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HANGTENG作り

主人公(かぐやひめ)のアラサー(?)疑惑、再び。

 

 飛鳥の里にも本格的な冬が到来しました。

 新築のお屋敷は快適なので多少の寒さは気になりませんが、寒くないわけではありません。

 多分、今の私の身体は現代からやってきたのでは無いかと思っています。

 それくらいに今の私と、現代での幼少時代の私はそっくりなのです。

 つまり現代人である私の身体はとても弱く、原始時代さながらの生活をしたら一日も保たないでしょう。

 なので、防寒と暖房が絶っ対に必要と思ってます。

 この時代の暖房……囲炉裏で火をおこせばかなり暖かいと思いますが、私のお部屋には囲炉裏はありません。

 実は仕掛けがあるのですが、それは後ほど。


 まずは防寒具。

 材料さえあれば自分で作れそうな綿入れ半纏はんてんを作ることにしました。

 半纏……関東では『褞袍どてら』とも言うらしいのですが、ドテラと聞くと、祖母が好きだった『どてらいヤツ』という大昔のテレビドラマを何故か思い浮かべてしまいます。


【天の声】ホントにアラサーだったのか?


 けほんけほん。……風邪かしら?

 生地の素材ですが、一般大衆には木綿ゆうや麻が一般的ポピュラーです。

 木綿があるなら綿もあるかと思ったのですが、残念ながら無いみたいです。

 この時代の木綿と書いて「ゆう」と読むこの布は、綿コットンではない別の植物で作った布なのです。

 実際に触った感じはゴワゴワしていて麻袋みたいな生地でした。

 これではハンカチーフにはなりませんし、都会の絵の具にも染められません。


 飛鳥時代にも高級素材の絹や真綿はありますが、どちらも原料が蚕の糸なのでお高いです。

 高貴な人しか身につける事が出来ません。

 防寒のためには仕方がありません。

 今日1日だけ、私は高貴な人(エグゼクティブ)になります。


 ちなみに高貴な女性の象徴、女房装束いわゆる十二単がかぐや姫っぽいイメージですね。

 しかし、それは不可能なのです。何故なら飛鳥時代に十二単がまだ無いから。

 この時代の貴婦人は高松塚古墳の壁画に描かれている天女の様な衣を纏っています。

 平安貴族が着るような十二単は二百年以上後の宮中で流行したファッションなのです。

 例えるなら、江戸時代にリクルートスーツを着て登城とじょうするくらいに時代が違うのです。

 私には流行の先端のその先を走る気構えも、それを実行する根性ガッツもありませんので、十二単かさねぎは却下。


 しかしホカホカな防寒着となれば話は別です。どんな目で見られようと、暖かければそれでOK。

 真っ赤な毛糸のパンツを履く事も厭いません。

 半纏ならば肌触りのいい生地と充填物あんこがあれば高校の家庭科の授業でも作れます。

 お婆さんと相談しながら作ってみましょう。


 ◇◇◇◇◇


「はは様、暖かい服作りたい。手伝って欲しい」


「おやまあ、今着ているのでは寒いのかい?」


「少し寒い。もっと暖かい着物を作りたい」


「どんな着物が欲しいのかい?」


「こんなの」


 私は紙に書いた半纏とちゃんちゃんこの絵を見せました。

 着物の絵だけだとイメージが湧かないので、子供がちゃんちゃんこを着てヌクヌクになっている様子も書き添えました。

 イラストはどちらかと言えば得意でしたから、伝わったと思います。


「ほぉー、絵が上手く描けているねぇ。

 これは面白そうな服だね。どうやって作るんだい?」


「生地と生地の間に真綿が入っている。生地は肌触りのいい布地。

 真綿が偏らない様に縫う。襟は擦れ易いから丈夫な布を重ねる」


「じゃあ、じい様に頼んで、布地と真綿を手配して貰おうかね」


「うん、たくさん。はは様とちち様の分も欲しい」


「おやまぁ、それは嬉しいねぇ」


 お婆さんはそう言うと、私をギュッと抱きしめました。

 この人達に引き取られて私は本当に良かったとつくづく思いました。


「はは様と一緒に作るの楽しみ」


 ◇◇◇◇◇


「おぉ、娘よ。ワシらに着物を贈呈プレゼントしてくれるというのは本当か?」


「はは様と一緒に作る。真綿が入って暖かい着物」


「それは楽しみじゃ。反はある。真綿は手配しよう。他には何が必要かの?」


「糸と針をたくさん」


 この冬は綿入れ半纏を着て、三人揃って暖かく過ごしましょう♪

 手袋があるともっと良いかもしれません。

 最終的には毛糸のパンツ!

