超絶エステシャン・かぐや(2)
再び登場、カリスマエステシャン・かぐや。
もう何でもアリです。
赤ん坊を産む決意をした刀自さん。
しかし一人で子供を産む事は出来ません。
津守様の協力が必要です。
しかしこの3ヶ月の間に津守様がいらしたのは2回だけでした。
これではコウノトリさんが運んできてくれない限り、赤ん坊はやってきません。
津守様の好みは脹よかな女性が好みだと言ってましたが、これは津守様の性癖ではなく飛鳥時代の美人の基準でポッチャリがモテるみたいです。
これは私の推測ですが、時代背景的に貧しい人達が骨と皮だけの様なガリガリに痩せているため、貧困に対する嫌悪感が逆を求めた結果、そうなったのではないかと思っています。
そしてもう一つ、この数百年間に唐(随)や百済、新羅、今は消滅してしまった任那との交流によって、価値観も輸入された結果、美人感も輸入されたみたいです。
正月の宴で額田様は額に花模様の花鈿を施してました。
これは唐の風習を輸入した最先端の化粧なのでしょう。
今の刀自様は、と言いますと一頃よりはだいぶ改善されましたがまだ痩せ気味です。
美容に一切気を使っていなかったので、化粧は一度もした事がないとの事。
洗顔も水でぱちゃぱちゃ洗う程度です。
当然、お風呂には入る習慣はありません。
ということで、『超絶エステシャン・かぐや』の出番です。
【天の声】まだその名称、生きてたの?
何を隠そう!
……と言いますか、全然隠していませんが、コスメにどハマりしていた時期がありました。
なので人並みか、少し詳しい程度にはコスメに関する知識があります。
(※第1話『放り込まれた先は『竹取物語』の世界?』をご参照)
コスメの基本はスキンケアです。
昭和の美容法にはレモンパックとかきゅうりパックなんて、現代では信じられない処方がまかり通っておりましたが、さすがその様な方法を摂りません。
むしろシミの原因になることすらあります。
とは言え、原材料の入手方法が限られた飛鳥時代で行えるコスメには限界があります。
制限の範囲内でやれる事をやるしかありません。
しかしその一方で現代にないモノもあります。
それは私の反則技です。
先ずは洗髪と洗顔。
飛鳥時代で入手可能な洗剤と言えば米ぬかです。
私は飛鳥時代にやって来てからは米ぬかで頭皮を洗っております。
米ぬかにはビタミン、ミネラル分だけでなく脂肪酸も含まれているので、髪の毛がゴワゴワにならないのが良いところです。
一方で栄養豊富な米ぬかが頭皮に残りますと皮膚トラブルの原因になりますので、濯ぎをしっかりとやらないといけません。
洗顔も同様です。
しかし長年放置されてきた刀自さんのお肌は硬くなっていますので、農地の様に柔らかくフカフカに耕さなければなりません。
本当は椿油があれば良いのですが、椿の実が成るのには秋を待たなければなりません。
代わりに蜜蝋を使う事にしました。
農業試験場の一角に巣箱を設置して蜂蜜の採取に成功しておりますので、蜜蝋も入手可能です。
蝋燭として持ってきたので手持ちがあります。
ありがとう、日曜夜の番組スタッフさん&出演者さん。
それではフェイシャルエステ開始です。
場所はお風呂場。
だいぶ暖かくなってきましたが、お風呂場の湯気で温かくして、ついでに蒸し布巾で毛穴を広げます。
数分で十分に毛穴が広がりますので、素早く米ぬかで洗顔します。
擦りたい気持ちを抑えつつ丁寧に洗い、しっかりと濯ぎます。
洗髪は八十女さんが私の洗髪を長年やっているので慣れています。
髪の毛をしっかり、しっとり洗い上げました。
お風呂場なのでついでにお風呂に入って頂こうとしたら、刀自さんが恥ずかしがるのでお付きの婆やさんにお願いしようとしました。
少し躊躇った後、刀自さんから話しておきたい事があると言います。
「かぐやさん。
津守様が私を敬遠するのにはもう一つ理由があるのです。
これをご覧ください」
刀自さんはそう言うと、ハラリと服を脱ぎました。
左肩から背中に掛けて大きな痣、いえ火傷の跡がありました。
「これは……」
「私の両親が亡くなった時、屋敷に火を放たれて私も火傷を負いました。
津守様はこの火傷を見て驚き、それ以来私の元に通わなくなったのだと思います」
「そんな事が……。
分かりました!
