難波長柄豊碕宮でチート舞
主人公の受難です。
(前話の続きです)
入場の時に先頭だった方の一人が慶事の詔らしきものを煌々と読み上げます。
そして最後に帝が高らかに改元の宣誓と、雉を確保した地域一体の免税や鷹を放つのを禁止するとか褒美?らしき勅命を発しました。
これで改元の儀は一旦終わりです。
次は神事です。
4年前の祝賀の儀では、忌部の方々が殆ど式次第に関与できず、神楽鈴すら許可が下りずに持ち込みませんでした。
しかし今回はそうではないみたいで見知った顔あちこちにあります。
ただ儀を取り仕切る総監督みたいな方は見覚えがありません。
どうやら中臣様の血縁の方みたいです。
後で知ったのですが、与志古様の赤ん坊の乳母さんの旦那さんなのだそうです。
という事は、私が時々抱っこしている乳母さんの子のお父様?
うーん、世間は狭い。
【天の声】何度も言うが異世界だからだ。
さて饗宴の儀が始まりそうです。
式次第を読み上げる方が大きな声を張り上げます。
「大海人皇子皇子が舎人、舞師・なよ竹の赫夜郎女による舞の献上を執り行う!」
え? 私が一番手?
聞いてないよ〜。
こんな時こそ光の玉の出番です。
チューン! チューン! チューン!
チューン! チューン! チューン!
よし、落ち着いた!
私は予め知っていたかの様にスッと立ち上がり、これまで習ってきた礼儀作法も総動員して中央へと進みます。
♪ 〜
楽曲が始まりました。
シャン! シャン! シャン!
練習の通り神楽鈴を高らかに鳴り響かせて、クルクルと舞を始めます。
シャン! シャン! シャン!
帝の御前ではあるけど、周りに知った顔を見つける度に気持ちが和みます。
一番先に目につくのが身体の大きな比羅夫様で、比羅夫様の横にミウシ君が居るのが分かります。
上座には中臣様が座っています。
本人は気張っているのでしょうけど、知る人が見ればいつもの覇気を感じません。
仕方がありませんね。
チューン!
私が知っている一番高い栄養ドリンクをイメージした光の玉(もちろん赤外線)をプレゼントしました。
中臣様が疲れている原因は中大兄皇子が原因じゃないかな?
さっきもかなり不機嫌そうでした。
チューン!
皇子様には精神鎮静の効果を乗せた光の玉をサービスしました。
ついでに会場にいる人皆さんにお裾分けします。
チューン! チューン! チューン!
チューン! チューン! チューン!
チューン! チューン! チューン!
チューン! チューン! チューン!
チューン! チューン! チューン!
チューン! チューン! チューン!
……
中臣様にもサービスです。
チューン!
舞も中盤に差し掛かかりました。
しかし私は聞き分けの良い娘です。
この舞の披露の話を頂いた時、多治比様に言われた言葉、
『見事な舞を普通に、完璧に、間違いなく舞えばそれで良いですから』
これを確実に遂行します。
【天の声】もう散々手遅れな様な気がするが……。
でも気になっている事が一つ。
輿から出されて足に紐で括られている白い雉が古代基準の飼育環境に参ってしまっている様に見えます。
万が一死んでしまったら大変なことになりそう。
鳥類に光の玉を当てるのは初めてですがダメ元でやってみます。
えいっ!
精神鎮静の光の玉、チューン!
気疲れ軽減の光の玉、チューン!
血行促進の光の玉、チューン!
腸内環境を整える光の玉、チューン!
暖房代わりの遠赤外線、チューン!
どうでしょう?
……。
特に変化は見えませんね。
ダメ元だったから仕方がありません。
とりあえず今は舞を無事終わらせることを優先しましょう。
舞もいよいよ終盤です。
シャン! シャン! シャン!
シャン! シャン! シャン!
シャララララララ~ ♪
最後のキメのポーズを決めて、舞をノーミスで終えてホッとした時でした。
ケーーーーン!
雉がけたたましい鳴き声を張り上げました。
雉を縛る紐を持った人が、その声に驚いてポロリと紐を手放した次の瞬間、雉が飛び立ってしまいました。
やばっ!
逃げられた!
……と思ったのですが、雉がこちらに向かってくるのではありませんか!?
わーーーー、ごめんなさい。
勝手に光の玉をぶつけてゴメンナサイ。
気を悪くさせてゴメンナサイ。
とにかく何でも良いからゴメンナサイ。
雉がどんどんと迫ってきます。
大きい! 怖いっ!
昔、文鳥を飼っている友達の家で文鳥が私の方へと飛んできてすごく怖かった思い出がありますが、その比ではありません。
身体が白いくせに顔は普通の雉と同じ真っ赤な顔です。
まるで烈火の如く怒っているように見えます。
私を襲おうとしているのは間違いありません。
しかし、しゃがんでしまって、そのまま雉を捕り逃したら私の責任と言われるかも知れません。
為すがままにするしかありません。
せめて眼だけは守るため目を思いっきり瞑ります。
う~~~……ん?
