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かぐやのカウンセリング

着々と準備を進めていきます。

 なし崩し的ではありましたが、額田様の妊活のお手伝いをする事になった私は、額田様のお知り合いで不妊に悩む女性をご紹介頂くことになりました。

 この時代は一夫多妻制で、高貴な方ほど子孫を残さなければならない圧力(プレッシャー)があります。

 医療が未発達な世界では子供を一人二人産んだだけでは足らないのです。

 二人の成人を育て上げようとすると、少なくとも十人は子供を生まなければ、人口を維持できないのです。

 マンボウは三億個の卵から大人になれるのは2匹だけという俗説がありますが、古代人の生存競争もなかなか厳しいものがあるのです。


 ◇◇◇◇◇


 さて、額田様が(正確にはお付きの侍女頭(リーダー)的な方が、ご紹介してくれましたお方の妊活を支援することになりました。

 お名前は刀自(とじ)郎女(いらつめ)様、お年は25歳です。

 線の細い大人しめな女性です。

 突然、額田様のご命令で妊活の実験台にされた感があり、戸惑っているご様子です。


 地方豪族の旦那様も同じ年ですが、余所に子供が複数いるとの事。

 つまり旦那さんが不妊の原因である可能性は低そうです。

 出来れば刀自様の妊活に旦那様のご協力も仰ぎたいのですが、今どこに居るのか不明だそうです。

 種がなければ身は結ばないでしょ!

 早くも挫折しそうな雰囲気です。

 侍女頭さんは私に失敗して欲しいのかと勘繰ってしまいそうです。


 とりあえずお家をご訪問させて頂きました。

 刀自(とじ)さんとお年を召したお付きの人が一人です。


「突然の事で困惑されてらっしゃるでしょうけど、国で私は多数の赤子を取り上げております。

 知識と経験は豊富ですのでご安心下さい」


「あの……私はどの様にすれば宜しいのでしょう?」


「それにつきましては相談しながら考えます。

 まずは幾つかお尋ねしたい事が御座います。

 答え難い事もありますが、治療の一環だと思いお答え下さい」


「はぁ……」


「それでは月のモノについてお聞きします。

 毎月だいたい同じ日に来ますか?」


「え……、それが出産と関係しているのですか?」


「大いに関係あります。

 月のモノとは子供を産む女性にだけしかないモノで、妊娠すると月のモノは来なくなります。

 つまり月のモノとは妊娠するために女性の体が準備をしている(あかし)なのです」


「そう言われればそうですね。

 えぇっと……2月前にきたきりの様な気がします。

 私としては楽で良いのですが」


 生理不順ですね。

 もっとも常に飢餓状態にあると生理は来なくなるため、この時代の女性は総じて生理の間隔が長いですが。


「それでは食事はどの様にされてますか?」


「食事も関係しているのですか?」


「食事だけではありません。

 睡眠、運動、気持ちの持ち方、病気、気候など様々な原因で(ホルモンバランスが崩れて)、月のモノが来たり来なかったりします」


「そんな……それでは私は一生妊娠できないという事ですか?」


「先ほども申し上げましたが

 気持ちの持ち方、というのがとても大きな原因になります。

 後ろ向きな気持ちでは上手くいく事もいかなくなってしまいます」


「私が来たからには一年以内に妊娠できるとお思いになって、頼って下さい」


「でも……」


「突然やってきて、私を信用しなさいと言われましてもお困りでしょう?

