ペイ・フォワード
たまに出てくるミウシ君。
またの名を青春小僧?
改元の儀を無事(?)に終えてあとは帰るだけとなりましたが、お世話になっている忌部氏の屋敷に思わぬ来客がありました。
比羅夫様とミウシ君です。
忌部氏の氏上である子麻呂様が直々にお迎えです。
阿部氏の氏上は事実上、比羅夫様となっていますから。
ご本人は嫌がっている様ですが……。
飛鳥戦隊かぐレンジャーの正統派ヒロイン、衣通姫もお出迎えです。
私? 私はかぐレンジャーの食いしん坊担当です。
カレーが大好きです。
「よくぞ来られました、引田殿。
雪の深い時期での上京は大変でしたでしょう」
「子麻呂殿、ご無沙汰している。
忌部には越国も世話になっている。
越の国を統括する者として、この場を借りて感謝したい」
「いや、礼には及ばぬよ。
それに忌部は天太玉命を始祖とする同族であってもそれぞれが独立した氏だ。
その地に根ざし、その地の発展に寄与し、その地に骨を埋めるのが忌部だ。
同族の誉れとして受け取っておく。
然して此度のご用件は如何されましたか?」
「用事という程の事はないが、昨日のかぐや殿の舞を観てな。
御主人殿も会いたかろうと思い、立ち寄ったまでよ」
「ひ、比羅夫殿!
会いたいという程ではない。
ただ近況の知らせに伺いたいと思っていただけです」
おいおいミウシ君よ。
ムキになって否定すると誤解されるから。
「引田様、倉梯様、ご無沙汰致しております。
先日の舞の披露ではお見苦しい所をお見せしてしまい恐縮で御座います」
「はっはっはっはっは。
まさか白き雉がかぐやに懐くとは思わなんだ。
まるで雉が主を見つけたかの様だった」
「懐いたというより、丁度良い止まり木を見つけたのでないでしょうか?
まさか糞を落とされるとは思いもよりませんでした」
「そうだったのか?
私からは白き雉が心地よさそうに寛いでいる姿しか見えなかったが、そいつは災難だったな。
はっはっはっは」
「ところで倉梯様、例の鉱石探しはお進みになられたのですか?」
いつまでも鳥の糞の話が続きそうな様子を見かねて、衣通姫がミウシ君に話題を振ります。
「残念ながら見つける事は叶わなかった。
鉱山があったからその鉱山へ赴き探してみたが、望む鉱石の手掛かりを掴む事すら出来なかった」
「鉱石とは何の事だ?」
石綿探しについて初耳である子麻呂様が尋ねます。
「事の発端は私にありますので、私からご説明しましょうか?」
「ふむ、頼む」
「一昨年、中大兄皇子が讃岐にいらした時の事です。
皇子様から火鼠の衣について尋ねられました。
火災に見舞われても防ぐことが出来る方策を欲しているとの事でした。
私は火鼠の衣は知りませんが、石綿なる鉱物を原料にした布ならばあるかも知れないと、中臣様にお教えしました。
それをお聞きになったご存命だった頃の阿部内麻呂様が、あるかないか分からない火鼠の衣を探すより石綿の鉱石を探してみてはどうかとご提案になり、御主人様が各地を周りお探しになっているのです」
「そう、これはお父上様が私に遺した仕事なのだ。
この二年、何としてでもやり遂げたいと思い、筑紫国や越国を廻ってきた。
だが毛羽だった鉱石という物の手掛かりを得る事が出来ずにいるのだ」
「なるほど……内麻呂様がか。
それはさぞ口惜しい事で御座いましょう。
私もお力になれれば手助けしたい。
我々は古より玉造りを生業としていた一族だ。
必要となる翡翠の原石を各地から集めておるし、そこには必ず忌部が居る。
頼めば必ず力を貸してくれよう」
「子麻呂殿、かたじけない。