どすんっ!
右肩に衝撃を受けて転びそうになりましたが踏ん張って耐えます。
なんと雉は私の肩を止まり木代わりにして留まりました。
いったーーーーーい!
雉の爪が私の右肩に食い込みます。
私は鷹匠ならぬ雉匠ですか?
しかも雉は私の反対側を向いています。
かっこ悪い。
本日の主役である雉を追い払う訳にもいかずに痛みに耐えていると、雉は徐にプンッとウンチをしました。
……ボト。
いやぁぁぁぁ~~~~!!
もうお家に帰りたい気分です。
しかし、このまま逃げられたら大変です。
私は衣装に付いたウンチなど気にも留めず(様に振舞って)、優雅な歩みで雉の紐を持っていた人の方へとゆっくりと進み、その人の前でしゃがみました。
雉担当の方は雉を抱え込むように捕まえて、私の肩から雉を引きはがします。
いだだだだだだだ。
よく見ると雉はすやすや寝ていました。
私は雉の無事を見届けると舞を終えた元の場所へと戻り、一礼をしてゆっくりと退場しました。
観客は思わぬ展開にあっけに取られています。
視界の隅の中臣様と大海人皇子だけは笑いを堪えている様に見えましたが……。
人の不幸は蜜の味、とはよく言ったものです。
ちくせう。
その後の演目は恙無く進み、無事饗宴の儀は終わりました。
帝が退出され、皇后様、皇子様たちが退出され、高官が中庭を後にして、ようやく下っ端が退出できそうだと思っていたところへ多治比様がやってきました。
あまり良い予感はしません。
「かぐやさん、今すぐ皇子様のところへ来てくれるかな?」
「はい、承りました」
本当は冷えた体を温かい飲み物で温めたいのですが、上司の言葉に否はありません。
ウンチの付いた衣装を着替えた後、私は多治比様に付いて行きました。
皇子様の宮に到着しますとそこには先ほどまで上座にいらした大海人皇子がおります。
どうしたのでしょう?
顔が笑っているので怒られる様な雰囲気ではなりませんが、笑いながら怒る人の芸を持ちネタにする大御所俳優がいますので油断は出来ません。
「かぐやよ、まずはご苦労だった。
『出来るだけ目立っておけ』と言ったのは私だ。
その言葉の通り実行してくれた事に礼を言う。
うくくくくく」
「はい、ご期待に添えましたのなら行幸に御座います」
「いや、あのような期待は流石にしていなかったがな」
「かぐやさん、私からもお願いしましたよね。
何もしでかさないで欲しいと」
「もしかして雉が肩に留まった事ですか?」
「他にも何かしたのですか?」
「いえ、さすがにあの出来事は予想が出来ませんでした。
さりとて雉を取り逃がした責を負いたくなかったので為すがままにした結果でございます。
他にやり様が御座いましたら教えて頂きたいくらいです」
「ええ、確かに貴女の言う通りです。
しかし私は秋田殿から忠告を受けておりました。
もし予期せぬことが起きて、その事に貴女が関与していたのならば、それは貴女が何か仕出かした結果だと。
言い掛かりにも聞こえますが、半年間貴女と行動を共にした私は秋田殿の言葉の方が正しいと確信しております」
ちっ! 秋田様め、余計な入れ知恵を!
「ひどっ!
あまりにそれは酷過ぎます。
私は断固として身の潔白を訴えます」
「ではあの状況に全く心当たりがないと?」
「え……ええ、心当たりなどあるはずも御座いませんではないでしょうか?
……たぶん」
「はぁぁぁぁ」
「うくくく、わはははは。
本当に愉快な娘だな、かぐやよ。
まあよい、目的は十分に達した。
後宮の者が其方を私から取り上げようとはせぬだろう。
ただ結果が十分過ぎる事にすこし困っている」
「困った事……ですか?」
「ああ、目立つのまでは良かったが、目を付けられるのは予想外だった。
『あの娘は何者だ?』と帝から問われた。
吉兆を示す白雉の申し子ではないかと言う者も居る。
舞の得意な私の舎人であるとは答えておいたが、今後は控えてくれよ」
「はい、ご安心ください。
目立たず、地味にお仕事をするのは得意です。
今年は多治比様に稲作の講習をして、私のお仕事がどのようなものであるかをご理解頂けますよう、頑張ります」
「はははは、そうか。
楽しみにしているぞ」
楽しそうな皇子様と頭を抱えた多治比様。
声を大にして言いたい。
私は悪くないと!
……たぶん。
明後日は作者が資格試験の受験のため、明日投稿できるか不明です。
8月から続く連投に穴を開けたくありませんので、出来るだけ投稿できる様にしますが、念のため。




