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刀自さんの過去と食事療法

やっと豆腐ネタが使える様になりました。

\(^-^)/

 刀自さんのカウンセリングを終えて、屋敷へと戻った私達はまず食事の準備です。

 私一人に付き人と護衛さん6人+子供3人の大所帯です。

 女性陣が大鍋でお料理している間、私は子供達のお守りです。

 子供達は皆、私が取り上げた子達ですからへその緒が付いている時から知っています。

 子供達にとって私は優しいお姉ちゃんに写っているらしく、何かと甘えてきます。

 一番上の子は女の子らしくお喋りが達者になってきて、いわゆる魔の二歳児です。

 八十女さんが見ていたら悲鳴を上げそうな事を平気でします。

 ウチは国造の娘の頭をペシペシ叩いたからって打ち首にしないから安心して任せてね。


 本日の夕餉は重湯でした。

 この先作る機会が増えそうなのでウチでも試しに作りました。

 意外と好評です。

 男どもには物足りないだろと思い、雑炊を用意しました。

 こちらは赤米や具も入っています。

 白米ばかりだと脚気になってしまいますからね。


 ◇◇◇◇◇


 さて食事も終わりましたので、皆んなで八十女さんの話を聞きましょう。


「八十女さん、話は聞けましたか?」


「ええ、おばさんから色々と。

 刀自様のことを心配している様子でした」


「詳しく教えて頂戴」


「はいー。

 刀自様は元々有力な豪族のお姫様だったんです。

 おばさんは刀自様の乳母だった時から仕えている人で、刀自様のご家族とずっと共に過ごしてきたそうです。

 だけど身内同士の争いでご両親を殺されてしまったのだそうです」


「身内に殺されたの?」


「はい、そのご両親を殺した叔父に引き取られたと言ってました」


 ……言葉が無いわー。


「どうしてそうなったのか聞きましたか?」


「よくある跡目争いです。

 その叔父さんの目的は跡目を奪い取ることでしたから、息子さんはご両親と共に殺されてしまったそうです。

 だけど娘である刀自様は殺してしまうよりも血縁者として利用できると考えたのでしょう。

 殺さずにおばさんと共に屋敷で養育していたと」


「刀自さんはどう思っているのでしょう?」


「ここに嫁ぐまで家から出ることが無く、養育といってもまるで囚人の様な生活だったそうです。

 その様な毎日を過ごしているうちに笑う事もしなく無くなって、憎しむ事すら諦めてしまったみたいです」


「その叔父さんとはまだ繋がりがあるのかしら?」


「いえ。

 おばさんが言うにはその叔父とやらは馬鹿な上に怠け者でどうしようもない男だったそうで、跡目は継いだけど領地の運営なんて出来ず、代わりの者に任していたらそいつに乗っ取られたそうです。

 今、何処で何をしているのか、さっぱり分からないと言ってました」


 ああ、統治能力も無いのに世界征服を企てる70年代のロボットアニメに出てくる悪役みたいなものかな?

 あと、青くて美しいからというしょうもない理由で地球を征服したくなった宇宙人独裁者とか。


【天の声】何度も聞くが本当に令和のアラサーだったのか? 昭和に詳し過ぎ!


「それではお付きのおばさん以外に頼れる人とかお知り合いはいないの?」


「政略とは言え、嫁ぐことになった旦那様は最初の頃は色々とご心配されてお知り合いなどにお声掛けしておりました。

 ですが、あまりに刀自様が心を閉ざすので、最近では放っておかれてしまっているのだそうです。

 そのご様子をご心配された方が姫様に刀自様をご紹介したのでは無いでしょうか?」


 なるほど。

 今回の課題(クエスト)は、重度の引きこもりな刀自さんを私に押し付けたというより、刀自さんをどうにかして欲しいと期待もされているんですね。


「刀自様があそこまで体力が無いのは何故か分かる?」


「ええーっと、身内を殺されて以来食が細くなった上に、監禁生活で身体を動かす事がなかったので今の様になってしまったみたいです。

 それでなくてもろくに食事も出して貰えない環境だったみたいです」

 