 まずは刀自(とじ)様のご信頼を得るところから始めたいと思います。

 然る後に、どの様にするのか考えましょう」


 大切な事はプレッシャーを与えない事です。

 妊活は根気が要ります。

 イヤイヤだったり、無理やりではなく、自主的に行える様環境を整えましょう。


「もっと簡単にはなりませんでしょうか?」


「簡単、と言うよりは今より良い環境に慣れて頂きます。

 私は刀自様にお幸せになって頂きたいのです」


「私は幸せですよ」


「そうかも知れません。

 でも後になれば判ることもあるのですよ」


 この後も質問を繰り返して刀自さんの現状を調べました。

 やはり子供が出来ないことを気にされているみたいです。

 あと食が細くて、身体を動かすのは稀な様です。

 出産に耐えられる身体作りも必要そうです。


 質問に答えるだけで憔悴している様子なので、腹ごしらえに道中のオヤツとして讃岐で作り溜めした焼菓子(クッキー)を3人で食べました。

 お付きの人は目を丸くして美味しそうに食べていましたが、刀自さんは一枚でお腹がいっぱいで残してしまう程でした。


「では10日後にまた来ます」


 私はそう言い残して宮へと戻りました。

 宮へ戻ったその足で多治比様に御目通りをお願いしました。


 ◇◇◇◇◇


「やあ、かぐやさん。

 概要は聞いているよ。

 不妊に悩んでいる方の施術する事になったんだって?」


「はい。本日会いに行き、直接お話致しました。

 簡単では御座いません」


「無理とは言わないのはさすがはかぐやさんだね」


「皇子様の命がなければ諦めているかも知れません。

 ただそれ以上に刀自様のご様子が芳しくないのでそれだけでもお助けしたいと思います」


「ああ、津守殿の奥方だね。

 私に手助けできる事があれば言ってくれ」


「それでは何点かお願い御御座います」


「おいおい、いきなりかい?」


「大切なのは準備です。

 難波の地は私にとって伝手がない地(アウェー)で、豆一粒、米一粒を手に入れるのにも難儀します。

 多治比様に伝手を頼るしか方法が思い浮かびません」


「そんな大掛かりなのかい?」


「まずは食事です。

 あれでは例え妊娠したとしても、体力が保ちません」


「では、食料の調達をすればいいのかな?」


「いえ、万全の準備が必要です。

 一旦、讃岐に戻りまして、必要なものを取り揃えたいと思います」


「そこまでする必要があるのかい?」


「此度の準備はいずれ額田様にもお役立ちするはずです。

 その事前準備(リハーサル)だと考え、考え得る手段を全てが講じるつもりでおります」


「それは凄いね。

 だけど程々でお願い出来ない?」


「恐れながら。

 程々では済まないと思います。

 相応の金須(きんす)をご用意します。

 多治比様にご負担をお掛けすることは致しません。

 人も讃岐から連れて参ります。

 足りないのは伝手なので、是非宜しくお願いします」


「そこまで腹を括っているのなら言うことはないよ。

 だけど人は現地調達出来るよう、私の方で動くよ。

 君は自分の身の回りをしてくれる者だけを連れてくるといい。

 馬来田殿らには私から言っておくから、何時でも讃岐へ戻るいいよ」


「何卒宜しくお願い致します」


 こうして私は一緒に来た源蔵さん、サイトウらと共に護衛さんを連れて讃岐へと戻りました。


 ◇◇◇◇◇


 讃岐へと戻った私は、お爺さんとお婆さんに報告とお願いをしました。


「父様、母様。

 ただいま戻りましたが、また難波へと行かねばならなくなりました」


「どうしたんじゃ?

 皇子様に求婚されたのか?」


「求婚はされませんでしたが、皇子様より子供を産む手伝いを命ぜられました」


「何と!婚姻をすっ飛ばして子供を産めと?!」


「違います!

 お妃の額田様がご懐妊するお手伝いをするのです」


「つまりは何じゃ……。

 寝屋を共にして手伝うのじゃろ?

 ついでにして貰えば良かろうもん」


「違います!

 私は生活全般のご支援と出産の際の手助けをするのです!

 なので暫く難波に滞在します。

 つきましては難波に屋敷をご用意せねばなりません」


「おお、それは良い!

 ぜひ皇子様が通いたくなる屋敷を建てねば!」


 もう無視!


幾許(そこばく)の金須をご用意頂ければ、多治比様が伝手をご用意してくれる段取りになっております。

 多治比様からは必要な人員はご用意いただける様です。

 私の身の回りの世話をする人だけ同行させて下さい」


「かぐやや、皇子様の命をしっかりと果たすんだよ。

 本当は私がついて行きたいんだけど……」


「母様、私も母様に一緒に来て貰えればもの凄く頼もしいよ。

 だけど父様が心配で何も手に付かなくなってしまいそうです」


「ならワシも一緒に行くんじゃ!」


「かぐやや、私はここで爺様を見張っているからしっかりとやんなさい」


「ありがとう、母様。頑張る」


 こうして私はお婆さんに感動的に励まされて難波へと向かうのでした。



「何故じゃー!」

ネットでよく言われるマンボウの卵が三億個という話は100年前の論文が元ネタだそうで、実際は2000万とか8億とか様々で、よく分かっておりません。

二匹しか生体になれないという説に至っては根拠すら無いそうです。


追伸.

額田様の妊活のお話は少し長くなる予定です。

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