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飛鳥時代のお化粧事情

久々登場、額田様。

 さて、困りました。

 現代ならばドラッグストアでお気に入りとか、気になる新作などを購入していましたが、残念なことに飛鳥時代にドラッグストアはありません。

 讃岐(いなか)で化粧している人といえば、与志古様か萬田先生、他は舞の時の巫女さん達くらいです。

 衣通ちゃんはお化粧は始めているのかな?

 今頃どうしているのだろう?

 会いたいなぁ……。


 多治比様が詳しそうには思えません。

 与志古様(とおく)ならば良くご存知だとは思いますが、まずは近くから聞いてみましょう。


 ◇◇◇◇◇


「ご連絡が滞りまして申し訳御座いません。

 進捗につきましてご報告に参りました」


 当代一の貴婦人といえば額田様。

 額田様へのご挨拶と報告と相談を兼ねて皇子宮へとやってきました。

 もちろん押しかけではなく、多治比様を通して根回し済みです。


「よく来ましたね、かぐやさん

 正月にお知り合いの懐妊を手伝うと言ってからもうすぐ皐月(さつき)になろうとしていたのでどうしたのか心配しておりました。

 上手くいったのかしら?」


「恐れながら。

 ご紹介頂きました刀自様につきまして、複雑な身の上のため食事も満足に取らず、幼き時から部屋を出ない生活を送っていたため、まずは食事と運動により出産に耐えられる身体となる事を優先しておりました。

 先頃、ようやく人並みの体力がつきまして、出産についても前向きにお考えになる様になったところです」


「まあ、随分と遠回りしているのね」


「それを心配しなければならない程、重篤だったとお思い下さい」


「ではもうすぐ懐妊しそうなの?」


「実はもう一つ問題が御座いまして、刀自様の元に旦那様がお通いにならないのです」


「それでは貴女がどんなに頑張っても無理なのじゃない?」


「旦那様の津守様とはお話しさせて頂きました。

 刀自様をお嫌いでは御座いませんが、女性とみなしていないご様子でした」


「それはどうして?」


「先に申しました通り、これまでの刀自様が貧民並みに痩せ細っていた身体でした事と、刀自様自身が天涯孤独の身の上のため女性としての知識を得る機会が無かったからだと思われます」


「それは解決出来そうなの?」


「身体につきましてはだいぶ改善されました。

 出来ましたらもう少し女性らしく飾って差し上げたいと思います」


「そうね。

 でもかぐやさんなら上手に飾ってあげられるのではないの?」


「私は田舎の育ちのため化粧につきまして教えられた事が御座いません。

 また流行りというものもあると思います。

 そもそも私には化粧品を入手する伝手も御座いません」


「そうね……。

 それでは私のお化粧する者を紹介しましょう

 その刀自という女性を紹介した者だから、丁度良いでしょう」


「ご配慮ありがとうございます」


「ええ、頑張っている様で安心したわ。

 ところでその方はいつ頃出産しそうなの?」


「私としましてはあと3ヶ月から半年で懐妊、その10ヶ月後に出産を考えております。

 なので1年以上先です」


「先は長いわね」


「もしあと1年経っても懐妊できなければ、その時は私の力不足としてお切り捨て下さい」


「それは自信の現れ?」


「いえ。

 私には子供を産む事が出来ない女性を懐妊させる(スペ)が御座いません。

 ただ、人より懐妊し易くなる知識を持ち合わせているのに過ぎませんので」


「やはり石女(うまずめ)というは子供を産めないのかしら?」


「子を成せない理由は男の側にある場合も御座います。

 子を成せない理由を全て女性に負わせる事に、私は抵抗を感じます」


「そう……。

 ではその方が懐妊しましたら、その知識というのを教えて下さるの?」


「もちろんそのつもりでおります。

 皇子様のご協力も必要ですので、その理由もキチンとご説明致します」


「宜しくね。

 ところで一ついいかしら?」


「はい? 何でしょうか?」


「貴女……本当に14歳なの?」


「え? は、はあ。

 7つの時に養父に拾われた身の上ですので正確な歳は分かりません。

 もしかしたらもう一つ年上かも知れませんし、もう一つ若いかも知れません」


「うーん、その程度の違いでは無いような気がするのだけど……」


 アブナイ、アブナイ。

 中身がアラサーで、実は額田様より年上だなんて言ったとしても信じて貰えませんから。


【天の声】こっちに来て7年経ってもアラサーのままか?