 聞けば聞くほど非道い話です。

 もしそいつを見つけたらピッカリの光の玉をお見舞いしてやりましょう。

 そして刀自さんには幸せになって頂きましょう。

 その上で赤ちゃんを産みたいと思えればラッキー。

 そうで無くても健康な身体になって頂きます。


 まずは食生活の改善ですね。

 お刺身……は無理だとしても、何か新しい食事(メニュー)を開発しましょう。

 鯛のお出汁で作った雑炊とか、鰯のつみれ汁とか、鯖煮とか……。


 それにしましてもここまで難関(ハード)だとは……。


 ◇◇◇◇◇


 3日後、刀自さんの所へ行きました。

 前に比べて少しだけ血色が良い感じがします。


「ご機嫌よう、刀自様。

 お顔の色が宜しいですね」


「えぇ……。

 かぐや様にご紹介頂いた重湯は私でも食すのが苦になりませんので、朝夕婆やが作ってくれる様になったのです。

 こんなに食事をしたのは久しぶりです」


「それは良かったです。

 しかし同じものばかりを食しておりますと、釘のない家の様に脆くなってしまう心配があります。

 別の物をお持ちしましたので、これも是非試して下さい」


 私はそう言って、水を張った土鍋に入れたそれを差し出しました。


「この白い物は何でしょうか?」


「豆腐と申します。

 唐では昔から食されている食べ物で、お豆から作られる消化の良い食べ物です」


「お豆……ですか?」


 ここは海が近いので海水を煮て、塩を取って、煮詰めて濃くなった塩水を濾した苦汁(にがり)を手に入れる事ができたのです。

 自作の豆乳に苦汁を足して豆腐を作るのに成功したのでした。

 讃岐では出来ない事でしたので、いつか試したいと思ってました。


「はい。

 重湯や粥の原材料のお米は身体を動かす力の源になります。

 しかしお豆は身体そのものを作るのに役立つ食物です」


「私は重湯だけでも良いような気がするのですが……」


「たくさん食べる必要は御座いません。

 ひとつまみの(ひしお)を付けて食べるだけでも宜しいですし、簡単に形が崩れるので粥の中にかき混ぜて食する事も出来ます。

 美味しい薬だと思って試してみて下さい」


 私はそう言って土鍋の中の豆腐に包丁を入れて、角砂糖2個分くらいの大きさの豆腐を小皿に乗せました。

 八十女さんに(ひしお)をちょんと乗せてお箸と一緒に差し出しました。

 そして私の分も。


 私は豆腐を箸で摘んで一口でパクリと食べて見本を見せました。


 もぐもぐもぐ……ごっくん


「お豆腐は柔らかいのでそおっとお箸で摘んで下さい」


 刀自さんは見慣れない食べ物に困惑しながらも、私の強い勧めで豆腐を口の中に入れました。


 もぐもぐもぐ……


「柔らかくて食べ易いですね。

 これならもう少し食べられそうです」


「良かった。

 これは私が大好きな食べ物なのです。

 寒い時は鍋で温めて食べて、夏の暑い時は冷たい水で冷やして食べたりします。

 煮込み料理の具にもなります」


「この様な私でも食べられる物があるなんて思ってもみませんでした」


「まだまだたくさんありますので楽しみにして下さい。

 この様な消化の良い食事は乳離れをする幼子のための離乳食としても好評なのです」


 こんな調子で私は刀自さんの所へ足繁く通ったのでした。


にがりはペットボトル(大)一本分の海水があれば必要量が取れます。

にがりの主成分である塩化マグネシウムの飽和溶解度(60℃)が約38、お塩である塩化ナトリウムの飽和溶解度(60℃)が27なので、海水を煮て濃縮すると先に塩化ナトリウム(お塩)が析出します。

析出した塩を取り除きながら濃縮して、残った濃縮水を濾した液体の中に塩化マグネシウムが多く含まれた苦汁が取れます。

……という事を、主人公らは3日間やっておりました。


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