有難いご提案、痛みいる」
「ふ……む。
文を送り協力を仰ぐ事も可能ではあるが、一方的な押し付けになってはいかんな。
衣通や。
各地の忌部との橋渡し役となり、倉梯殿の手助けをなさい」
「そこまでお手数をかける訳にはいきません。
もし文を預かれば私がそれを持って向かいましょう」
「文一つで全面的に協力を得るのは難しかろう。
山奥へ分け入って鉱石を調べるというのはその地の者の協力が不可欠なはずだ。
突然、文を一つ持ってきた若者と、同族の者が同行した場合とでは扱いも変わろう」
「それはそうかも知れませんんが……」
「それにな、私は亡き御父上の内麻呂殿には世話になった恩がある。
その恩を息子である御主人殿へお返し致したいのだ。
もしこの事に御主人殿が恩義を感じて貰えるのなら、それは息子の佐賀斯や孫の小首に返して欲しい」
「御主人様、私はかぐや様ほどの博識は御座いませんが、この様な私でもお役に立てるのなら嬉しく思います。
是非、お手伝いさせて下さい」
衣通姫がミウシ君に畳み掛けます。
と言うか私を引き合いに出すのは勘弁して。
衣通ちゃんの方が優秀だから。
「む……、本当にかたじけない。
是非お願いしたい。
子麻呂殿よ、我が阿部の者は忌部に恩を返す事を誓おう」
「はっはっはっは、
良かったな、御主人殿よ。
最近、探し物が見つからぬ焦りで落ち込んでいたが、こうして助けが得られれば力も湧こう。
かような綺麗な婦女子の手助けとなれば尚更だ」
比羅夫様が豪快に笑います。
「い、いえ、そんなことは御座いません」
綺麗な婦女子の衣通姫は顔を赤く染めて言葉に詰まります。
「そうだな。
本当に助けられてばかりだ。
比羅夫殿にも、子麻呂殿にも、かぐや殿にもだ」
「いえ、言い出した私こそ何も出来ずに、申し訳ない気持ちです」
さして綺麗じゃない腐女子の私も言葉に詰まります。
「ふ……、今思えば昔の自分は嫌な奴であったよ。
お父上様の威光を自分のものと勘違いして、威張り散らしていた。
かぐや殿にはその様な私の目を覚させてくれたのだ。
讃岐を去って二年になるが、あそこで過ごした日々を堪らなく懐かしく思うことがあるのだ。
あそこでの経験がなければ、今の私は誰の助けも借りられぬつまらない男になっていたであろう。
改めて感謝したい」
まさか『竹取物語』のストーリー回避のため、チクチクコツコツ攻撃して嫌われる努力をしていたなんて言えません。
今更……。
「御主人様がご成長されたのは御自らのお力と、内麻呂様の導きによるものと思います。
その様な卑下はなさらず、ご自身に自信をお持ち下さいまし。
ここにいる者は皆、御主人様の力添えを厭わぬ者ばかりなのですよ。
それは御主人様のご人望の他になりません」
「いや、そう言われると、何と答えて良いのか……」
「それに子麻呂様のお考えもとても素晴らしいと思いました。
恩を返す事を恩返しと言うのなら、恩を次の世代に贈るのは恩送りと言いましょうか。
親切の連鎖はこの先の国在り方にとってとても大切なものだと思います」
喰らえ!
OL時代に鍛えた接客術。
秘技、褒めコロシ!
(特にオジさんに有効!)
「はっはっはっは。
かぐや殿に褒められると面映いものだな。
御主人殿よ」
「え、えぇ……」
複雑な表情で頷くミウシ君。
君だけが特別というわけではないのよ。
おーほっほっほっほ……けふん、けふん。
明日の資格試験のために詰め込み勉強中です。
勉強の息抜きに小説書いていたはずが、息抜きの合間に勉強をしている有様です。
まだ2/7しか勉強が進んでおりません。
ピーンチ!!