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皇子様、額田様のお宅訪問

確定申告の季節ですね。

昨年は医療費がものすごく掛かりました。

ただいま申請書を作成中です。

 額田様をお招きするにあたって、従業員(スタッフ)教育は大切です。

 現代でも従業員研修は総務のお仕事でした。


 讃岐から一緒に来た付きの人達と多治比様が派遣して下さった雑務係さん達。

 顧客対応、施設の維持管理、社会人としての心得、トラブル対応、不正防止、お・も・て・な・しの心、など。

 いずれも飛鳥時代には薄い考え方です。

 特に憂髪(うきがみ)さんは私のお付きになって日が浅いので、言葉使いは庶民そのものです。

 八十女(やおめ)さんも少々怪しいですが、どうにかなる……かな?

 源蔵さんは問題ありません。

 意外にもサイトウはその気になれば所作はやんごとない方の側にいても対応できるレベルです。

 サイトウのくせに!

 讃岐に流れ着く前、それなりの地位の神官様の方に支えていたのだそうです。

 そう言えば最初見た時、時代に不似合いな銅矛を振り前していました。

 あれって神事用だったのですね。

 (※第14話『非人道的必殺技!』ご参照)


 まずは制服(ユニフォーム)

 一番手っ取り早いボロ隠しです。

 全員の格好をキレイに揃えるだけで行儀よく見られます。

 そしてお辞儀の仕方。

 何度も練習させます。

 文句を言う輩はお仕置きです。

 お仕置きで済むのなら御の字です。

 下手したら首が飛びます。

 物理的に……。


 不正防止。

 これが1番の苦労です。

 古代モラルに染まった人達が屋敷のものを勝手に持ち出したり、やんごとない方々の個人情報を外へ流す事が罪である事をから教えなければならないのです。

 もちろん彼らだって盗みが悪い事である事は分かっています。

 しかしバレなければやって構わないと思っている節があります。

 今はお互いに監視させて、通報した者に褒賞を出すことにしましたが、まだ対策としては弱いので他にいい方法がないか考え中です、


 おもてなしの心。

 日本人的な考えですが、古代(ここ)は日本であって日本でない部分が多々あります。

 令和の価値観と昭和の価値観が違う様に、令和の価値観と白雉の価値観はもっと違っています。

 さらに庶民と豪族(貴族)とでは超え難いほどの差があります。

 庶民のおもてなしの心が尊い方々(ロイヤルファミリー)に届くのか?

 甚だ疑問ですね。

 現代知識と私の総務(バックオフィス)の経験を総動員して、軍隊的に厳しく躾けます。

 手順書(マニュアル)を作成して長期戦を覚悟してやっていきます。


 何も考えるな!

 お前たちの返事は『はい(イエス マム)』だけだ!

 『はい(イエス マム)!』

 お前の出身はどこだ?

 河内?

 河内には牛と”ピー”しかいない!

 お前は牛じゃないよな?

 ならばお前は”ピー”だ。

 そうだな!

 『はい(イエス マム)!』


 こんな調子で新兵教育をやっていきます。

 ……ウソです。


 ◇◇◇◇◇


「よ、ようこそおいで下さいました」


 額田様がおこしになりました。

 横には皇子様がいらっしゃいます。

 輿が二つやってきた時点でやな予感がしておりましたが、嫌な予感は的中するものです。

 これぞ異世界(ファンタジー)仕様(おやくそく)ですね。


「かぐやよ。

 額田のために用意したという屋敷が面白そうだと聞いた。

 もちろん私にも見せてくれるのだろうな?」


「隠し立てする事は何一つ御座いませんので、どうぞごゆるりとなさって下さい。

 もしご希望されるのでしたら、皇子様もこの屋敷で受けられますご奉仕を体験頂けますか?」


「一応聞いておくが、見知らぬ女子と二人っきりになる様な事は無いよな?」


「そちらの方面のご奉仕は管轄外に御座います。

 主に女子向けに特化した奉仕で御座います」


「ならば良い。

 額田が気に入ったのなら、私もいつか頼もうか」


「承りました。

 どうぞこちらに」


 まず案内しましたのが畳の和室です。


「こちらが額田様の過ごされるお部屋としてご用意しました」


「イグサの香りがするな。

 イグサの間なのか?」


「はい、気兼ねなく寝転ぶ事も出来ます。

 横になりながら様々なご奉仕を受けられる事が出来ます。

 どうぞお寛ぎ下さい」


「ほぉ……、これはどこで手に入れたも物だ?」


「新たに作らせた物に御座います」


「わざわざ額田のために作ったのか?」


「はい、妊娠しますと疲れやすくなります。

 しかし板の間に横になりましても疲れは取れません。

 程よい硬さと程よい柔らかさを追求した結果、出来上がりました」


「これは良いな。

 これを私の宮にも卸せるか?」


「一枚を造りますのに3日掛かりますので、この部屋だけでひと月以上掛かります。

 お急ぎでしたらこの部屋にある畳をお持ち帰り頂けますが、如何致しましょう?

 まだこのお部屋は使われておりませんので、畳も未だ使われておりません」


「良いのか?