 しばらくして侍女の人が来ました。

 あの侍女頭(リーダー)さんです。


「待たせましたね。

 それでは参りましょう」


「はい、宜しくお願いします」


 刀自さんのお屋敷まで歩いて30分くらいの距離を私と侍女頭さんとそれぞれのお付きの人と護衛さんとでゾロゾロと歩いて行きました。


「かぐやさん、刀自様の事につきましてはお礼を申します。

 随分気に掛けてくれていると聞き及んでおります」


「いえ、そんな。

 勿体無い言葉に御座います」


「こちらにいらした時にお付き合いしようとしたのですが、あまりにお身体が弱々しくこのままでは子を成す事なく、年老いてしまうのではと心配でした。

 もしかしたらと思い、刀自様を紹介させて頂きました。

 どうお過ごしか気になっておりました」


「最近はだいぶお体の調子も宜しくなり、気持ちも上向いている様です」


「そうですか。

 会うのが楽しみです」


 侍女頭さんの話ぶりですと、意地悪ではなく本当に刀自さんを心配して私を派遣させたみたいです。


 ◇◇◇◇◇


「刀自様、ご無沙汰しております。

 ……何と申しますか、すごくお変わりになりましたね」


 侍女頭さんが驚いた様子で挨拶をしました。


「ありがとう。

 これもかぐやさんのお陰です。

 最近は表に出る事も増えてきましたので、そのうちお伺いさせて頂きますね」


「本当に……。

 ええ、お越しになるのを楽しみにしております。

 お聞きかも知れませんが、本日はかぐやさんにお化粧を教えるためにお邪魔しました。

 もし宜しかったら、化粧をしてみませんか?」


「え? お化粧なんてここへきた時に一度しかした事がありませんので……」


「かぐやさんに教えなければなりませんので、お願いされてくれません?」


「ええ、私で宜しければ」


 刀自さんの同意が得られましたので、早速実践です。

 侍女頭さんが持ってきた化粧道具を広げます。

 と言っても現代のメイクボックスの様な機能性があるわけでなく、化粧ポーチの様なコンパクトさもありません。

 職人さんの手作りらしい木箱の中に、筆と白粉や紅の入った蓋付きの陶器が入っています。

 かちゃかちゃとそれらを広げて、メイク開始です。


 まずは、ほとんど手入れがされていない眉毛を整えます。

 眉の上を毛抜きで抜いて形を三日月型に整えました。


 そして次に白粉を水に溶いてぬべーっと顔に塗り(ペイント)しました。

 満遍なく顔全部をです。

 化粧下地(ベースメイク)は無しです。


「その白粉は何で出来た物ですか?」


「これは貝殻を細かくすり潰した粉です」


 ああ、それなら身体に害はありませんね。

 古代の化粧品は有毒な物が多いですから。


 白粉を塗り終わって次は眉墨で眉尻をハッキリと三日月型に輪郭を整えました。

 それから頬紅を入れます。


「その頬紅は何で出来た物ですか?」


「これは()です」


 ()……(たん)…… 、確か水銀でしたっけ?

 これはアウトですね。

 代替品を探しましょう。


 そして口紅(ルージュ)は予め練ってあった紅を細い筆で口に塗ります。

 唇全部でなく、真ん中辺りだけです。

 日曜夕方6時に放映される国民的アニメの主人公がする様な口紅です。


「紅も丹で出来ているのですか?」


「いえ、紅は末摘花(すえつむばな)を使った物です。

 長持ちしませんが、口につける物なので植物を使います」


 こちらはセーフです。


 最後に額に花弁を入れて完成です。

 おそらくこの時代の最先端に近い化粧(メイク)なのでしょう。

 現代基準では課題はたくさんありますが、大体分かってきました。


 あとはこの時代の化粧品の入手とオリジナルの化粧品の開発ですね。

 水銀入りの頬紅(チーク)は戴けません。

 ファンデーションやアイラインなども考えてみたいですし、色も揃えたところです。

 このままでは化粧というよりお絵描き(ペイント)ですから。


 あれこれ考えていると入り口の方から男の人の声がしました。


「入るぞー」


 来たのは津守様です。

 1ヶ月ぶりの通いです。


「津守様、お邪魔しております。

 本日は刀自様にお化粧を施してみましたが、如何でしょうか?」


「ほお……!」


 津守様が刀自様を見ると固まってしまいました。

 刀自様は何がどうなっているのか分からず、戸惑うばかりです。


「津守様……?」


「あ、いや。その、何だ。

 に、似合ってるのではないか?」


 どうやら化粧をした刀自さんは津守様にとって当たり(ストライク)だった様です。

 元々、素顔(スッピン)が良い刀自様が健康を取り戻して、高貴な人にしか出来ない化粧をすれば無敵ですね。


「津守様、私達はこれでお暇します。

 出来ましたらいつぞや申し上げました刀自様の話をお聞き下さいまし。

 宜しくお願いします」


「お、おぅ」


 私達はそそくさと道具を片付けて、屋敷を後にしました。

 あの様子ですと、津守様の反応も上々です。

 ようやく本当の妊活が開始(スタート)できる体制が整いました。


化粧は難しいです。

古代と現代の化粧技術をどうやって融合させるか?

頭を振り絞っております。


今回のは正倉院の鳥毛立女屏風(とりげりつじょのびょうぶ)に描かれた天平美人の細眉バージョンのつもりでメイクしています。

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