かぐや先生の保健体育講座
サ行変格活用は、「セ、シ、ス、スる、スれ、セよ」
……で良いんでしたっけ?
多治比様の歓迎の宴の終わり頃、多治比様が与志古様から真人クンをお勉強をお願いされている隙に、秋田様からコソッとお願いをされました。
「例の件、お願いしますよ」と。
例の件……例の件……例の件……?
あ、避妊法!
「萬田様が体調の宜しい時にお声掛け下さいね。
準備しておきますから」
「ははぁ」
太郎お爺さんを彷彿させる見事な土下座です。
よほど溜まっているみたいですね。
◇◇◇◇◇
次の日、早速萬田先生の様子を見に行きました。
多治比様には萬田先生の産後の体調を診に行くと言いましたら、付いてきたいと言うので同行を許可しました。
しかしさすがに講義は見せられません。
夫婦生活への干渉は止めるためにも席を外して欲しいとお願いしておきました。
萬田先生も産後四カ月ともなればすっかり回復しています。
少し間を開けすぎましたね。
……という事でレッツ保健体育!
これまで現代で学んだ保健体育や避妊法の独自調査(主にネット)した記憶をまとめた紙を片手に講義開始です。
そして、ここで多治比様は退場です。
シッ!シッ!
「そんなぁ~」
多治比様が退出して講義が始まりますと、萬田先生が不安気に質問してきました。
「姫様、私は衣を脱いだ方が宜しいでしょうか?」
「えっ、何故ですか?」
「だって……赤子が出来ないで目合う方法を教えて下さるのではないのですか?」
「違います。
そんな方法はありません。
(道具があれば別だけど……)
目合っても赤ん坊が出来難くなる知識を伝授するのです」
「姫様、私には同じに聞こえるのですが……」
「まずはお話を聞いて下さい。
それと秋田様も。
今から話す事をキチンと記憶して、決して忘れないようにして下さい」
「はぁ、するんじゃないのですか……」
今からおっぱじめるつもりだったみたいですが、知り合いのそんなところを見たくないですから。
するなら後でシて下さい。
「それじゃ、始めます。
まずは女性の躰の中がどうなっているのかを理解して頂きます。
宜しいですか?
(中略)
……という事で、月のモノとは子宮の中の子宮内膜が剥がれ落ちて血と一緒に出てくる現象なのです。
そして大切なのは月のモノから次の月のモノまでの間に、妊娠に適した日と妊娠に適さない日があるということなのです。
分かりましたか?」
「「……スゴい」」
二人とも呆気に取られています。
でも肝心なのはここから先です。
「ここからが一番知りたかった事です。
宜しいですか?」
「「はいっ!」」
「月のモノの周期とは個人差はありますが大体28日と言われています。
このちょうど真ん中あたりで起こる排卵日。
この前後が妊娠するために適した日となるわけです」
「なるほど……」
二人とも真面目に聞いています。
「この期間より後に為さっても、受精した卵子が着床するまで5、6日掛かりますので妊娠に失敗します。
逆にこの期間の前に為さっても、子種は生き長らえず卵子にまで届きません。
つまり妊娠とは極めて短い期間にしか起こらない現象なのです」
「なるほど、ようやく赤子が出来ない方法というものが分かってきました。
逆に子供を成す確実な方法というものにも合点がいきました」
秋田様はすっかり感心しています。
「しかしまだ話はこれだけではありません。
先程も申しました通り、月のものは個人差があります。
体調や健康状態、或いは心の変化などによっても長くなったり、短くなったりします。
出産後の授乳期間中は尚更です。
なのでより確実な方法をお教えします」
「ええっ?
まだあるのですか?」
「為さりたいのでしょ?
頑張りなさい!」
泣き言を言う秋田様に活を入れます。
「これから話すのは基礎体温法と言う方法です。
胎内で起こる排卵という現象は体の温もりの変化で調べる事が出来ますので、それを調べます。
月のモノが始まってから排卵までの低体温期、そして排卵から次の月のモノが来るまでの高体温期があります。
低体温期から高体温期への変化を調べれば排卵が解ります。その前後が妊娠に適した時期となるわけです。
出来ましたら毎朝、萬田様の体の温もりの上がり下がりを記録して下さい。
女性は皆、同じ理由で体温が変化しますので、男性の秋田様がお調べになるのが宜しいかと思います」
「何とそこまで……」
「ですが秋田様!
間違った避妊法として、子種を外に出せば子を成さないと思われています。
しかし、それは完全に間違いです。
先走りの中にも子種はあるのです。
避妊の失敗の代表例ですので、ゆめゆめ忘れないで下さい」
「えっ?そうなんですか?」
スるつもりだったんだ……。
「逆に毎日為されば妊娠出来ると思い込んでいる方が多いですが、活動する子種が薄まるのでお薦めしません。
子を成したいときは、溜めて溜めて最上の機会で為さって下さい。
妊娠とは女性だけに要因があると思われがちですが、実は男性の側にもあるのです」
「はあ……何ともはや」
「以上が私の講義になります。
最後になりますが、女性の躰はとても繊細です。
キチンと清潔にして体を清めてから為さって下さい。
不特定多数の方と為さいますと病気の蔓延にもつながります。
あたり構わず為さるのを控えるか、特定の相手を決めて為さって下さい」
受講生二人は有無を言わせぬ私の講義内容に圧倒されたみたいです。
あとは実践あるのみ。
頑張ってシて下さいね。
私はまだ初潮前なので関係ないけど……。
【天の声】誤解を招く言い方はやめなさい。
部屋を出ると外で多治比様が待っていました。
「随分と熱のこもった話だったみたいだね」
「覗いてらしたのですか?」
「まさか。
他人の秘め事に首は突っ込みたくないよ」
「秘め事である事は分かってらしたのですね」
「ははは、これはやられたな」
「気まずくなりますので、ご遠慮願います」
「はいはい、分かりました」
「今から真人様のお勉強ですか?」
「ああ、そのつもりだけど」
「それではご一緒します」
私達は中臣氏の宮へ向かいました。
宮では真人クンだけでなく、麻呂クンも居ました。
最近は麻呂クンもお勉強を励むようになってきました。
『竹取物語』で石上麻呂足は、性格はマシですがどちらかと言えば足りない人物として描かれています。
そうならないためにも勉強に励んで、私なんかよりもっと素敵な女性と出会って欲しいと願いっています。
多治比様の蔵書の傾向としては、どちらかと言えば秋田様が日本の神話や唐の史書に偏っているのに対して、多治比様は歌を好む傾向があるらしく歌集が多く用意されてました。
「歌は社交の場においてとても重要です。
美しい歌を謡い、周りを感動させるだけではないのだよ。
歌の中に含む掛詞に本音を隠し、その隠された本音を読み解く力が無ければ、周りからは風流を解せぬ無粋者として蔑まれるでしょう。
その読み解く力の源は多方面に亘る知識に他なりません。
謂わば歌とは総合学問なのです」
多治比様は歌となると普段のチャラさが消えて真剣そのものです。
間違って♪ドナドナドーナ(※第60話『駄々をこねる幼女』参照)、と歌った日にはどんなに怒るか予想がつきません。
おふざけは厳禁ですね。
過去の名歌を学び、その歌の意味や背景を学んだ後、最後に各自一人ずつ歌を詠います。
強制的にです。
涼しげな〜
風立つ丘に 沈む日は〜
朱色に染まる 夕陽の空にぃ〜
「お天気を詠んだだけ。
男女の営みより先に、まずは機微というものを学んで下さいね」
ひどっ!
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