私がその火傷を治療致します。
服をお脱ぎになってうつ伏せになって下さい」
「はい? ……その様な事が可能なのですか?」
「やれるだけやってみます。
私にお任せ下さい」
「……分かりました。お願いします」
念の為、お付きの婆やさんには浴室を出て貰いました。
治療はともかく、光を放つところは見せない方がいいだろうとの判断です。
刀自さんのほっそりした背中は、大きな火傷の跡と所々プツプツと虫食いの痕があります。
蒸しタオルで温めててよく拭いた後、まずは光の玉で虫食いの痕を治療します。
チューン!
虫食いの跡は一種の怪我なのでたちまち綺麗になりました。
しかし火傷の後はほとんど変化がありません。
では次は新技のレーザー治療です。
(※第139話『超絶エステシャン・かぐや(1)』をご参照下さい)
右手人差し指からレーザーポインタを発射します。
火傷よー、消えろー、火傷よー、消えろー、………
念じながらレーザー光を火傷の上をスウィープします。
すると皮膚に劇的な変化が起き、レーザー光を当てた場所からつるりとした綺麗な肌が現れました。
一心にレーザーを当てていき、10分くらいで火傷部分を全て消去出来ました。
うつ伏せになっている刀自さんに声を掛けます。
「刀自様、一通り終わりました。
確認してみて下さい」
「え! もう?」
ゆるゆると起き上がって、刀自様が火傷のあった場所を探ります。
いつもでしたらケロイドの凹凸があるはずが、つるりとした肌に変わっているのです。
「あれ? ……あれ、あれ?
何故?!」
「どうぞお立ち上がり下さい」
「ええ……どうして?」
まだ信じられない様子です。
「婆や様、お入り下さい」
私は浴室の外にいる婆やさんに声を掛けました。
「刀自様のお肌を確認して下さいな」
「はあ。
……え? 何もありません。
火傷の痕が綺麗に消えております。
何処に痕があったのか全然分かりません!」
「本当に消えてしまったの!?」
刀自さんはお胸を露出したまま、火傷のあった場所を何度もペタペタと触っています。
「刀自様、折角ですから湯船に浸かってゆっくりなさって下さい。
私達は一旦表に出ます」
私がそう言うと刀自さんは慌てて前を隠して、恥ずかしそうに
「はい」と小声で応えました。
目には涙が滲んでいます。
「婆や様、刀自様のご入浴のお手伝いをお願いします。
こちらの米ぬかで身体を洗って、湯船の湯でよく濯いで下さい」
「はい、ありがとうございます」
私達が浴室の外に出て暫くすると、中から二人の啜り泣く声が聞こえてきました。
原因が原因なだけにきっと心の大きな負担になっていたのでしょう。
少しでも癒えて欲しいと願います。
こうしてお肌の改善を始めました。
次は化粧ですが、私はこの時代の化粧品事情に詳しくありません。
誰か教えてくれる人はいないかな?
作者は化粧品の科学には詳しいですが、化粧品には疎いので執筆に苦労しています。
次話ではメイクのお話になる予定ですが、異世界名物の鉛白(塩基性炭酸鉛)は残念ながら出てきません。
鉛白は8世紀になってから日本に伝わったとされています。
ちなみに鉛白は劇毒物取締法には非該当です。
即効性での毒性は小さく、長期間吸収すると健康被害をもたらす有害物質です。
(※鉛化合物は劇物ですが、塩基性炭酸鉛(ヒドロオキシ炭酸鉛)は除外品目)