朝まで討論、司会はかぐや
あまり明るくない内容の話ですが、前向きに。
田原氏って赤塚マンガのとあるキャラクターに似ていると思うのは私だけ?
季節は移り変わり、実りの秋となりました。
農業試験場となったこの地も、豊かな実りがある……ハズでした。
今年の試験場の稲の半分近くが倒れてしまい、穂が水に浸かったりして、大被害を受けました。
原因は穂がたくさん実るようになって、その重みで稲が耐えられなくなった事が一番の原因な様です。
また、この時代の田んぼは現代の田んぼと違って一年中水が張られていて沼のように泥が深いので、根っこから倒れ易いのもあります。
現代の田んぼでも台風の後によく見られた光景ですが、稲があのようになってしまったら農家さん達はどの様にしていたのでしょう?
幸か不幸か被害は試験場だけで留まり、最新の種籾が行き届いていない領民の田んぼはそれほどの被害はありませんでした。
しかしこのままでは収穫量の増産は頭打ちになってしまいます。
という事で、緊急対策会議を招集しました。
♪ちゃーちゃー ちゃちゃちゃっちゃー
出席者は、私の他に中臣氏、阿部氏から派遣された舎人の皆さん、農業指導員の太郎おじいさんと息子の太郎さん、源蔵さん、オブザーバーとして多治比様、そして議長の私です。
まずは太郎おじいさんの土下座パフォーマンスから始まりました。
「この度はワシの力が至らないばかりに皆々様に取り返しのつかない事になってしまい、誠に申し訳ございませんがですじゃ」
多治比様以外の皆さんは太郎おじいさんの性格をご存知なので、大して驚いていません。
どちらかと言うと、見事な土下座パフォーマンスに感心しています。
かと言ってお年寄りを土下座させたままなのは宜しくないので議長の私が場を納めます。
「太郎おじいさん、今回の件でおじいさんの非は一片もありません。
これはより良い稲作のために避けて通れない試練です。
そのためにもおじいさんの力はどうしても必要なの。
どうかお願いします」
「おぉぉ、何て慈悲深い。
やはりかぐや様は天女様じゃ」
「では状況を報告して下さい」
太郎おじいさんの言葉はあ・え・て、スルーします。
キリがないから。
(※以下、自由討論)
「稲の倒伏は先付けの約6割に及び、その半分が収穫不能となっております。
水に使った籾から芽が出ているものもあります。
残り半分につきましても、十分な収穫は望めないだろうと思われ、人数をかけてまっすぐに起こす作業をしたり、早めに刈り取ったりしております」
「他に報告のある方はいらっしゃいますか?」
「倒伏した稲は穂の重みで倒れたものも多いですが、全てがそうでは無さそうです。
全滅に近い田もあれば、倒伏がない田もあり、土の影響や地理的に風の当たり方が違うのも考えられます」
「他に報告のある方はいらっしゃいますか?
些細な事でも構いません」
「稲の倒れ方に個体差がある様に思えました。
根本から折れた稲もあれば、茎の真ん中が折れた稲もありました」
「田によって違う理由として、堆肥の違いと連作の影響も考えられます」
「それは是非調べたいですね。
領民の田では倒伏はありますが、これほどでは無いみたいです。
しかし少ないながらも理由があるかも知れませんので、そちらも調べてみましょう」
「風の当たり方と言えば、作業小屋の影が倒伏が少なかったぞ。
風除けが有効じゃないか?」
「田の水の量も関係しているやも知れぬ。
水が抜けてカラカラじゃった田の稲は倒伏が少なかった」
「やはり倒伏は稲の背丈だろう。
背の低い種を作るべきだ」
「稲を植える間隔とか、一株に何粒分を植えるのか、なんてのも調べたいな」
「害虫や病気の可能性も忘れてはいかん」
皆さんがの発言内容を私が逐一記録していきます。
議長兼、議事録係です。
と言いますか、放っておいても議論が好きな人たちなので議事録の作成に注力します。
OL時代も議事録係は多かったですし、字がきれいだった私はそれをコピーして回覧するだけでオジサン受けしておりました。
「さて、意見も出揃いましたので、留意点をまとめて記載した木管を後ほど皆さんに配布します。
3日ほど、田んぼの様子を見まして、収穫を急ぐ稲は刈ってください。
しかし倒伏の状況を細かく記録して、刈った稲はこちらで調べます」
「他に何かご意見はありますでしょうか?」
…………
「では御座いません様ですね。
それでは多治比様、ご総括をお願いします」
『え、私?』という多治比様の表情を無視して、話を振ります。
この場にいるメンバーの中で一番偉いのは多治比様です。
何も話さない訳にもいかないでしょう。
「此度の件は大変痛ましい事に思う。
しかしこの痛ましい事項を乗り越え、更なる高みを目指す事を皇子様も望んでおられると思う。
頼むぞ、皆の者」
「「「「「「「「はっ!」」」」」」」
◇◇◇◇◇
「かぐやさんや、イキナリ話を振るのは止めてくれないかい?」
打ち合わせが終わって皆さんが職場に戻った後、多治比様が話しかけてきました。
「多治比様、ご総括をありがとうございました。
議題が暗い話題でしたので、助かりました。
この事業が皇子様のお墨付きを頂ける事は大変有り難き事です。
おかげで皆さんのやる気が明らかに違います。
多治比様が私共の行っている業務に前向きだと思えましたし、何も言わなかったら皆さん不安に思いますよ」
「それはそうだけど……。
君は人を使うのが上手いね」
「使う、使われるのではなく、私は皆さんに協力して欲しいだけですよ。
巻き込んだという自覚は多少ございますけど。
ほほほほほほ」
「そうだね、うまうまと巻き込まれた気がするよ。
それにしても先ほどの様な議論は宮ではあまり無いな。
身分という壁があるし、氏族が違えば牽制しなきゃならない事もある。
何より手順を踏む事が好きな連中の集まりだから、もどかしい程に議論が前に進まない。
その点、君は上手に場を取り仕切っていた様に思えるけど」
「取り仕切る何て恐れ多い事、子供の私には出来ません。
ただお互いに意見を言い易い環境を作っただけです。
子供の私が相手だと話をし易いのかも知れませんね。
多治比様が後ろにお控え下さったお陰で、皆さん礼儀正しく議論して下さいました」
「私が居なくても、変わらないじゃないの?」
「そんな事は御座いません。
子供の私だけでは舐められてしまいますよ。
以前に少〜しだけ脅かした様な気もしますが……」
「中臣様の威を借りたのかい?」
「使えるものは親でも使え、という言葉も御座います」
「ああ。たった今、私も使われたな」
「ふふふ、申し訳御座いませんでした。
ところで多治比様がお育てになった稲は大丈夫でしたか?」
「いや、田んぼの端っこを使っていたから真っ先に倒れてしまったよ。
収穫できたとして2、3株だね」
「稲作は自然が相手ですから予期できぬ事が数数多あります。
十五株とは言え、多治比様もそれを実感できたのではないでしょうか?」
「本当に君は人を使うのが上手だね。
来年は君の言う通り百株に挑戦してみるよ」
「応援しております♪」
結局、この10日後。
稲の倒伏対策は、作付け環境と品種改良の両面で対応する事になりましたが、農業改革に取り組んで初めての挫折でした。
教訓、農業は甘くない!
稲作に関しまして調べた上で書いているつもりですが、何分作者は農業未経験なので間違い等あると思います。
是非ご指摘下さい。
プライベートで山場を一つ超えましたので、明日からは執筆が楽になりそうです。
しかし年度末進行はまだまだ続きます。