりそうですね」


「はい。

 讃岐ではこのこたつが欲しいばかりに無理を言って作って頂きました」


「この部屋は明るくて暖かくて、暑い最中に冷えない様に配慮したと言ってましたが、本当に配慮が行き届いていて素晴らしいわ」


「恐れ入ります。

 ですが、どうしても身体が渇いてしまいますので、忘れずに湯をお摂り下さい」


「ええ、貴女の出す飲み物は変なものが多いから飽きないわね」


「人の好みは様々ですし、私が飲みたかったからというもの御座います」


 そうなんです。

 この時代はお茶がまだ無いので、色々な飲み物に挑戦(チャレンジ)しております。

 乳牛がおりますので、時々牛乳を飲んでおります。

 豆腐を作りますので豆乳もあります。

 玄米は沢山ありますが、玄米茶とは玄米とお茶のブレンドですので、玄米だけでお茶にすると違う飲み物です。

 大麦で麦茶を作りますが、それだけでは物足りません。


 最新作はタンポポの根を使ったタンポポコーヒーです。

 タンポポコーヒーの存在は知っていましたが、まさか自分で作ることになるとは思いませんでした。

 しかし現代生活を知る私にとってコーヒーの存在というのは大きかったらしく、一種の禁断症状みたいのを感じます。

 タンポポの根を掘って、洗って、天日干しにして、切って、煎って、……。

 あれこれ試行錯誤しているうちにコーヒーと同じ色の飲み物が出来上がりました。

 源蔵さん達にも飲ませてみましたが、今ひとつ不評でした。

 ただ一人、サイトウだけは美味しそうに飲んでおります。

 サイトウのくせに!

 サービスでミルクとハチミツを加えようとしたら何も入れない(ストレート)が美味しいと言いやがる。

 サイトウのくせに!


 額田様には妊娠の可能性を常に考えなければなりませんので飲み物には気を使っております。

 お酒は絶対にNG です。

 乳児にハチミツをあげるのは禁止(タブー)ですが、妊婦さんには大丈夫なのでしょうか?

 妊娠の経験がない私には分からないので、念の為ハチミツ入りの飲み物はお出ししない様にしております。

 (※作者注:実際には妊婦さんにハチミツは大丈夫らしいのですが、医師の指示に従って下さい)


 さて、額田様の月のモノが来なくなって一月近く経ちました。

 これはいよいよか? と期待が高まります。

 お付きの次女さん達には額田様の基礎体温チェックを引き続き行なって貰っておりますが、高温期がずっと続いております。


 それはお食事を召し上がっていただいている時でした。

 あまり食が進まない様子の額田様が

 「うっ」と口を押さえました。


 私は慌てて、こんな事があろうかと手近に用意してあった桶を額田様の横に差し出しました。

 貴婦人の意地で何とか何も戻さず耐えたみたいですが、これは悪阻(つわり)の様です。

 基礎体温が低温期になっていないので想像妊娠である可能性は低そうです。

 生理が来なくなって約一月。

 十中八九(ほぼまちがいなく)、懐妊したと言えそうです。


 額田様、おめでとうございます!

 私は目から溢れ出る涙を止めることが出来ませんでした。


ようやく額田様の妊活シリーズも終わりが見えてきましたが、翌年(白雉3年)は更に忙しくなります。

求婚者はそっちのけになりそう。

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