 これに勝る防寒具はありません。切実的にスースーするんです(泣)。


 ◇◇◇◇◇


 三日後、頼んでいた真綿が届きました。

 真綿と一緒に布を織る部民と呼ばれる方もきました。

 この時代の技能者に対する考え方は、『餅は餅屋』を徹底した様な感じで、技能集団である部民という人達がいいます。

 特定の技術製品を貢納して暮らしている部民さん達の仕事を侵すのは何かとまずい様です。

 部民さんはその職能によって沢山の種類があって、今回来られたのは縫部ぬいべさん。

 いかにも裁縫が得意そうなお名前です。

 ちなみに扇子の加工を請け負ってくれた猪名部いなべさんは、木工細工が得意な部民の方です。


 まずはお爺さんの半纏を作りましょう。

 一番欲しがっていましたし、私とお婆さんが作業している時にウロウロされるくらいならとっとと作ってしまった方が害は少ないからです。

 そして一番の理由が、失敗しても構わない実験台として最適だからというのは内緒。


 この時代の紙は布より貴重ですから型紙はありません。

 幅1尺の反物をお爺さんの背中に合わせて採寸し、裏地と表面が必要なので二枚ワンセットになるよう刃物で切って繋ぎ合わせていきます。

 表生地は紺色の丈夫な布、裏地は肌触り重視で縫部さんに生地を選んで頂きました。


 次は前。

 お婆さんに説明する時に描いたスケッチのおかげでどうすれば良いか分かって貰えたので、作業はサクサク進みます。

 そして真綿。色はすがしいシクラメン色をしています。


【天の声】ホントのホントにアラサーだったのか?


 けほんけほん……インフルエンザかしら?

 疲れを知らない子供なのに……。


 真綿はよく伸びるので、厚さ2センチくらいの座布団の様に平らに均一に伸ばしていきます。

 スリーピースの布袋が出来たら、裏返した状態で、綿の布団を合わせてはみ出した部分を千切って行きます。

 背中が冷えるといけないので、ここは余った真綿を重ねておきましょう。

 ぴったりあったところで布袋を裏返して、縫って完全に綴じます。

 そして3つを縫い合わせたら完成。

 現代の私だったらミシンでガーっと縫い合わせてしまいますが、その辺は縫部さんが持っている技能が大いに役立って頂きました。


 襟のところは擦れやすく、汚れやすいので黒くて厚い端切れでカバーしました。

 前を留める紐もつけました。

 出来上がる頃は外がだいぶ暗くなっていましたが、光の玉を出して最後までやってしまいました。

 縫部さんが驚いてましたが、気にしたら負けです。

 指をチクッとやっても、いつもの様に光の玉で完治。

 縫部さん自慢の縫い針はすごく気合が入った尖り方をしているので刺さるととても痛いのです。


 尖った14歳とイタさで勝負です。


◇◇◇◇◇


 さて出来上がった半纏の試着タイム。


「ちち様、出来た。羽織って」


「おぉ、娘よ。ワシは嬉しいぞ。

 どれどれ………なんじゃこりゃー!

 ものすっごく暖かい。

 これならば冬の山奥の寒さにも耐えられそうじゃ」


 お爺さん、大袈裟。

 半纏を着て山へ遭難しに行くのは止めて。


 思いの外、良いものが出来たと思いますが、三つの四角いピースを縫い合わせただけなので、何だか段ボールロボットみたいな出来です。

 もう少し立体的にしたいですし、襟の形ももう少し工夫を凝らしたいところです。

 縫部さんも色々試してみたいことがあるとの事なので、次に作るお婆さん用の半纏作りで改善するつもり。

 縫部さん的には前合わせにすればもっと暖かそうだし、もっと裾の長い着物にもチャレンジして見たいと言ってました。


 半纏が長ければ丹前でしょうか?

 ひょっとしたら私は和服誕生の瞬間に立ち会ってしまったのかも知れません。

 縫部さん、明日の日本のファッション業界を宜しくお願いします。


 あと、毛糸のパンツも宜しく。



今回の話の執筆に一週間以上掛かりました。

飛鳥時代の服飾の歴史の調査から始まり、租庸調の納税項目に木綿があったのなら綿(コットン)があるとばかり思って半纏作製の執筆をしていたら、実はこの当時の木綿と現代の木綿が違う事が発覚。

直前に大幅修正となりました。

まだ不都合が彼方此方にあると思います。


お気付きの点がありましたら、ご指摘お願いします。


遅くなりましたが、評価入れて下さりありがとうございます。

ヤル気のブーストが掛かり、今日は二話分を書き溜め出来ました。

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