 では6枚ばかり持ち帰ろう。

 半分だ」


「承りました。

 重いですので人足を用意致します」


 皇子様の言葉に否はありません。

 いずれはこの屋敷の殆どを畳で敷き詰める予定なので、6枚くらいは大した事はありません。


「実際にお気に召しましたら、その者らに皇子様の宮にも卸せる様、働きかけます。

 ただしくれぐれも火の気にはご注意されて下さい。

 一旦火がつきますと燃え上がり易い素材でできております」


「かぐやさん、紙を使ったこの扉は明るくて良いですね」


「はい、これは讃岐に多治比様がいらした時、用意した屋敷に取り入れた建具と同じものです。

 これでしたら寒い冬でも外の明かりを取り入れながら冷気を通しません。

 妊娠された方に冷えは大敵です」


「夏なのにもう冬のことを考えているのか?」


「一年を通じて快適にお過ごし頂ける事を考えております。

 それは胎児への心遣いでもあります」


「なるほどな。

 確かに暖かみのある部屋だ」


「畳の下には暖をとる仕組み(コタツ)も用意してあります。

 足を冷やしますと、冷えた足の血が胎児を冷やしますので、足を冷やさぬ様、工夫がなされております」


「なるほどな。

 そこまで考えられているとは恐れ入る」


「では次は浴室へと参られますか?」


「そうだな。

 ここで寛いでいると心地よくて寝てしまいそうだ」

「ええ、まさかここまで素晴らしいとは思いませんでした」


 皇子様も額田様も絶賛してくれます。

 でもまだまだ序の口です。


「こちらが湯浴みをする場所です。

 妊婦に限らず女性は美容に気を使います。

 美容の根幹は肌の健康に御座います。

 冷えの防止にもなります」


「すごいな……」

「スゴイわ」


「ここには常に湯を張り、いざという時の消化用水として使います」


「あちらの扉の向こうは何なの?」


「こちらは蒸し風呂(サウナ)に御座います。

 ただし妊娠したならば使用は控えて頂きます」


「蒸し風呂とは何だ?」


「この小部屋は木が隙間なく組まれております。

 この中で焼けた石を積み上げ水を掛けますとその湯気が部屋を満たします。

 すると普段ではありえないほどの暑い蒸気が身体を覆い、皮膚を刺激します。

 刺激を受けた身体は活力を取り戻すという健康に良い施設にございます」


「妊娠したら駄目なの?」


「胎児は母親の体の温もりより暖かい状態にあります。

 その母親が蒸されてしまうと、胎児には逃げ場がありませんので」


「ふむ、釜風呂の様なものか?

 私も蒸し風呂とやらは楽しめるのか?」


「準備に手間が掛かりますので、予めご連絡頂ければ人払いを含めて準備致します」


「楽しみにしている」


「それではお食事の準備が出来たみたいなので、お部屋にお戻りになりますか?」


「そうだな。

 食事面のでの支援を謳っているのだ。

 それを確かめないわけにはいかぬな」


「どうぞ、こちらへ」


 私達は先ほどの和室へ戻りました。

 用意したのは豆腐、青菜のおひたし、白米ごはん、お魚のつみれ汁です。


「どうぞお召し上がり下さい。

 妊娠した女子(おなご)に必要な滋養を多く含んだ献立にございます」


 控えていた毒味役がそれぞれを味見して安全を確認してから皇子様と額田様が箸をつけました。


(もぐもぐもぐ)


「美味いな」

「美味しい」


 良かった〜。

 美食に慣れている皇子様のお眼鏡に叶うか心配でしたが、好評を頂きました。


「一応聞いておくが、妊婦に必要な滋養とは何だ?」


「妊婦に最も必要なのは葉酸という名の滋養です。

 その豆腐という白く柔らかい食べ物は豆から作りますが、豆には葉酸が多く含まれております。

 たったの十月(とつき)で、目に見えぬ卵の様な胎児が両腕で抱え上げるほどにまで成長するために葉酸は絶対に必要です。

 葉酸が不足すると死産にも繋がります」


「初めて聞く話だな」


「次に蛋白質という滋養です。

 これは分かりやすく申しませばお肉です。

 獣肉でも魚でも構いません。

 また卵でも可能ですし、豆にも多く含まれております」


「言われれば理に適った食事だな」


「妊娠したばかりですと悪阻(つわり)もあります。

 無理せず、食べ易い物を口にできます様、品揃えを心掛けております」


「かぐやさん、まさかここまで素晴らしいとは思いませんでした。

 是非ここにお世話になりたいわ。

 良いでしょ? 皇子様」


「額田が気に入ったのなら否応はない」


「いつでもお越しになりましても構いません。

 もう一つの我が家と思い、お寛ぎ下さいませ」


「ありがとう、かぐやさん」


 こうして皇子様と額田様にお墨付きを得たのでした。

日本人は古来から風呂好きな様で、飛鳥時代、大海人皇子が蒸し風呂に入ったとか、斉明天皇(皇祖母尊すめみおやのみこと)が道後温泉(伊予の湯)に入浴したという言い伝えが残っております。

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