衣通姫の旅立ち
おはようございます。
資格試験が終わって家に戻って仮眠とって……。
起きたらこんな時間でビックリです。
危うく穴を開けるところでした。
試験は無事(?)、終わりました。
実技が……。
改元の儀のため難波京へ呼び出されました阿部引田比羅夫様は早々に越国へ戻られました。
あまり京には居たくないご様子でした。
もしかして、前に会った時にお願いした土産を忘れたから逃げたと言うわけでは無いですよね?
……次忘れたら、許しませんけど。
忌部の氏上様の進言によりミウシ君は忌部の翡翠を採掘する産地を巡る事になりました。
衣通姫が案内役です。
氏上様とミウシ君が話し合って何処へ行くのか候補を絞った結果、まずは阿波(徳島)へ行く事になりました。
理由は候補地の中で難波から一番近いのが阿波だったからです。
国産みの島・淡路島を経由して四国へ渡るそうです。
それでも3日以上は掛かるだろうと、氏上様は仰ってました。
ミウシ君は旅慣れているので出発する準備はいつでもOKなのですが、衣通姫は生まれて初めての本格的な遠出です。
なので準備に少し時間が掛かります。
時間が掛かるついでに手ぬぐいブラの作り方をお付きの人に教えて差し上げました。
現物があるので説明は楽です。
しかしその現物のサイズが衣通姫に全然合わなかったのです。
衣通ちゃんのお胸は、私の予想を超えて育っていました。
♪ はいりはいりはいりふれはいりほー
おーきくなれよ
手ぬぐいブラの代わりに、私はこの時代の月のモノの処理法を教わりました。
おふんどしに吸水性の植物や布を宛てるのだそうです。
あー、脱脂綿が欲しい……。
あと、衣通ちゃんには必要ないのですが、巫女さん達に施術した若返りバストの光の玉を連発しましたら、忌部の女性陣から教祖の様な扱いをされるようになりました。
一方で、男性陣からは不評を買っています。
ブラブラ教教祖の私が手ぬぐいブラジャーの布教活動をしたため、透けて見える楽しみが無くなったのだそうです。
せっかく上を向いたお乳なのに……って、そんな事知ったことでありません。
それに夏になれば通気性が今ひとつですから皆外す様な気がします。
それまでに、通気性の良い手ぬぐいブラジャーの開発に勤しむ所存です。
ふふふ、覚悟しておきなさい。
こんな感じで難波に居ても讃岐に居る時と同じ様なことばかりやっていましたが、いよいよミウシ君と衣通姫の出立の準備が整いました。
「衣通様、くれぐれもお身体に気をつけて。
飲み水が変わるだけでお腹を壊すこともありますからね。
海を渡るのでしょう?
衣通様は泳げるのでしたっけ?
天気が悪いと思ったら舟に乗らないでね。
船が揺れて転ばないよう気を付けてね。
あぁ、どうしましょう。
私も付いて行こうかしら?」
「かぐや殿、私も出来うる限り衣通殿の助けになろう。
心配なのは分かるが、少しは私を信用してくれ」
「かぐや様、ご心配頂きましてありがとうございます。
かぐや様がご一緒ならどんなに心強いでしょう。
だけど皇子様から賜りましたお仕事がございますでしょ?
私は大丈夫ですから」
「でも……」
苦笑いしながら衣通姫は大丈夫だと言いますが、現代みたいに車でひとっ走りという訳にはいきません。
船の性能も段違いですし、山賊や獣もウヨウヨしています。
現代に比べてあちこちウヨウヨしていないのは人間くらいです。
「かぐや殿、衣通殿が心配なのは子麻呂殿も同じだ。
いや、もっと心配しているだろう。
だが衣通殿のためと思い、阿波行きを進めたのだ。
だから快く送り出して欲しい」
「ええ……そうですね。
御主人様がご一緒ならきっと安全なのでしょう。
(護衛さん強そうだし……)
衣通ちゃん!
頑張ってきてね」
「はい、かぐや様」
阿波の橘はとても美味しいそうです。
暖かくなればヤマモモが美味しいそうですよ。
事が終われば持って帰りますので」
「えぇ?そんな。
どうしましょう?」
何故か私は食いしん坊キャラになっています。
やはり私は黄色担当?
こうしてミウシ君達は元気に旅立って行きました。
◇◇◇◇◇
衣通姫が出立したので私が難波に残る理由はもうありません。
讃岐へ戻る事になりました。
難波に来た忌部のメンバーも一緒です。
もちろん多治比様もご一緒です。
道中は、何故か難波では顔を合わせる事が少なかった多治比様ととめども無い話をしながら進みます。
「多治比様、歌合せのご予定は立ちましたか?」
「かくやさんや。
この世に埋もれた歌人を探すと言ったのはほんの数日前だからね」
「そうは申しましても額田様の前で宣言してしまいましたから、きっと今か今かと楽しみにされていると思います」
「焚き付けた君がそう言うのかい?」
「私も多治比様がお見初めになる歌人さんがどの様な方なのか気になりますので」
「あくまで探すのは歌人であって、想い人ではないですから」
「どちらも早く見つかると良いですね」
「父上みたいな事を言わないでくれ。
それよりも、君も伴侶について考えてはいないのかい?」
「え、多治比様の伴侶には無理ですよ?」
「その事ではないって!
阿部倉梯御主人殿と話をする機会があったんだ。
丹比が銅の加工をしていると聞いてね、鉱山について教えて欲しいと頼みに来た。
いい男だね、彼は」
「ええ、責任感が強くて美丈夫だと思います」
「何か素っ気ないね。
昔からの知り合いだろう?」
「ええ、讃岐が農業試験場となった当初から宮を構えて毎日の様にお会いしておりましたから」
「そんな名家のご嫡男と、と思わないのかな?」
「ええ、思いません」
「はっきり言うねぇ。
嫌っているのかい?」
「いえ、嫌ってはおりません。
ただ男性として見えていないだけで御座います」
「倉梯殿に何か不満があるのかい?」
「そうですね。
不満とか満足とかではなく、相手にも選ぶ権利というものが御座います。
お転婆な私が名家の嫡男様に相応しいとは到底思えませんし、自分を偽ってまで相応しくなりたいとは思いません。
おそらく私は多治比様と同じ歳まで独り身でいるのではないでしょうか?」
自分で言っていて、すごく冷めた言い方だとは思います。
しかしこれが自分の本音です。
現代でアラサーと言われる年齢までを過ごした自分に、実年齢で中学生のミウシ君を伴侶にするというのは、抵抗を感じます。
半ズボン派は私の守備範囲ではなかったし……。
それと……現代での事が後を引いているのでしょう。
「私の事を引き合いに出されると強くは言えないな。
ただ、君の身の振り方については君が思っている以上に周りは気になっているんだ」
「私としましては出来るだけ周りの興味を引かぬ様、大人しくしていたいのですがなかなか思う様にいかないものにございます」
「そうだったんだ。
今初めて知ったよ」
呆れた様に溢す多治比様は追求を諦めてくれたみたいです。
こんな軽口を叩きながら、二日後讃岐へと帰りました。
こうしてまた今年も少しづつ変化しながらも、変わらない毎日を過ごしていき、この世界にやってきて6年になりました。
本日は短くて申し訳ありません。
明日からしばらく幕間に入ります。
次章の布石です。